第13話 とある頼み事にて
学園長の使い魔に危害を加えた何か。
「侵入者がいるってこと?」
アドラーが恐る恐る口を開いた。
「あり得る。でも普通に考えればその可能性は低いな」
ここは実在する場所と完全にミラーによって創造された空間が入り混じっているが、実在する場所も実際にその場所に行っているわけではなく魔法によって想像されており、現実の空間とつながっているわけではない。出口やそもそもの建設の手間を考えてもおそらくこのミラーハウス自体が魔法で作られた仮想空間であり課題の大扉を通してのみ現実世界とつながっている。そしてその先はライデンカレッジであり侵入は困難だ。
「ライデンはセキュリティ的にも侵入するのは難しいし、あれだけの魔法師がいる空間から誰にも気づかれず侵入するのは不可能に近い。そもそもそこまでしてただの1年生の遠足で使うこのミラーハウスに侵入するメリットも感じられないわね」
「じゃあ、何が……」
刹那、遠くから悲鳴が聞こえた。
ルカたちは長い廊下を走って声のした方へと向かった。するとそこには息を切らし座り込んで鏡を眺めている生徒が1人。
「どうかした?」
アドラーが声を掛けると、青年は息も絶え絶えに「バケモノが……」と鏡に向かって指を指した。
驚くルカとアドラーを他所にレイモンドとシャーロットは迷いなく鏡の中へと足を踏み入れた。その様子に驚きながら2人も彼らの後を追うように鏡の中へ足を踏み入れる。
「あれね。分かりやすくていいじゃない」
薄暗い森は一部だけ木の生えていない広場のようになっていて、そこには地面に横たわったまま動かないフクロウとその何十倍もあるバケモノ。頭部までマントのような羽で覆われた体を細い2本足で支えているそれは、細く長い腕でライデンの生徒と思われる青年を握りつぶしている。そのすぐ下には同じような青年が血を流して倒れていた。
「確定だな」
「ちょっと待ちなよレイ!先生呼んだ方がいいって!」
躊躇なくバケモノへと向かって行こうとするレイモンドをアドラーは肩を掴んで止める。あんなバケモノ相手にたかだか入学して数週間の自分たちが勝てるはずない。ここは教師を呼びに行って助けてもらうのが賢明だろう。
「でもそれじゃあ間に合わない」
立ち止まったレイモンドは真っ直ぐバケモノを見据えてそう言った。
こうしている間にも捕まった青年たちの命は危うくなっていく。
「……俺がやる」
そう言って杖を構えたルカは呪文を唱えた。
刹那その魔法はバケモノを捉え、当たると同時に腕を破壊した。
「上手くいった……?」
青年たちが解放され、高度な範囲を絞った攻撃魔法が成功したことにルカ自身驚いていると、バケモノはよろけながらこちらに注意を向けた。今まで存在に気づいていなかったのか、その姿を認めると今度はこっちに飛び掛かって来る。
「ヤバいって!!」
「落ち着いて。私の言う通りに」
狼狽えるアドラーをシャーロットが宥める。
「基本の破壊攻撃系魔法。入試の時に使ったでしょ?あれでいいわ。胴体部分の中心より30センチ真上。私の合図で全員そこに攻撃して」
口をはさむ間もなくシャーロットが凛とした声で言い切った。
そして、バケモノが飛び上がりこちらへ向けて攻撃しようと落下を始めた直後。片腕を失ったために反対の腕を大きく広げバランスを取ろうと胴体部分が無防備になる瞬間。
「今よ!!」
3人が合図に従って魔法を放つ。
すると魔法は見事指示された部分へ命中し、バケモノは後ろへ吹き飛んだ。倒れこんで数秒もすればバケモノは灰になり消滅した。
「やった、のか?……」
ルカがそう言うと同時に森には光が溢れ、しばらくすると空間ごと光の粒に覆われてしまった。
光の粒が消えると元居たライデンカレッジの講堂が現れる。そこには当然他の生徒たちも集められており、皆一様にいきなり連れ戻されたことに対して疑問を抱いていた。
「なんで戻って……」
「ゲームオーバーってやつだろ」
レイモンドがアドラーの言葉を遮るように言った。
「制限時間終了だ!子羊ども!今年はクリア人数ゼロと歴代最低の結果だ。だが、貴様らがメーメーとさ迷い歩く姿は非常に楽しませてもらった。それに免じて例年通りの2万文字のレポートで単位をやる。貴様らの実力はよくわかった。これからの授業でみっちりしごいてやるからそのつもりで。レポートは明日までに提出するように。けが人は保健室にでも行け。では解散!」
嘘だろ……と絶望した表情で、各々自分の寮へと戻って行く。ルカたちは第0寮へ戻る前に学園長室へと向かった。
「以上が報告です。使い魔はタイムオーバーで戻されてしまったので回収できていませんが、おそらく既に破壊されていると思います。場所は書いておいたので後はよろしくお願いします」
「……そう。ありがとう。下がっていいわ」
レイモンドが代表して報告を済ませると、学園長は4人をすぐに寮へと戻らせた。
「あれってミッション成功ってことでいいの?使い魔連れ戻せてないけど」
「大丈夫なんじゃないか?だって俺たちが行った時にはほぼ手遅れだったし」
第0寮に戻り、談話室にてアドラーとルカはどこかソワソワした様子で課題のレポートを進めていた。
「そう言えばレイとシャルは?」
「知らないよ。お風呂でも入ってるんじゃない?」
「あ、シャル」
「あれ?そんな恰好してどこか行くの?」
シルエットを強調する真っ黒なロングドレスにハイヒールを履いたシャーロットにアドラーが尋ねる。すると、シャーロットは軽く微笑む。
「夜遊び♡」
「「は?」」




