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天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


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第41話 国王は黒幕ではない

王都へ戻ることになった。


つい数日前まで、


捕まって、


逃げて、


魔王軍に連れられて出てきた場所。


そこへ自分から戻る。


「俺たち、学習能力ないのかな」


俺が言うと、


ユリウスが真顔で答えた。


「高城殿だけかもしれません」


「ひどくない?」


「王都で指名手配されている状態で正門から入ろうとした人に言っています」


「正門が一番近い」


「そういう問題ではありません」


結局。


正門からは入らなかった。


セヴェリンが用意した魔導院の地下通路。


ミレイアの父。


味方になったわけではない。


でも。


生命炉停止に備えた非常時対応資料を作った。


少なくとも、


俺たちを即座に捕らえるつもりはないらしい。


たぶん。


「たぶんで王城入るの怖いな」


「今さらです」


ミレイア。


最近、


この子も俺への扱いが雑になってきた。


          ◇


王城地下。


セヴェリンが待っていた。


「来たか」


第一声。


歓迎の気配はない。


「娘がお世話になってます」


俺が言う。


ミレイア。


「なぜ今それを言うんです」


「親に会ったから」


セヴェリンは無視した。


「国王陛下がお会いになる」


ユリウスの表情が変わる。


「陛下が?」


「ああ」


「我々は反逆容疑を」


「承知の上だ」


俺は聞いた。


「罠?」


セヴェリンがこちらを見る。


「本人に聞け」


そういう返し。


ミレイアと似ている。


やっぱり親子だ。


          ◇


謁見の間。


思っていたより人が少なかった。


近衛騎士。


側近。


国王。


六十歳前後。


豪華な衣装。


冠。


いかにも王様。


でも。


疲れていた。


顔。


目。


会社で月末の役員会から出てきた部長に少し似ている。


もっと偉いが。


俺たちは跪かなかった。


というより。


俺は作法を知らない。


ユリウスだけ片膝。


レオンもそれに倣う。


ガイルは立ったまま。


ノアも。


フィーネは迷って、


中途半端に頭を下げた。


統一感ゼロ。


国王がこちらを見る。


「高城修一」


「はい」


「異邦人と聞いていたが」


少し間。


「随分と礼儀を知らぬな」


「すみません」


「そこは謝るのか」


「知らないものは知らないので」


国王の口元が、


ほんの少しだけ動いた。


笑った?


すぐ消えた。


          ◇


「生命炉を一時停止するつもりだな」


いきなり本題。


「はい」


俺。


「許可は出さぬ」


「ですよね」


「驚かぬのか」


「許可出ると思って来てないので」


ユリウスが後ろで、


小さく息を吐いた。


たぶん頭痛。


国王。


「では何をしに来た」


「確認」


「何を」


俺は手帳を出す。


「陛下は」


少し迷う。


「生命炉が死ぬ人を選んでること、どこまで知ってます?」


近衛が動く。


国王が手を上げる。


止める。


「全てではない」


「王国が評価値を補正してることは?」


「知っている」


ミレイアの表情が硬くなる。


「止めなかった?」


「止めていない」


「何で」


「国を維持するためだ」


また。


同じ言葉。


セヴェリン。


ユリウス。


アベル。


立場は違う。


でも。


みんな最終的に、


国。


世界。


大勢。


そこへ行き着く。


「王族の補正も?」


「ある」


「自分も?」


「ある」


即答だった。


意外。


「外さない?」


「外さぬ」


ガイルが鼻を鳴らす。


「結局、自分が惜しいだけじゃねえか」


近衛が剣へ手。


国王は止めない。


でも怒りもしない。


「そう見えるだろうな」


「違うのか」


「半分は同じだ」


ガイルが眉を寄せる。


国王。


「私は死にたくない」


静か。


「王でも同じだ」


妙に。


その一言だけは、


信用できた。


          ◇


「だが」


国王が続ける。


「王が突然死ねば、内乱の可能性がある」


「継承争い」


「軍閥」


「周辺国」


「魔王領との戦争」


アベルがいたら嫌な顔をするだろう。


「一人の王を守ることが」


国王。


「数千の民を守ることにつながる場合もある」


「だから補正?」


「そうだ」


合理的。


また。


俺は嫌になる。


間違っていると言い切りにくい話ばかり。


「でも」


俺。


「王様が自分でそう判断するのは?」


国王の目が変わる。


「何が言いたい」


「自分が死んだら国が困る」


「だから自分を死ににくくする」


「それ」


少し間。


「本人が決めていい?」


謁見の間。


静か。


俺は会社で、


自分の部署の人員要求書を書いていたころを思い出す。


うちには人が必要。


他部署より重要。


本気でそう思っていた。


他部署の課長も、


同じことを思っていた。


全員の要求を足せば、


会社の採用予定人数の倍を超えた。


自分の場所は、


自分には重要に見える。


当然だ。


「陛下が重要じゃないとは言わない」


俺は言う。


「でも、自分で自分の価値を決める仕組みは」


「たぶん歪む」


国王は答えなかった。


          ◇


「一つ聞く」


今度は国王。


「お前たちは、私が生命炉を作ったと思っているのか」


俺たちは顔を見合わせた。


「作ったとは」


ミレイア。


「思っていません」


「では王家が支配していると?」


「少なくとも補正には関与しています」


「補正だけだ」


国王。


「生命炉そのものへ王家は命令できぬ」


「停止も?」


「できぬ」


「死刻の対象変更も?」


「できぬ」


「なら」


俺。


「生命炉から何か指示が来る?」


国王が黙った。


当たり。


「何が来る」


ミレイア。


セヴェリンが父親を見るような目で国王を見る。


やっぱり知っているのか。


国王が、


側近へ合図。


古い箱。


中。


薄い金属板。


文字。


《神託》。


「神様?」


ノア。


国王が苦い顔。


「そう呼んできた」


内容。


魔力不足。


必要供給量。


推奨補正。


十二勇士の選定。


戦争時の優先地域。


王家は。


その指示を、


何百年も受け取ってきた。


「誰から?」


俺が聞く。


「分からぬ」


「生命炉?」


「そう考えている」


つまり。


国王も。


最上位ではない。


「……上司いたんだ」


思わず言った。


国王。


「何?」


「王様にも」


「誰を上司と言っている」


「生命炉」


ユリウスが顔を覆った。


          ◇


俺は変な感覚になった。


王国。


怪しい。


国王。


黒幕。


そういう方が簡単だった。


悪い王。


倒す。


終わり。


でも。


違う。


王は隠した。


利用した。


犠牲を増やした。


責任はある。


かなり。


でも。


一番上ではない。


「陛下」


レオンが聞く。


「なぜ国民へ公表しなかったのです」


国王。


「恐慌を恐れた」


「自分が死ぬかもしれないと知れば」


「民は生命炉を止めろと言う」


「止めれば魔法が失われる」


「説明すれば」


「理解すると思うか?」


レオンは答えられない。


俺も。


会社でも。


悪い情報を、


現場が混乱するから、


と上が止めることがある。


本当に配慮のこともある。


自分たちが責められたくないだけのこともある。


たぶん。


両方混ざる。


「それでも」


俺は言った。


「知らないまま死なされるよりは」


国王を見る。


「知って怒る権利くらいあると思う」


国王。


長い沈黙。


「異邦人」


「はい」


「お前は」


少し。


「王に向いていないな」


「やる気ないです」


「だろうな」


今度は。


少しだけ笑った。


          ◇


謁見を終える直前。


国王が言った。


「一時間の停止」


全員が振り返る。


「許可は出せぬ」


やっぱり。


「だが」


一枚の紙をユリウスへ。


王都騎士団。


非常時訓練。


明日。


「私は」


国王。


「何も知らぬ」


ユリウスが紙を見る。


「陛下」


「何も知らぬと言った」


セヴェリンが目を閉じる。


ミレイアも。


俺は。


「それ、会社でよくあるやつ」


と呟いた。


国王。


「何だ」


「責任取りたくない上司が」


「聞こえているぞ」


「すみません」


でも。


紙は本物。


準備。


できる。


国王は黒幕ではなかった。


善人でもない。


ただ。


世界を維持するという言葉の中で、


自分のしたことを正しいと思おうとしてきた一人の人間だった。


そして。


生命炉の向こうには。


王ですら従ってきた、


何かがいる。


俺たちが本当に会わなければならない相手は。


まだ。


もっと下にいた。

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