空色の魔女
山中に綺麗に整った平原があった、
その平原の近くに山森があり、
その森の中に白い小さなピラミッドがあった、
正確にはテントがそこに設営されており、
その傍らの丸テーブルの上に食べかけのチーズやハム、
飲みかけのワインや新品のワインボトルが乱雑におかれていた、
まな板と包丁、食器は小さな沢に籠ごと放り込まれて流れに任せリズムを刻んでいた、
椅子は倒れており、リスたちの遊び場になっていた、
丸テーブルのラジオは優雅な時をひたすら流し続けた、
しかし、そんな優雅な一時を打ち壊すようなけたたましいベルの音がリズムを一定にしながら鳴り響いた、
リスたちがビックリして逃げ出した直後、
テントが揺れ、入口から細い華奢な腕が男顔負けのゴツイ手袋のまま丸テーブルを探る、
ワインボトルを何本か落とし、漸く受話器を見つけ、
そのままテントに引っ張りこんだ、
「もしもし………」
『空賊が出た今すぐ飛んで欲しい』
「やれやれ………いきなりか」
『貨客船が襲われてる、賞金を三割増でどうだ』
「五割増だね」
最初はいかにも眠そうな感じだったが、
次第に目つきが鋭くなり交渉成立となった、
交渉成立となればまずは仕度をしなければならない、
操縦席に登り、燃料タンクから燃料をエンジンの方へ回すポンプを動かす、
小型の空気入れの容量でポンプを動かしたら機体の前に移動、
背の高いこの機体では移動に少々めんどくささがある、
木製の二枚のプロペラをひたすら勢いをつけてぐるぐると回す、
この作業はエンジンを回して燃料をエンジンに入れるのと、その時にエンジンを始動させる意味がある、
燃料がエンジンの方へ行き届くとプロペラは勢い良く回り出す、
流石にかかったばかりのエンジンを全力運転させて発進させるとエンジンが不調を起こして墜落しかねないのでしばらく適度な運転でエンジンを温めておく、
その間に飛行服を着込んだり、
機銃の点検をしたりといろいろやって、
漸く発進準備が整うのである、
車止めを車輪から外し、操縦席に登って潜り込む、
ゴーグルは寝てるときに下敷きになってたので太陽にすかして異常が無いか確認してからかけた、もし割れてたら最悪だったに違いない、
レバーを倒してエンジンをうならせる、
機体の周りの土埃が一段と舞い上がる、
草刈り機で手入れの行き届いた平原を目の前に、
背の高さから前が見えないので操縦席に立ちながら操縦し、
平原のを全て見渡せる地点まで機体を滑らせていく、
何度もいうが背の高い機体なためか、少し曲がるだけでも倒れそうな感覚がある、
実際機体が傾くのは確かなため、最初の頃は慣れなかった、
しかし今では何事もなかったかのように平然と曲がったりしている、
一旦エンジンの回転数を落とし落ち着かせる、
再び操縦席に潜り込んで深呼吸をした後、レバーを目一杯倒した、
エンジンの唸りが最高潮に達すると同時に機体が前に進み、尾翼が持ち上がる、
二つの前輪が地面を撫でた後、座席に押さえつけられる重力の中でもわかる通りはっきりと、
地面を撫でてた振動が消える、
そのまま操縦桿を手前に引いて、青い空に舞い上がる、
青い機体が空に溶け込んでいく、
『止まれ!!!止まらんと沈めるぞ!!!』
髑髏が描かれた大型の水上機が中型の貨客船に横付けした、
その水上機の腹には沢山の黒い塊が見え隠れする、
一般的な商船は軍艦のような水密区画ではないため、例え爆弾一発でも致命傷になりかねないのだ、
もっとも、財宝目当ての空賊にとってみれば財宝の分の重量を空けるために爆弾のほとんどが偽物だったりする、
「ボス、人質誰にしましょう」
「若い女でいいだろ、空軍からは逃げれるさ」
「やはり魔女ですか………」
「あぁ………」
そう言うとその場にいた学生であろうか、
年端もいかない若い女の子に銃を突きつけた、
「全員動くんじゃねぇぞ!!!動いたらコイツの頭が吹っ飛ぶからな!!!」
「金目のものを出せ!!!全部だ!!!」
白い大きな袋につめられた数々の品々や金貨を水上機の中に運んでいく、
二人がかりでやっと一袋という大きな袋である、
これを目の前に差し出された分だけどんどん詰め込んでいく、
「ボス、そろそろ重量がヤバイですよ………」
「その為に毎回中型や小型船舶を狙ってるんだろうが」
「これで最後です」
「ほらみろ」
そう言いながら部下と銃を突きつけた少女も一緒に水上機に乗り込んだ、
一見三発に見える機体だが六発もあるエンジンを起動させ機体を空へと浮かせた、
おそらく100kmも出ていないであろうその巨大な水上機は、
前の大戦の時の爆撃機を無理やり改造した物だった、
エンジンはくたびれ、
翼はボロボロ、
機体は軋み、
水上機のフロートの空気抵抗がさらに速度の低下に拍車を掛ける、
これだけ低速になりさらにボロボロになればもはやカモがネギをしょってきたも同然である、
その為に人質を取り、機銃座の搭乗員が周りを警戒する、
七挺もある機銃が上空を睨みつけていた、
少しづつ高度を稼いでいく、もはやこれしか方法は無いのだ、
重量もギリギリでエンジンがいつ停止してもおかしくなく、
さらに機体の使用年数度外視の超過使用、
いきなり高度を上げればこの機体が悲鳴を上げるのが嫌でもわかるのだ、
「あの特徴的な青い機体を見逃すんじゃねぇぞ!!!」
淡い青いの塗装がされている魔女の機体は、
空の色によくとけ込むのだ、
ボロヒコーキが突然煙を吹いた、
左のエンジンナセルのプロペラの回転が悪くなる、
「ラジエーターのホースの予備あったっけ!?」
「何言ってるんだ有るわけねぇだろ!?早く何とかするぞ!!!」
「まずは布とかでも巻いて応急処置だ」
エンジンに注目が集まる中、
高度を落としながら飛行する水上機の上空に、
一瞬だけキラッと何かが光った、
「見つけた、」
そう言うと彼女は操縦桿を一気に倒した、
エンジンを限界まで回転させてさらに高度差の位置エネルギーを利用して最高速度の180kmを超える速度で雲を一つ挟んで突っ込んでいく、
相手から見れば雲から突然出てきたようなものである、
相手に見つかっていなければの話ではあったが、
幸いにも直前にラジエーターのホースが切れた事で見つからなかったのだ、
「魔女だ!!!」
降下とエンジンの音が空一杯に響いていた、
機銃座が一気に撃ってくる、
まだ雲の中なので狙いは雑だが、
それでもその火線の多さに恐れを感じてしまう時もある、
雲を抜けた、その巨大な水上機は銃弾の雨を浴びせてくる、
引き金を引いて機体上部に剥き出しで設置された機銃を撃った、
うまい具合に右側のエンジンに弾が当たる、
青い機体が水上機の下へ抜けた後、
右側のエンジンも煙を吹いた、
「右側の奴らがやられました!!!」
「手が空いてるやつは右側のエンジンを復活させて来い!!!」
「前部エンジンの一基が温度異常上昇!!!」
「左エンジン修理完了!!!」
「撃て撃て!!!撃ちまくれ!!!近付かせるな!!!」
「後部上方機銃座に人質を連れていけ!!!」
左側のエンジンの煙が止まり高度の降下はなんとか避けられたものの依然として危険な状態には変わりはなく、
前部エンジンが既に限界を迎えつつあった、
「来い!!!魔女!!!こっちには人質が居るんだぞ!!!」
後部上方機銃座からの必死の叫びだった、
銃を突きつけられた少女はひたすら震えており、
もはやこの機体に絶望しかないことを物語っていた、
「あいつ撃ちやがった!?」
青い機体からカチカチと光るのが見えた、
次の瞬間、前部のエンジンルームが穴だらけになった、
止まりかけのプロペラはついにその回転を落とした、
「エンジンルームの奴らと操縦士がやられました!!!」
「お前は人質を見てろ!!!操縦は俺がやる!!!燃料タンク担当をエンジンルームにまわせ!!!」
「また来ます!!!」
胴体に無数の穴があく、
「燃料タンクが穴だらけだ!!!コルクをもってこい!!!」
「もう高度が維持できません!!!」
「爆弾倉の扉早く開けろ!!!偽物の爆弾を全部捨てろ!!!」
黒い塊が何発も下の真っ青な海に向かって落ちていく、
それでも気休めにしかならない、
機体の高度はまだまだ下がり続けた、
それを見た魔女は直感した、
もう後ひと押しで行けると、
「あとは人質をどうするかだ」
そう言いながら再び操縦桿を倒して、復活しかかっていた右側のエンジンに銃撃を加えた、
何やら破裂音が聞こえた、おそらく漏れた燃料に銃撃時の火花が引火したのだろうか、
右側のエンジンが出火していた、
逃げ出した乗員が胴体に入り、多分前部のエンジンの復旧作業に向かったと予想する、
水上機の翼は度重なる銃撃でボロボロになっていた、
間もなく陸が見えた、地図を確認する、
あの港の近くには軍の水上機基地があるとわかると空賊の水上機の降下速度と基地までの距離を頭の中で暗算する、
「このまま基地にギリギリ墜落か、進路を変えたら厄介だな………」
そう言いながら水上機の周囲を周回する、
こちらの機体も前の大戦の物であるため休ませるにはちょうど良かった、
「ボス!!!用心棒です!!!」
後方から近付く何かの気配を感じた、とっさに操縦桿を倒して急旋回する、が、間に合わない、
相手の火線に捕捉された、
奇跡的に避けられたものの、
エンジンが悲鳴をあげた、
「アッ!?止まるな!!!」
必死にポンプを動かして燃料を送り込む、
空賊の水上機に高度を合わせてた為海面がすぐそこに迫ってくる、
後ろからは爆音が近づいてくる、
とっさの判断で操縦席を飛び出した、
今まで使っていた機体が穴だらけになりながら海面に墜落していった、
背負っているパラシュートを開く、
しかし高度が足りない、
減速はある程度できたがそれでも結構な勢いで海面へ叩きつけられた、
「………あの機体」
思い当たるふしがあったのか、
空賊の巨大な水上機の周りを周回する赤い水上機を虚ろになりつつある意識の中で、
目に焼き付けた、




