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天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


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第34話 死刻のない死

魔王城で迎えた二日目。


俺の死刻は、


高城修一

死刻――六日後


になっていた。


六日。


一週間を切った。


フィーネが横から手帳を見ようとする。


閉じる。


「見せてください」


「嫌」


「何日です?」


「六」


「言うんですね」


「隠す意味ないから」


フィーネが少し黙る。


「怖いですか」


また。


その質問。


「怖い」


最近は、


素直に答えられるようになった。


「最初より?」


「最初より」


「どうして」


「知り合い増えたから」


フィーネが意外そうな顔。


「最初は」


俺は廊下の窓を見る。


「この世界に何もなかった」


家族は日本。


仕事も日本。


ここは知らない場所。


三十日後死ぬ。


もちろん怖かった。


でも。


今。


レオン。


フィーネ。


ガイル。


ミレイア。


ユリウス。


ノア。


セラ。


グラム。


少しだけリゼル。


「死んだら困るものが増えた」


フィーネが、


少しだけ笑う。


「リゼルさんも?」


「少し」


廊下の先から、


「聞こえているぞ」


リゼル。


怖い。


          ◇


その日の午後。


セラが、


魔王城の古い訓練場へ行くと言った。


「何しに」


俺。


「弓の手入れ」


「部屋でできない?」


「外でやりたい」


アベルと再会してから。


セラは一人になる時間が増えた。


五十年。


簡単に埋まる距離ではない。


俺は、


「分かった」


と言った。


追わなかった。


一時間後。


フィーネが、


「セラさん見ませんでした?」


と聞いた。


胸が少しざわつく。


「訓練場」


「いませんでした」


嫌な感じ。


「誰か一緒に?」


「一人です」


俺は立つ。


こういうとき。


大げさか。


考えすぎか。


何度も迷う。


会社で、


連絡が取れない部下。


ただ寝坊。


携帯の電池切れ。


ほとんどはそれ。


でも。


一度だけ。


本当に倒れていたことがある。


その後から、


少し早めに心配するようになった。


空振りなら、


それでいい。


「探そう」


          ◇


魔王城。


広い。


レオン。


東。


ガイル。


地下。


ミレイア。


魔力反応。


フィーネとノア。


中庭。


ユリウス。


門周辺。


俺は、


セラが使いそうな場所を考える。


弓。


風。


一人。


高いところ。


城壁。


走る。


階段。


また膝。


痛い。


「何で城って階段多いんだよ」


誰にも聞こえない愚痴。


上。


城壁。


風。


人影。


セラ。


「いた!」


呼ぶ。


振り向く。


その瞬間。


セラの顔が変わった。


「伏せろ!」


意味。


考える前。


何かが俺の横を通った。


黒い針。


壁へ刺さる。


「何――」


二本目。


セラの矢。


空中で弾く。


遠く。


塔。


人影。


人間。


黒い服。


「侵入者!」


セラが叫ぶ。


相手。


消える。


いや。


飛ぶ。


魔法。


こちらへ。


剣。


速い。


セラが弓。


近距離。


間に合わない。


俺。


短剣。


どうする。


使えない。


でも。


相手が俺を見た。


狙い。


俺?


刺客が方向を変える。


真っ直ぐ。


「高城!」


セラ。


俺は短剣を抜く。


時間が遅く感じる。


教わったこと。


ほとんどない。


グラム。


武器を持てば戦士。


今。


持ってる。


まずい。


刺客。


剣。


俺の胸。


その前。


セラ。


割り込んだ。


「――っ!」


音。


小さい。


剣が。


セラの脇腹へ。


「セラ!」


老人の顔が歪む。


でも。


同時に。


弓を捨て。


刺客の手首を掴む。


膝。


腹へ。


七十二歳の動きではない。


刺客がよろめく。


俺は。


何をすれば。


短剣。


振る。


刺せない。


怖い。


でも。


刺客の剣を持つ腕。


そこへ体ごとぶつかった。


「うおっ!」


格好悪い声。


四十八歳の体当たり。


刺客と一緒に転がる。


痛い。


腰。


肩。


全部。


剣が落ちる。


そこへ。


レオン。


風のように来た。


剣。


刺客の首元で止まる。


「動くな」


ガイルも。


ユリウス。


リゼル。


遅れて到着。


捕まえた。


俺はすぐ、


セラを見る。


倒れている。


血。


多い。


「フィーネ!」


叫ぶ。


          ◇


治療室。


フィーネ。


光。


ミレイア。


魔法。


魔王城の治療師。


全員。


セラ。


顔色。


悪い。


俺は部屋の外。


手が震えている。


血。


自分の服にもついている。


セラの。


「高城殿」


ユリウス。


「あなたも怪我を」


「後で」


「しかし」


「後」


声が強くなった。


ユリウスは黙る。


俺は手帳を開いた。


癖。


確認。


セラ。


正式名。


セラ・ヴァンクロフト


書く。


何も出ない。


「……え」


もう一度。


セラ・ヴァンクロフト。


赤い文字。


ない。


「ミレイア」


治療中。


呼べない。


俺は何度も見る。


何も。


ない。


死刻。


ない。


なのに。


あの傷。


あの血。


「セラには」


レオンが気づく。


「見えないんですか」


「ない」


声が震える。


「死刻がない」


「なら」


フィーネの声。


治療室から。


「助かる?」


誰も答えられない。


俺も。


突然。


自分が何を信じていたのか、


分かった。


死刻がない。


だから死なない。


いつの間にか。


そう思っていた。


違う。


最初から。


セラは言っていた。


赤い文字は未来じゃない。


運命でもない。


その意味が。


今。


本当に分かった。


「違う」


俺は呟く。


レオン。


「何が」


「死刻がないから死なないんじゃない」


心臓。


事故。


毒。


剣。


全部。


普通に人は死ぬ。


死刻が示していたのは。


「生命炉が殺す予定だけだ」


ミレイアが治療室から振り向く。


目が合う。


たぶん。


同じ結論。


俺は手帳を見る。


セラ。


名前だけ。


赤い文字はない。


でも。


扉の向こう。


彼女は。


死にかけている。

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