第45話 六時間後、ユリウスは死ぬ
生命炉中枢から出た。
残り。
俺。
十刻。
一時間停止。
開始まで。
六刻。
準備。
ぎりぎり。
「急ごう」
俺。
誰も返事しない。
見る。
ユリウスが。
止まっている。
顔。
おかしい。
「どうした」
「……何でも」
その言葉。
嫌い。
「何でもない顔じゃない」
ユリウス。
俺を見る。
「高城殿」
「何」
「手帳を」
「何で」
「私の名を」
胸。
嫌な。
「書いてください」
レオン。
「ユリウス?」
俺は。
すぐ書かなかった。
「見えた?」
「何が」
「自分に」
ユリウス。
黙る。
この男に。
死刻は見えない。
でも。
生命炉中枢。
エルディオ。
何か。
言われた?
「書いて」
もう一度。
俺は。
手帳。
ユリウス・エーベルハルト
書く。
赤。
出る。
全員。
俺の顔を見る。
ユリウスだけ。
目を閉じる。
「何時間」
聞く。
俺。
声。
出しにくい。
ユリウス・エーベルハルト
死刻――六刻後
一時間停止。
開始予定。
六刻後。
同じ。
◇
「ふざけるな」
ガイル。
通信で戻ってきたばかり。
「今度はこいつか!」
フィーネ。
「六時間?」
「うん」
「助けます」
即答。
ユリウス。
「必要ありません」
全員。
「は?」
俺まで。
「何言ってる」
「私は」
ユリウス。
姿勢。
いつも通り。
「これまで必要な犠牲という言葉を使ってきました」
嫌な予感。
「死刻による犠牲も」
「世界維持に必要なら」
「受け入れるべきだと」
「だから?」
フィーネ。
「自分だけ」
ユリウス。
「例外にはできません」
ガイルが。
殴りそう。
俺が先に。
「馬鹿なの?」
全員。
少し止まる。
ユリウス。
「なっ」
「馬鹿って言った」
「聞こえています!」
「ならよかった」
「高城殿!」
「自分だけ例外にしない」
俺。
「それと」
「死にたいは違う」
「死にたいとは言っていない!」
「じゃあ」
俺は。
近づく。
「死にたくない?」
ユリウス。
止まる。
「……」
「言って」
「何を」
「死にたくないって」
「必要ありません」
「必要」
「なぜ」
「俺が聞きたい」
ユリウス。
顔。
怒る。
「子供ではありません!」
「知ってる」
「騎士です!」
「知ってる」
「必要なら命を捨てる覚悟くらい――」
「覚悟の話してない!」
声。
大きくなる。
「お前がどうしたいか聞いてる!」
部屋。
静か。
ユリウス。
俺。
長い。
「私は」
言う。
止まる。
「王国騎士として」
「役職なし」
「十二勇士として」
「それもなし」
「では何と答えろと!」
「ユリウス・エーベルハルトとして!」
自分でも。
会社で似たこと。
あった。
課長。
主任。
社員。
役職。
人は。
肩書きで答える。
会社としては。
部署としては。
立場上。
でも。
時々。
その人本人が。
何を思っているのか。
消える。
俺自身も。
課長として。
夫として。
父として。
誰かの役をやり続けて。
自分がどうしたいか。
分からなくなることがあった。
「死にたい?」
俺。
「……」
「死にたくない?」
ユリウス。
口。
動かない。
拳。
震えてる。
そして。
小さく。
「……死にたくない」
聞こえた。
「もう一回」
「高城殿」
「聞こえたけど」
ユリウスの目。
赤い。
「死にたくない」
今度。
はっきり。
「私は」
声。
崩れる。
「死にたくない」
フィーネが。
泣く。
ガイル。
顔を逸らす。
レオン。
ユリウスの肩。
叩く。
俺は。
「じゃあ助けよう」
言った。
簡単に。
でも。
今までで。
一番。
迷わなかった。
◇
問題。
死刻を回避すれば。
別人へ。
移る。
同じ方法は使えない。
でも。
一つ。
今までと違う。
六刻後。
生命炉を。
止める予定。
「時間」
ミレイア。
計算。
「ユリウスの死刻と停止開始を一致させる」
「生命炉そのものが止まれば」
「死の収奪処理も」
「止まる可能性があります」
俺。
「移らない?」
「分かりません」
また。
でも。
試す。
「危険すぎる」
ユリウス。
俺。
「本人が生きたいって言った」
「だからと言って」
「一人で決めない」
俺は全員を見る。
「やるか」
レオン。
「やります」
フィーネ。
「やります」
ガイル。
「当たり前だ」
ミレイア。
「理論上は成立します」
「それ賛成?」
「賛成です」
リゼル。
「人間一人のためではない」
「実証のためだ」
「はいはい」
グラム。
「魔王軍は配置済みだ」
アベル。
「止めろ」
ユリウス。
みんな。
本人より。
やる気。
「勝手な人たちですね」
ユリウス。
俺。
「仲間ってそういうとこある」
◇
六時間。
王都。
魔王領。
辺境。
全部。
動く。
王都の井戸。
手動ポンプ。
準備。
治癒院。
薬。
包帯。
血止め。
搬送。
封印施設。
兵。
魔族。
人間。
並ぶ。
「人間と組む日が来るとはな」
魔族兵。
「こっちの台詞だ」
王国兵。
その間。
ガイル。
グラム。
「喧嘩すんな!」
同時に怒鳴る。
二人。
顔を見合わせる。
「真似するな」
また同時。
周囲。
少し笑う。
◇
フィーネ。
治癒院。
若い治癒師たち。
「魔法が消えたら」
「傷を洗う」
「押さえる」
「呼吸」
「順番」
いつもの少女ではない。
教えてる。
リゼルが横。
薬草。
「これは人間には量を半分」
「どうして」
「効きすぎる」
「魔族用なんですね」
「そうだ」
フィーネ。
「ありがとうございます」
リゼル。
「何度言わせる。礼は要らん」
でも。
少し。
嬉しそう。
◇
レオン。
避難所。
子供。
老人。
「一時間だけ灯りが消えます」
「怖がらなくて大丈夫」
子供。
「勇者様もいる?」
レオン。
少し。
「いる」
「でも」
剣を見る。
「今日は剣より」
ランタン。
持つ。
「こっちの仕事かな」
◇
俺。
王城地下。
時計。
死刻。
ユリウス。
隣。
ミレイア。
十二勇士の同期。
遠隔。
六人。
アベル。
生命炉中枢。
エルディオ。
向こう。
見ている。
高城修一
死刻――四刻後
俺の方が。
ユリウスより少し後。
今は。
考えない。
一つずつ。
「残り十分」
ミレイア。
ユリウス。
椅子。
座る。
フィーネも。
魔導通信。
こちらを見る。
「脈」
「正常」
「魔力」
「正常」
五分。
三分。
一分。
ユリウスの名前。
死刻――一分後
俺の手。
汗。
「十二勇士」
ミレイア。
「権限接続」
紋章。
十二。
光。
エルディオの声。
生命炉から。
『停止要求を拒否する』
ミレイア。
「外部管理権限を優先!」
『世界維持に危険』
俺。
「承知!」
『死亡予測、増加』
「分かってる!」
『非合理的』
「それも分かってる!」
十秒。
ユリウス。
目を閉じる。
フィーネ。
「ユリウスさん!」
「大丈夫です」
俺。
「その言葉禁止」
ユリウス。
少し笑う。
五。
四。
三。
二。
一。
ミレイア。
叫ぶ。
「生命炉――停止!」
音が。
消えた。
本当に。
世界から。
何か。
抜けた。
王都の灯り。
一斉に。
消える。
魔導線。
暗く。
噴水。
止まる。
遠く。
結界。
薄くなる。
治癒院。
魔法。
消える。
そして。
ユリウス。
胸を押さえる。
「――っ!」
フィーネ。
「来た!」
生命。
奪われる。
でも。
途中。
止まる。
ユリウス。
息。
荒い。
倒れる。
「ユリウス!」
俺。
名前。
見る。
死刻――零
赤。
残る。
十秒。
二十。
三十。
移らない。
ユリウス。
息。
ある。
一分。
赤い文字。
揺れる。
そして。
消えた。
「……消えた」
俺。
ミレイア。
「他の対象は?」
手帳。
俺に見える範囲。
新しい名前。
ない。
フィーネ。
通信。
「ユリウスさん、生きてます!」
ユリウス。
薄く目。
開く。
「だから」
声。
弱い。
「死にたくないと」
「言ったでしょう」
俺。
笑う。
「うん」
初めて。
死刻を回避して。
誰にも。
死が移らなかった。
ただし。
同じ瞬間。
遠く。
巨大な咆哮。
封印施設。
魔物。
動き出す。
王都。
暗闇。
治癒院。
人力へ。
水。
止まる。
世界。
一時間。
魔法なし。
本当の試験は。
ここからだった。
生命炉を止めれば。
誰か一人を殺さなくて済む。
それは証明できた。
次は。
その代わりに。
何人を守れるのか。
俺たちは。
世界そのものから。
答えを求められていた。




