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第4話 正しい食事で、兵士の歯が欠ける

第4話 正しい食事で、兵士の歯が欠ける


ガレスが起き上がれるようになったのは、毒矢を受けてから十二日後だった。別邸の居間には、薬師が置いていった苦い煎じ薬と、マルタが毎朝運んでくる山羊乳の瓶が並んでいる。窓辺では、赤い野薔薇の実の隣に、ハンナが雪の下から見つけた薄紫色の冬菫が三輪、小さな酒杯へ生けられていた。


ガレスは借り物の白いシャツに黒い毛織りの上着を羽織り、長椅子へ座っていた。脇腹にはまだ厚い包帯が巻かれているが、膝の上には北方軍の補給記録が山積みになっている。最初の二日間は素直に寝ていたものの、三日目には枕の下へ報告書を隠し、ハンナに見つかってマルタから叱られていた。


「煎じ薬を飲んでからになさってください」アデライドは帳面を取り上げ、代わりに湯気の立つ茶色い器を差し出した。ガレスは薬の表面に浮かぶ細かな葉を見つめ、右手で鼻をつまんだ。


「先に報告書を三枚読む」


「一枚読んだら薬が冷めます」


「冷めた方が飲みやすい」


「冷めると苦みが強くなると、薬師が言っていました」


二人が器を押しつけ合っていると、薪を抱えたハンナが居間へ入ってきた。赤い毛糸の帽子には雪が薄く積もり、片方の靴紐がほどけたまま床を引きずっている。少女はガレスの手元を見て、暖炉脇の籠へ薪を放り込んだ。


「公爵様、また薬から逃げていますね」ハンナは濡れた手袋を椅子の背へ掛けた。ガレスは観念して器を受け取り、一息に飲んだあと、干した林檎を二枚まとめて口へ入れた。


薬を飲ませたアデライドは、北方軍の補給記録を机へ広げた。討伐隊が森へ入るたび、予定より多くの兵士が体調を崩し、帰還後には腹痛や凍傷を訴えている。戦闘で負傷する者より、食糧不足と冷えで動けなくなる者の方が多い月さえあった。


兵士一人に支給される携帯食は、乾燥肉、固焼きパン、塩漬けの脂だった。日持ちはするが重く、雪の中では脂が凍り、急いで食べると腹を壊す。運搬量を減らせば兵士が飢え、増やせば荷馬と荷運び人が先に疲れる。


「穀物と乾燥肉と脂を一つに固めれば、重量を二割減らせます」アデライドは自分で作った計算表をガレスへ見せた。紙の端には、昨夜こぼした香草茶の丸い染みが残っていた。


「これだけで一日に必要な栄養を取れるのか?」


「取れます。保存期間は固焼きパンの三倍、運搬に必要な馬は五頭減らせます。塩分も北方での発汗量に合わせました」


「味は?」


アデライドは答える前に、試作品を包んだ布を開いた。炒った燕麦、細かく刻んだ干し肉、山羊の脂、塩、乾燥させた赤い木の実を練り、長方形に固めてある。見た目は焦げ茶色の焼き菓子に似ているが、甘い匂いはほとんどしなかった。


「必要な栄養を摂取することが目的です。味は、行軍へ支障がない程度でよいと考えました」


「つまり、うまくはないのだな」


「公爵様のお薬よりは、食べやすいと思います」


居間へ集められた兵士たちは、試作品を一つずつ受け取った。毒矢を受けた日に左腕を傷めていた若い騎士も来ており、今は包帯の代わりに灰色の手甲をつけている。彼はエミルと名乗り、試作品の匂いを嗅いでから、恐る恐る端をかじった。


室内で保管していた試作品は、少し硬い程度だった。脂の重い味はするものの、干し肉の塩気と赤い木の実の酸味があり、兵士たちは水があれば食べられると答えた。アデライドは一人ずつ意見を記録し、最後に全員へ星形の蜂蜜菓子を一枚ずつ配った。


それは、ジークハルトへ渡せなかった箱に入っていた菓子だった。十二日たって表面は乾き、焼きたての柔らかさはなくなっている。アデライドは金色の紐をようやく解き、最初の一枚をハンナへ渡していた。


「明日は、実際の行軍と同じ条件で試験します」アデライドは残った試作品を木箱へ詰めた。ガレスは蜂蜜菓子を一口で食べず、半分を上着のポケットへしまった。


「それも保存試験ですか?」


「夜に食べる」


「公爵様は甘い物がお好きなのですね」


「傷を治すために必要な糖分だ」


翌朝、試験隊は日の出前に別邸を出発した。空は薄い灰色で、雪を踏むたびに革靴の下から乾いた音がする。アデライドは母の焦げ茶色の外套に毛皮の帽子をかぶり、慣れない雪道で何度も足を滑らせながら、兵士たちの後ろを歩いた。


試作品は一晩、屋外の木箱へ入れておいた。森の見張り小屋へ着く頃には、表面に白い霜がつき、布の包みまで板のように冷えている。エミルは手袋を外し、試作品の端へ歯を立てた。


小さく硬い音がした。エミルは口元を押さえ、その場へしゃがみ込んだ。雪の上へ、焦げ茶色の携帯食と一緒に、白い欠片が一つ落ちた。


「歯が……欠けました」エミルは掌へ欠けた歯を載せ、舌で前歯を確かめた。唇の端から薄く血がにじみ、冷たい空気の中で鉄のような臭いがした。


アデライドは木箱から別の試作品を取り出した。指で押してもへこまず、石へ打ちつけると乾いた音が返ってくる。それでも計算上は、体温で脂が緩めば噛めるはずだった。


「口の中で少し温めてから、奥歯でゆっくり噛むよう説明書に――」アデライドはそこまで言い、エミルが口元を押さえたまま自分を見ていることに気づいた。ガレスが隣から試作品を取り上げ、彼女の手へ戻した。


「食べる者が悪いと言う前に、自分で食べろ」


「私は、そのような意味で申し上げたのではありません」


「では、説明書どおりに食べてみろ。ここは実際の行軍より暖かく、君は戦った直後でもない」


アデライドは試作品を口元へ運んだ。冷えた脂の匂いが鼻へ入り、指先へ霜がついた。前歯ではなく奥歯へ当て、ゆっくり力を込めた。


携帯食は割れなかった。代わりに右の奥歯へ鋭い痛みが走り、アデライドは顎を押さえた。冷たい空気を吸うだけで、歯の根まで細い針を刺されたように痛んだ。


「申し訳ありません」アデライドは携帯食を手から下ろした。言い訳に使おうとした説明書が、外套のポケットで音を立てた。


「何がですか?」エミルは欠けた歯を布で包みながら尋ねた。声は荒く、普段の丁寧な口調ではなかった。


「試験が不十分でした。室内で食べられたため、屋外でも同じだと判断しました」


「俺たちは、吹雪の中でこれを食べるんです。手がかじかんで、袋を開けることもできない日があります。魔獣から逃げながら、口の中でゆっくり温めろというのですか?」


「そのような状況を、私は考えていませんでした」


「食べたこともない方に、命を預ける食事を決められたくありません」


エミルの言葉に、周囲の兵士たちは黙っていた。誰も彼をたしなめず、アデライドをかばわない。雪を載せた針葉樹の枝から雫が落ち、木箱の蓋へ小さな染みを作った。


アデライドは、エミルへ自分の歯も痛めたことを言おうとした。同じ痛みを経験したのだから理解していると説明したかった。しかし、一度かじった自分と、毎日これを持って戦う兵士が同じではないことくらい、今は分かった。


「おっしゃるとおりです」アデライドは帽子を取り、雪の上で頭を下げた。風が髪を乱し、耳の後ろへ細かな雪を吹き込んだ。


「私の計算は、食べる人の暮らしを入れないまま完成していました。エミルさん、あなたの歯を傷つけました。申し訳ありません」


エミルはすぐには答えなかった。欠けた歯を包んだ布を上着へしまい、試作品を雪の上から拾う。しばらく眺めたあと、それを木箱へ戻した。


「謝って終わりにしないでください。次は俺たちにも、作るところから話を聞いてください」


「はい。治療費も私が支払います」


「それは払ってください。前歯が欠けたままだと、妹に笑われます」


別邸へ戻ると、アデライドは補給計画書を最初から作り直した。居間の大机には、料理人、兵士、荷運び人、猟師、薬師が集まった。濡れた外套が壁際へ並び、暖炉の上では、マルタが人数分作った蕪のスープが大鍋の中で静かに煮えていた。


「柔らかくすれば、水分が増えて重くなるよ」料理人のベッカは、試作品を乳鉢で砕いた。太い腕に小麦粉がつき、青い前掛けのポケットから皮をむきかけた玉葱が半分のぞいていた。


「だが、湯に入れて粥にできるなら歯は欠けない」猟師が砕いた欠片を指でつまんだ。冬の森では雪を溶かして湯を作るため、完全に水がないわけではないと説明する。


「湯を沸かす時間がないときは、薄く焼いたものを懐へ入れておけばいい」荷運び人は、自分の胸元を叩いた。厚い毛織り服の内側なら脂が凍らず、身体を冷やすこともないという。


兵士たちは、乾燥肉と穀物を別々にしてほしいと求めた。同じ味だけでは食欲がなくなるため、塩味、酸味、少量の蜂蜜を使ったものを選べるようにする。怪我をした者でも開けられるよう、包みの紐は片手でほどける結び方へ変えた。


「全部を一つに固めれば効率がよいと思っていました」アデライドは黒板に意見を書きながら、机の上の材料を見た。分ければ包みは増え、運ぶ手間もかかるが、兵士は天候や体調に合わせて食べ方を選べる。


「荷物は少ない方が助かるが、食べられない荷物なら運ぶだけ無駄です」荷運び人が言うと、周囲から笑いが起きた。アデライドも少し遅れて笑い、黒板に大きく「食べられること」と書き加えた。


試作品が完成したのは、日が暮れてからだった。穀物と脂を薄く焼いた携帯食、湯で戻せる肉と豆の粉、干した果実、塩を別々の包みにする。余った材料でベッカが小さな団子を作り、蕪のスープへ入れた。


全員で同じ食卓を囲み、試作品を食べた。携帯食は懐で温めれば手でも割れ、スープへ入れると柔らかくなった。ハンナは蜂蜜味だけを選び、酸味のある木の実をエミルの器へこっそり移した。


「見えていますよ」エミルは自分の器に増えた赤い実を匙ですくった。前歯の欠けた場所から息が漏れ、言葉の最後に小さな音が混じった。


「妹さんに笑われる前に、私が笑っておきます」


「では、ハンナの分の蜂蜜味はなしです」


「それは横暴です」


食事のあと、アデライドは新しい補給計画書を清書した。これまでなら作成者欄には、自分の名前だけを書いただろう。今回は、料理人ベッカ、騎士エミル、荷運び人オルド、猟師ディーン、薬師ヨハン、試食係ハンナと、一人ずつ名前を記した。


ガレスは完成した計画書へ目を通したあと、別の紙を机へ置いた。部下への命令を短く省略し、説明を怠ってきたことへの謝罪と、今後は復唱確認を行うという通知だった。最後には、彼自身の歪んだ署名が入っている。


「公爵が、兵士へ謝るのですか?」アデライドは紙を持ち上げた。ガレスは冷めた蕪のスープを飲み、器の底に残った団子を匙で割った。


「謝らなければ、命令の出し方を変えた理由が伝わらない」


「弱みを見せたと思われるかもしれません」


「思わせておけばいい。私は実際に間違えた」


アデライドは、自分の名前だけではない計画書と、ガレスの謝罪文を並べた。どちらの紙にも書き損じがあり、余白には油とスープの染みがついている。王宮で作ってきた汚れ一つない書類より、不思議と誰が何をするのかがよく分かった。


「次に私が、現場を見ずに正しいことを言い始めたら、止めていただけますか」アデライドはガレスを見た。自分から間違いを指摘してほしいと頼むのは、王宮では一度もしたことがなかった。


「止める。ただし、君も私が説明を省いたら止めろ」


「公爵閣下へ逆らうことになります」


「歯が欠ける前にな」


アデライドは舌で、まだ痛む奥歯へ触れた。ガレスも自分の脇腹を押さえ、二人は同時に顔をしかめた。暖炉のそばでは濡れた手袋が人数分並び、冬菫の小さな花が、開け閉めされる扉の風に揺れていた。


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