#1950 夕日で寂しい。でもハンナがいてくれる大丈夫
日がだいぶ傾き、夕方という時間になったころ、俺は少し1人になりたくなって海を見ていた。
「ゼフィルス君、今いいかな?」
「ハンナ」
もうだいぶ遊び尽くした感のある〈海ダン〉の秘密の入り江。
まだ遊んでいる子は多いが、なんというか、見納めという感じもしている。
俺は3年生だからな。もしかしたら、もうここには来られないかもしれないのだ。
そんな心境で、1人で少し黄昏れながら最後の夕日に染まる海を眺めていた。
ハンナがやってきたのはそんな時だ。
「こんなところに居たんだ。みんな探してたよ? 主に女の子たちが」
「そ、それは悪かったな。だが、なんとなく1人になりたくてなぁ」
なぜか女の子が探していたというところでハンナがむむっとなっていた気がしたが、気のせい、かな? うん、気のせいだろう。多分。ほら『直感』さんも「細かいことは気にしなくていいのだ」と言っている気がするし。
俺が居るのは入り江内ではあるが、ちょうど夕日と海と砂浜が一望できる場所だった。なかなかの観光スポットだと思っている。
ここに1人で来たかったのは、特に宝箱がここに置いてあるとか、そんな理由ではない。本当になんとなく1人で夕日が見たかったのだ。いや、ハンナが来て2人になってしまったけどな。
「一緒に居ていい?」
「もちろんだ」
ハンナと2人なら、別にいい。なぜだろう?
俺の答えを聞いてニコッと微笑んだハンナが触れるくらい近くに来て、隣に立って俺と同じ物を見る。
「夕日だ~」
「綺麗だろ? 夕日が海に反射してさ、赤くなった空と海はこの時間帯しか見ることができない」
「うん……」
なぜ海の近くで見る夕日はこんなにも神秘的に見えるのだろう。
なんだか、ぞくぞくっと来るような光景なんだよな。不思議。
それからなんとなく会話が途切れ、ザザーン、ザザーンと波の音だけが聞こえるだけになる。
だが、それを打ち切ったのはハンナだった。
「ゼフィルス君は、寂しいのかな?」
「分かるか?」
「分かるよ。こんなところで夕日をずっと見つめているなんて、いつものゼフィルス君ならしないもん。それに、私もなんだか寂しいし」
「そっか。ハンナも寂しいか……。俺もな、遊んでいるうちは良かったんだが、なんだか夕日を見てたら寂しくなっちまってなぁ。多分だが、今年で〈エデン〉みんなで遊ぶ海も最後だと思う」
「うん。楽しかったね。1年生の頃から毎年来て。スイカ割りしたり、〈水上バイク〉で遊んだり、バーベキューも美味しかったなぁ」
「あの頃はまだ25人とかだっけ? 今の4分の1以下しか人数がいなくて、それでも楽しかったよな」
「うん。2年生になったら一気に人が増えて、ヴァン君がお城を建てて滑り台造って遊んだんだよね」
「思えばあれが転機だったな。マリー先輩とメイリー先輩も誘ったことで、翌年である今回はパワーアップバージョンを見せつけられた」
俺とハンナの視線が、思わずまだ賑わうウォータースライダーを見る。
「今年はまさかの本格的ウォータースライダーだったからなぁ。しかも俺に内緒だったんだぜ? いきなり披露されて驚かされたよ」
「私も驚いたけど、それ以上に楽しませてもらったなぁ。マリー先輩とメイリー先輩たちには感謝だよ」
「だな。マリー先輩とメイリー先輩あっての海だ。水着でも大変お世話になってるしな」
そんな感じに1年生からのことを振り返る。
ああ、たっくさんの思い出があるなぁ。
最初は25人前後だったのに、今では100人超え。
でっかくなったもんだとしみじみ浸る。
マリー先輩とメイリー先輩にも大変お世話になった。
まず水着がなければ企画すら練られなかった訳だしな。
毎回素晴らしい水着を作り女子のみんなを彩ってくれた。感謝いっぱいだよ。
ああ、今年で最後ということは水着もか!? いや、まだ温泉回があるからあと1回は素晴らしい光景が見られるが、それが終われば……。
なぜだろうか。〈海ダン〉に来られないよりもちょっとショックがでかい気がするのは、気のせい……なのかな?
そんなことを思いながらじーっと海に揺らめく夕日の反射を見つめていると、こっちを向いたハンナが、ギュッと俺の手を掴んできた。
「! ハンナ?」
「えへへ。大丈夫だよゼフィルス君」
そう言ってはにかむハンナが手を、指を絡ませて来るんだ。全然大丈夫じゃあらへん!
「きっとみんなね、来年は忙しいと思う。でもね、ゼフィルス君が声を掛ければ、みんな集まって来てくれると思うよ?」
「来年、そうだよな。来年もあるよな」
「うん。だからゼフィルス君も寂しがらなくても大丈夫。ゼフィルス君が来ようぜってみんなを誘えば、みんなもいいよって、来年も集まってくれるよ」
「…………ああ」
ハンナに言われて、じんわり心が温かくなる。
俺にとって〈ダン活〉とは3年で卒業。そこでエンディングだ。つまりはゲーム終了。エンディング後は用意されてはいないのが当たり前だった。
だが、ゲームとは違う〈ダン活〉のこの世界なら、俺は来年もここに居ることができるのかもしれない。
ハンナと繋いだ手からじんわりくる暖かさを感じて、俺が寂しがっているのは、もしかしたらゲームと同じく3年生の卒業式でエンディングを迎えたら、それで終了になるかもしれないと思っていたからなのかもしれない。そう自覚する。
そうだ。この世界なら、エンディングの向こう側も見られる可能性は多いにある。
この子、卒業したらどんな生活するんだろうと思うも、エンディングではちょっとしか明かされず気になっていたなんてことは多かった。
そういったことも、この世界では分かる可能性は高い。
来年も続くのであれば、ハンナの言う通り、こうして海に行こうぜと誘うこともできるだろう。
「ハンナ」
「ん?」
「すごく良い案だ。そうだ、そうだよな。来年もこの世界は続いていく。そうなれば俺が見たいと思っていたものも、やりたいと思っていたことも、全部できる! こうしてみんなで海に来るのがこれで最後なんて決まってなかったよな!」
「うん。その意気だよゼフィルス君! 私だって、来年も海来たいもん」
「ああ。約束しようハンナ。来年も海に来よう!」
「うん! うん! 約束だよゼフィルス君!」
寂しくて、少し落ち込んでいた気持ちが一気に復活して湧き上がる。
ハンナと約束しちゃった。もうこれはやるしかないね!
思えば、来年のことはあまり考えないようにしていたなと思い至る。来年の〈エデン〉のことを考えて後輩を育てていたりはするが、俺自身のことに対して真面目に考えたのはこれが初めてだったかもしれない。
俺は終わらない。終わってはならない!
ハンナとの約束に、来年もこの世界で活動し、まだ見ぬ〈ダン活〉をこの目で見て知るのだと、やる気と活力が湧き上がる。
「うおお! やったるぞ~!」
「ふふ、ゼフィルス君が元気になって良かった~」
「ああ。元気万倍だ! ありがとうハンナ。もう大丈夫だ」
向かい合い、ニコッと笑うハンナ。俺もニッと笑う。
もう今から来年の予約をしておこう。帰ったら、来年もまたここに来ることを発表して、今から約束しておくのが最善だ!
そう心に決める。
気が付けば、ハンナの小指と俺の小指が絡まっていた。大変!
「ゼフィルスさーん!」
「ゼフィルスさん、そんなところに居ましたのね!」
「ハンナも一緒じゃないの!」
「お?」
どうやらハンナと2人の一時も終わりらしい。
そういえば、さっきハンナも俺をみんなが探してるって言ってたもんな。
アイギス、リーナ、ラナがこっちへ向かって来ているのを見て俺も手を振り返す。
もう片方の手も、いつの間にか指切りされていたんだ。ちょっと寂しいが、気持ちを切り替える。
「悪いな。ちょっと相談に乗ってもらってたんだ。おかげで良い案が思い浮かんだぜ!」
「また何かする気なの!? 今度はどんな肝試しよ!」
「肝試しじゃないぞ!? げふんげふん、このあとに行なうのは夜の……なんだっけ? 夜のハント?」
「覚えてないじゃないの!」
「やっぱりそれは今年もやるんですのね?」
「もちろんだ! さあ、今年の海の締めに〈幽霊船〉攻略に向かうぞ! ちゃーんと〈幽霊船長の隠し財宝の地図〉も用意してあるんだ!」
「それは楽しみですね。今年は空中から殲滅できます。ゼニスもやる気満々でしたから」
話はこのあとやる最後のイベントに移る。
ハンナとの約束は、これが終わってから行動するぜ。まずはこのイベントを成功させよう!
「ハンナ、いこうぜ!」
「うん!」
さあやろう。夜の肝試しも大成功させて、来年も来たいとみんなに思ってもらうんだ!
夕日が沈み、あかね色から黄昏れへと向かう空の姿を感じながら、俺たちはみんなの下へ戻った。




