#1998 〈万界ダン〉12層は〈三本の木橋ダンジョン〉
「ここが中級下位で2番人気のダンジョン、〈三本の木橋ダンジョン〉ね!」
「はい。なんでも、橋から落ちてもここに戻されるだけなので安心だとか。むしろ、帰り道が分からなくなったら橋から落ちれば帰れるまであるらしいですよ」
ラナが言う中級下位で2番人気、それはつまり、下から2番目の難易度という証左だ。
その理由はエステルが言った通り、木道のような橋がまるで迷路のようにたくさん並んでいるダンジョンであるにもかかわらず、落ちても大丈夫。むしろ落ちることも選択肢のうちというこのダンジョンの特性にある。
「そしてこれが〈敗者のお部屋〉ですわね。こんな階層門の近くにあったら、それは使われてしまうでしょうね」
「あ、ああ。本来の〈三橋ダン〉では〈救護委員会〉の方がちょくちょく見に来てくれるからな。もし捕まっている学生がいたら復活させてくれるのだ。〈救難報告〉を出していないのでペナルティも掛からない」
リーナの視線の先には階層門のすぐ隣に佇む大きな檻があった。そう、〈敗者のお部屋〉だ。
橋から落ちると、自動でここに転移するのである。
〈救難報告〉を上げて捜索願をするとペナルティが掛かるからな。お手軽ということなんだという。
とはいえ、それは中級下位の話。
「でも、ここではむしろ落ちるわけにはいかないわ。たとえこの場に戻ってくるのだとしても、助けは来ないもの。むしろ、次の階層門の近くまで全体が進行していた場合、助けに戻る必要があるわ」
「時間ロスになるな。その辺徹底させよう。まあ大丈夫だ。飛べるメンバーも増えてきたしな」
シエラの言う通りだ。
誰も落ちずに先に進むことが理想だな。
飛べるメンバーを上手く使い、地上班は落ちずに進むことに重点を置く形で進もうと提案する。
「パーティをいくつかに分けて進むぞ! 橋はそこまで大きくはないからな」
「作戦を通達しますわ!」
とはいえここは人気のダンジョン。すでに対策というか、落ちたらどうするか、落ちないようにするにはどうするかの戦術も割と練られていて、俺が〈ダン活〉知識を披露するまでもなかった。
「きゃ~! ここが三本橋!? 下がとっても真っ暗なんだけど!?」
「手すりもなにもなーい!」
「これ、自分のいる橋がヤバかったら隣の橋に飛び移れってことだよね? エミは大丈夫?」
サチ、エミ、ユウカが早速このダンジョン最大の特徴であるぐねぐねの迷路三本橋で悲鳴を上げているな。
このダンジョンは島から島にかかる三本の橋、馬車が1台通れるくらいの木の板が三本、等間隔で設置されているのが特徴だ。橋の間隔は、運動神経が良い人がジャンプすれば届くくらい。ユウカが言ったように、自分が渡っている橋がヤバかったら隣の橋に飛び移るのが定石の1つだった。
タンクとか、下手に受け止めようとして受け止めきれず下に落ちるということはざらなのだ。避けタンク推奨の変わったダンジョンだな。
「ということで、ここでは避けタンクや空を飛べる受けタンクの居るパーティに前へ出てもらうぞ」
「承知デース!」
「承りました」
「任せろ」
「はーい!」
「了解よ」
避けタンクとなれば、パメラとセレスタンだな。他にもラウがイケるだろう。
いや、セレスタンはリーナやカイリのいる後方10班のメンバーなので前には出さないけどな。
他にも受けタンクで空を飛べるトモヨ、シエラ、フィナ、ヴァンなどが候補になる。
トモヨとフィナは天使なので『天空飛翔』で空が飛べるし、シエラも〈六ツリ〉スキルの『盾乗り空中移動』があるため空中で受けタンクが可能だ。本人は地上の方がやりやすいと言っていたけどな。
ヴァンは『ライトウェポンアッパー』と『レフトウェポンアッパー』スキルで両手装備を片手で持つことができるため、〈魔法使いの箒杖〉で空を飛びながら盾で防御スキルを発動可能だ。〈魔法使いの箒杖〉で空を飛んでいる最中は〈魔法使いの箒杖〉を媒介にした魔法攻撃は使えないが、もう片方の盾を媒介にしたスキルは発動可能だからできるヴァンだけの戦法だな。
「シエラ、どうだ?」
「踏ん張るときに足場の盾にも意識を向ける必要があるけれど、できないことはないわね」
シエラは現在、自分の自在盾の1つを足場にして飛行中だ。4つ中、1つの小盾が使えなくなるものの、空を飛べるのは大きい。
シエラはあんなことを言っているが、ここに登場する飛行型モンスターの突撃などの攻撃を普通に受け止めているよ。『シールド・テラ・クワトロ』で小盾を大型化すれば足場から滑り落ちるという心配もなさそうだ。
慣れてきたのか、盾に乗りながら空を自在に動き回り、時々別の盾にひょいっと飛び移ったりしながら避けタンクのようなこともしていてとても楽しそうだった。
「敢えて落ちるのは良いわね。相手が特大の攻撃を撃ってきたときに簡単に避けられるわ」
シエラのお気に入りになったのは、自在盾の1つを下の方に回してシエラがそちらに落ちるという回避方法。正直見ている方からするとヒヤッとするのだが、落ちるという回避方法はとても有効で、シエラは新たな回避技を会得していた。
「今度空中でのタンクももっと練習しておかないといけないわね」
どうやらシエラのタンクは、まだまだ成長するようだ。それ以上素晴らしくなったらきっと誰も追いつけないよ!
「ジーーーザーーーーー!」
「あ! きたよ! ――エミ、ジャンプジャンプ!」
「きゃー!」
「ナイスジャンプ!」
また、この三本橋で一番気をつけなくちゃいけないのは、飛行型の鉄球型モンスターだ。それ飛行型? と思うかもしれないが、なぜか島には大砲が設置されていて時々キャノンしてくるのだ。しかもこの鉄球型モンスター、馬車くらい大きくて、重力を半ば無視して地面すれすれを橋の道幅に沿ってこっちに飛んでくる。まるで橋という名の線路を走る暴走機関車だ。
もちろん命中したら大変なことになるな。
ただ3本の橋のうち来るのは1本だけなので、今のエミのように橋から橋にピョンと飛び移るのがここの楽しみ方。なお、失敗したら〈敗者のお部屋〉だ。追跡はしてこないのでそこは安心。
そんなどこぞのアクションゲームもかくやという動きをしながら進み、ついに階層門が見えてきた、というところでここのボス登場。
「ゲロゲロリン!」
「あれは、中級下位の最奥ボス〈ゲロゲロ海賊〉の最上級エリアボスかな!?」
「カエルの海賊っす!」
「軍団、上等」
「ミジュ、無闇に突っ込んではいけませんよ。『看破』です。あれは〈大海賊・オーバーボス・ファイナルゲロリン〉というそうです! ――ゼフィルス様、指示を」
登場したのはナキキとミジュが言ったようにカエル型モンスターの海賊団。
大きさは2メートル弱と俺たちとほとんど変わらない。
ただし軍団だ。50体はいる。
この三本橋で、まさかの白兵戦ボスである。大砲を撃ってた犯人だ。
名前名前! 大海賊のボスだからって〈オーバーボス〉で〈ファイナルゲロリン〉は盛りすぎだ! 本当のファイナルにしてあげよう。
「ゲロゲロリン!」
「「「ゲーロリン!」」」
「ヴァン!」
「はっ!」
「あれ吹きとばしちゃって」
「! 承知であります!」
「ナキキもフォローだ! 『メタルインパクト・クラッシャー』をかましてやれ!」
「いきなり下級のユニークスキルっすか!? やってやるっすよ! 『メタルインパクト・クラッシャー』っす!」
「ヴァン、今だ!」
「はっ! 『ミラクル・ハクッション』!」
「ゲ!?」
ミラクル発生。
ここは三本橋。そこを器用にピョンピョン飛び移りながら白兵戦で戦ってくる〈ファイナルゲロリン〉とその軍団たちが脅威のはずだが、ナキキの『メタルインパクト・クラッシャー』や『ミラクル・ハクッション』は大ノックバック効果付きだ。
あとは分かるな?
ナキキが三本橋の端でズドーンと何体か巻き込んでノックバックさせ前線を押し戻すと、そこにヴァン着地。くるんと残り二本の橋を通過中の〈ファイナルゲロリン〉とその軍団たちに向かって、超吹き飛ばし効果の『ハクッション』系スキルの〈六ツリ〉、『ミラクル・ハクッション』で吹き飛ばしたのだ。
「「「「ゲロゲローー!?」」」」
「わぁ~。凄い光景だよ~」
「カエルさんたち、みんな下に落ちていっちゃった!」
「一撃か!」
元々盾に張り付く相手を吹き飛ばして距離を設けるヴァンの『ハクッション』系スキルだったが、思わぬ副次効果を呼んだな。
サチたちの言う通り、みんな暗い橋の下に落ちていってしまったのだ。しかし。
「ゲローーーー!!」
「あ! 大海賊だけ生きてた!」
ミジュの言う通り、なんか下からぴょーんと跳んできて復帰したのは例の大海賊〈ファイナルゲロリン〉だった。こいつだけは下に落ちても復帰してくれるんだ。
つまり、群体系のボスが群体無しのボスになってしまったということ。
「いけミジュ!」
「待ってた――『ビッグクマン・ギガデストロイフィスト』!」
もちろんこのチャンスを活かさないはずもなく。まだ生き残りの十数体の眷属たちも一緒に屠り(落っことし)、〈金箱〉を接収したのだった。
次の13層は――懐かしき〈盗鼠の根城ダンジョン〉だな。




