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第3話 失敗を隠さなかった男

第3話 失敗を隠さなかった男


マルタに助けられてから五日後、別邸の煙突から、ようやく細い煙が上がるようになった。村の鍛冶屋が滑車を直し、マルタが乾いた薪の組み方を教え、ハンナが床へ散らばった鼠の糞を箒で掃き出してくれた。アデライドは母の焦げ茶色の毛織り服に白い前掛けを重ね、借りた鍋で蕪と豆を煮ていた。


窓辺には、ハンナが持ってきた赤い野薔薇の実が、欠けた水差しへ挿してある。煮込みすぎた蕪は鍋の中で角が崩れ、豆はまだ少し硬かった。アデライドは塩を足そうとして、マルタから一度入れた塩は取り出せないと言われたことを思い出し、匙を瓶へ戻した。


「今日は食べられる匂いがします」ハンナは暖炉の前へしゃがみ、濡れた靴下を火へ向けていた。右足の親指が布の穴からのぞき、動かすたびに薪の爆ぜる音へ交じって小さな笑い声が上がった。


「昨日のスープも、食べられないものではありませんでした」アデライドは鍋底を木匙でこすった。昨日は火を強くしすぎ、玉葱の半分を焦がしてしまったが、ハンナは香ばしいと言って二杯食べた。


「おばあちゃんは、鍋を洗いながら泣いていました」


「煙が目に入ったのでしょう」


「台所には煙がなかったよ」


アデライドが返事に困っていると、遠くで角笛が鳴った。低い音が一度、間を置いて二度続く。それまで野薔薇の実をつついていた小鳥が一斉に飛び立ち、灰色の空へ散った。


ハンナは靴下を履き直し、窓へ駆け寄った。雪の残る道を、泥だらけの馬が何頭も走ってくる。その後ろからは、二本の槍へ外套を渡した即席の担架が運ばれていた。


「怪我人です!」ハンナは椅子へ置いていた赤い外套をつかみ、玄関へ走った。アデライドも火を弱め、前掛けを外すことさえ忘れてあとを追った。


担架を運んできた兵士たちは、鎧へ黒い泥と血をこびりつかせていた。先頭にいた若い騎士は左腕を布で吊り、唇を紫色にしている。担架には黒髪の大柄な男が横たわり、脇腹から折れた矢が突き出していた。


「クライヴ公爵閣下です。森で魔獣に襲われました」若い騎士は息を切らし、玄関柱へ肩を預けた。彼の手袋には、担架を握り続けたため裂けた跡があった。


「医師はどこですか?」


「従軍医は後続部隊と一緒です。森の分岐で隊が分かれ、こちらには来ていません」


アデライドは男の首へ指を当てた。脈は速く、皮膚は汗で濡れている。矢傷の周囲には青黒い筋が広がり、湿った獣毛に似た臭いがした。


「毒矢です。中へ運んでください」アデライドは居間の長椅子から白い布を引き剝がした。積もっていた埃が舞い、兵士の一人が咳き込んだが、構わずクッションを床へ落とした。


ガレスを寝かせると、アデライドは旅鞄から小刀、縫い針、清潔な布を取り出した。王妃教育では戦場での応急処置も学んでいる。矢を折り、傷口を洗い、毒を吸い出せば、医師が来るまで持ちこたえられるかもしれなかった。


「湯を沸かしてください。清潔な布と強い酒も必要です」アデライドは兵士へ命じ、自分は矢の周囲を小刀で切ろうとした。だが刃先が皮膚へ触れた瞬間、ガレスの背が大きく反り、喉から空気の漏れる音がした。


矢尻がどの形か分からない。毒の種類も特定できないまま抜けば、血管を裂く可能性がある。それでも何もしなければ、青黒い筋は胸まで届く。


「奥様、閣下は助かりますか」若い騎士が尋ねた。アデライドは奥様ではないと訂正しようとしたが、ガレスの指が一度痙攣するのを見て言葉を失った。


「私が処置します。皆さんは外で待っていてください」


兵士たちを追い出せば、失敗しても見られずに済む。必要な薬草も器具もなくても、自分が正しい順番で手を動かせば助けられる。助けられなければならない。


アデライドは矢の根元へ布を巻き、小刀を握り直した。刃が震えて傷口を外れ、ガレスの肌へ浅い傷を増やした。血の臭いが強まり、彼の呼吸が一度止まった。


「できないなら、みんなを呼んで!」ハンナがアデライドの腕をつかんだ。少女の指には、暖炉から運んだ煤がついていた。


「騒がないでください。いま矢を抜かなければ、この方は――」


「だったら薬師のおじさんを呼ぼうよ! 森の毒に詳しい猟師もいるよ! おばあちゃんは薬草を煮られるし、鍛冶屋さんなら矢の形が分かる!」


アデライドは小刀を握ったまま動けなくなった。一人では助けられないと口にすれば、兵士たちは自分を無能だと思うかもしれない。だが目の前の男は、その体裁のために死にかけている。


ガレスの唇がわずかに開いた。息を吸う音は浅く、次が来るまでの間隔が長い。アデライドは小刀を床へ置き、立ち上がった。


「ハンナ、薬師の家へ案内してください」声が裏返り、喉が痛んだ。アデライドは血のついた前掛けのまま玄関を飛び出した。


村へ続く道には、解けかけた雪と泥が混じっていた。何度も靴を取られ、焦げ茶色の裾が膝まで濡れた。ハンナの背中を追いながら、アデライドは道端の家へ向かって声を上げた。


「助けてください! 毒矢を受けた方がいます!」窓から顔を出した者たちが、血まみれの服を見て戸口へ集まった。それでもアデライドは走るのをやめなかった。


「私一人では、この人を死なせてしまいます。どうか、力を貸してください!」


薬師は薬箱を持ち、猟師は壁に掛けていた外套をつかんだ。鍛冶屋は矢尻を見るための火鋏を腰へ差し、マルタは煮かけの芋鍋へ蓋をして家を出た。誰も、なぜ一人で処置できないのかとは尋ねなかった。


別邸へ戻ると、薬師は矢の匂いを嗅ぎ、北森に生える眠り茸の毒だと見抜いた。猟師は矢の軸に刻まれた溝から矢尻の形を描き、鍛冶屋が細い鉄具を作る。マルタは解毒に使う銀葉草を鍋で煮ながら、兵士たちへ残っていた豆のスープを配った。


「そこのお兄さんも飲みなさい。顔が小麦粉みたいに白いよ」マルタは若い騎士へ木椀を押しつけた。騎士は公爵より先に食べられないと断ったが、ハンナが硬いパンをスープへ浸して彼の手へ載せた。


「倒れる人が増えたら、お鍋が足りなくなります」


アデライドは薬師の指示に従い、ガレスの身体を押さえた。鍛冶屋の道具で矢尻が抜かれた瞬間、黒い血が布へ広がる。薬師が傷口を洗い、マルタの煎じた薬を少しずつ口へ流し込むと、止まりかけていた呼吸が戻った。


夜が明ける頃、ガレスの熱は下がり始めた。居間には血と薬草、濡れた外套の臭いが残り、床には使い終えた布が桶いっぱいに積まれている。暖炉の脇では、徹夜したハンナが丸めた前掛けを枕にして眠っていた。


アデライドは長椅子の横へ座り、ガレスの呼吸を数えていた。自分一人の力では、彼を助けられなかった。けれど誰かを呼んだから助かったという事実を、まだうまく胸へ収められなかった。


「水……」低い声がして、ガレスが目を開けた。灰色の瞳は熱で赤く、無精髭の伸びた頬には、枕代わりにした布の跡がついていた。


「すぐにお持ちします」アデライドは立ち上がり、台所から水差しを運んだ。ガレスは自分で起きようとしたが、脇腹の傷に顔をしかめ、結局、彼女が支えた器から水を飲んだ。


若い騎士が目覚めたと聞き、寝台の前へ進み出た。エをハンナに掛けられたまま、夜の襲撃について報告する。ガレスは途中で何度も息を整えながら、部隊が分断された理由を尋ねた。


「閣下から、森の東へ進めとご命令を受けました」騎士は汚れた上着の裾を握り、目を伏せた。まだ乾いていない左腕の包帯から、薬草の青い汁がにじんでいた。


「私は東側から迂回しろと言った。全員で東へ進めとは命じていない」


「申し訳ありません。私の聞き違いです」


ガレスは何も答えず、天井を見た。暖炉の上では、洗った包帯が紐へ掛けられ、火の熱でゆっくり乾いている。しばらくして彼は、机と紙を用意するよう頼んだ。


アデライドは事故報告書の用紙を持ってきた。ガレスは起き上がれないため、彼女が聞き取って書くことになる。彼は冒頭に、指揮官である自分の命令が不明瞭だったと記すよう求めた。


「部下が聞き違えた可能性もあります」アデライドはペンを止めた。机には、ハンナが置いた冷めた香草茶と、誰かが半分だけ食べた芋が残っていた。


「命令を正しく伝えるのは、指揮官の責任です」


「しかし、死者は出ませんでした。『伝達上の行き違いが生じた』と書けば十分でしょう。あなたの政敵に利用されれば、北方軍全体の信用が損なわれます」


ガレスは包帯の巻かれた脇腹を押さえ、ゆっくり身体を起こした。汗で濡れた黒髪が額へ張りつき、寝間着代わりに借りた村人のシャツは肩のところで窮屈そうに引っ張られている。それでも彼は、アデライドが書いた文章へ目を通した。


「私の面子を守って、次の兵を殺すつもりか」


アデライドの手から、インクが一滴落ちた。報告書の余白へ黒い丸が広がり、すぐには乾かなかった。王宮で彼女が直してきた書類の向こうに、名前も知らない兵士たちの顔が並んだ。


ジークハルトの誤った命令も、側近の計算間違いも、表面へ出る前に消してきた。誰も傷つかないようにしたつもりだった。しかし失敗した本人は、何を間違えたのかさえ知らず、同じ判断を繰り返していた。


「正直に書けば、あなたは処分を受けるかもしれません」


「受ける。必要なら指揮権も返す」


「怖くないのですか?」


「怖いから書く。次も同じ命令を出して、今度こそ部下を死なせる方が怖い」


ガレスはペンを受け取り、自分の名を書いた。傷が痛むのか、最後の一文字が大きく歪んだ。それでも彼は書き直さず、その署名へ公爵家の指輪で印を押した。


「隠さなければ、謝れる。謝れば、直せる」ガレスは報告書を若い騎士へ渡した。騎士は両手で受け取り、濡れた目元を包帯のない腕で乱暴に拭った。


「隠した失敗だけが、何度でも人を殺す」


窓の外では、夜の間に降った雪が庭を白く覆っていた。折れていた黄色い水仙の茎をハンナが細い枝で支え、赤い毛糸を結んでいる。アデライドは乾きかけたインクの染みを見つめ、自分が守ってきたものの中に、守ってはいけなかったものがいくつあったのかを数え始めた。


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