#1987 竹林の洗礼はお湯から始まりロボットに終わる
「あそこにはなにもなかったわ。みんな、いいわね?」
「はい。あそこには初めから花畑もありませんでした」
「なかったの~?」
「なかったですの!」
そういうことになった。
〈サボッテナインダー〉戦でちょっと、なにもなくなってしまったゾーンはラナの優しい嘘でフッと目を逸らされ、美しい花畑にのみ視線を向けさせる。
これが王族の情報操作力か……!
ちなみに〈サボッテナインダー〉からは〈銀箱〉が2箱ドロップしていたが、そっちはこっそりシズとパメラが回収している。
〈金箱〉じゃなかったのも、目を逸らしやすかった理由と思われるな。これで〈金箱〉だったらラナといえど、目を逸らし続けるのは難しかっただろう。
また、ドロップはギルド設置型アイテムで最上の花畑を展開できる装置〈四季の花畑〉と、相手には〈睡眠〉〈気絶〉〈混乱〉〈魅了〉などを強制的に起こし、味方を叩けばバフも付与する〈働けハリセン〉だった。後半ネタ装備なんだが?
この前のお礼に〈ハンマー救世主〉に送っておこう。合併祝いだ!
「さあ、早めに次の階層に行くわよ! ゼフィルス、次の9層はなにかしら?」
「次か? 初級上位の2番目と言えば、あそこだろう――〈付喪の竹林ダンジョン〉だ!」
みんなもよく覚えているだろうあの竹林のダンジョンは。
道中からくり型モンスター、〈お湯太郎〉君が女子の服にお湯をぶっかけてくるというとんでもないダンジョンである。
なお、最近は被害報告がまったくないらしい。〈お湯太郎〉君は、女子に見つかると光にされてしまうのだ。南無。
そんな思い出深い(?)ダンジョンに思いを馳せていると、ラナからとんでもない言葉が飛び出した。
「〈付喪の竹林ダンジョン〉? どこだったかしら?」
え? あれ? もしかして、忘れられてる!? 嘘でしょ!?
「ラナ様――ごにょごにょ」
「あ、思い出したわ! 確か――」
思い出してくれたか。あそこはボスも印象的だった。あの印象深い、濃いボスを忘れるなんてそんなこと――。
「――〈からくり馬車〉を手に入れたダンジョンよ!」
「「「「「ああ!」」」」」
あれ!? ボスは!? 〈お湯太郎〉君は!?
なお、ラナの言葉に色々と思い出したメンバーも多かった様子……!
〈お湯太郎〉君たち、完璧に忘れられてるじゃん!
いや、初級や中級でお世話になった〈からくり馬車〉たちの方が確かに印象深いけど……!
ラナに耳打ちしたエステルは、より印象深かったんだろうなぁ。運転してたし。
「もしかして、また新しい馬車とかが手に入ったりするのかしら?」
「良いですね! もっと豪華な馬車、是非手に入れてみたいです!」
「ボスは何だったかしら? もう、ここまで出かかっているのだけど、なかなか出てきてくれないのよ。きっとシャイだったのね」
そうかな? めちゃくちゃ自己主張が激しいボスだった気がするけど。
ラナの言葉に数人が「あれ? どんなボスだったっけ?」みたいな顔をしております。おかしい、そんなに影の薄いボスじゃなかったはずなのに。
「まあ、行ってみれば分かるわ! さあみんな、もう観賞は終わったわね? 次の階層に行くわよ!」
「あ、記念撮影だけしてもいいか?」
「もうゼフィルスったら、もちろん構わないわ! 私と一緒に写りなさいよね!」
せっかくの花畑ダンジョンなので記念にパシャパシャする。
花畑をバックに色んなみんなを撮影しまくって楽しんだんだ。
もちろん花畑がある方に向けてだけ撮影したよ?
最後に全員集合の記念撮影もして、ようやく次の階層に行くことになったんだ。
「ゼフィルス様、花冠で着飾ったルルたちの写真は真っ先に私に」
「分かった分かった。あとであげるからシェリアは後ろに回り込まないように」
「感謝します」
幼女と花畑といったらもう大変パシャパシャが捗ってしまったからな。すぐにシェリアに後ろから接近されてしまった。全部持ってかれないよう俺の分も確保しておかないと。
そんなこんなで9層へと向かった。道中は〈アルティメットツルー〉なるツル植物型モンスターなどが登場したが、こっちは50人行動だったので速攻で光にされてしまい、俺たちはそれほど時間も掛からず階層門を潜ることになった。
そして到着したのが9層。そこは俺の言った通り〈付喪の竹林ダンジョン〉の追想階層だった。
周りには竹林が広がっていたんだ。きっとこの光景を見ればみんなも思い出すだろう。
「何かしら? なんだかこのセーフティーエリアを出てから妙な気配がするわ」
「シエラ気配とか分かるの!?」
「私もです」
「私も感じるデース」
「なんでしょうねこの視線みたいな気配は」
エステル、パメラ、シズからも気配がするという。
他にも女子たちから次々報告が上がったんだ。
ちなみに男子にはまったくそんな気配を掴めている人物は居なかった。
「セレスタン、ラウ、感じるか?」
「いいえ。何かが潜んでいるような感覚はしますが、視線や気配は特に感じません」
「俺も女子が言うような妙な気配は感じない。だが、これほどのメンバーが感じているのだから気のせいではないのだろうな」
男子の中でも勘が鋭いセレスタンとラウにも聞いてみたが、よく分からない模様。ラウの『直感』系スキルにも反応しないとは、マジで女子だけ狙われているっぽいな。
もちろん俺には原因は分かっている。というか〈付喪の竹林ダンジョン〉の追想なんだから、十中八九〈お湯太郎〉君の進化系だろう。
俺は〈付喪の竹林ダンジョン〉のことを引っ張り出して〈お湯太郎〉君の情報を思い出してもらおうとした。
「気をつけて行くぞみんな、ここは――」
しかし、その前に事件発生。
「チョイヤー!」
「「「「チョイヤー!」」」」
「ちょいやー部隊キター!?」
そう、襲撃だ。
登場したのは〈お湯太郎〉君の最終進化系の1つ。
――その名も〈究極からくり風呂太郎〉だ。
その姿はなんと2メートル級。全体的に〈お湯太郎〉君をビッグにした姿で足は車輪。しかし、その手に持っているのは五右衛門風呂もかくやという巨大な湯飲みだった。当然温かいお湯が入っているのだろう。
そう、お湯をぶっかけるどころか、風呂を宅配する姿に進化していたのである!
どうしてそっちに進化しちゃったのかな!?
「「「「チョイヤー! チョイヤー!」」」」
まるで、「へい! 風呂お待ち!」と言わんばかりに俺たちの進行方向に5つの五右衛門風呂が置かれる。ここで入れと?
「「「「ヨイヤー!」」」」
まるで肯定されたような返事が届く。しかし。
「『大聖光の無限宝剣』!」
「ラナ!?」
俺たちの返答は〈六ツリ〉攻撃魔法だったんだ。
「『彗星槍』!」
「『大忍法・超巨大手裏剣の術』デース!」
「『メイド・フォーシス・バルカン・グレート』!」
魔法だけじゃなかった。スキルも大量だ!
「『竜絶兵砲・Vドラゴンバスター』!」
「『サンライト』だよ!」
「『フレアソング』!」
「『カースデスフレイム』!」
「「「「チョイヤー!?」」」」
普段は攻撃に参加しないミサトやノエル、ラクリッテも端的にスキルだけ唱えてチュドン。
〈究極からくり風呂太郎〉、通称〈風呂太郎〉君たちは、一瞬で光にされてしまったのだった。
「はっ! 身体が勝手に動いたわ!?」
「あれを見つけたら始末しましょう。ラナ様、お見事でした」
先陣を切ったラナがハッとするが、シズが褒める。
どうやら女子たちにとって、〈お湯太郎〉君に類似する存在は見つけ次第、悪・即・斬が染みついているようだ。
もちろん〈風呂太郎〉君たちが消えたことで五右衛門風呂も消え去っている。
ちょっと勿体ないと思ったのは秘密にしておこう。
「チョイジャー!」
「!! 大きな気配、『エリアボス探知』! みんな来るよ!」
「今日は千客万来ね」
「それで、ボスは何だったかしら?」
フィールドに響く「チョイジャー」の声。
カイリがすぐに調べると、南東の方角から竹林をなぎ倒しながら接近するエリアボスを探知する。あと、ラナは未だにボスが思い出せないらしい。
「チョイジャー!」
「なに、あれ?」
「巨人の機械かな?」
「な、なんだかかっこいいんだけど!」
「なぜか乗ってみたくなったですの!」
トモヨ、シヅキが呟き、カグヤとサーシャがテンションを上げながらツッコむ。
姿が見えたその物体は、まさかの巨大ロボット。
からくりが進化しまくって究極までいった結果、ついに巨大ロボットになってしまった完成系。その名も。
「『看破』します! あれは――〈巨大ロボット兵器・太郎君スペッシャル〉です!」
ちなみに〈付喪の竹林ダンジョン〉のボス、〈竹割太郎〉とは似ても似つかない見た目だ、とだけ言っておこう。




