第42話 ノアは存在しない
生命炉の中枢へ入る。
その方法を探すため。
俺たちは再び、
王城地下へ降りた。
「また地下?」
ノアが嫌そうな顔。
「この世界、大事なもの地下に置きすぎじゃね?」
「盗まれにくいからじゃない?」
俺。
「俺なら地上の方が逃げやすくて好き」
「おっさんは逃げる前提なんだな」
最近。
逃げること多かったから。
◇
同行。
俺。
ミレイア。
ユリウス。
ノア。
レオン。
他は停止準備。
ガイルとグラムは封印施設。
フィーネとリゼルは治癒院。
アベルは魔王領。
少人数。
俺は少し不安だった。
でも。
全員連れていく必要はない。
それも。
今は分かる。
◇
王城地下。
死刻候補者の評価室。
さらに奥。
ミレイアが、
父から入手した古い地図。
「この先です」
扉。
古い。
監察局のものとは違う。
壁と一体。
文字。
《生命中枢管理領域》
「鍵は?」
俺。
ユリウス。
「王家の封印鍵です」
「持ってる?」
「ありません」
「じゃあどうするの」
ミレイア。
「父の記録では、王家の鍵を用いても第一扉までです」
「その先は?」
「十二勇士権限」
なるほど。
俺たち。
「じゃあレオン」
「はい」
手を。
扉。
光る。
でも。
開かない。
「俺も?」
触れる。
反応。
文字。
《権限不足》
「十二人必要?」
ミレイア。
「可能性があります」
「今全員いない」
「そもそも十二勇士全員が王都に集まっていません」
困った。
そのとき。
ノア。
扉へ近づく。
「これ触っていい?」
「待て」
俺。
遅い。
触る。
何も。
起きない。
警報も。
光も。
「ほら」
ノア。
「何もねえ」
「そりゃ権限ないから」
レオン。
でも。
ミレイアが変な顔。
「違います」
「何が」
「拒絶されていない」
俺たちは見る。
俺。
権限不足。
レオン。
権限不足。
ユリウスも試す。
権限不足。
ミレイア。
権限不足。
ノア。
何も表示されない。
「また」
俺。
「存在しない?」
ノア。
「その言い方嫌い」
ごめん。
◇
ミレイアが術式を調べる。
時間。
長い。
ノアは床に座り込む。
「腹減った」
「さっき食べた」
「地下来ると腹減る」
「理屈おかしい」
しばらく。
ミレイア。
「おかしい」
「何が」
「この扉」
彼女が壁の文字を指す。
「登録された生命に対して反応する構造です」
「王国登録?」
「違います」
「生命炉です」
ノアを見る。
「でも俺、生命炉にはつながってるって魔王言ってたぞ」
「そのはずです」
「じゃあ」
ミレイアが。
言葉を失う。
俺は。
妙なことを思い出す。
ノア。
出生記録なし。
王国の識別紋なし。
でも。
生命炉には接続されている。
アベルは言った。
この世界に生まれたなら。
なら。
なぜ。
この扉だけ。
反応しない。
「ノア」
俺。
「母親のこと覚えてる?」
少年の顔が変わる。
「ちょっと」
今まで。
ほとんど聞かなかった。
話したくなさそうだったから。
「無理ならいい」
「……」
ノア。
少し考える。
「顔はあんまり」
「声は?」
「ちょっと」
「何か言われた?」
長い。
「名前」
「何?」
「役所とか神殿で」
ノア。
「名前言うなって」
全員。
止まる。
「何で」
「知らねえ」
「お母さんが?」
「うん」
「見つかったら」
ノア。
声。
小さい。
「連れてかれるって」
◇
母親。
名前。
マリア。
それだけ。
姓。
ノアは知らない。
宿場。
移動。
村。
何度も変えた。
神殿の登録。
しない。
出生記録。
ない。
「死刻を」
ミレイアが呟く。
「恐れていた?」
ノア。
「母ちゃん、赤い字とか言ってた」
俺の心臓が動く。
「何て」
「人の名前書く石」
「嫌いって」
天命録。
たぶん。
「だから」
俺。
「登録しなかった」
でも。
王国登録を避けても、
生命炉には接続される。
そこは変わらない。
では。
何が違う。
ミレイアが、
扉の古い術式をさらに読む。
「これは」
顔が変わる。
「生命炉への接続そのものではありません」
「じゃあ?」
「生命炉が把握している個体識別情報」
名前。
生年月日。
血縁。
居住。
履歴。
評価。
全部。
「ノアには」
ミレイア。
「それがない」
生命炉は。
ノアが生きていることは知っている。
魔力を持つ存在として。
でも。
誰なのかを知らない。
「だから」
俺。
「死刻対象として評価できない?」
ミレイア。
「可能性があります」
ノアが立ち上がる。
「じゃあ俺」
「死なない?」
「違う」
俺はすぐ言った。
セラ。
死刻なし。
死んだ。
「死刻に選ばれにくいだけ」
「普通には死ぬ」
ノア。
「なんだ」
残念そうにするな。
◇
「扉」
レオン。
「通れるのでは?」
全員が見る。
ノア。
「どうやって」
触る。
何も。
ミレイア。
「押してみて」
ノアが押す。
重い。
「無理!」
「ガイルいれば」
いない。
俺とレオン。
手伝う。
でも。
俺たちが触れると。
《権限不足》
扉が固定。
「邪魔になってる」
ノアが笑う。
「おっさん役立たねえ」
「今だけな」
三人離れる。
ノア。
一人。
押す。
重い。
でも。
ほんの少し。
開いた。
「うそ」
俺。
「ノア!」
レオンが手を出そうとする。
「触るな!」
ミレイア。
ノアだけ。
隙間。
広げる。
十センチ。
二十。
「俺、すげえ!」
「すごいけど無理するな!」
「どっちだよ!」
隙間。
少年一人。
通れる。
ノアが向こうへ。
「待て!」
俺。
もう行った。
扉。
向こう。
暗い。
「ノア!」
「聞こえてる!」
声。
遠い。
「戻れ!」
「ちょっと見るだけ!」
子供。
本当に。
言うこと聞かない。
◇
数分。
長い。
俺。
扉の前。
何もできない。
最悪。
また。
ノア一人。
危険なところ。
自分で選ばせた。
でも。
止めきれなかった。
胸がざわつく。
「おっさん!」
声。
戻る。
ノア。
隙間から。
顔。
「何かあった!」
「何!」
「いっぱい名前!」
また?
「あと」
少年が何か持っている。
小さな金属片。
十二角形。
中央。
勇士の紋章。
ミレイアが受け取る。
文字。
読む。
顔。
変わる。
「何て?」
俺。
彼女。
ゆっくり。
「管理鍵」
「十二勇士」
その下。
古語。
訳す。
十二の外部判断権限をもって、生命炉の一時停止を許可する。
俺たちは。
魔王を倒すための勇士ではなかった。
少なくとも。
元々は。
生命炉を止めるための。
鍵だった。
ノアは。
記録に存在しないからこそ。
その事実を。
誰より先に見つけた。




