第49話 新しい管理者
「高城修一」
エルディオが言った。
「何」
「提案がある」
嫌な予感。
生命炉。
光。
俺の足元。
魔法陣。
「お前が」
「私に代われ」
誰も。
すぐには理解できなかった。
「代わる?」
俺。
「第一管理者」
ミレイア。
顔。
変わる。
「待ってください」
エルディオ。
「異界由来個体は生命炉の既存制約を受けない」
「高城修一なら」
「選定基準そのものを書き換えられる」
俺の心臓。
大きく。
鳴る。
「死刻を」
俺。
「止められる?」
「可能」
「全員?」
「可能」
レオン。
「なら!」
ミレイア。
「待って!」
強い声。
全員止まる。
「代償は」
エルディオ。
「高城修一が第一管理者となる」
「具体的に」
「肉体の生命活動は終了」
フィーネ。
「駄目です」
即答。
「意識は生命炉へ保存」
アベル。
顔。
険しい。
「エルディオと同じになる」
「そうだ」
俺は。
自分の手を見る。
一時間もない。
死刻。
どうせ死ぬ。
なら。
管理者になれば。
意識は残る。
世界も。
変えられる。
「選定基準」
俺。
「どう変えられる?」
「王国による補正を削除」
「できる」
「できる」
「年齢」
「職業」
「家族」
「犯罪歴」
「全部やめる?」
「可能」
「死刻そのものは?」
「供給量が不足すれば必要」
そこ。
変わらない。
でも。
不公平は減らせる。
俺が。
一人一人。
見る。
選ぶ。
もっと。
公平に。
「修一さん」
レオン。
俺は聞こえていた。
でも。
考える。
◇
もし。
俺が管理者なら。
王族だけ守らない。
貧しい人を優先しない。
犯罪歴だけで決めない。
子供。
高齢者。
家族。
全部。
もっと。
公平に。
誰かを選ぶとしても。
今より。
ましに。
できる。
たぶん。
「高城さん」
ミレイア。
「返事をしないでください」
「まだしてない」
「考えないで」
「無理」
「これは」
彼女。
声。
震えている。
「エルディオと同じです」
俺。
見る。
「違う」
「何がです」
「俺なら」
言いかける。
俺なら。
もう少し公平にできる。
その言葉。
口から出る直前。
止まった。
昔。
何度も。
思った。
俺がやった方が早い。
部下へ説明するより。
自分で。
確認するより。
自分で。
失敗されるより。
自分で。
俺なら。
俺が。
その方が。
ちゃんとできる。
気づけば。
仕事が集まる。
部下は育たない。
自分は疲れる。
でも。
俺がいないと回らない。
そう思う。
少し。
嬉しくもあった。
必要とされている。
でも。
本当は。
自分でそういう状態を作っていた。
「……最悪だな」
俺。
エルディオ。
「何が」
「同じだ」
ミレイアが。
何も言わない。
分かったらしい。
「俺なら上手くできる」
「俺なら公平に選べる」
「俺なら」
エルディオを見る。
「五百年前のあんたも」
「最初そう思った?」
沈黙。
長い。
そして。
「そうだ」
静か。
「私は」
エルディオ。
「当時の王より」
「貴族より」
「神官より」
「自分の方が公平だと思った」
「実際」
「公平だった?」
「最初は」
怖い。
「そのうち?」
「必要な情報が増えた」
「判断回数が増えた」
「感情が邪魔になった」
だから。
切った。
苦痛。
悲しみ。
迷い。
少しずつ。
そして。
人を数字で見る。
完全な管理者。
「俺が入ったら」
俺。
「何年持つ?」
「予測不能」
「十年?」
「不明」
「五十?」
「五百?」
答えない。
俺は。
笑う。
「無理だ」
エルディオ。
「何が」
「俺」
「そんなに仕事好きじゃない」
ノア。
「そこ?」
ガイルが。
笑う。
フィーネも。
涙。
出てるのに。
笑う。
俺は続ける。
「四十八年で十分」
「五百年働けとか」
「ブラックすぎる」
ユリウス。
「ブラックとは?」
「ひどい会社」
「生命炉を会社扱いしないでください」
でも。
少し。
空気。
緩む。
◇
エルディオ。
「拒否するなら」
「死刻は実行される」
俺。
「うん」
「お前は死ぬ」
「怖い」
すぐ。
言う。
「ものすごく」
フィーネ。
泣く。
「でも」
俺。
「一人で世界全部決めるより」
「怖いまま」
「みんなで考える方を選ぶ」
エルディオ。
目。
冷たく。
「理想論だ」
「かも」
「失敗すれば」
「うん」
「多くが死ぬ」
「そうならないように」
俺は。
振り返る。
仲間。
「こいつらに働いてもらう」
ガイル。
「最後までそれか」
「課長だから」
ミレイア。
「もう少し自分でも働いてください」
「働いてるよ」
ユリウス。
「指示しかしていません」
「管理職に厳しすぎない?」
ノア。
「おっさん、口ばっか」
「お前まで?」
でも。
嬉しい。
一人じゃない。
◇
「エルディオ」
アベル。
初めて。
前へ。
「お前は」
「私と同じだった」
エルディオ。
「違う」
「同じだ」
アベル。
「私は壊そうとした」
「お前は維持した」
「だが」
「どちらも」
「自分が世界を救わなければならないと思った」
エルディオ。
「誰かがしなければならない」
「そうだ」
アベル。
「だから」
少し。
俺を見る。
「こいつら全員にやらせる」
俺。
「魔王が丸投げ覚えた」
アベル。
「お前に教わった」
「悪い学習」
でも。
方向は。
間違っていない。
◇
エルディオ。
「最後に問う」
俺。
「何」
「誰も選ばなければ」
「世界は間違える」
俺。
少し。
考える。
それから。
「間違えるだろうな」
全員。
静か。
「でも」
俺。
「その間違いまで」
「一人で背負う必要はない」
エルディオの顔。
人間らしく。
歪んだ。
怒り。
悲しみ。
羨ましさ。
どれか。
分からなかった。
その直後。
生命炉。
激しく揺れた。
俺の手帳。
赤い文字。
高城修一
死刻――三十分後
エルディオ。
「時間だ」
俺。
「まだ三十分ある」
「会社なら」
「三十分あれば会議一個できる」
ミレイア。
「長すぎます」
「じゃあ短くしよう」
次。
最後の案。
一人ではなく。
全員で。




