#1949 タバサ先生からの誘惑が強すぎてとても大変!
なんとか聖剣を引っこ抜くことに成功し、そのまま砂まみれのサトルを海に投げ飛ばすと、ちょっと休憩。
マリー先輩たちが寝転んでいるビーチチェアの並びにおじゃますることにした。
「ふ~、なんとか救出に成功したぜ」
「最後投げ飛ばしてたけどな!」
「救出? 救出した人は海に投げ込む?」
「砂まみれだったからな。仕方なかった」
マリー先輩とメイリー先輩にそう話しつつ、俺もビーチチェアに寝転がる。
ちなみに聖剣サトルカリバーは無事砂人間から脱したようで、こっちへ歩いて向かってきているのが見えるな。さて、どうやって出迎えようか?
そんなことを考えていると、横からひんやりとしたものが俺の頬に当てられたんだ。
「うお!」
「うふふ。ゼフィルスさん、お疲れ様。よければドリンクなんていかがかしら?」
「タバサ先生!」
それを実行していたのは、なんとタバサ先生だった。
見ればブルーの色合いをしたトロピカルで豪華なジュースを1つ持っている。どうやら俺に持って来てくれ……んん?? クネクネ曲がったストローが2本刺さってるぞ?? しかもストローが♡の形を描いているような。
これ、もしかしてカップルが飲むあのストローじゃない????
「タバサ先生??」
「私ね、ゼフィルスさんを癒してあげたいの。一緒に飲みましょう?」
「喜んで!」
こんなお誘い、断れる人いる? 少なくとも俺は断れない。いや、断らない!
喜んでタバサ先生と飲むー!
「「「じー」」」
「ハッ!?」
なんか、見られているね。マリー先輩とかソフィ先輩とかタネテちゃんに。
みんなジト目かな? ジト目っぽいかな? いや違う?
俺の一挙手一投足がしっかり観察されている気がするんだけど気のせいかな?
「ふふ、心配しなくて大丈夫よゼフィルスさん。はい、まずは一口。そっちのストローに口を付けて?」
「はーい」
タバサ先生が俺の横のビーチチェアに座り、ジュースを差し出してくる。
誘われるままにパクッとこっちに向いたストローを咥えれば、目の前には同じく向こうを向いたストローを咥えたタバサ先生がいて……! 顔が、タバサ先生のご尊顔がとても近いぞ!
「…………」
「――――」
「「「じー」」」
そして一緒にチュウと吸うドリンク。
なんだか幸せの味が喉を通り過ぎていったんだ。
視界の端に映る愕然とした表情のサトルと、背中に突き刺さる視線の圧が、まったく気にならないほどの幸せだったんだぜ。
「ふふ、美味しい」
「幸せの味がした……!」
タバサ先生の「美味しい」が大変。
なぜかとても頭をガツンと殴られたような、いやプニョンと殴られたような、気持ちの良い声が耳から脳に侵食した気分だった。
「ねえ、もう一口。ね?」
「はい! 一口と言わず二口でも三口でも何度でも」
「ふふ」
なんだろうね。いまだかつて飲んだことのない味がする気がする。これが幸せの味ってやつなのだろうか?
きっとうま味とかの親戚で、幸せ味とか呼ばれている味に違いない。
そして、飲んでいる時、視界いっぱいに広がるタバサ先生のご尊顔が大変近い。思わず時を忘れそうになるんだよ。
こんな幸せでいいのだろうか? いいよな!
「なんだかドキドキするわね」
「はい! とってもドキドキです!」
「ゼフィルスさんは頑張りすぎなんだから、もうちょっと適度に休まないとダメよ?」
「はーい」
「あかんわ。兄さん完全に骨抜き状態やん」
「ただの、いえ、あのような奇抜なストローだけであそこまで甘い雰囲気を出せるのですか」
「なんでしょう? 今私の中のゼフィルス先輩像がガラッと変わった気がしました」
背中に感じるセリフの数々。
しまった。マリー先輩にはすでにバレているが、ソフィ先輩やタネテちゃんには演じてきたかっこいい勇者像が崩れてしまっている予感!
キリッとしておこう。
「手遅れや」
そ、そんなことないはずだぜマリー先輩?
くっ! マリー先輩には見抜かれてる!
「あら、もう無くなってしまったわ」
「なんと! これは大変だ」
「ええ、大変ね。ゼフィルスさん、おかわりにいきましょう?」
「お供しますタバサ先生」
ドリンクが無くなったので移動開始。
俺の勇者像が崩れないうちに退散だ。(手遅れ)
タバサ先生に付いていくと、そこではミリアス先輩がせっせと色んなジュースを作っているところだった。
「ミーア、1つもらえるかしら? ストローは再利用で」
「あ、はーい。さっきとはまた違う、今度はパインをベースにした疲れが取れるドリンクをどうぞ!」
「ありがとう。それと、これごちそうさま」
「はいはーい」
どうやらさっきのトロピカルなジュースはミリアス先輩から貰ったものだったようで、ここで補充。
今度はまた違うドリンクが出てきた。
そこにタバサ先生がさっきのドリンクから♡なカップルジュースストローだけを移し替える。んんん? タバサ先生、そんなにストローをクルクル回したら、どっちの口が俺かタバサ先生か分からなくなってしまいますよ?
「あら、どっちのストローがゼフィルスさんで、どっちのストローが私か、分からなくなってしまったわね。ゼフィルスさんはどっちだと思うかしら?」
こ、これは、確信犯!?
ストローがどっちのかわからなくさせるデンジャラス。
タバサ先生がニッコリ微笑んで、好きな方をパクッとしていいのよ? とストローの先を勧めてくる。なんてことだ、え? これいいの?
そう思っていると、後ろから助け(?)が来たる。
「ちょーっと待とうかタバサ先輩! それゼフィルス君とするの!? それはちょっと、うん、ダメなんじゃないかな!?」
「あらミーア、堅いこと言わない言わない。少しくらいいいじゃない?」
「私には少しに見えないんだな~。それに私はハンナちゃんの味方だしね! そのストロー没収! はい、新しいストロー! あとドリンクももう1個追加!」
「もう、ミーアの前で誘惑したのは失敗だったわ」
ミリアス先輩から待ったが掛かってストローチェンジ。
ついでにドリンクも個別2つになってそれぞれにストローが1本ずつ刺さった、通常のジュースになってしまったんだ。なんてことだ。
でも不思議とハンナの名前を出されたときに「これでいい」と思ってしまったんだよなぁ。……それとミリアス先輩、ハンナに話す時は是非俺が誘惑に抗っていたと添えていただければ幸いです……!
ドリンクを飲めば、休憩も終了。
「ゼフィルスさん、次はシュノーケリングをやらない? 私、海の中の様子が気になってたの」
「もちろんいいですとも!」
ということで、次はタバサ先生とシュノーケリングだ。
この世界、海で目を開けても大丈夫、陸上と視界が変わらないという不思議海なのでゴーグルなどは要らない。フィンも無いし、呼吸も普通に足が着くので立てば良い。まさかの道具無しのシュノーケリングだ。シュノーケル無しとか本当にシュノーケリングと言えるのかは分からない。
入り江内はどんなに深くても水深が1メートルちょっとしかないが、水の中の世界を見るのは結構楽しいもので、透き通った海の中でタバサ先生と海の中散策に乗りだしたんだ。
「ぶくぶくぶく」
「こくこく」
海の中で戯れるタバサ先生が大変絵になる!
なんだろうこれ? SSRか? その上のレアリティ、LRかもしれない。
ゲームやマンガなどでお馴染みの、海の中の少女みたいな光景がそこにはあったんだ。こっちに視線を向けてニコっと笑顔のタバサ先生。俺もニコッとする。
たったそれだけなのに海中というだけでここまで魅力的なロマンに溢れるとかすげぇよ。
「タバサ先生、だいぶ泳げるようになったんだな」
「ふふ、ゼフィルスさんと一緒にシュノーケリングするために覚えたのよ?」
そ、そんなこと言われたらドキドキするでしょう!
〈ダン活〉は海もプールも普通は無いため泳げる人は極一握り。
タバサ先生も泳げなかったはずだが、軽い動きなら海の中でも泳げるようになっていたんだ。これを俺のために練習した? もうね、そんなことを言われたら、嬉しくなっちゃうよね。
こうして俺は、タバサ先生との幸せな一時を堪能したのだった。




