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「今日ミュージックスクールやってないんだとさ」
学校に着いてすぐアニキにそんなことを言われた。
「まじ?」
「すまん。親父が伝え忘れてたらしい」
「そうか・・・・・・」
「大丈夫か?」
「ああ、うん。今日は自主練することにする」
「そうしてくれ。すまんな」
そうなると仕方ない。
音楽室からアンプ内蔵スピーカー拝借して、屋上で練習する。多少の音は出るがこの程度ならバレはしないだろう・・・・・・けども、余計な観客が気になる。
「・・・・・・」
視線を気にしないように黙々とギターを弾く。
「いや、まさか君が楽器を弾けたのはな」
竜蔵は感心したように呟き、
「くっそ、クールぶってて、やるときにはやるってか!」
一誠には嫉妬のような視線を向けられて、
「いや、集中できないだろうが!」
ちくしょう。こんなことなら自宅で練習しておけばよかった。気分転換に場所を変えてみようと思ったらこれだ。
「だって珍しい光景じゃん」
「その通りだ。あれだけやる気のなかった君がこうして何かに取り組んでいるとは」
「それはそうだけどさ」
思い返してみれば、俺達が屋上に集まるようになったのは手を怪我してからだ。俺がギターを弾けることなんて知るはずもないか。
「つーか、いいよな。ギター弾けるの。なんかモテそう」
一誠が羨ましそうに言う。
「・・・・・・これくらいなら練習すればできるようになる」
「あー、そういうのはできるやつのセリフなんだよ」
「そうか?」
言いながら練習を続けると、竜蔵が「しかし」と呟いた。
「歌姫の曲なのだな。その舞台でやるというのは」
「あ、ああ」
そう言えば二人はセイレーンのファンだった。
「興味がないように見えたから意外だった」
「それは、そうだな」
まさか歌う人間が歌姫本人だからとは口が裂けても言えない。
「ま、まあ、あれだ。流行りの曲だからな」
「流行り? まあデビュー曲であるが故、人気な曲ではあるが・・・・・・」
「そうそう。人気の曲って言いたかったんだ」
「そうか。だが、私としては嬉しい限りだ。相模もようやく歌姫の良さが分かってきたということだからな。なあ、白井」
「そうだな! 今度アルバム貸そうか?」
「ああ、いや、遠慮しておく」
全部持っているし。
「でもさ、なんで急に文化祭ライブに参加しようと思ったんだよ」
「私もそれは気になっていた」
「それは・・・・・・」
なんと説明すればいいのか。
「数日前に話しただろ。ほら、アリス――転入生と喧嘩したとかなんとか」
「ああ、それは覚えている」
「それが文化祭ライブと何の関係があるんだよ」
「喧嘩の発端は俺が拗ねてたことだからさ、それに出てアイツに俺の音楽を聴かせる。俺は立ち上がれたんだって。そうするために文化祭の前夜祭ライブが仲直りするにはちょうどいい舞台だと思ったんだよ」
俺の答えに二人は顔を見合わせて、
「めんどくさいな、相模」
「めんどくせえな、俊太郎」
揃ってそんなことを言われた。
「いや、なんでだよ」
「だってさ。たかが俺達みたいなガキの喧嘩だぜ? そこまで重く考える必要のあることなのか?」
「もちろん人間関係は各々違うものだが、私も少し重いと思うぞ」
「うるせえ、俺達はこれでいいんだよ」
一緒の舞台に立ってこそ伝えられることもあるのだ。
「まあ、お前が変なところで考えすぎるのなんて今に始まったことじゃないけどな」
「たしかに。白井の言う通りか」
「あ?」
納得したように頷く二人だが、まるで俺が重い男と言われているようだ。
「冗談だって冗談。何にしてもお前が何か真面目に取り組んでいる姿なんて初めて見たし」
「ああ、良い傾向だと思うぞ」
「そりゃどうも」
俺達が集まるのはここでサボるためだったわけだし、真面目な姿なんて見せられるわけもないのだが。
「そうだよな、俺達ってここでしか集まったことないんだよな」
「たまに教室遊びに行ってやるじゃん」
「なんならいつでも顔を出すが?」
「いや、別に来なくていいけど。そういうことじゃなくて、休みの日とかさ、外で集まったこととかないんだよなってふと思っただけだ」
「言われてみればそうだな」
「そういう機会もなかったからな。それがどうした?」
「いや、別になんでも」
ライブが終わればコイツらとどこか遊びに行くのもいいかもしれない。
そんなことを思いながら練習に戻る。
絃を弾き、音を奏でる。
また翌日。
俺は放課後に第二音楽室へ顔を出した。
俺自身の練習のためミュージックスールに向かわねばならない。だから大した時間は取れないのだが、それでも後輩達の様子は見ておきたかった。
「よお」
ちょうどキリが良さそうなタイミングで声を掛ける。
「あ、顧問代理!」
「こんにちはー」
山下姉妹は笑顔で手を振ってくれて、
「お前ら二人か。亮セン――顧問はどうした?」
「さっきまでいたんですけど、何か忘れ物しちゃったらしくて職員室の方に」
「そうだったのか」
「顧問代理はどうしたんですかー?」
「ああ、お前達の練習の成果を見に来たんだが・・・・・・順調そうじゃないか」
「はい! なんとか間に合いそうです!」
「間に合いそうですー」
「そりゃ何よりだ」
実際聴いていた限り、これといって問題はなさそうだった。
学校の文化祭、しかも前夜祭だけの出演ならいい感じにこなせることだろう。
「顧問代理こそどうなんですか?」
「どうなんですかー」
「俺か」
俺は、どうなんだろう。
弾けない、ということはない。弾けてはいる。けれども足りない。
「そうだな。全く足りてないな」
「足りない?」
「ああ、練習も、技術も、何も足りてない」
「それって大丈夫なんです?」
「まあ、なんとかするさ」
言いながら荷物を下ろして、音楽室に置いたままの左利き用ギターを手に取った。今は自分のギターがあるけども、コイツにだって陰ながら世話になったもんだ。今度ちゃんとメンテナンスしてやらないと。
そんなことを思いながらアンプに繋げて、そして絃を弾く。
演奏するのは山下姉妹の演奏していた曲だ。
昔、散々練習した曲。それも有名な曲だったからコードは今でも覚えている。
(とはいえ・・・・・・)
久々に演奏するものはそうそう上手く弾けるものではないもので、昔の自分なら間違いなく不合格、今の自分なら及第点と言ったところだ。
「――まあ、こんなもんか」
「す、すごーい!」
「すごいですー」
そんな及第点の演奏に二人は本気で拍手をくれる。流石に照れ臭い。
「ま、本番はもっと格好よく決めてやるさ」
「ほんとですかっ」
「ああ」
自分でハードルを上げながら、でも、これでいいと思いつつ頷く。
「いつまでも格好悪い先輩の姿は見せられねえからな」
「顧問代理、そこまで格好悪い姿見せてないと思いますけど・・・・・・」
「私もそうお思いますー」
「十分見せたよ」
ぼけーっと座って、ただ二人の音楽を聴いていた日々を思い出す。
何の目的もなく、何の活力もなく、ただそこにいただけの時間。思い返しても格好悪い。
「顧問代理」
「あん?」
「応援してますよ!」
「応援してますー」
「ああ、ありがとよ」
荷物を背負い直してから「お前達も頑張れ」と言葉を残して、俺はミュージックスクールへと向かう。
いい刺激になった。
俺はまたギターを握る。
絃を弾いて、音を奏でる。
*
そして。
ついに本番の日が訪れた。
朝――まだ日も昇らない時間の町を歩く。
涼音。
アニキ。
大先生。
一誠。
竜蔵。
瞳。
雫。
気が付けば俺を支えてくれた人達と過ごした一週間だった。
一人になったわけじゃないし、そんなつもりもないけど、知らぬ間にこれだけの人達が俺の支えになっていたんだと思うと心も温かくなるものだ。今日の演奏はその恩返しにもなるのだろうか。それはわからないけども。
「頑張らないとな」
それが今の俺にできることだ。
「おい」
「ああ?」
声を掛けられて振り向く。
「よお、シュンタロー」
「アリス」
にへへと笑う姿。
「こんな時間に徘徊してるなんてやっぱり不良だな」
「人のこと言えないだろ。お前こそこんな時間に何やってんだよ」
「あたしは早く目が覚めちゃったから、ちょっと散歩にきただけだ」
「俺も同じだよ」
文化祭の前夜祭があるため今日は授業がない。俺達はリハーサルもしないから本番だけだ。二度寝しても時間的にはまったく問題はなかったけど、どうも緊張しているのか眠れなくて外に出てきたのだ。
「そか。・・・・・・なあ、せっかくだし一緒に歩こうぜ」
「ああ」
誘われて頷いた。
俺達はとくに何かを話すことなく進んでいくだけ。
歩幅を彼女に合わせて歩く。
普段よりもゆっくり歩く形となって、それが少しおかしな気分になる。
いつもは置いてきぼりなのに、俺は取り残されているのに。
・・・・・・なんてな。
それは当然のことだ。
俺の方が背は高いし、その分だけ足も長いのだから。
「なんだよ、あたしと歩けてそんなに嬉しいか?」
「あ? なんでだよ」
「だって、なんか笑ってるし」
「ああ、それはちょっとおかしなこと考えていただけだよ」
「おかしなこと?」
「お前は俺よりもずっと歩幅が広くてさ、俺だけじゃなくて、もっといろんな人を追い越していく奴だって思っていた。だから、こうやって歩幅を合わせて歩くと不思議な気持ちになったっていうかさ」
「当たり前だろ。自分の背が低いことくらい自覚してるし」
そう言ってアリスは少しむくれ顔を作って、
「それにあたしは、お前が言う意味でも歩幅が広いなんて思ったことはないし」
「なんでだよ」
「だってさ。そこには運が良かったってのもあるし、いろんな人に応援してもらえたってのもあるし、まあなんだ。そういう色んな要因があって走ってきたし、今も走ってるんだよ。あたしは」
「走ってる、か」
ずっと立ち止まって、ようやく歩き出した俺には耳が痛いことだ。走るなんて考えることもできない。
「すぐに追いつくよ。シュンタローなら」
「それは、どうかな」
少なくともセイレーンに追いつくなんて不可能なことだ。
「追いつく追いつく! あっという間に伝説のギタリストだ!」
無理だよそんなこと。
俺にはそんな力なかったんだよ。
もう夢は見れないんだよ。
そう言うのは簡単だ。・・・・・・でも、今日ここで弱音を吐いちゃいけない。
だから、俺は不敵に笑って、
「それは今日の演奏が証明するさ」
これでも頑張ってきたつもりだ。
それなり、あくまでもそれなりだが、そこそこの出来にはなったんじゃないかと思う。だが、俺の中ではそこまでのレベルで止まっているのも事実だ。
「・・・・・・ま」
セイレーンの前だ。俺のギターは観客に届くとは思えない。
でも、それでいい。俺を支えてきてくれた人達とアリスにさえ届いてくれれば。
俺達はしばらく歩いて、近所にある高台の公園で一休みすることにした。
適当なベンチに並んで腰を下ろして、
「あー、よく歩いた! 気持ちよく二度寝できそう!」
「寝るのかよ」
「当たり前だろ。授業もない、リハも不参加、となれば本番まで二度寝する」
「昼間は生徒向けに出店もやるみたいだぜ。出店側のリハーサルも兼ねて」
「あー。そういうの興味ないから。シュンタローがどうしても一緒にってことなら、話は別だけど」
「俺は最後の練習に使う」
遊んでいる余裕なんてない。
「ちぇっ、オーバーワークは指壊すぞ」
「分かってるよ、そんなん」
とはいっても肉刺が出来たり潰れたりとすでに悲惨なことになっているが、これくらいは覚悟していたことだ。とりあえず今日だけ演奏できればいい。
「あー、しっかし、いよいよ本番か」
「そうだな」
「シュンタローは緊張してんの」
「そりゃまあ、それなりにはしてる」
「珍しいな、お前が緊張するの。昔ならどんどん挑んでいったのに」
「こちとらブランクがあるんだよ」
二年も舞台で演奏していないし、使うのは左利きのギターだ。
「お前こそ・・・・・・って、今更緊張なんてしないか」
「そんなことない」
アリスは困ったように笑って、
「今でも、今までも、ずっと緊張してるよ」
「そうなんか?」
「気質の問題だよな。強がってはいても、変わらないというか」
「・・・・・・そうかい」
昔のアリスを思い出す。
引っ込み思案で、人見知りで、臆病で、俺達の後ろに隠れるような姿を。
「口だけは悪くなったんだな」
「お前のせいだよ」
そんなことを言われる。
「は? なんで」
「あたしの口調、お前の真似から始まったもんだし」
「あ?」
「覚えてねえの?」
「いや・・・・・・」
そういえばそんなやり取りをしたことがあるような。周りからなめられないように大きな態度でいろみたいな話をしたような、しなかったような。
「それにしても、別に今も続けなくていいだろ。もっと女らしい喋り方とかさ」
「いいんだよ。染みついちゃったし」
本当にいいのだろうか。
「お、日が昇ってきた」
言われて顔を向けようとして、アリスに視線が止まる。
「夕焼けも好きだけど、朝焼けもいいよな」
「ああ・・・・・・」
風が吹く。アリスの金色の髪が揺らされて、朝日が反射してキラキラと輝いていた。
奇麗だ。
心からそう思った。
「お前、話聞いてる?」
「え、ああ」
「どうしたんだよ。じっと見てきてさ」
怪訝そうな視線を向けられて、俺は我に返る。
「あ、ああ、すまん。・・・・・・奇麗なもんだなと思って」
「奇麗?」
「ああ、その髪」
そこまで言って、なにやら恥ずかしいことを言った気がして口を閉じる。
「そ、そうかな」
アリスは少し嬉しそうに「にへへ」と笑って、
「あたしさ、あんまり地毛って好きじゃなかったんだけど。良くも悪くも目立つし」
「まあ、そうだな」
「でもさ、シュンタローに褒められてから悪くないって思うようになったんだよ」
「・・・・・・そんなことあったか?」
思い出そうとする。が、そんな記憶は出てこない。
「悪い・・・・・・覚えてないわ」
「そっか」
アリスは特に気にした様子もなく、
「ま、お前にとっては何気ない言葉だったろうしな」
「どういうことだよ」
「そのままの意味。初めて会ったときに『金の髪格好いいな』って言われただけだもん」
「はあ」
本当に何気ないものだった。
「そんなことで褒められたことになるか?」
「なるよ。少なくともあの時の私にとっては最高に嬉しかった」
「そうかい」
まあ本人が嬉しかったのならそれでいいだろう。
「その髪さ」
「なに?」
「やっぱ格好いいな。それに奇麗だ」
改めて言う事じゃないかもしれないけど、何となく伝えたかった。
「ありがと」
少し気恥ずかしくなる。
それから俺達はこれといって話すことなく朝日を浴びて、
「さてと、そろそろ帰るか」
ベンチから立ち上がる。
「アリスはどうする? もう少しここにいるか?」
「いや、あたしも帰るよ」
言いながらアリスもベンチから立ち上がると、
「シュンタロー」
「なんだ?」
「今日の舞台、期待してる」
「プレッシャー掛けんなよ」
言われなくても分かっているつもりだ。
「ま、やれるだけはやるさ」
「ああ」
「じゃ、帰ろうぜ。悪あがきに練習しときたいし」
そう言って、俺達は二人並んで帰り道を歩く。
まだ朝早い。町は静かだ。
俺と、アリスだけがこの町を歩いている、そんな気さえしてくる。
「・・・・・・」
「どうかした?」
「ああ、いや。なんでもない」
今更になって二人でいることを意識してしまう。さっきまでも二人だったというのに。
涼音の言葉が脳裏に過る。
俺はアリスを特別に想っている。
「いやいやいや」
落ち着けよ。俺達はただの幼馴染なんだ。
たしかに俺はアリスのことを特別だと思っているけど、それはパートナーだったことがあるからなわけで。ずっと一緒に演奏してきたからなわけで。
「まじでどうしたの」
アリスが心配そうな顔で俺のことを見つめてくる。
それだけでドキリとする。彼女の瞳に吸い込まれそうになる。
「・・・・・・なんでもないって」
どうしたっていうんだ。何を意識することがあるんだ。
「まあ、いいけど。今日の演奏に支障出すんじゃねえぞ」
「分かってる」
「あたし、お前のギター楽しみにしてるからな」
「ああ」
こんなことで心を乱している場合じゃない。
やがて別れ道に着く。ここでアリスと別れることになる。
「じゃ、練習無理すんなよ」
「ああ」
「ならいいけど。じゃあな、シュンタロー」
「また後で」
アリスが背中を向けて去っていく。
俺は見送ろうとして、ただ見送ろうと思っていたのに、気が付けばその腕を掴んでいた。
アリスの腕は細くて女の子なんだなと思ってしまう。
「え、なに? どうしたんだよ」
「あ、ああ、その、いや」
パッと手を放す。
咄嗟のことで俺自身何も考えていなかった。
「えーっと、なんだ」
「ははーん?」
アリスは悪戯な笑みを浮かべて、
「寂しくなっちゃったか?」
「そういうわけじゃ、ないんだけど」
「えー、じゃあどうしたんだよ」
「その、だな」
ただもう少し話がしたかっただけ。
でも、俺達にはライブが控えているから、多くの時間は使えないから、
「えっとさ」
だから別の時間に誘うだけだ。
それだけなのに、何故か言葉にするには勇気が必要だった。
「・・・・・・夜」
「あ?」
「前夜祭が終わったら、また話がしたい」
「別にいいけど?」
「そ、そうか」
安堵する。滅茶苦茶安堵して息を吐き出す。
「で、何の話? 打ち上げとか? じゃあ涼音と先生にも声かけないとな」
「あ、ちょ、その、いや違う」
「ん? じゃあ何の話?」
「それはその、自分でもよく分かってないんだが」
「なんだそりゃ」
「ただ、その、二人で話したいというか」
はっきりと声に出す。
たったこれだけの言葉なのにとんでもなく緊張している。
「二人?」
アリスは固まって、
「二人きり?」
そう訊き返してくる。
「えっと、嫌だったか?」
「そ、そんなことない! 全然いいんだけど! いきなり急に・・・・・・ほんとに二人?」
確認するような小さな声に頷く。
「なんで疑うんだよ」
「そうなんだけど、なんだけど、こういうのは想定してなかったというか」
アリスは頬を赤く染めて。
「シュンタロー!」
「な、なんだ?」
「あたしもさ、あたしもシュンタローに話したいことがあるんだ」
「そ、そうか」
「聞いてくれる?」
どこか不安そうな声だった。
俺は胸の高鳴りを感じながら「ああ」と頷く。
いやまて、落ち着け。
そうだ。これには深い意味なんてないのだ。
俺はただ話がしたかっただけ、アリスもきっとそれだけだ。だから変な期待なんて持っちゃいけない。・・・・・・いや、期待ってなんだ。なにを期待しているんだ。
「シュンタロー」
「あ?」
「にへへ、顔真っ赤じゃん」
「そんなこと・・・・・・」
ないとは言えない。顔は熱かった。
「お前だって赤いぞ」
「しょーがないじゃん」
隠そうともせずに笑う。
「何がしょうがないんだよ」
「何でもー」
ご機嫌な様子で言うと、
「約束したからな」
「ああ」
「あたし、夜も楽しみにしてるから」
「ああ」
「このあたしの時間を使うんだ。つまんない話はすんなよ?」
「いや、何様だよ」
「冗談冗談」
俺達は二人揃って笑う。
「楽しみにしてる。シュンタローとの時間」
「俺も、その、楽しみにしてるから」
「にへへ」
アリスに小指を差し出された。
「約束」
「指切りって、ガキじゃないんだから」
「いいじゃん」
「まあ、いいけどさ」
俺は溜息を零しつつ、小指を絡める。
夜が楽しみだ。
そのためにも、まずはライブを成功させないといけない。




