第48話 最も少ない死
エルディオは、
拍手をしなかった。
驚きもしない。
ただ。
俺たちを見る。
周囲。
倒した投影は。
光になって消えた。
死者ではない。
記録。
それだけは救いだった。
「ここまで来た」
俺。
エルディオ。
「予測を上回った」
「それ褒め言葉?」
「事実だ」
ミレイア。
「防衛処理を解除してください」
「できない」
「なぜ」
「生命炉への改変は、世界存続率を著しく低下させる」
俺。
「一時間止めても誰も死ななかった」
エルディオ。
「一時間だからだ」
「うん」
そこは。
否定できない。
「二時間」
「六時間」
「一日」
「七日」
映像。
空中。
次々。
未来予測。
水不足。
病院。
魔物。
飢饉。
死。
「やめろ」
レオン。
映像。
消えない。
「これが現実だ」
俺は。
見る。
目を逸らさない。
怖い。
でも。
必要。
「生命炉を止めるとは言ってない」
エルディオ。
「現在の供給方式を変更すれば効率は低下する」
「分かってる」
「必要供給量を満たせなければ同じ結果となる」
「だから使う量を減らす」
「人は便利を捨てない」
「全員?」
「大多数」
「聞いた?」
エルディオ。
止まる。
「本人に」
俺。
「聞いたの?」
「行動予測で十分だ」
「十分じゃない」
「五百年観測した」
「それでも」
「一人一人に聞いたわけじゃない」
◇
エルディオの目。
青。
光。
「高城修一」
「お前は生命の選定を否定する」
「うん」
「では」
空中。
名前。
出る。
マーラ・エーデン
フィーネ・ラティス
ダリオ・ベルン
オルラ・メイゼン
ヨルン・フェルド
ガイル。
拳。
握る。
エルディオ。
「選定理由を知りたいか」
俺。
「……聞く」
レオンがこちらを見る。
でも。
止めない。
「仕組みを変えるなら」
俺。
「知らないままにはできない」
エルディオ。
最初。
マーラ。
三十九。
洗濯業。
夫死亡。
子なし。
地域経済への影響。
小。
将来予測。
平均。
選定順位。
高。
フィーネ。
一度選定。
しかし。
過去処理済み。
除外。
ダリオ。
荷運び。
妻。
子。
なぜ。
エルディオ。
「同時間帯の候補者の中で」
「死亡による二次損失が最小だった」
「家族いた」
俺。
「他候補には」
医師。
治癒師。
七人の子供を持つ母。
水路技師。
兵士。
いた。
つまり。
比べて。
選んだ。
オルラ。
高齢。
慢性疾患。
扶養一名。
将来生存予測。
短い。
ヨルン。
レオンの顔。
硬い。
エルディオ。
「門兵」
「代替可能」
「技能継承済み」
「娘一名」
「配偶者は就労可能」
レオン。
「もういい」
今度。
声。
冷静。
「十分だ」
エルディオ。
「合理性を理解したか」
レオン。
「した」
全員が見る。
「でも」
レオン。
「納得はしない」
エルディオ。
「感情か」
「はい」
即答。
「非合理的だ」
「そうですね」
レオン。
「でも」
「ヨルンさんの娘の前で」
「父親は代替可能でしたって言えますか」
エルディオ。
沈黙。
◇
「エルディオ」
俺。
「王国の補正は?」
「認識している」
「止めなかった?」
「補正後も総損失が許容範囲内」
吐き気。
「王族守って」
「辺境が死んでも?」
「王の死亡による内乱予測を考慮すれば合理的な場合が多い」
「貴族の温水は?」
「生命炉は用途を判断しない」
「何?」
ミレイア。
「供給要求を満たすだけ?」
「そうだ」
つまり。
生命炉は。
人を殺す。
でも。
その魔力を何に使うかは。
人間側が決める。
治療。
水。
結界。
そして。
庭。
照明。
兵器。
「最悪だな」
ガイル。
エルディオ。
「人間の選択だ」
「責任押しつけるな」
俺。
「事実だ」
「でも」
俺。
「要求が増えたら」
「その分誰か選ぶんだろ」
「世界維持に必要」
「世界維持じゃない要求まで!」
初めて。
声が大きくなった。
「何で拒否しなかった!」
「管理者に用途決定権限はない」
「じゃあ」
俺。
「五百年」
「人間が欲しいって言った分」
「全部用意した?」
「必要量を」
「誰か殺して?」
「最小損失で」
俺は。
笑いそうになった。
悪い意味で。
「課長みたいだ」
エルディオ。
「何?」
「上から仕事振られて」
「無理でも」
「現場にやらせる」
「俺もやったことある」
部長。
数字。
納期。
課長。
部下。
「上が決めたから」
「会社方針だから」
そう言って。
仕事を渡す。
人が足りない。
残業。
でも。
何とかする。
現場は優秀だから。
何とかしてしまう。
すると。
上は。
できると思う。
次は。
もっと来る。
「できるから」
俺。
「やらせ続けたんだ」
エルディオ。
「世界は維持された」
「その代わり」
「誰かが死んだ」
「最小限だ」
「最小限ならいいのか?」
「では」
エルディオ。
一歩。
俺へ。
「お前ならどうする?」
目。
青。
「千人を救うために」
「一人を選ばないのか」
俺。
今度。
すぐには。
分からない、
と言わなかった。
「一人しか方法がないなら」
少し。
「選ぶこともあるかもしれない」
皆。
俺を見る。
エルディオ。
「なら同じだ」
「違う」
「その一人に」
俺。
「自分を入れる」
エルディオ。
初めて。
完全に止まる。
「選ぶ側」
「王」
「管理者」
「勇者」
「俺」
「全員」
「同じ候補に入れる」
「それでも」
「勝手に選ばない」
「本人にも」
「周りにも」
「知ってもらう」
「それで間に合わなければ?」
「間違える」
俺。
「たぶん」
「何人か死ぬこともある」
「でも」
エルディオを見る。
「間違えない一人を作るより」
「間違える全員で考える方を」
「俺は選びたい」
エルディオ。
「それは管理ではない」
俺は。
少し笑った。
「そうかも」
四十八歳。
課長。
ずっと。
管理しようとしてきた。
人。
予定。
仕事。
トラブル。
でも。
人は。
管理しきれない。
「だから」
俺。
「もう全部管理しなくていいんじゃないか」
エルディオの目が。
初めて。
明確に。
揺れた。




