第38話 裏切り者ユリウス
夜。
ユリウスが消えた。
正確には。
王国側の資料を確認すると言って出て、
戻らなかった。
予定時刻を二刻過ぎた。
ガイル。
「やっぱり逃げたんじゃねえか」
「まだ分からない」
俺。
「王国へ戻った」
リゼル。
「裏切りだ」
「まだ決めない」
「お前はそればかりだな」
そう。
でも。
今は前と違う。
信じたいから待つ。
それだけではない。
戻らない場合も考える。
「レオン」
「はい」
「ユリウスなしで王国側の情報どこまで埋められる?」
「騎士団の公開資料なら」
「ミレイア」
「王都分は私が」
「ガイル」
「何だ」
「捜索行く?」
「お前が決めろ」
「行ってほしい」
即答。
ガイルが少し驚く。
最近。
俺も変わった。
「グラムと二人」
「またこいつか」
「時間ない」
グラム。
「私は構わん」
「俺が構う」
「じゃあ一人で」
「行く!」
面倒。
◇
俺の死刻。
二日と十八刻。
時間表示が細かくなっていた。
見たくないのに。
目が行く。
三日もない。
でも。
ユリウスを探す。
生命炉を調べる。
王国の供給点。
やること。
多い。
昔なら。
全部頭に入れようとした。
今は。
紙。
役割表。
担当。
期限。
「シュウおじさん」
フィーネ。
「これ」
薬草。
包帯。
器具。
「治癒魔法なしでも使えるものをまとめました」
「ありがとう」
「リゼルさん、すごいんですよ」
「何が」
「魔族の薬に詳しいです」
リゼル。
「当然だ」
「褒められてるんだから喜べば」
「黙れ」
いつも通り。
少し安心。
◇
深夜。
ガイルとグラムが戻る。
一人連れて。
ユリウス。
傷だらけ。
「何した!」
俺が立つ。
ユリウス。
「挨拶くらい」
「その顔で?」
頬。
切り傷。
鎧。
焼けてる。
肩。
血。
フィーネが走る。
「座って!」
「先に報告を」
「治療!」
「報告!」
二人。
譲らない。
俺。
「治療しながら報告」
両方見る。
「これで」
フィーネ。
「仕方ないです」
ユリウス。
「妥当です」
中間案。
便利。
◇
ユリウスは、
王国領へ戻っていた。
正規の国境砦。
副団長の身分を使い。
資料を確認。
そして。
持ち出そうとして。
止められた。
「持ち出した?」
俺。
「はい」
「盗んだ?」
「権限内です」
「本当に?」
「一部は」
「一部?」
「……権限外です」
ガイルが笑う。
「立派な反逆者じゃねえか」
ユリウスの顔。
険しい。
「反逆ではない」
「王国の機密盗んで魔王城持ってきたんだろ」
「王国を守るためだ」
「同じだろ」
「違う!」
ユリウスが立とうとする。
フィーネ。
「動かない!」
座る。
強い。
「何が違う」
俺が聞く。
ユリウス。
少し考える。
「王国を裏切るつもりはありません」
「うん」
「私は今も王国の騎士です」
「うん」
「だからこそ」
拳。
握る。
「王国が間違っているなら、止めなければならない」
静か。
俺は。
その言葉を聞いて、
少しだけ嬉しかった。
会社員時代。
会社に不満を言う人。
辞めた人。
残った人。
いろいろいた。
俺は長く残った。
だから。
会社の悪いところを指摘すると、
会社が嫌いなのか、
と言われることがあった。
違う。
残りたいから。
良くしたいから。
言うこともある。
組織を守る。
それは。
上の命令に従うことだけじゃない。
「いいと思う」
俺が言う。
ユリウス。
「何が」
「その考え」
「あなたに認められる筋合いはありません」
「またそれ」
いつもの調子。
戻ってきた。
◇
資料。
王国の魔力需要。
俺たちは、
数字を見て。
言葉を失った。
「これ」
ミレイア。
「軍事用途が多すぎます」
生命炉供給のうち。
約三割。
軍。
防衛だけではない。
攻撃兵器。
大型魔導砲。
兵器工房。
さらに。
王都の夜間照明。
貴族区の温水設備。
空中庭園。
娯楽施設。
「これ」
俺。
「全部必要?」
ユリウスの顔が硬い。
「必要とされてきました」
「水は?」
「必要」
「治癒」
「必要」
「農業」
「必要」
「貴族の庭を冬でも咲かせる魔法」
沈黙。
ノア。
「いらなくね?」
全員。
「うん」
珍しく一致。
生命炉。
止められない理由。
本当にある。
でも。
使っている量。
必要以上。
犠牲。
増えている。
「最低限まで落とせば」
ミレイアが計算。
「必要魔力量を四割近く削減できる可能性があります」
四割。
つまり。
生きている人から集める量も、
大幅に減る。
「できる」
俺が言った。
アベル。
「まだ足りない」
「でも近づいた」
「人々が便利さを捨てると思うか」
「それも聞く」
アベル。
「またそれか」
「勝手に決めるよりいい」
セラなら。
たぶん。
そう言った。
◇
ユリウスが一枚の紙を出す。
「もう一つ」
「何」
「生命炉を」
少し間。
「短時間だけ停止した記録があります」
全員が止まる。
「いつ?」
「百二十七年前」
「時間」
「およそ一刻」
「何で?」
「十二勇士の権限試験」
十二勇士。
俺たち。
ミレイアが紙を奪うように取る。
「これは……」
アベルも見る。
表情が変わる。
「知らなかったのか」
俺。
「ああ」
ユリウス。
「王国でも最高機密です」
生命炉。
一時間。
止められる。
壊さず。
止める。
俺は。
その言葉に、
妙な希望を感じた。
同時に。
嫌な予感も。
止めたとき。
何が起きる。
それを。
知る必要がある。




