#1948 山頂で伝説の聖剣を引っこ抜く勇者伝説爆誕!
「ささ、ゼフィルスさん、こっちですわ!」
「おう、今行くー!」
海へ向かえばすでに先に食べ終わったメンバーが同じく〈水上バイク〉で遊んでる。
あれは5人乗り用だな。乗ってるのはルル、ソア、ミツル、エリサ、フィナのロリショタ軍だと!? やっべ楽しそうじゃん!? スクショ、スクショを撮らなければ――。
そう思って腰のポーチ型〈空間収納鞄〉に手を入れようとしたところで、なにやらザッバーンと近くから水しぶきが上がっていた光景が視界の端に入った。
「あれ? リーナ、今シェリアを」
「おほほほほほほ。気のせいですわ。ちょっと私とゼフィルスさんの逢瀬に割って入ろうとした方が――いえ、何でもありません」
いったいなにがあったというのだろう?
いつもならスッと俺の背後に立とうとするシェリアが、なぜか浮き輪に座った姿のまま沖の方にどんぶらこどんぶらことそこそこのスピードで流されていってたんだ。
まあ、ここは完全に壁に囲まれた入り江なので沖に進んでも壁にぶつかって沖にいく心配はないけどな。きっとルルたちに拾われることだろう。
なんとなくスクショを取り出すのはやめた方が良い気がして伸ばした手は引っ込めたんだ。『直感』さんも「それでいい」と囁いてるしな。
「待たせたなリーナ。早速楽しもう!」
「はい!」
――タンデム。
それは2人乗り。
〈水上バイク〉の前に俺が座れば、その後ろからリーナが抱きつく形で身を寄せ、大変幸せな感触が背中を襲った。なんて素晴らしいタンデム。
「さあ、参りましょう!」
「おっしゃ! リーナ、しっかり抱きしめて――じゃなくて掴まっていろよ! いくぜ!」
エンジン(?)を唸らせて沖へと向かう。
ちょっと欲がこんにちはしてしまったが、きっとごまかせているだろう。リーナがさらにギュッと抱きついてきているのは、素晴らしいタンデムの影響なのだ!
どうしよう、昨年や一昨年は女子を前に乗せて、半ば手の中で囲う形で運転していた。あれもあれで良かったが、背中に抱きつかれる方がよくない? と思ってしまうのはなぜだろう。とっても不思議です。
「リーナ、大丈夫か! 腕が痺れたりとかしてないか?」
「そんなやわじゃありませんわ。それにゼフィルスさんの背中にくっつくと、とても安定しますの!」
「! それならもっとくっついていいぜ! むしろくっつかないとだな!」
「はい! ぎゅ~~~~~!!」
俺、今背中が絶賛幸せ中です。
なぜか〈水上バイク〉によるスリルとかスピード感とか爽快感とか解放感が全部背中に持ってかれている感覚!
結局終わった時には〈水上バイク〉で海面を走ったことなんか、ほとんど覚えてなかったんだぜ。ヤバいな。背中が幸せとリーナが凄いしか覚えてないんだけど、大丈夫かな? 頭の中がリーナでいっぱいです!
そして、砂浜に戻ると、そこに1人待っている人が。
「アイギスさん、お待たせいたしましたわ。次はアイギスさんの出番ですわよ」
「ありがとうございますリーナさん。では――ゼフィルスさん、次は私と、その、普通に海で遊びませんか?」
アイギスだった。
どうやら順番待ちをしていた様子。俺を待っていたようだ。
なぜかリーナが心得ているとばかりに俺を引き渡したのが、ちょっとだけ気になったんだぜ。まあいいんだけどさ!
「いいぞ! それじゃあ遊ぼうかアイギス! なにかいるか? 浮き輪とか」
「浮き輪はゼフィルスさんがいいです」
「え?」
「あ、いえその、浮き輪はこちらで用意したので大丈夫です」
「そうか?」
なぜか顔を真っ赤にしてテンパっているアイギス。なんだろう、とても可愛く映った。一緒に手を繋いで海へと入る。
「あ~、そういえばなんだかんだ、午前中はこうして海に入ってなかった気がするぜ」
「ですね。見ていましたけど、ゼフィルスさん、ずっとウォータースライダーの3番で誰かと一緒に滑ってましたもんね」
ぷかぷか仰向けで浮いてみる。すると、海の偉大さに身を任せているようで、だんだんと気が緩みそうになっていくんだよ。お風呂かな?
思い起こせば午前中はずっと浮き輪の上で、こうして海にしっかり入ってなかったことに思い至る。
「ゼフィルスさん」
「んあ? アイギス?」
「どうですか、リラックスできてますか?」
浮いてたら後ろから柔らかな感触がして顔を上げれば、まるで聖母のような微笑みのアイギスが膝枕をしてくれていた。
海で膝枕? と思うかもしれないが、アイギスはいつの間にか貝殻型の浮き輪フロートに乗っていて、俺の頭だけ太ももの上に乗せてくれていたのだ。
頭は幸せ。身体は脱力してリラックス状態。
どうしよう、これ、結構クセになる。
「ゼフィルスさんが海の時は張り切って準備をすることは知っています。ですが、人数もかなり増えましたし、前よりもとても大変だと思います。だから、少しくらい癒されていってくださいね」
「アイギス……」
や、優しい。アイギスがとても優しい! この優しさが、とても心に染みたんだ。
ここはお言葉に甘えてゆっくりしよう。ふう。
視界の端で同じく海でレグラムといちゃいちゃしているオリヒメさんが両の親指を立ててダブルグーをしていたのには、気が付かないようにしないとな。ふう。
しばらくのんびりしながらたわいない話をしてから俺たちは砂浜に戻った。
俺にはアイギス優しいと頭が幸せの感触が強く残ったんだ。
「ありがとなアイギス。おかげで疲れとか色々吹っ飛んだ気がするよ」
「そう言ってもらえてよかったです。もしゼフィルスさんさえよろしければ、定期的に癒して差し上げましょうか? 膝くらい、いつでもお貸ししますよ」
「え? いいのか?」
「もちろんです」
アイギスの申し出に頭がクラッと来た気がした。
なんという魅力的なご提案。俺には「頼む」としか言えなかったんだ。
「はい!」と満面の笑顔のアイギスを見るかぎりイヤイヤじゃないと思うし、またアイギスに時間ができたら頼もう。早速頼みたくなったのを我慢して、俺はキリッとした顔でそう頼んだ。
だが、そんな俺のキリッとした顔は長くは続かなかった。
だってアイギスと別れて砂浜に戻ったら、なんか砂の巨大な山ができていたんだもん。
「なんだこりゃ?」
「あ、ゼフィルスさ~ん」
「え? サトル?」
多分高さ10メートルはあるんじゃないかなという砂山。
そのてっぺんに、首から下が埋まった状態のサトルが首だけ生やしていたんだ。
いったいどういう状況なんだろう?
「あ、ゼフィルス君、こっちこっち~」
「レンカ先輩?」
砂山の裏側から話しかけられたのでそっちへ向かってみると、ビーチチェアとビーチパラソルがセッティングされ、そこで優雅にくつろぐ生産職の皆様がいらっしゃった。
「ゼフィルスさん、いらっしゃい」
「大歓迎ですよ」
「ソフィ先輩にタネテちゃんも、どうしたんだ? こんな錚々たるメンバーで――はっ、まさかサトル山を肴にしてドリンクを!?」
「そんなわけあるかい!」
「サトル山は言い得て妙」
マリー先輩とメイリー先輩がツッコんでくる。即座に俺のボケに反応するツッコミ力。さすがはマリー先輩だ。
「それで、なんでサトル山なんかできてるんだ?」
「午後になって何かまた作ろうかって話が出たんやけど、とりあえず砂で大きな山を作ってみたくて遊びで創ってしまったんや」
「ちなみにサトルは、なんか知らん間にあそこに埋もれてたで」
「サトルにいったいなにが……!」
アルルも話に加わったが、サトル山がなぜできたのか誰にも分からなかったんだ。いや、海に来たら砂を掘ったり砂山を創りたいという気持ちは分かるな。
だからといって10メートル級はさすがは生産職。規模が大きい。あとインテリアかアートか、サトルがあそこに埋まっているのもなんとも芸術的(?)。
ちなみになぜサトルをあのままにしているのか聞いてみたところ。
「生産職の間で意見が割れてんねん」
「普通に救出するのか、噴火のように爆弾で下からいっきに――」
「いえ、それは最初に却下されたでしょレンカ?」
レンカ先輩がサトル危機一髪を計画していてビビる。
ソフィ先輩によれば、それは早々に却下された案だそうで安心。
端的に言えば、普通に救出するのは芸がないから、もうちょっと芸の字が入った芸術性を求めたい、みたいな感じだった。生産職は芸術性を重んじる。なるほど、深いな。爆発は芸術か。
「いや、普通に助けてくれ~」
サトルの声が聞こえる。と、ここでついにマリー先輩が名案を思いついた。
「せや! 兄さんが聖剣を引っこ抜くみたいに抜けばええんや!」
「! サトル聖剣伝説! なお、サトルが聖剣な! 良いかも!」
「確かに! 勇者が助けるシチュも良い感じに嵌まるかも!」
マリー先輩の案にメイリー先輩やレンカ先輩を始めみんながいいねしたので、俺がサトルを引っこ抜くことになぜか決まった。不思議過ぎる。
「よっし、サトル、今救出に向かうからな!」
「お、おねしゃーっす!」
こうして勇者は苦労の末に山頂へたどり着き、そこに刺さっていた1本の聖剣を引っこ抜いたのだった。
これは後の世で、勇者の聖剣伝説として未来永劫語り継がれる――ことは特にならず、普通にその場で盛り上がって終わった。
ちなみにサトルは、〈空間収納鞄〉からこんもり砂を出していたら、勢いよく出し過ぎて埋まってしまったらしい。自業自得かよ!




