第51話 死刻――零
生命炉の中枢。
音。
心臓。
世界の。
巨大な鼓動。
一回。
二回。
速くなる。
ミレイア。
「生体供給網、接続!」
光。
世界へ。
広がる。
王都。
魔王領。
村。
町。
人。
自分で。
手を置く。
紋章。
少し。
光。
魔力。
ほんの少し。
一人。
微量。
でも。
何十万。
集まる。
生命炉。
供給。
満ち始める。
「切り替わる!」
レオン。
その瞬間。
エルディオ。
叫ぶ。
初めて。
機械ではない。
人間の声。
「やめろ!」
全員。
止まる。
「何で!」
俺。
「供給が不安定だ!」
「分かってる!」
「同意は変化する!」
「うん!」
「明日、参加者が半減すれば!」
「また聞く!」
「拒否されれば!」
「使う量減らす!」
「それでも足りなければ!」
「考える!」
エルディオ。
顔。
歪む。
「そんなものは管理ではない!」
俺。
「だから!」
一歩。
近づく。
「全部管理しなくていいって言ってる!」
生命炉。
暴れる。
光の線。
俺へ。
刺さる。
「シュウおじさん!」
フィーネ。
体。
熱い。
いや。
冷たい。
何かが。
抜ける。
手帳。
床。
開く。
高城修一
死刻――一分後
来た。
「修一さん!」
レオン。
俺。
膝。
落ちる。
「大丈夫」
言って。
フィーネ。
睨む。
「禁止!」
「そうだった」
息。
苦しい。
◇
エルディオ。
「停止しろ」
「嫌」
「お前が死ぬ」
「知ってる」
「管理者となれば生存可能」
「働きたくないって言っただろ」
笑う。
でも。
声。
出にくい。
「理解できない」
エルディオ。
「高城修一」
「なぜ死を選ぶ」
「選んでない」
「生きる方」
俺。
「選んでる」
「なら管理者になれ」
「それは」
「生きるじゃなく」
「残るだけだ」
エルディオ。
止まる。
俺。
家族。
日本。
会社。
部下。
この世界。
みんな。
生きる。
俺にとって。
ただ意識が続くことだけじゃない。
間違う。
謝る。
食べる。
笑う。
仕事。
嫌になる。
休む。
それ。
全部。
「俺は」
息。
「明日も」
「誰かに面倒なこと言われたい」
ノア。
「変な願い」
「お前とか」
「俺かよ」
少し。
笑い。
◇
死刻――三十秒。
ミレイア。
「供給率六十二!」
「安定域へ入ります!」
エルディオ。
「予測不能」
俺。
「いいよ」
「予測できない未来は危険だ」
「そうだね」
「私は」
「五百年間」
「危険を減らしてきた」
声。
少年みたいに。
変わる。
「分かってる」
俺。
「ありがとう」
全員。
見る。
エルディオも。
「でも」
「もういい」
「何が」
「もう」
俺。
「一人で決めなくていい」
エルディオ。
目。
大きく。
揺れる。
◇
十秒。
九。
八。
フィーネ。
俺の手。
握る。
レオン。
反対。
ノア。
服。
掴む。
ガイル。
「死ぬなよ」
グラム。
「貴様も死ぬな」
ガイル。
「俺は死刻出てねえ!」
グラム。
「今それを言うか!」
こんなときまで。
うるさい。
七。
六。
ミレイア。
「十二権限!」
十二の紋章。
一つ。
二つ。
全部。
光る。
「生命炉!」
「管理方式変更!」
五。
四。
エルディオ。
「拒否する」
アベル。
前へ。
「エルディオ」
「何だ」
「もう終われ」
「世界が」
「世界は」
アベル。
俺たちを見る。
「お前一人の仕事ではない」
三。
二。
俺の胸。
止まりそう。
手帳。
赤。
大きい。
死刻――零
痛み。
体。
一気に。
冷たくなる。
フィーネ。
「修一さん!」
治癒。
光。
出る。
でも。
違う。
生命炉から。
直接。
引かれる。
「止めて!」
ミレイア。
術式。
切り替え。
一瞬。
俺の名前。
赤い文字。
揺れる。
その下。
別の名前。
出ようとする。
誰かへ。
移る。
「駄目!」
俺。
声。
出ない。
ミレイア。
「転移処理を遮断!」
「十二権限!」
レオン。
ユリウス。
ガイル。
フィーネ。
ミレイア。
遠隔の勇士。
全員。
紋章。
光。
死刻転移。
止まる。
生命炉。
激震。
エルディオ。
叫ぶ。
「供給不足!」
でも。
生体供給。
世界。
少しずつ。
増える。
誰かが。
参加。
また。
一人。
また。
一人。
六十三。
六十四。
数字。
満ちる。
死者。
不要。
転移。
解除。
俺の手帳。
赤い文字。
一度。
滲む。
そして。
消えた。
◇
静か。
俺。
床。
倒れてる。
「シュウおじさん!」
フィーネ。
泣いてる。
「生きてる?」
俺。
「それをこっちが聞いてるんです!」
「じゃあ」
息。
吸う。
痛い。
でも。
入る。
「生きてる」
フィーネ。
怒りながら。
抱きつく。
「痛い」
「知りません!」
レオン。
笑って。
泣いてる。
ガイル。
顔。
逸らす。
ユリウス。
目。
赤い。
ミレイア。
「本当に」
声。
震える。
「面倒な人ですね」
「ごめん」
「褒めていません」
たぶん。
少し。
褒めてる。
◇
生命炉。
光。
変わる。
今まで。
赤。
青。
強い。
今。
柔らかい。
白。
中央。
エルディオ。
姿。
変わる。
鎧。
消える。
光。
薄くなる。
若い男。
二十代。
初代勇者。
まだ。
世界を救う前の。
ただの青年みたいだった。
「……私は」
声。
もう。
機械ではない。
「間違っていたのか?」
誰も。
すぐ答えない。
俺も。
「分からない」
エルディオの顔。
少し。
困る。
俺。
笑う。
「でも」
ゆっくり。
立つ。
フィーネに支えられながら。
「もう」
「一人で決めなくていい」
エルディオ。
目。
閉じる。
一滴。
涙。
だったのか。
光。
だったのか。
分からない。
「そうか」
一言。
そして。
消えた。
五百年。
世界を管理した男。
最後。
誰も選ばず。
自分も。
選ばず。
ただ。
役目を終えた。
◇
生命炉。
新しい文字。
浮かぶ。
《第一管理者》
空欄。
誰の名前も。
ない。
その下。
《供給方式》
生体分散供給
《死刻選定》
停止
俺は。
手帳。
見る。
自分。
高城修一。
名前だけ。
赤い文字。
ない。
「終わった?」
ノア。
俺。
少し。
考える。
「始まったんじゃない?」
「何が」
「面倒な方」
世界。
これから。
魔法。
減る。
人。
揉める。
誰がどれだけ負担する。
使う量。
どこを優先。
政治。
争い。
全部。
残る。
簡単な大団円ではない。
でも。
誰か一人の名前へ。
勝手に赤い文字が出る世界は。
終わった。
それだけで。
今は。
十分だった。




