#1982 懐かしき追想の幽霊ダンジョンお化け洞窟!
6層に入ると、そこは見覚えのある大きな洞窟の光景が存在していた。
「なんだか懐かしいわねこのダンジョンの風景」
「はい。〈幽霊特性〉のせいで攻撃があまり通らなかったのをよく覚えております」
「私たちもデース! スキル全然通らなかったのを覚えているデース!」
「はい。ここで〈幽霊〉に対して苦手意識を持たれた方も多いでしょう」
6層に入って辺りを見渡したところでラナが懐かしみ、それに頷く形でエステル、パメラ、シズと続き、その波紋がどんどん広がっていく。
初級中位の〈幽霊の洞窟ダンジョン〉は関門。
〈ダン活〉において、〈火魔法〉と〈幽霊特性〉という2つの新たな性能を秘めた強敵が出現するダンジョンであり、多くの人に色々と苦手意識を植え付けたダンジョンでもある。
ここを難なく突破するには属性攻撃か魔法攻撃するしかなく、当時両方が無かった人は相応に苦戦したのだ。
ちなみに俺、ハンナ、ラナ、シエラ、エステルの初期パーティの時は、ハンナが〈フレムロッド〉の『ファイヤーボール』で活躍。ラナが『光の刃』を覚えたことでガンガン〈幽霊〉を倒しまくり、俺も当時装備していた〈天空の剣〉が〈聖属性〉だったし、エステルには〈光属性〉の『プレシャススラスト』があったため、あまり苦戦した記憶ってないんだよなぁ。
ただ、他のパーティではそう簡単に突破できたところも少なかったようで、やはり苦手意識を持つメンバーが結構いるようだ。
「ケケケケケー!」
「あれが、このダンジョンの〈幽霊〉……!」
俺たちの居る入口門近くの救済場所の外では、このダンジョンの〈幽霊〉が恐怖を誘う妙な笑い声を上げながらフラフラ徘徊する様子が確認できる。
それを見たところで左手に違和感。
いつの間にか近くに居たシエラが俺の左手の袖を掴んだのだ。無意識の行動っぽい。俺、今シエラに無意識に頼られてる?
「あ、ごめんなさいゼフィルス」
「気にすんなってシエラ。もし〈幽霊〉が襲ってきて怖かったら、俺の後ろに隠れても全然構わない。全て俺が倒してやるさ!」
「うん。ありがとね」
ぐはっ! 言葉は少なかったが、とても嬉しさの籠もったシエラのありがとうが炸裂! 俺の心を揺さぶったんだ。
恐怖を感じていても気丈に振る舞い、でもちょっとした仕草から怖いのがバレバレなシエラが大変です。もう大変なんです!
こんなシエラに頼りにされたらもうね! 俺、この階層の〈幽霊〉とか全部屠っちゃうよ! 俺の目がキラリと光る。
「あの〈幽霊〉さんはルルも苦手なのです」
「大丈夫ですルル。もし襲ってきたら全て私がやっつけてあげますから」
「どうしてでしょうレグラム様、甘酸っぱい雰囲気の香りに、少し雑味が混じってしまっています」
「オリヒメはなにを言っているんだ?」
「お化け屋敷は恋愛の定番なんです」
なお、俺から少し離れていたところでシェリアが同じようなことキメていたり、俺とシェリアを見比べたオリヒメさんが眉をハの字にしていたようだが、シエラを背にかばいキラリとキメる俺は気が付かなかったんだ。
「ケケケケケー!」
「よし、狙いはあれからだ! まずは3班、いけるか?」
「任せなさいよ! 全部私がやっつけてやるわ!」
「あ! お待ちくださいませラナ様! 一番に救済場所を出ちゃダメです!」
「見てなさいよエステル! 先制攻撃よ! 『レクイエム』!」
「「「「ケケ!? ケケケケケーーーー!?」」」」
あ、それアンデッド系に特効のある鎮魂の光……。
ラナからフワッと広がった温かく柔らかく、己の全てを包んでくれそうな優しい光は、一瞬で〈幽霊〉たちまで広がり―――〈幽霊〉は断末魔の声を残して全て消えてしまったのだった。ワ、ワンパンじゃん!?
「どう!」
「「「「おお!」」」」
ラナが、ラナがかっこいい。
まさにこの階層の救世主。片手を上げてイエスするラナが大変かっこよかったんだ。これにはギルドメンバー全員が感激にどよめいていたよ。
いかん! このままでは、ラナにシエラのハートまで奪われてしまう!
俺も良いところを見せなければ!
「ゼフィルス様、是非次は4班に指示を」
「いや、1班が出る!」
「ゼフィルス様、再考を!」
「却下!」
なお、俺と同じことを考えていたっぽいシェリアがスッと近くまで交渉に来ていたが、もちろん俺は却下したのだった。
「ないにゃってるのよ――こほん、なにやってるのよ」
「うぐっ!?」
今シエラ噛まなかった? そして言い直さなかった?
「にゃ」って聞こえた気がするんだけど? 思わず俺の顔面が横からぶん殴られたような衝撃が襲ってきたんだけど!?
「噛んでないわ」
「まだゼフィルス殿は何も言っていませんよシエラさん」
「…………」
お、おお! シェリアに指摘されて苦し紛れにシエラが俺にジト目を向けてくる!?
なんだ今日のシエラは! シエラ最高か!? これが、幽霊のダンジョンの効果なのか!?
幽霊最高!
「もーゼフィルスたち! 私の勇姿になによそ見してるのよ!」
と、ここにラナ襲来。
「こほん……! もちろんラナの勇姿はしっかり見ていたぜ! これは俺も負けられないぞ!」
「ふふん! このダンジョンで私に勝てるの?」
「やってやるぜ! 1班、行くぞー!」
「は、ハイっす!」
「おおー!」
「さすがはラナ殿下。ゼフィルス先輩の扱いが上手い」
「あのシエラさんとゼフィルス君を引き離した!? ラナ殿下って最強だったの!?」
ラナから特大のドヤを受けて俺たち1班も出撃だ。
背中から「あ」とシエラの声が聞こえて思わずブレーキを踏みそうになったが、ラナからの挑戦に背中を押されて、俺は止まるわけにはいかなかったんだ。
なぜかそれを見たシュミネとシヅキが目を丸くしてラナを褒めている気がしたが、きっと気のせいだろう。
「ゼフィルスお兄様! あれは〈アルティメットゴースト〉って言うみたいなのです!」
「サンキュールル! 最初から全力で行くぞ! 『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』!」
ルルからの援護射撃で、あの〈幽霊〉の名前判明。
〈アルティメットゴースト〉、まさに究極の〈幽霊〉で、大きさは初級中位の頃の3倍。青白く燃えているような布を被った姿で、頭には冠が乗っかっている。なかなかにパワーアップしているような見た目となっていた。
さらにパワーアップしていたのは見た目だけじゃない。そのパワーもだった。
「ケケケケケー!」
「「「ケケケケケー!!」」」
4体の〈アルティメットゴースト〉から発射されたのは火球、しかしその大きさは、直径5メートルクラスはある巨大なものだったのだ。
俺の『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』がその火球たちを食い破って〈アルティメットゴースト〉たちに直撃。しかし、火球によって一部相殺されていたためか、ワンパンならず。な、なんだと!
「と見せかけて、聖属性の巨大な一撃! ――『天光勇者聖剣』!」
「「「「ケケ――――」」」」
ふふふ『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』は囮にして当て身みたいなもの、本命は『天光勇者聖剣』での一掃だ!
〈幽霊特性〉は基本、〈光属性〉と〈聖属性〉が弱点だからな。
「決まったな」
俺はラナと同じく片手、否、聖剣を上げるポーズでシャキンとキメる。
背中からみんなのざわめきが聞こえてくるようだぜ。
「ゼフィルス先輩、一瞬だったっす」
「私たちの出番無かった」
「まあ、まだ6層だからな!」
追いついてきたナキキとミジュの前衛組が茫然と、そしてちょっと不満を申してくるが、ここは6層でまだまだ弱かったんだと言ってごまかしておく。
ラナに報告だ。俺だってシエラの頼りにされる存在だと証明できたはずだ!
「どうだラナ!」
「やっぱりここは私の出番のようね! 『レクイエム』は〈五ツリ〉だし、燃費がいいもの!」
「ぐはっ! それを言われたら手も足も出ないんだぜ」
しかし、燃費問題に撃沈。
俺が使ったのは結構なMPを使う『ゴッドドラゴン・カンナカムイ』と『天光勇者聖剣』。両方〈六ツリ〉だ。当然のように〈五ツリ〉よりも燃費は悪い。それはそれはすっごく悪い。
俺は、ここではラナに敵わないと言うのか!?
「ゼフィルス、なんの勝負をしてるのよ。その、さっきのゼフィルスもかっこよかったわよ」
「「シ、シエラ!?」」
ここで新たな救世主、否、女神現る。その名はシエラだ。
俺はシエラが女神に見えて感動し、ラナは衝撃と驚愕に目を見開いていた。
同じセリフだったのに、その反応は全く違っていたんだ。
「見てますかレグラム様。あれがお化け屋敷効果です」
「…………そうか」




