#1975 ゼフィルス情報爆弾大爆発!学園長は戻れない
「学園長、ゼフィルスさんが来ました」
「う、うむ。通すのじゃ」
ここはいつもの学園長室。
そこは今、緊張に包まれていた。
なぜか? ゼフィルスがアポを取ってきたからだ。
アポ自体は普通のことだ。騒ぐほどのことじゃ、いや、やっぱりそれだけでもちょっと騒ぐかもしれない。だが、今回のゼフィルスはそれにプラスして「非常に重要な話があります」なんて言葉を添えてきたのだからたまらない。
え? あのゼフィルス君が非常に重要なんて言葉を使うの?
それなんて話?
もう添えられた言葉だけで学園長も、そしてうっかり聞いてしまったカイエンもドキドキしていた。
こんな話、すぐに済まさなければ安心もできない。
できれば聞きたくないけど……。
そんな思いの学園長とカイエン。
その気持ちは見事にシンクロしていた。
そして、ゼフィルスが来たる。
「失礼しまーす! 学園長先生、今日はお時間をいただきありがとうございます!」
「う、うむ。ゼフィルス君から急ぎ連絡する案件と言われたからの。それくらいの時間はいつでも捻出しよう」
捻出できなければ被害(?)が拡大するのだ。学園長は忙しくても、ゼフィルスのためならば時間を作る所存だ。なお、その時はカイエンに仕事が振られてしまうのだが。
「――!?(なんだ? 今寒気が。え? なに? なにが起こるの?)」
その時カイエンが密かにブルッときていたが。それは誰にも気付かれることは無かったのだった。
いつもの席に促されて座ったゼフィルスは、早速と言わんばかりに重要なことをぶちこんだ。
前置き? そんなものはない。
「実は学園長に非常に重要な連絡が。ついに〈エデン〉は、真の最強装備の作製に成功いたしました!」
「…………ん、んん??」
だが、その重要な話は学園長には伝わらなかった。
真の最強装備、そんなもののノウハウがあるのは世界広しといえど〈エデン〉だけだ。しかしその後のゼフィルスの説明で学園長は、その存在を知ることとなってしまう。
「つまりですね、最上級ダンジョンでドロップした装備のレジェンドレシピ。あれをこれ以上無い程完璧に作りあげたもの、それが最強装備です」
「完璧に作りあげた、とは??」
聞きたくない気がする。でも、聞かなくてはいけない。学園長の辛い現実だ。
なお、すでに視界の端ではコレットがお茶を用意していた。学園長に退路は無い。
ゼフィルスの説明が始まった。
「生産、特に装備品は作製者によって能力が変わることはご存じかと思います」
「うむ。LV40の者とLV75の者では作製した装備の数値に大きな違いが出ることは判明しておる……の」
これくらいは学園長も常識の範囲だ。
なお、その常識が下級職をベースにしている時点で、時代はここ2年ちょっとで進みすぎだった。
学園長も自分で回答するうちに気が付き、思わず頬が引きつった。カイエンも見事なポーカーフェイスを維持しているが、内心冷や汗だらだらだ。
誰かに「その常識、ちょっと古いんです」と諭された気分だった。
学園長は、今頭を過ぎった、過ぎってしまったことを、やや震え声でゼフィルスへ問う。
「まさか、LV100?」
「その通りです学園長。世の中の生産職は、LV99以下ではまだ未熟なんです。真の最強装備を作るためには、LV100は必須です!」
そんな常識は存在しない。いや、存在しないはずだった。
LV99以下はまだ未熟。そんな概念、学園長は今初めて聞いた。
だが否定したいのに、下級職をベースとしてLV74以下はまだ未熟と言われたら、きっと自分は同意するじゃろうと思い直し、受け入れがたくないものだと認識してしまう。端的に言えば「確かに」と心のどこかで思ってしまったのだ。
なお、ベースの常識すらふらふら揺れ動いていたカイエンは、しばらくフリーズしてその新しい常識をインストール中だ。がんばれカイエン!
「つ、つまりゼフィルス君の言う最強装備とは、LV100の生産職が最上級のレジェンドレシピを用いて作りあげた装備、ということかの?」
学園長は新しい常識をなんとか早々とインストールすることに成功し、ゼフィルスの高度な認識に追いつかんとがんばる。しかし、
「あ、まだあります。それはただの前提で、そこから生産設備と素材の昇華が必要ですね。知っての通り、生産アイテムの等級は生産品に大きな影響を与えます。そして【錬金術師】による素材の昇華。素材自体を昇華させることで、より強力な装備に仕上げることができます」
ゼフィルスにとってさっきの話は前提。ここからが本番だった。
学園長はオーバーヒートして飛びそうな意識を、あっついお茶を出す機会を窺っているコレットをチラッと見ることでなんとか現実に留めることに成功する。
ゼフィルスの話は十分理解できるものだった。なお、脳が理解を拒んでいるが、学園長は根性で奮い立てた。そして理解してしまう。現実を。
学園長は震えそうな声をなんとか咳払いで落ち着けて、今理解してしまったことを口にした。
「こ、こほん。あーつまりだ、ゼフィルス君。最強装備とは、LV100の生産職が、最上級のレジェンドレシピ、最上級の生産アイテム、そしておそらくLV100の【錬金術師】が昇華した最上級の素材を用いて作製した装備、ということか……の?」
「そうです!」
合ってた。
昇華する素材のことも考えると、LV100の【錬金術師】の上級職は必須になるらしい。
こんなの発表したら、【錬金術師】の需要がほんととんでもないことになる。
発現条件と下級職の最強育成論はすでにゼフィルスから公開されているし、今後【錬金術師】の大フィーバーが起こることは決定の確定だった。
学園長も思わず遠い目でその光景を幻視する。意外にも、結構簡単に想像できた。ついでに〈エデン〉が【錬金術師】系の生産職だけ11人も囲っている理由も理解した。そりゃ囲うわ!
「続いて最終装備と、真の最強装備という概念について説明しますね」
「まだあるの?」
なお、最強装備の話はまだ途中だったようだ。話には続きがあった。
まあ、最終装備の意味は簡単だ。
「装備した人物にとってもう装備更新が必要ない装備――最終到達点」のことを指す言葉、というだけの話。
「クイナダの最終装備ができた」と言えば、それは今後装備更新が必要ない最強装備が完成した、という意味になる。ここまでは学園長は理解できた。
問題は真の最強装備の方だ。
「真の最強装備とは、最強装備にさらに手を加え、〈強化玉〉で最大の強化を施したのち、〈性能限界玉〉を使いLV10の『エンチャント』系スキルを用いて限界突破させた装備のことです。これで完成。これ以上ない装備品の完成です!」
「…………ほ?」
さっきの最強装備の話だけでもいっぱいいっぱい。とんでもない爆弾だらけで、そんな最強装備はいったいどんな性能を誇るのかとか、色々考えていた学園長。
だが、真の最強装備はさらに手を加えて性能を伸ばすという。
学園長は、〈装備強化玉〉や〈スキル強化玉〉、〈性能限界玉〉の価値が、今とんでもなく高く暴騰したのを幻視した。さらに追い打ち。
「そしてこれが完成品の1つ、真の最強装備、分類大盾――〈竜猫炎化大盾+★〉です!」
「…………ほへ?」
学園長、思わずほへる。
なんか、今ゼフィルスに言われた夢物語のような話が、現実に現れてしまったのだ。夢じゃなかったの?
そういえばと学園長は思い出す。ゼフィルスは、最初に『ついに〈エデン〉は、真の最強装備の作製に成功いたしました!』と言っていたと。
つまりこれがそうである。
それに、今『完成品の1つ』と言ったのも聞き逃せないところだ。
「学園長、〈解るクン〉です。LV10ですので最上級品も『解析』できますよ」
「う、うむ。すまんのコレット君」
「メイド秘書ですから」
それメイドなの? 秘書なの? と聞かれそうな答えだったが、学園長はツッコむだけの余裕はなく、震える手と口で、〈解るクン〉を翳して『解析』した。
これ、多分国宝を軽く超えるぞい。
そんなことが脳を占めるが、学園長にしない選択肢は存在しなかった。
そして、
「―――カヒュン!?」
「ああ学園長お茶ですね~!」
ついに学園長、意識を飛ばす。
その数値は、学園長が知る常識や国宝から、遠く離れたものだったのだ。
ちなみにフリーズ中だったカイエンもようやくインストールが終わったのだが、うっかり『解析』結果を見てしまい再びフリーズした。今度は戻ってくるのにいささか時間が掛かりそうな予感だ。
コレットはそれを見て、カイエンにもお茶を出そうか悩む。
「ふぅ、ふぅ、いや、これは、凄いというか、凄まじいのうゼフィルス君」
「そうでしょう。うちの生産職の、まさしく最高の1品ですよ」
無事蘇生茶で戻ってきた学園長が震え声でなんとかそう言えば、ゼフィルスは誇らしいとばかりに微笑んでいた。
明らかに学園長とゼフィルスで吹いている風が違う。
「あと、先ほどな。なんじゃこれが完成品の1つ、と言っておらんかったかのう?」
「そうなんです。それを今日お伝えしようと思って来ました!」
なんと、ここまでの意識を持っていかれるほど驚愕の話よりもさらに先があると言う。
え? これ以上なにがあるの? もうお腹いっぱいではち切れそうだよ?
そう思ってもゼフィルスの報告は止まらなかった。
「もちろんこれ一品ということはありません。全身装備の頭、体①、体②、腕、足、そして武器の片手槍も揃えた、真の最強装備をオール一式装備した人物がいます。うちの【竜騎姫】――アイギスです」
「…………へ?」
「アクセだけまだ無いのですが、アイギスは竜を装備しているのでアクセは装備できません。まずはこれで真の最強装備をお披露目し、真の最強装備のことを作り方も含めて発表したいと思います」
「…………ほ?」
「アイギスの竜もこの間最終進化系になりましたし、素晴らしいパフォーマンスに成ると思うんですよ。明日には準備が調う予定なので。今日はその報告に来ました」
「…………」
「あ、学園長お茶ですね! 今お淹れしますよ! ―――あれ? 学園長? 学園長お気を確かに~!?」
この日、蘇生茶を超えるインパクトによって学園長の意識は初めて帰還しなかった。
何とか3杯目で帰還したが、コレットはさらなる蘇生茶のパワーアップが必要だと開発に取り掛かったという。




