#1999 〈万界ダン〉13層は〈盗鼠の根城ダンジョン〉
「この『超ジャンプ』のスキルが付いた足装備、流行るかしら?」
「名前が〈ピョンピョコレッグ〉ですからね。可愛いですし使う人も居ると思いますよ?」
「ジャンプするだけで回避になるし、移動にも使えるわ。私は悪くないと思うわよ? ちょっと見た目があれだけど」
「大型のモンスターに乗る時は『ジャンプ』系があると有用ですから、私としてはテイマーが使うのが良いと思います。ゼニスに乗るときも『ハイジャンプ』はとても便利です」
「ではとりあえず〈集え・テイマーサモナー〉に売り込みにいくことにいたしましょうか。わたくしも、きっと彼女たちが欲しい装備だと思いますの」
あの〈ファイナルゲロリン〉からドロップした足装備が中々に物議を醸しているな。高くジャンプできるスキル、それはかなり汎用性が高い。応用も利く。
最終的にリーナが〈集え・テイマーサモナー〉に売り込みに行くことで決まったようだ。大丈夫かな? 高くジャンプできるスキルを持つ装備なら、この前〈猫界ダン〉でもドロップした〈にゃんにゃんレッグ〉を売り込みしたばかりのはずなんだけど。〈ピョンピョコレッグ〉の方が上位だし、いけるか?
なお、後に〈集え・テイマーサモナー〉が性能は少し低くても〈にゃんにゃんレッグ〉を採用したのは別の話だ。
「ここが13層、〈盗鼠の根城ダンジョン〉ね!」
「盗鼠はつまり盗賊みたいなものです」
ラナが見渡し、エステルがダンジョンの説明をし始めたので俺も出遅れずに便乗する。説明で出遅れるわけにはいかない!
「このダンジョンはその根城を攻略して行くダンジョンだな。鼠型のモンスターはそこそこ倒しやすいうえに根城のフィールドも小さくて、普通に攻略しやすいとして人気のダンジョンなんだ」
「聞いたことがあります。盗賊の寝床なのにトラップの類も少ないと」
「早速調査デース!」
「行くわよー!」
シズが頷きながら中級下位の〈盗鼠の根城ダンジョン〉の特徴を述べると、パメラが斥候として出発したな。
それにラナまでついていく。斥候について行っちゃダメじゃない? でも同じ班だからいいのか? 難しいところなんだぜ。
だけど案の定というべきか、最初にモンスターを発見したのはラナだったんだ。
「チューチュー!」
「あ、早速モンスター発見よ! でも、なにこれ? 可愛くないわ!」
「ヂュー!?」
ラナが見つけたのは全長3メートル級の2足歩行のネズミ型モンスター、〈アルティメットネッチュウ〉だ。くすんだ毛が真っ赤になっていて熱そうにしているモンスターである。
中級下位時代は全長1メートルくらいでまあまあ可愛かったはずなのに、デカくなり過ぎて可愛くない宣言をされ、ガーンと怯んでいるな。どんまいだ。
「気をつけてください。こやつらは盗賊です。そこまで強くはないらしいですが、もしやられて戦闘不能にされると〈空間収納鞄〉の中身がいくつか消えるそうです」
「つまりこのモンスターも遠距離攻撃で倒せということね! 『大聖光の無限宝剣』!」
「「「あ」」」
「ヂュ!?」
ここはモンスターがあまり強くない代わりに戦闘不能時のペナルティが他よりも重いのが特徴と言えば特徴のダンジョンなのだが、シズから注意を聞いたラナはいつも通り宝剣でぶっ倒していた。思い切りが良い。
まあ、ここのモンスターを相手に負けるということはそうそうないからな。
普通に進んで大丈夫だ。ちなみに消えたアイテムは中級下位なら29層の宝物庫に仕舞われているので早めに回収しよう。〈万界ダン〉なら13層の奥だ。
俺たちが利用することは無いだろうけどな。
無事通常モンスターを屠り、そのまま奥へと向かう。
「あれ? もう階層門ですか?」
「みたいだね~。でも親分? が居なかったけど、どこに居るのかな?」
ここのフィールドは小さい。歩いて数分で見えてしまった階層門にラクリッテが驚いた声を上げてノエルがキョロキョロした。
そう、エリアボスがまだ登場してないのだ。
中級下位時代、最奥ボスで登場するのはネズミ盗賊たちの親玉にして親分。その名も〈ネズミ盗王〉だった。
覚えているだろうか? 1年生のクラス対抗戦の時に、1年58組が俺たちのために召喚してくれたポイント――じゃなくて召喚していた防衛モンスターだったな。
本来ならそろそろ「よくもおいらの部下たちをやってくれたなー!」と言わんばかりに最終進化形態が登場してもいいんだが、出てこない。
これはもしかして? そう思ったところでヤツ登場。
「!? え? いきなり反応が、この上だよ!」
「!! 退避ですわー!」
「カタリナ、上に結界!」
「『絶界』!」
「ヂュ~~~」
カイリが反応した直後、俺たちが通りかかった城の天井が破砕。上から巨大な何かが降ってきた。カタリナに結界を張ってもらい、その間にみんな退避。
「カタリナも脱出!!」
「脱出します――『ノアの方舟大脱出』!」
真上に何かが乗ったままでは本来タンクは身動きが取れないものだが、カタリナは別だ。みんな退避済みを確認して『ノアの方舟大脱出』でその場を離脱し逃走成功、結界を解除する。
するとそれまで受け止めていた巨大な身体がズドーンと落下し埃が舞った。
「『エリアボス探知』! 間違いないよ、これエリアボス! しかも希少ボスだよ!」
「数字は3ですわ!」
「ヂュ~~~」
「希少ボス! ということはあの親分っぽいのじゃないやつ?」
そう、〈ネズミ盗王〉は最奥の通常ボス。
〈万界ダン〉のエリアボスで希少ボス化するのは最奥のレアボスだ。
つまり落ちてきたこのボスは〈盗鼠の根城ダンジョン〉のレアボスの最終進化形態ということになる。
そして、〈盗鼠の根城ダンジョン〉のレアボスは――。
「ヂュッヂュッヂュ~~♪ ヂュヂュ、ヂュヂュ、ヂュヂュ~♪」
「楽しそうに歌いながらもフラフラとおぼつかない足取り、間違いありません。このボス、酔っ払ってます!」
起き上がったボスは、とてもフラフラしていたんだ。しかも楽しそうに1人で歌唱している。完全に酔っ払ってる!
〈盗鼠の根城ダンジョン〉のレアボスの名は――〈飲んだくれのアルチュウ〉。
アルコール中毒のチュウチュウネズミさんだった。完全にその特性を引き継いでるな。
全長15メートル超えの巨体なものだからかなりやかましい。
「『看破』! このボスの名は――〈酔いどれ歌唱無勝の巨アルチュウ〉です!」
「やはり〈アルチュウ〉系列の最終進化系か!」
エステルの『看破』にラウが反応する。この反応、ラウはレアボスの〈飲んだくれのアルチュウ〉と戦ったことがあるっぽいな。
「ちょうどいい、あの時の雪辱、今こそ果たす!」
しかも負けてるっぽい。
〈エデン〉に来る前のラウにいったいなにが!
「よかろう! 今回は1班、3班、5班、でいくぞ!」
「「「「おおー!」」」」
ラウの居る5班を組み込んで、いざバトル開始。
「今回はリカがタンクを務めてくれ!」
「承った! ――我が名はリカ。そのうるさい歌声、叩っ切ってくれよう! 『名乗り』!」
「ヂュ~!」
お、久しぶりにリカの名乗りを聞いたな。
リカのセリフにヘイトを稼がれた〈アルチュウ〉がまるで「このうるさい歌を歌っているのは誰じゃー!」と言わんばかりにぶん殴ろうとする。支離滅裂、歌ってるのはあんただよ!?
「『白羽流し』!」
「ヂュ?」
ふらついているが、単調な攻撃にリカが反応できないはずはなく、簡単に受け流されて反撃で斬られた〈アルチュウ〉。とても不思議そうだ。そこへ。
「俺はあの時よりも、強くなったのだ! 『エンペラーバスター』!」
「ヂュー!」
ラウの強烈な拳が〈アルチュウ〉の脇腹に突き刺さる。さらに。
「『ゼルワン・カイザーバスター』!」
「ヂュー!?」
同じところにもう一度。今度は『エンペラーバスター』の上位ツリー、〈六ツリ〉の『ゼルワン・カイザーバスター』だ。
強烈な一撃に歌っている場合ではないほどのダメージを受けて目を丸くする〈アルチュウ〉。
「ラウに続けー! 強烈な攻撃を叩き込みまくるぞー!」
「私もやるわ! 『大聖光の無限宝剣』!」
「ヂュー!」
この酔っぱらいのネズミの攻撃は、とにかく変幻自在。さすがは酔っ払い。酔拳っぽい軌道の拳は普通の受けタンクならやりにくいことこの上ないだろうな。
だが、リカには効かない。
「『制空権・乱れ椿』!」
リカの『制空権』は間合いに入ったものを迎撃するスキル。
どんな軌道で来ようがリカの間合いに入った瞬間発動するために、拳はすべて刀によって弾かれ、防がれてしまうのだ。
拳の攻撃はリカに完封されてしまい、ならばと歌による音波攻撃なども多用するが、音波攻撃はヒーラーに即で回復されてしまい、強烈な攻撃が次々と叩き込まれた。
「ヂュ~♪」
「やかましい! 『天光勇者聖剣』!」
「やかましいわ! 『大聖光の無限宝剣』!」
「やかましいぞ! 『神獣拳闘気合爪破凱』!」
「ヂュ~!?」
そうして結局音波攻撃も物理的に封じられるようにズドンされ、〈アルチュウ〉のHPはゼロになり、そのままエフェクトの海に沈んで消えたのだった。
「勝った、か。思ったよりも、呆気ないな」
なお、リベンジを果たしたはずのラウは、腕を組みながらどこか遠くを見ているようだったんだぜ。




