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天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


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第36話 死亡予定、三日後

セラを埋葬した翌朝。


魔王城は静かだった。


いつもなら訓練場から聞こえる武器の音もない。


兵士たちも声を落としている。


セラは魔族ではない。


この城の人間でもない。


それでも。


魔王アベルが自ら墓を作った。


その事実だけで、


城にいる者たちは何かを察したらしい。


俺は一人で食堂へ向かった。


途中。


何度も、


セラが角から出てきそうな気がした。


「朝から死人みたいな顔するんじゃないよ」


そんな声が聞こえそうで。


当然。


聞こえない。


こういうとき。


人が死んだことより、


もう会えないことの方が、


少し遅れて効いてくる。


          ◇


食堂。


フィーネはすでにいた。


パンを前にしている。


食べていない。


「おはよう」


「……おはようございます」


隣へ座る。


何も言わない。


しばらくして。


フィーネがパンを一口かじった。


俺も食べる。


それでいい。


ガイル。


レオン。


ミレイア。


ユリウス。


ノア。


順番に来る。


最後。


アベルは来なかった。


グラムだけ。


「魔王様は?」


レオン。


「執務室だ」


「食事は」


「不要だと言った」


俺は立ち上がる。


グラム。


「どこへ行く」


「執務室」


「一人にしておけ」


「そうしたいけど」


俺は少し考えた。


「一人で仕事始めるタイプは危ない」


「何だそれは」


「知ってる」


昔。


部下の家族が亡くなった。


忌引きを取れと言った。


本人は、


大丈夫です。


仕事してた方が気が紛れます。


と言った。


俺は信じた。


その日の午後。


誰もいない会議室で、


一人で泣いていた。


仕事は、


悲しみを消さない。


見えなくするだけのことがある。


「五分だけ見てくる」


グラムは止めなかった。


          ◇


執務室。


ノック。


返事なし。


開ける。


アベルは机にいた。


大量の書類。


本当に仕事している。


「邪魔する」


「もうしている」


「そう」


机。


地図。


魔王軍の補給。


国境警備。


死者。


負傷者。


魔王というより、


完全に組織の責任者だった。


「寝た?」


「必要ない」


「人間だったころから?」


「今は人間ではない」


「質問の答えになってない」


アベルがペンを置く。


「何の用だ」


「特にない」


「なら出ていけ」


「食べた?」


「高城」


低い。


怒ってる。


でも。


「食べてないんだろ」


「必要ない」


「じゃあスープだけ持ってくる」


「要らん」


「分かった」


俺は扉へ向かう。


アベルが少し驚いた顔。


「持ってこないのか」


「要らないって言っただろ」


「……」


「でも一刻後にもう一回聞く」


「面倒な男だ」


「よく言われる」


部屋を出た。


一人にする。


でも。


放置はしない。


俺にできることは、


その程度だった。


          ◇


昼前。


ミレイアに呼ばれた。


魔王城の資料室。


机いっぱい。


王国から持ち出した記憶晶。


アベル側の資料。


古い研究書。


「見つけました」


ミレイアの顔が違う。


眠っていない。


「まず寝た?」


「高城さん」


「大事」


「あとで寝ます」


信用しない。


でも。


今は聞く。


「何?」


ミレイアが一冊の古い研究書を開く。


《生命炉代替供給試験》


「代替?」


「生命炉が死者から得ているのは、厳密には命そのものではありません」


「どういうこと」


「生命力に含まれる魔力です」


フィーネの母。


生命経路転移。


あれと同じ。


「生きてる人からも取れる?」


「少量なら」


俺は顔を上げる。


「人が死ななくても?」


「理論上は」


その一言。


初めて。


少しだけ先が見えた。


だが。


ミレイアはすぐ続けた。


「実用化されていません」


「何で」


「効率です」


死者一人から回収できる魔力。


大きい。


生きている人間から、


安全な範囲で取れる量。


小さい。


「何人必要?」


「用途によります」


「例えば町の結界一日」


ミレイアが計算。


紙。


数字。


止まる。


「少なくとも数千人」


「数千」


「毎日」


簡単ではない。


「昔は人口も少なく、魔力導管も粗かった」


ミレイア。


「遠距離から少量ずつ集める技術がなかった」


「今は?」


彼女が俺を見る。


「可能性はあります」


それだけで。


十分だった。


「アベルに見せる」


「はい」


立ち上がる。


そのとき。


俺の手帳。


机の端。


開いている。


何気なく見る。


自分の名前。


違和感。


昨日。


死刻――六日後


だった。


今。


赤い文字。


俺は、


しばらく意味を理解できなかった。


高城修一


死刻――三日後


「……何だこれ」


ミレイアが顔を上げる。


「どうしました?」


答えない。


紙を近づける。


見間違いじゃない。


六。


ではない。


三。


「高城さん?」


「縮んだ」


「何が」


「死刻」


ミレイアが立つ。


「何日です」


「三日」


沈黙。


彼女の顔から血の気が引いた。


「昨日は六日でしたね」


「うん」


「三日消えた?」


「らしい」


理由。


分からない。


何をした。


生命炉へ何かした?


魔王城へ来た。


アベルと話した。


代替案に近づいた。


「生命炉が」


ミレイア。


同じことを考えたらしい。


「あなたを排除する優先度を上げた?」


「俺が危険になったってこと?」


「可能性があります」


嬉しくない評価。


会社なら、


重要人物認定されるのは悪くない。


この世界では、


死ぬ日が早まる。


「三日」


口にする。


急に。


時間が現実になる。


三十日。


長かった。


二十日。


まだあった。


十日。


焦った。


三日。


もう。


明後日の次だ。


家族の顔が浮かぶ。


日本。


妻。


家。


会社。


田辺。


給湯器。


くだらないことまで。


「修一さん」


レオンの声。


いつの間にか入口。


フィーネたちも。


ミレイアが呼んだらしい。


全員。


俺を見る。


また。


この顔。


嫌だ。


「何」


ガイル。


「三日って」


聞いたらしい。


「そうみたい」


フィーネの目が潤む。


「何でそんな普通なんですか」


「普通じゃないよ」


「でも!」


「怖い」


はっきり言った。


全員が止まる。


「かなり怖い」


口にすると。


手が震え始めた。


隠せていると思っていた。


全然だった。


「だから」


俺は椅子へ座る。


「一人で考えるのやめる」


セラの言葉。


背負わせろ。


仲間に。


「三日で何ができる?」


俺はみんなを見る。


「俺一人じゃ無理」


最初に。


そう言った。


レオンが椅子を引く。


「なら全員で考えましょう」


ミレイア。


「生命炉の構造を調べます」


フィーネ。


「死刻そのものを止める方法も」


ガイル。


「俺は何すりゃいい」


「今は黙って座ってて」


「高城!」


少し笑いが起きた。


ユリウス。


「王国側の資料が必要です」


ノア。


「俺は?」


俺は少年を見る。


「飯食べて」


「何で俺だけ!」


「そのうち頼む」


「子供扱いすんな!」


いつもの声。


ありがたかった。


三日。


俺は死ぬ。


でも。


今度は。


一人でどうにかしようとは思わなかった。

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