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第7話 王太子殿下、ご自分でお運びください

第7話 王太子殿下、ご自分でお運びください


公開審問会の日、王宮前の広場には夜明け前から人が集まっていた。北方の農民、女性職業学校の生徒、王都の商人、種麦を運ぶはずだった荷運び人が、白い息を吐きながら開門を待っている。石段の脇では、雪の間から顔を出した白い待雪草が、踏まれないよう木の柵で囲われていた。


アデライドは監査院が用意した控室で、証人用の灰色の服を着ていた。宝石も侯爵家の紋章もつけず、髪は黒い紐で一つに束ねている。机の上には朝食の黒パンと温めた山羊乳が置かれていたが、パンの端を一度ちぎっただけで、皿には細かな屑が残っていた。


「食べられないなら、持っていくか?」ガレスは窓辺に立ち、広場へ集まる人々を見ていた。軍服ではなく黒い礼装を着ていたが、右の長靴には昨日の雪道でついた泥が薄く残っている。


「審問中におなかが鳴ったら困ります」アデライドは黒パンを山羊乳へ浸した。柔らかくなった部分を口へ運んでも、舌へ残るのは酸味ばかりだった。


「なら、もう一口食べろ」


「子どもではありません」


「知っている。子どもなら、ハンナが食べさせる」


アデライドはもう一口だけ食べた。ガレスは満足したとも言わず、残ったパンを布で包んで彼女の鞄へ入れた。窓の外から鐘が三度聞こえ、控室の扉が開いた。


大広間から舞踏会用の卓と椅子は片づけられ、中央に証言台が設けられていた。正面には国王と司法官、監査院長が座り、その左右には地方代表と王国議会の議員が並んでいる。長時間の審問に備え、足元には湯を入れた陶器の壺が置かれ、書記官の机には干した林檎と水差しが用意されていた。


ジークハルトは濃紺の王太子正装を着ていた。胸元には勲章が並び、袖には例の銀の留め具がついている。侍従が直そうとしたらしく以前より傾きは小さくなっていたが、左右の高さはまだ合っていなかった。


マリアンヌは緑色のドレスに、女性職業学校の校章をつけていた。傍聴席にいる生徒たちは、彼女の姿を見て立ち上がりかけたが、監査官に制されて座り直した。中には、マリアンヌの演説を聞いて入学を決めた少女もおり、膝の上で新しい教本を抱えていた。


「審問を開始する」国王の声が広間へ響いた。長い療養を終えたばかりの顔には深い皺が増え、玉座の脇には薬湯の器が置かれていた。


最初に、監査院長オルセンが証拠を読み上げた。北方六村へ送る種麦購入費が、女性自立祝典へ転用されたこと。流用を隠すため、冬季予備費の支出名目が書き換えられたこと。さらに不足を補うため、北方軍の備蓄七割を接収する命令が出されたことが示された。


「祝典によって、女性職業学校への入学希望者は三倍になりました」マリアンヌは証言台へ立ち、傍聴席の生徒たちを振り返った。校章へ触れる指が震えていたが、声はよく通った。


「読み書きのできなかった女性たちが学び、仕事を得ようとしています。使ったお金は、決して私個人の贅沢のためではありません」


「祝典用に仕立てた十二着の衣装と、あなた専用の馬車についても、教育のためだったと?」オルセンは支出表を開いた。頁の端には、衣装店が提出した桃色の糸見本が留められていた。


「公の場へ立つ者には、相応の装いが必要です」


「北方の子どもが春にまく種よりも?」


マリアンヌは口を閉じた。傍聴席の生徒が膝の上の教本を握り、隣に座る母親へ何かをささやいた。広間の暖炉では薪が崩れ、焦げた樹皮の匂いが広がった。


「学校を作ったのは、マリアンヌ様です」一人の女子生徒が立ち上がった。十五歳ほどの少女で、制服の袖は姉から譲られたのか、手首より少し長かった。


「私は学校がなければ、父の店の帳簿を読むこともできませんでした。だから、学校まで罰としてなくさないでください。でも、北方の人たちの麦を使ったことまで、正しいとは言えません」


マリアンヌは少女を見た。いつもなら感謝を述べるところだったが、今は唇を開いたまま声が出なかった。少女は頭を下げ、自分の席へ戻った。


続いて、ジークハルトが証言台へ立った。彼は三年前の洪水で被災地へ入り、国は一人も見捨てないと宣言したことを語った。その言葉で支援物資が集まり、救われた者が大勢いたのは事実だった。


「私は国民のために働いてきた」ジークハルトは国王をまっすぐ見た。傍聴席の奥には、洪水のあと彼の演説を新聞で読んだ者たちも座っている。


「一度の予算判断だけで、これまでの功績をすべて否定するのですか。学校も北方も救おうとしたからこそ、備蓄の一時転用を決めたのです」


「一時転用ではありません」オルセンは、穀物商三社との売買契約を机へ並べた。赤、青、黒の封蝋がついた書類から、乾いた紙と油墨の匂いが立った。


「種麦はすでに売却され、その金の大半は祝典で消費されています。買い戻せないと判明したあと、あなたは北方軍の食料を奪おうとした。兵士が飢えれば魔獣を止められず、六村すべてが危険にさらされます」


「私には、王国全体の利益を判断する権限がある」


「過去に人を救ったことは、現在、人を飢えさせてよい理由にはなりません」


ジークハルトの手が、証言台の縁を強く握った。王太子の指輪が木へ当たり、小さな傷をつける。彼はアデライドの方を見たが、彼女は膝の上で両手を重ね、視線を返さなかった。


やがて、アデライドの名が呼ばれた。立ち上がると、朝に食べた黒パンが胃の中で重く動いた。ガレスは手を差し出さず、ただ彼女が証言台まで歩くのを席から見守った。


オルセンは、アデライドが提出した過去十三年分の修正記録を読み上げた。ジークハルトの誤った決裁、側近たちの計算ミス、許可を得ない支出、アデライドが自分の財産で補った不足金。その中には、本人へ知らせず処理し、正式な記録に残さなかったものも多数あった。


「私は、殿下の失敗を隠しました」アデライドは灰色の袖口を握った。爪の先が布へ沈み、以前につけた傷の痕が白く浮いた。


「国民を守るためだと思っていました。問題が表へ出なければ、誰も傷つかないと思っていました。でも私は、間違えた本人へ責任を返さず、次も同じことができる場所を作りました」


「君が勝手にしたことだ!」ジークハルトが席から立ち上がった。椅子が後ろへ倒れ、床へ大きな音を立てた。


「私は隠せと命じていない。君が完璧な婚約者を演じたくて、すべて抱え込んだのだろう!」


「はい。それも事実です」アデライドはジークハルトを見た。否定されると思っていた彼は、次の言葉を失った。


「殿下だけの責任ではありません。私は必要とされなくなることを恐れて、頼まれていない失敗まで隠しました。今回も監査報告書から一頁を抜きました」


傍聴席がざわめいた。アデライドは、指についた血の跡が残る頁を示した。紙には皺が寄り、戻された部分だけ綴じ糸の色が違っている。


「私はすでに、一年間の公職停止処分を受けています。処分を軽くしていただくつもりもありません」


「では、私の罪も君が作ったものだと認めるのだな」ジークハルトは倒れた椅子を直さず、証言台へ近づいた。彼の袖口で、銀の留め具が灯りを反射した。


「いいえ。私が責任を認めても、あなたが署名した事実は消えません」


アデライドはその留め具を見た。十三歳の二人が菓子を分けた日も、洪水の中で彼が人々を励ました日も消えない。しかし、種麦を売り、軍の備蓄を奪おうとした署名も、同じ男の手で書かれていた。


すべての証言が終わると、審問官たちは別室で協議した。傍聴人には黒パンと野菜の煮込みが配られ、広間の隅では、生徒と北方の農民が同じ長机で食事を取った。気まずそうに黙っていた少女へ、農婦が塩入れを渡し、少女は代わりに自分の林檎を半分差し出した。


午後の鐘が鳴る頃、国王と審問官が戻った。ジークハルトとマリアンヌは再び中央へ立たされる。アデライドは朝の黒パンの残りを鞄へしまい、自分の席で判決を待った。


「ジークハルトの王太子位を廃し、王族籍から除く」国王は玉座の肘掛けへ手を置いた。薬湯の器は冷め、表面には細かな薬草の葉が沈んでいた。


「私有財産、別邸、馬車、美術品、宝飾品を差し押さえ、北方六村の種麦購入費、食料費、水路修繕費へ優先して充てる。王室財産を私物化した分についても、返還が完了するまで賠償義務を負わせる」


ジークハルトは国王を父上と呼びかけた。しかし国王は目を閉じず、判決文から顔を上げなかった。曲がった銀の留め具だけが、彼の袖でかすかに揺れていた。


「マリアンヌ・レイスから爵位と公職を剝奪し、不正支出の返還を命じる。ただし、女性職業学校は閉鎖しない。教師と生徒による独立法人へ移管し、会計は外部監査の対象とする」


マリアンヌは校章を握り、爪で糸を切った。緑のドレスから外れた校章は床へ落ちたが、先ほど発言した女子生徒が拾い上げる。少女はマリアンヌへ返さず、自分の教本の間へ挟んだ。


「どうして、学校を私から奪うのですか」マリアンヌの声は、広場で演説したときより細かった。化粧の崩れた頬へ髪が張りつき、真珠の髪飾りが片側へ傾いていた。


「学校は、あなたの所有物ではありません」女子生徒が席から答えた。隣の教師が止めようとしたが、少女は教本を胸へ抱いたまま立っていた。


「私たちが学ぶ場所です。あなたがいなくても、私たちは学びます」


最後に、ジークハルトとマリアンヌには北方再生農場での賠償労働が命じられた。住居、食事、休息、医療は保障されるが、生活費を除く賃金は被害者への賠償へ充てられる。反省や謝罪を理由に、失った爵位や公職が戻されることはないと明記された。


三日後、二人は北方の再生農場へ送られた。雪はやんでいたが、曇った空の下には、昨年の洪水で崩れた水路と泥に埋まった畑が広がっている。作業小屋の軒先には濡れた手袋が何組も干され、昼食用の豆粥が大鍋で煮えていた。


ジークハルトは金糸の正装を脱がされ、灰色の作業着と厚い革靴を支給された。袖は少し短く、手首には王族の印を外した白い跡が残っている。マリアンヌも茶色の作業服へ着替え、真珠を外した髪を布で覆っていた。


最初に命じられたのは、倉庫へ届いた種麦を運ぶことだった。差し押さえた財産を売却し、遠方の修道院から買い集めた麦である。大人二人で持ち上げる重さの袋が、荷車の上へ二十袋積まれていた。


「これを、私が運ぶのか?」ジークハルトは袋の端をつかんだ。持ち上げようと腰を曲げたが、布がわずかに動いただけで、腕が震え始めた。


「二人一組で運びます」監督官は作業表へ印をつけた。日に焼けた顔には、右の眉から頬まで古い傷が走っている。


「ならば兵士を呼べ。私は指示を出す」


「ここに、あなたの部下はいません」


「私は王太子だぞ!」


「三日前までは」


周囲の労働者は手を止めなかった。誰も笑わず、誰も助けに来ない。荷車から降ろされた袋は、ジークハルトの革靴の上へ重くもたれた。


「誰かに運ばせろ!」ジークハルトは監督官へ命じた。額には、袋一つ持ち上げていないのに汗が浮いていた。


「以前は、アデライド様があなたの分まで運んでいました」監督官は、袋の反対側をマリアンヌへ持つよう示した。作業小屋からは豆粥の匂いが流れ、昼を知らせる鐘まで、まだ二時間残っていた。


「今日からは、ご自分で」


ジークハルトは袋を見下ろした。マリアンヌも、土で汚れた布へ触れようとしない。二人の間に置かれた種麦は、金貨の数字だったときよりも、はるかに重かった。


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