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天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


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最終話 明日、手伝いが必要な人

二年後。


朝。


俺は。


行列に並んでいた。


「高城さん!」


前から。


声。


「こっちお願いします!」


「待って!」


俺。


「今行く!」


「さっきもそう言いました!」


「本当に行く!」


「課長ってみんなそうなんですか!」


知らない。


ここに課長は俺しかいない。


          ◇


王都。


二年前とは。


かなり変わった。


夜。


暗い。


昔ほど街灯はない。


噴水。


昼だけ。


貴族区の冬花庭園。


廃止。


大型魔導広告。


消えた。


軍の魔導砲。


半分解体。


その代わり。


井戸。


増えた。


水車。


増えた。


荷車。


改良。


非魔法式の医療器具。


農具。


風車。


人間。


不便になったから。


工夫し始めた。


ミレイアは、


それを、


「文明の後退ではなく分岐です」


と言った。


俺には難しい。


ノアは。


「魔法使わない方が面白い道具増えた」


と言っていた。


それくらいでいい。


          ◇


生命炉。


まだある。


壊していない。


治癒。


結界。


水。


農業。


最低限。


世界を支えている。


ただ。


死者は取らない。


供給。


参加制。


毎朝。


希望者が。


小さな魔力を分ける。


時間。


数秒。


少し疲れる。


その日は。


甘い物が欲しくなる人が多いらしい。


おかげで菓子屋が増えた。


予想外。


「だから太る人増えたんだって」


フィーネ。


「それ生命炉のせい?」


俺。


「シュウおじさんもです」


「俺は年齢」


「逃げましたね」


フィーネ。


十八歳。


少し背が伸びた。


治癒院。


白衣。


以前より。


ずっと忙しい。


高位治癒魔法は。


以前の半分以下。


だから。


薬。


縫合。


衛生。


非魔法治療。


研究。


フィーネは。


リゼルと一緒に。


人間と魔族の医療を混ぜた診療所を作った。


「リゼルは?」


俺。


「薬草採り」


「一人で?」


「私も行くって言ったら」


フィーネ。


少し真似。


「『お前は患者を診ていろ』って」


「似てる」


「でしょう?」


後ろ。


声。


「似ていない」


リゼル。


いた。


「いつから」


俺。


「最初からだ」


怖い。


フィーネ。


笑う。


リゼルも。


昔なら考えられないくらい。


ほんの少し。


普通に笑うようになった。


          ◇


レオン。


王国北部。


勇士。


という肩書きは。


まだある。


ただ。


魔王討伐。


目的。


なくなった。


今は。


各地の調停。


魔物対応。


災害。


忙しい。


セリア。


元気。


ルーデン。


ヨルンの家族。


今でも。


定期的に訪ねている。


最初。


妻は。


理由を知らなかった。


その後。


生命炉の真実が公開された。


レオンは。


全部話した。


自分が妹を救ったこと。


その直後。


ヨルンが選ばれたこと。


妻は。


泣いた。


怒った。


レオンを責めた。


当然。


それでも。


最後には。


「許すとは言えません」


と言った。


レオンは。


「はい」


と答えた。


今も。


許されてはいない。


それでも。


逃げない。


セラが言った勇者に。


少しずつ。


近づいている。


          ◇


ガイル。


運送業。


なぜ。


「何で俺が荷運びなんだよ」


最初。


本人も言った。


魔法輸送が減った。


物資。


運ぶ人。


必要。


そこへ。


グラム。


魔王領。


輸送路。


「だったらお前ら二人で」


俺が言った。


二人同時。


「嫌だ」


でも。


やった。


今。


王国と魔王領を結ぶ最大の輸送組織。


共同代表。


ガイル・バルド。


グラム。


名前。


並んでいる。


「おっさん!」


遠く。


ガイル。


荷車。


「書類増やしたのお前だろ!」


「必要!」


「三枚でいいのを七枚にしただろ!」


「俺じゃない!」


グラム。


後ろ。


「貴様の国の役人だ!」


ガイル。


「じゃあ何とかしろ!」


グラム。


「私は魔王軍だ!」


「共同代表だろ!」


仲良い。


俺。


言うと殴られるから。


黙る。


          ◇


ユリウス。


第一騎士団長。


昇進。


本人。


嫌がった。


「副団長で十分です」


国王。


『なら辞めるか』


「団長になります」


早かった。


今。


騎士団。


改革。


生命炉への王国優先補正。


全廃。


騎士。


貴族。


王族。


同じ。


死刻。


そもそもない。


ただ。


災害。


戦争。


普通の死。


ある。


騎士団は。


人を守る。


昔より。


仕事。


増えた。


俺が会うたび。


「高城殿のせいです」


と言う。


「俺?」


「あなたが一人で決めるなと言ったせいで」


「会議が増えました」


「いいこと」


「一回三刻です」


「それは減らせ」


会議長すぎ。


そこは。


俺も嫌い。


          ◇


ミレイア。


生命炉研究院。


初代院長。


父。


セヴェリン。


副院長。


「逆じゃない?」


俺。


セヴェリン。


「娘の方が詳しい」


素直。


二年で。


かなり変わった。


最初。


二人。


毎日喧嘩。


研究方針。


供給量。


安全係数。


でも。


帰るとき。


一緒。


親子。


そういうものかもしれない。


王国。


昔の補正記録。


全部公開。


当然。


大混乱。


裁判。


抗議。


国王退位要求。


今も続いている。


国王は。


退位していない。


逃げてもいない。


「自分が決めたことだ」


そう言って。


毎月。


議会へ出て。


怒鳴られている。


王様も。


大変。


          ◇


アベル。


魔王。


まだ魔王。


「名前変えないの?」


俺が聞いた。


「面倒だ」


それだけ。


魔王軍。


王国と停戦。


正式和平。


まだ。


ではない。


長年の恨み。


簡単には消えない。


国境。


小競り合い。


ある。


リゼルみたいに。


人間を許していない魔族。


多い。


人間側も。


同じ。


でも。


商人。


先に行き来。


医師。


続く。


子供。


その次。


大人は。


遅い。


アベルは。


生命炉を壊さなかった。


たまに。


高台。


セラの墓。


一人。


行く。


俺は。


見ても。


声をかけない。


それくらいは。


学んだ。


          ◇


ノア。


十二歳くらい。


正確な年齢。


まだ分からない。


出生記録。


作ることになった。


役所。


「姓は?」


職員。


ノア。


「いらない」


「しかし」


「ノアでいい」


「家名が」


「ない」


「では後見人の――」


ノア。


俺を見る。


嫌な予感。


「高城とか?」


「やめて」


即答。


「何でだよ!」


「俺の息子みたいになるだろ!」


「嫌なの?」


「そういう意味じゃない!」


職員。


困る。


結局。


ノア


だけ。


正式登録。


この国では。


初めて。


家名なしの登録を認めた。


理由。


ノアが。


「俺の名前は俺が決める」


と言い張ったから。


議会。


三日。


揉めた。


十二歳。


国を少し変えた。


強い。


          ◇


そして。


俺。


高城修一。


四十八。


から。


五十歳。


異世界生活。


二年。


魔法。


相変わらず。


使えない。


剣。


相変わらず。


下手。


腰。


少し悪化。


「何も成長してないな」


ガイルに言われた。


失礼。


俺は今。


生命炉運用協議会。


調整役。


肩書き。


長い。


実際。


やってること。


会議。


調整。


苦情。


資料。


人員。


進捗。


「会社と同じじゃん」


ノアに言われた。


俺も。


そう思う。


異世界まで来て。


結局。


中間管理職みたいなことをしている。


ただ。


一つ。


変わった。


昔。


誰か。


「手伝いましょうか」


と言われる。


俺。


「大丈夫」


自分で。


今。


「高城さん!」


若い職員。


「東区の供給計算が!」


「ミレイアに聞いて!」


「高城さんじゃなく?」


「俺分からない!」


言える。


「北部の輸送が!」


「ガイル!」


「治癒院から薬の――」


「フィーネ!」


「議会資料!」


「ユリウス!」


「それは私ではありません!」


遠くから怒鳴られた。


違った。


でも。


誰かに。


頼む。


任せる。


分からない。


言う。


昔より。


少し。


できるようになった。


          ◇


広場。


昔。


《天命録》があった場所。


石碑。


撤去してはいない。


壊そう。


という意見もあった。


でも。


残した。


忘れないため。


ただし。


文字。


変えた。


今。


毎朝。


人々が見る。


大きな掲示板。


そこに書かれているのは。


死ぬ人ではない。


《明日、手伝いが必要な人》


東区。


屋根修理。


三名。


南部農園。


収穫補助。


十名。


治癒院。


薬草仕分け。


六名。


北門。


荷物搬送。


八名。


孤児院。


読み聞かせ。


二名。


誰かが。


必要。


誰かが。


手を上げる。


強制ではない。


来ない日もある。


足りない日も。


ある。


でも。


足りなければ。


考える。


          ◇


フィーネが。


隣。


掲示板を見る。


「前のより」


「こっちの方がいいですね」


俺。


「比べるまでもないだろ」


「でも」


フィーネ。


笑う。


「シュウおじさんの名前」


「毎日ありますね」


見る。


一番下。


高城修一


その横。


《運用協議会・書類整理》


必要人数。


一名。


「これ誰が書いた!」


ノア。


遠く。


走る。


「俺!」


「お前!」


追う。


膝。


痛い。


十二歳。


速い。


当然。


「待て!」


「遅え!」


笑い。


広場。


響く。


          ◇


夜。


部屋。


一人。


机。


古い手帳。


二年前から使っている。


汚れ。


血。


折れ。


ページ。


めくる。


マーラ。


フィーネ。


ダリオ。


オルラ。


ヨルン。


セラ。


ユリウス。


全部。


残っている。


最後。


自分。


高城修一


その下。


昔。


赤い文字があった場所。


今は。


何もない。


俺は。


冗談で。


自分の名前を。


もう一度書いた。


一瞬。


目の錯覚か。


薄い文字。


見えた。


高城修一


死刻――未定


「……何だそれ」


笑う。


本当に。


生命炉が出したのか。


俺の目が作ったのか。


分からない。


もう。


どちらでもいい。


手帳。


閉じる。


机の上。


明日の予定。


会議。


給水設備確認。


フィーネの診療所。


ノアの学校から呼び出し。


最後。


《ガイルとグラムの喧嘩仲裁》


「またかよ」


ため息。


でも。


少し笑う。


三十日後の死を知ったとき。


未来は。


そこまでしかないと思った。


今は。


違う。


誰かが決めた未来ではなく。


明日やることが待っている。


それで。


十分だった。


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