第39話 魔法の消えた夜を想像する
「一時間止める」
俺が言った。
「却下」
ミレイア。
「早い」
「危険すぎます」
「じゃあ何が危険か出そう」
「全部です」
「具体的に」
ミレイアが睨む。
でも。
紙を出す。
こういうところ。
本当に仕事ができる。
◇
一時間。
生命炉停止。
王都。
何が止まるか。
水。
上層区の給水。
一部停止。
地下水槽あり。
病院。
高位治癒魔法。
停止。
ただし。
薬と低位術は、
個人魔力で一部使える。
結界。
外周。
蓄積魔力で二刻程度は維持。
農業。
一時間なら大きな影響なし。
照明。
消える。
娯楽。
止まる。
「意外と」
俺。
「一時間なら大丈夫?」
ミレイア。
「計算上は」
「計算上」
怖い言葉。
ユリウス。
「王都だけなら」
「他都市は?」
「蓄積設備に差があります」
「最悪は」
グラム。
「辺境の封印施設だ」
大型魔物。
封印。
蓄積魔力の少ない場所。
停止した瞬間。
危険。
「じゃあ」
俺は地図。
「事前に人を置く」
アベル。
「王国側へどう知らせる」
「知らせる」
全員が俺を見る。
「何?」
ユリウス。
「正気ですか」
「黙って止める方が危ない」
「王国は認めない」
「認めてもらうんじゃない」
「では?」
「避難訓練」
言ってから。
自分でも会社員らしすぎると思った。
◇
「生命炉を止めるとは言わない」
俺。
「魔力供給障害の可能性がある」
「その想定で」
「一時間」
「手作業で回す準備をする」
ユリウス。
「王国が応じると思いますか」
「理由つけて」
「何と」
「魔王軍が生命炉を狙ってる」
リゼル。
「事実だな」
アベル。
「狙っている」
「嘘ではない」
ミレイア。
「本当に課長ですか」
「何で」
「悪知恵が」
「失礼」
◇
俺は昔。
防災訓練の担当をしたことがある。
正直。
面倒だった。
避難経路。
安否確認。
非常食。
BCP。
災害時業務継続計画。
資料を作る。
社員から、
「本当にこんなの必要ですか」
と聞かれる。
俺も心の中では思っていた。
でも。
台風。
停電。
一度だけ。
会社の一部が本当に止まった。
そのとき。
訓練で決めた連絡網が役に立った。
完璧じゃない。
でも。
ゼロよりましだった。
「非常時って」
俺は言う。
「起きてから考えると遅い」
だから。
準備。
◇
班分け。
フィーネ。
治癒院。
魔法が使えない一時間。
薬。
止血。
搬送。
「人手足ります?」
「足りない」
「じゃあ治療師以外も訓練」
「誰が教える?」
「フィーネ」
「私?」
「できる?」
少女が少し固まる。
これまで。
フィーネは、
治療する側。
教える側ではない。
「私に」
「無理?」
俺は聞く。
「……やります」
「頼む」
成長。
本人にしかできない。
◇
ガイルとグラム。
水。
食料。
封印施設。
「また一緒か」
ガイル。
「嫌なら」
俺。
「いや」
止まる。
「……いい」
グラムも何も言わない。
少しだけ。
変わった。
◇
レオン。
避難所。
市民誘導。
「戦わなくていいんですか」
「必要なら戦う」
「でも」
「お前、人から信頼されやすい」
レオン。
少し困る。
「そうでしょうか」
「俺が『避難してください』って言うより勇者が言った方が聞く」
「修一さんも勇者です」
「見た目」
「……」
否定しないで。
◇
ミレイア。
供給点。
生命炉停止。
十二勇士権限の解析。
ユリウス。
王国騎士団。
合法かどうかは、
もう聞かない。
「騎士団を動かせる?」
俺。
「私が直接動かせる範囲には限界があります」
「じゃあ」
「現場指揮官に危機対応訓練として通達します」
「できる?」
「やります」
短い。
強い。
◇
リゼル。
魔物。
境界。
「嫌だ」
「まだ何も言ってない」
「人間と協力する話だろ」
「正解」
「嫌だ」
フィーネが横から。
「お願いします」
リゼル。
「……」
俺。
「俺が頼むより効く?」
「黙れ」
でも。
引き受けた。
◇
アベル。
全体。
魔王軍。
封印地点。
国境。
俺と。
「お前は?」
アベルが聞く。
「何」
「何を担当する」
少し考える。
以前なら。
何か一つ。
現場。
自分の担当。
欲しかった。
仕事をしている実感。
でも。
「全体」
「またか」
「各班の進み具合確認」
「それだけか」
「それが仕事」
アベルが少し笑う。
「ようやく管理者らしいことを言う」
「元から課長」
「カチョウというのは管理者ではないのか」
「微妙」
説明が難しい。
◇
その日の夜。
各班から報告。
問題。
山ほど。
治癒院。
薬不足。
水。
運搬具不足。
封印。
兵不足。
王都。
協力拒否の貴族区。
魔族側。
人間と共同作業を嫌がる者。
俺は一つずつ。
全部自分で解決しない。
「薬不足」
フィーネ。
「代替は?」
「魔族の薬草なら」
「リゼルへ」
「もう聞きました」
先回り。
「水運搬」
ガイル。
「荷車が足りねえ」
「商人組合」
ユリウス。
「連絡済みです」
「兵不足」
グラム。
「辺境民の自警団」
レオン。
「協力を取り付けます」
俺が言う前に。
みんな。
自分でつなぎ始めている。
不思議だった。
少し寂しくもある。
課長時代。
部下が育つと。
自分が要らなくなったように感じる瞬間があった。
でも。
本当は逆だ。
自分がいなくても回る。
それが。
一番いい。
「シュウおじさん」
フィーネ。
「何にやにやしてるんです?」
「してない」
「してます」
「みんな仕事できるなって」
ガイル。
「今さらか」
ミレイア。
「高城さんが全部口を出さなくなったので効率が上がりました」
「それ褒めてる?」
「かなり」
前にも似たこと言われた気がする。
◇
寝る前。
手帳。
高城修一
死刻――一日と二十刻後
二日を切った。
でも。
昨日より。
怖さだけではなかった。
一時間。
魔法が消える。
まだ実行するかは決まっていない。
でも。
もし。
世界が一時間だけ、
生命炉なしで耐えられたら。
証明できる。
「止めたら全部終わる」
それが。
本当ではないと。
そして。
壊さなくても。
変えられる可能性があると。




