#1970 マリー先輩の作業風景【マギクロスアデプト】
「ああ〈幸猫様〉〈仔猫様〉〈愛猫様〉〈神猫様〉! いつも素晴らしい〈金箱〉ありがとうございます! ありがとうございます! どうぞこの至高の料理アイテムをご賞味くださいませ!」
「ゼフィルスがまたやってるわ」
「ですが今日は一段と思いが強いように感じますわね」
「この3日間、クルクルするのをよほど我慢していたようですからね。いつ爆発してもおかしくはありません」
「まったくゼフィルスったらしょうがないわね! わ、私が最初に踊ってあげても良いわ」
「…………」
俺が豪華になった神棚をお供え物でいっぱいにして深く深く感謝の思いをお祈りしていると、近くからなんだかジト目の気配を感じた。これは、シエラのジト目!
いやダメだ。今はお祈り中。俺は乱されそうになる心を律しながら〈幸猫様ファミリーズ〉へ祈った。なんだか他にも俺に向けて何か言われていた気がしたが、お祈りに集中する俺は気が付かなかったんだ。
ふう。湧き上がる衝動がお祈りによって静まっていくのを感じるぜ。
満足のいくお祈りができたと感じたところで振り向けば、そこに居たのはシエラ、リーナ、アイギス、ラナだった。
そして、ラナが前に出てくる。
「し、仕方ないから踊ってあげるわ! 私からよ!」
「んん??」
なんの話だろう?
「あれ? ゼフィルスさん、さっきまでの猛りが収まっていませんか?」
「え? ちょっとゼフィルス、さっきまであんなにクルクル回りたそうにしてたのに、なんで収まってるのよ!」
「もしかしてお祈りをしていた影響でしょうか?」
「…………」
はっ! アイギスやラナ、リーナの話から俺は察する。
もしかして、ラナたちはクルクルする順番待ちをしていたのか!?
読めた! 読めたぜ! 読めてしまったんだぜ!
今からでも遅くはない。俺のテンションは一瞬でマックスまで――。
「そのままでいいわゼフィルス」
「うひょば!?」
上がり掛けた瞬間、脇腹にシエラの指がツンされて正気に戻った。
シエラなんてことを!?
「シエラ!?」
「いえ、こうしておかないと、今回はとても長くなりそうだったもの」
「うっ」
確かに、俺の脳裏に過ぎるのはセレスタンが回収してくれた400個のレイドボス〈金箱〉たち。
レイドボス産の宝箱はほぼほぼレジェンド級だ。そんなものが400の山になってるんだ。もうね、大変だよ。大変なことですよ。
シエラの言う通り、一度クルクル回り出したらしばらく止まらない可能性が高い。1日を棒に振る可能性すらある。シエラには感謝しないといけない。
「別に私としては1日ゼフィルスと踊っていてもいいのだけど」
「わたくしもラナ殿下に同意ですわ」
「はい。惜しむらくは、ゼフィルスさんってテンション上がりすぎると記憶が飛んじゃうところです。覚えていてくだされば嬉しいのですが」
「あなたたち…………」
なんだかラナ、リーナ、アイギスには受け入れられている感じがする。
シエラのジト目が向こうに炸裂しているぞ! 俺もちょっとそっち側にお邪魔させていただいても……。
「なにをしているの?」
「え? はっ! いつの間にか身体が勝手に動いていた」
「…………」
あ、シエラのジト目がこっちに! これで俺は戦えるぞ!
「ゼフィルス、マリー先輩に残りの素材を渡しに行くのでしょ?」
「おっとそうだった! 悪いなシエラ、後は頼んだ!」
「はいはい。途中でテンションが暴走しないよう気をつけるのよ?」
「…………」
「ゼフィルス?」
「気をつけます!」
でも暴走したらごめんね。
気をつけていても、不意に天井を突破して上がっちゃうことはあるのだ。
ふう。〈幸猫様ファミリーズ〉への日課を済ませるだけが、思いの外時間が掛かってしまったんだぜ。
俺はテンションを抑えながら〈トップマリー〉へと向かった。
「マリー先輩いるか~」
「いるで~」
奥の部屋へ通されたのでいつものお決まりのセリフを言いつつもお邪魔する。
今回通されたのは、昨日と一昨日も通された、素材買い取り戦用ルームだった。
え? 漢字が間違ってる? いいんだ。ここ3日間くらいはこっちで呼ばれる方があってる気がするし。
今日もお邪魔すればたくさんの見た事のある職員が壁側に並んで待ち構えていた。〈商業課〉卒業組の面々だ。
「ほな兄さん、今日も受け取ろうかい」
「ふっふっふ、マリー先輩。冷静でいられるのも今のうちだぜ!」
「いや、兄さんの方が昨日と一昨日のテンションやばかったけどな!」
ぐっ! それを言われると辛い。〈金箱〉フィーバーが一気にドンと来たんだもん! 昨日と一昨日は危うくたくさんの職員が見ている中でマリー先輩とクルクルしそうになってヤバかった。
「大丈夫だ。今日は対策済みだ!」
「なんの対策してきたん!?」
もちろんお祈りだよ。お祈りは俺の衝動を鎮めてくれる! それはともかくだ。
「見よマリー先輩! 今日は〈聖界ダン〉の3種のレイドボス素材、各10戦分だーーーーー!」
「こんな最上級素材を無造作に山にしてからにーーーーー!?」
俺が〈空間収納鞄〉をひっくり返すと山になる素材群。最高級にして最上級のレイドボス素材たちだ。
天使からのドロップは布率多め。
マリー先輩の目が一瞬でシャキンとなってうひょっとなった。いや、うひょっとなったのは俺の目の錯覚だな。だが、マリー先輩のテンションが上がりまくったのは分かった。
「みんな出番や! 丁寧に運ぶんやで!」
「「「「「はい!」」」」」
すぐに動き出す職員たちがテキパキと慣れた動きで素材を仕分けし、簡単な処理をしていく。前みたいにボス素材に触れるだけで身体を震わせて動けなくなっていた職員たちはもういない。でもまた見たかった。
いや、結構震えている職員はいるな。耐えているだけだった。もっと震えてもいいんだよ?
「マリーオーナー、数が判明しました。こちらです」
「早いな! 助かるわぁ」
リーダーと思わしき職員から査定表のようなものを受け取りチェックするマリー先輩。
「さすがは兄さんや、僅か2日で、いや当日を合わせれば3日でうちらが要望していた大量の素材を全て納品してしまえるとは、恐れ入ったで!」
「はーっはっはっは! 任せろよマリー先輩! これで、作れるよな?」
「もちろんや! あとはうちに任せとき、最高の装備を作ったる!」
「頼もしい!」
ドンと胸を叩くマリー先輩。
これで、ようやく最強装備の準備、その全てが調った。
「付いてきいや兄さん! これから装備作製を開始するで!」
夏休みも折り返しになり装備作製に取りかかるマリー先輩やアルルたち。
俺も見せてもらったが、凄かったよ。
「いくで――『鉱糸魔錬』!」
そう言ってマリー先輩が〈天聖祝福のオリハルコンメタル〉にスキルを使うと、パラパラと加工済みの鉱石が糸にほどけていったんだ。
まさにファンタジーの光景がそこにはあった。さすがは【マギクロスアデプト】。
その糸を織り、布に加工。
そこにレイドボス素材を合わせて、オリハル糸で縫合していく。
「――『甲革魔錬』!」
靴の作製もお手の物。
レイドボスの皮を革に加工し、さらにそれを靴へ仕上げていく様はまさに職人。
針が踊るようにして自在に空中を泳ぎ、縫い合わせていくのだ。これも【マギクロスアデプト】の能力。
この針や鋏などももちろん最上級の生産アイテム。
これらは〈聖界ダン〉の90.5層ボス、〈セラフィム〉からのドロップだな。その名も〈聖なる竜の裁縫針〉と〈最上竜王級・機織り機〉。
それまでは〈上級ミシン仕立てメーカー〉で仕上げていたマリー先輩だが、ミシンから針に転向し、今ではこの通り、ファンタジーな縫合術を獲得している。
ぶっちゃけマリー先輩が今まで最強装備作製に手間取ってたのはこれが原因だな。
シエラも自在盾を手に入れた時、かなり練習していたが、マリー先輩も同じで、自在針とでも言うこの針を操るため、ずっと練習を繰り返していたのだ。
「『最上級縫合』!」
マリー先輩がスキルを唱えるとようやくシリーズ装備がすべて完成する。
時間にして、実に2時間半も掛かっていた。1着作るのに30分だな。5点セットでこの時間だ。
だがそれだけじゃ終わらない。
「あとは金属を入れるだけやな。後はアルルが仕上げてきたもんを合わせれば完成や」
金属類はアルルの担当なので、2人で協力して作製するものはもっと時間が掛かる。
アルルがシリーズ5点全ての金属の仕上げに1時間半掛かってたら、2人で合計4時間以上掛かる計算だ。
それをほぼ50人分。
それだけに留まらず、アルルだって武器や盾の作製がある。
また、タネテちゃんにもアクセの作製を任せている。アクセの中には作製に何日も掛かるような〈乗り物〉だってあるのだ。
そこからさらに、今回は強化玉を使う。
全員の最強装備が全て整うには、まだまだたくさんの時間が必要だ。
その記念すべき一歩目が、ようやく完成する。
「マリー姉! こっちは出来たで!」
「こっちもや! さあ、合わせんで!」
ついにアルルとマリー先輩の作製していたものが1つになる。




