#1989 〈毒茸の岩洞ダンジョン〉はソノマンマー。
「あまり手応えはなかったわね」
〈スペシャ郎君〉南無。
シエラの感想が全てを物語っているんだぜ。
ロケットパンチ、それはロマンに溢れてるけれど、両腕の無くなったロボットは隙だらけになってしまうんだ。なんて悲しい……。
なお、こっちにシエラがいなければ多分〈スペシャ郎君〉はもっと活躍できていたはずなので、運が無かったな、と言わざるを得ないんだぜ。
「宝箱は――〈金箱〉よ!」
「もしかすると〈乗り物〉が出るのかもしれませんね」
ラナとエステルが反応する通り、〈スペシャ郎君〉は〈金箱〉を残して逝ってくれたんだ。男前だぜ!
エステルが素早く〈幼若竜〉を構えているな。よほど期待が高まっているらしい。
男なら、この期待は裏切れないよな?(圧)
今回〈金箱〉を開けることになったのは、エリサとフィナ。
「やったわ! ねぇねぇご主人様! 一緒に開けましょう!」
「なにふざけたことを言っているのですか姉さま。――教官、私と開けませんか?」
「あれ!? それフィナちゃんもおふざけしてるってことになるよ!?」
なんとエリサとフィナは、俺に共同作業を持ちかけてくれたんだ!
くぅ~なんて嬉しい! ここは2人とも共同作業を受けるしかない!
そう思っていたんだが。
「さっさと開けなさい」
「「ラジャです!」」
シエラの一言で全て無かったことになってしまったのだ。
そんなー。
「そんな顔しないのゼフィルス。分かったわ。私が当てた時は一緒に開けてあげるから」
「シエラ……!」
俺にはシエラが女神に見えた。しかし。
「な、なんという高度な技ですか……! 自分で下げておいて、全て掻っ攫っていきましたわ!」
「さ、さすがは〈エデン〉のサブマスターです……!」
「クワァ!」
近くで聞いていたリーナとアイギスが戦慄していたことには、全く気が付かなかったんだ。
お祈りをしたエリサがとうとう〈金箱〉を開ける。すると中からは。
「あ! レシピよ!」
「私に任せてください。『解読』です!」
エリサが引いたのはレシピ。すぐにエステルが解読した。
果たして〈乗り物〉レシピなのか!?
みんなの期待が高まる。そして、
「これは――〈魔錬ロケットパンチ加工台〉って書いてあるよ!?」
「ってロケットパンチの加工台かよ!?」
結果、ネタアイテムだった。いや、割と強いんだけどさ。
「なんですかそれ?」
「えっと読むね。ふむふむ? 人型のゴーレム系アイテムにロケットパンチの機構を付与できる加工台? って書いてあるよ」
魔錬系の加工台。
魔錬とは【錬金術師】系の意味だな。
人型ゴーレム系アイテムはハンナが作れるが、これはさらにロケットパンチを覚えさせることができるぞ! という意味だ。ハンナのスキル『錬成生物強化LV10』を使う専用の生産アイテムだな。
〈エデン〉は〈軍勢天使ゴーレム〉のレシピなんかを持ってる。
これを使うと、空から襲い来る天使のゴーレムたちがみんなロケットパンチを撃てるようになるのだ。大変です。
とりあえず、ハンナへのお土産かな?
「ふむ。姉さまのレシピはハズレですね。任せてください。私が〈乗り物〉を当ててみせます」
あ、それフラグだよフィナ!
お祈りしたフィナがパカリと〈金箱〉を開ける。しかし、そこにあったのは。
「…………これは、なんですかね?」
「ぬいぐるみ系の〈依り代〉アイテムだ! しかも今戦った〈スペシャ郎君〉の……!」
そこに入っていたのは、20センチ級、100分の1スケールにまで縮んでしまった〈スペシャ郎君〉のぬいぐるみだった。
【ドールマスター】や【マリオネット】などの職業が使うこともできるし、【巫女】系が『口寄せ』スキルなどで憑依させることもできる。
〈召喚盤〉に近い系統のアイテムだった。
だが、残念ながら〈エデン〉にはこれらを使用するメンバーが居ない。
タバサ先生にでも贈るか? それとも【ドールマスター】のエイリン先輩か?
「フィナちゃんのそれ、ちょっと可愛いわね!」
「…………」
「あ! フィナちゃんなにするの!? やめ――あははははは!?」
なお、エリサは素で煽ってしまったようで、フィナから擽りの刑に処されていたが。まあ、姉妹のじゃれあいだし問題無しだな。
「10層行くか!」
「ええ。……追想ダンジョン、パワーアップしたモンスターたちが跋扈するダンジョンだからどんな危険が待ち受けて居るのかと気を張っていたけれど。今のところ最初の10層は他のダンジョンと変わらないみたいね」
「だな」
シエラが必要以上に気を張りすぎていたと申しているが、それはきっと6層のせいだと思われる。
本来なら最初の10層というのは、そこまで強敵が現れることはないのだ。〈スペシャ郎君〉みたいにな。
「ゼフィルス、次はあのキノコのダンジョンよね?」
俺はラナの言葉に鷹揚に頷いて答えた。
「だな。初級上位ダンジョン最後の1つ、〈毒茸の岩洞ダンジョン〉だ。その名の通り、初めて状態異常〈毒〉が多く登場したダンジョンだな」
初級突破の最後の難関にして、状態異常というものをプレイヤーに教えてくれるダンジョンだった。
「つまり、10層は毒だらけの階層ということね」
「可能性は高いだろうな。移動中も状態異常を防いでくれるラナの『病魔払いの大加護』なんかが活躍するだろう。頼むぞラナ」
「任せなさいよ!」
状態異常を防ぐために防具も結構強化しているが、それでも万全ではないメンバーは多い。
俺は状態異常を無効化する〈勇者猫の聖勲章〉があるので状態異常に掛からないが、これは【勇者】系専用装備。普通はこれほど便利な無効系などないからな。
「「…………」」
なぜかシエラとエステルからの視線が熱い気がする。
それは、俺が付け替えた〈勇者猫の聖勲章〉に注がれているらしい。勇者猫が勇ましいポーズを取っている勲章。なぜか女子に人気で、俺も注目されてテンションが上がる。
そうこうしている間に道中の〈風呂太郎〉君をなぎ倒し、10層への階層門に到着した。俺は情報共有のために宣言する。
「みんな! この先は初級上位ダンジョン最後の1つ、〈毒茸の岩洞ダンジョン〉の可能性が高い! みんなも〈毒〉を多用するこのダンジョンのことはよく覚えていると思う。ヒーラーの回復が肝になってくるだろう。ヒーラーはいつも以上に状態異常とHPの管理に気をつけてほしい」
「「「「はい!」」」」
「よし、いくぞーーー!!!」
「「「「おおー!」」」」
普段あまり活躍しないというか、出番がボス戦くらいしかないヒーラーが肝になると聞いてヒーラーたちが気合いを入れているな。
階層門を潜る。
中は――やはり見た目だけは初級の頃とあまり変わらなかった。至る所にあるドクキノコが毒々しい。ただ洞窟の大きさだけは桁違いに広がってるな。
「なんだか、懐かしいという感じと、大きくなりすぎじゃないかしら、という感情が一緒に来るわね。〈毒茸の岩洞ダンジョン〉はここまで広くは無かったわよね」
「だな。懐かしさは少し感じるけど、実際は別物のダンジョンと考えて良いと思うぜ」
全体的に薄暗く、発光するキノコが洞窟を照らしているのがファンタジー。
ただ灯り用のキノコはデカいし、洞窟は〈戦艦・スターライト〉で通れる程の大きさだ。初級ダンジョンでは考えられないぜ。あそこはせいぜい、〈馬車〉がすれ違えるくらいの広さだったからな。
「モンスター、来ますわ!」
〈竜の箱庭〉を展開したリーナの声に臨戦態勢。
俺たちの居る入り口の救済場所の外を歩いていたのは、巨大なキノコモンスターだった。10メートル級はあるな。
「あれだけの大きさのキノコが跋扈するには、それは大きな洞窟が必要になるわけね」
「『看破』! あれは〈アルティメットポイズンマッシュ〉です! 〈ポイズンマッシュ〉の進化系と思われます!」
「早速毒キノコが出たわね――『病魔払いの大加護』!」
「ん。まずは私たちがいく」
「攻撃を流せるか試させてほしい」
「よし、5班に任せる」
5班はカルアやリカたちのいるパーティだな。他にラウ、ルキア、ニーコがいる。
キノコ型は基本ノロいので、スピードのある5班を出した形だな。
「ソノマンマー」
「そのまんま!?」
「そのまんまって言ったぞ! なにがそのまんまなんだ?」
「ソノマンマー」
「だからそのまんまとはどういう意味だ! 『二刀斬・一念通天』!」
「ん! キノコは猫が制す――『エージェント・レイド・クロネコ』!」
「ソノマンマー」
〈アルティメットポイズンマッシュ〉の鳴き声は、「ソノマンマー」だった。
確か、初級ボスの〈マザーマッシュ〉の鳴き声が「マンマー」だったので、進化しているな。
「ソノマンマー!」
「む、〈毒〉の貫通率が凄まじいぞ! ルキア、クリーンをくれ!」
「あいよー! 『クロッククリーン』! あとこれもあげちゃう! 『クロックヒール』!」
確かに『毒耐性』系を持っていないとはいえ、ラナの『病魔払いの大加護』に加え、『状態異常耐性』持ちのラウが1発で〈毒〉状態にされた時はちょっとみんなもびっくりしていた。
そう、最上級のモンスターは、やっぱり状態異常も最上級なんだ。強力な『状態異常貫通』スキル持ちだな。
今回はルキアがヒーラー役なので、状態異常を直しつつ回復して送り出す。
「ぼくは後方からバキューンバキューンだよ。ここまで胞子は届かな――」
「ソノマンマー!」
「ってなんか発射してきたー!? 回避ー!?」
後方からただ撃っていたニーコに逆襲来たる。発射されたキノコ爆弾が爆発し、周囲を毒だらけにしたのだ。ニーコはもっともっと離れてなんとか範囲内から逃れてセーフだった模様。
「ん、私に『貫通』は効かない。――『スターソニック・レインエッジ』!」
「ソノ、マンマー」
〈毒〉の状態異常の貫通持ちだった〈アルティメットポイズンマッシュ〉も『状態異常貫通耐性』の装備を着ているカルアに〈毒〉は付与できなかったようで、そのまま斬られて光にされたのだった。
1体で大型モンスターに分類されるせいか、HPが高かったな。
「ふむ、『貫通』持ちと言えど、『猛毒耐性』と『状態異常耐性』両方持ちであれば防げるな。私は1回も〈毒〉には掛からなかった」
リカの言葉は、まさに今の俺たちが欲しい情報だった。
「状態異常になるか否かで戦法も大きく変わるからな。どれくらいなら〈毒〉にされないか、少し検証する意味でももう少しやろうか。これが〈麻痺〉や〈睡眠〉だと洒落にならないことになるからな」
〈毒〉ならスリップダメージだけなので動くことが可能。
他の状態異常に掛かると、動けずにやられることが多いため、〈毒〉は比較的柔らかい状態異常だと言われている。故に初級で初めて登場する状態異常となっていた。
ここでまずは状態異常の検証をしておくのが正解だ。
なにせ、今後状態異常を大量に掛けてくるモンスターは、たくさん待ち構えているだろうからな。




