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天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


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第29話 名前のない少年の逃走

「無理」


ノアは言った。


「何が」


俺。


「そんな難しいことできねえ」


「まだ説明してない」


「絶対難しいだろ」


「鍵開けるだけ」


「魔法のだろ?」


「ノアには魔法じゃない」


ミレイアが説明する。


監察局の扉。


侵入防止。


王国民には必ず、


出生時に魔力識別紋が登録される。


扉は、


許可のない識別紋を検知すると閉まる。


でも。


ノアには登録がない。


「つまり」


俺。


「扉からすると透明人間」


「透明にはなりません」


ミレイア。


「例え」


ノアが嫌そうな顔。


「俺だけ行くの?」


そこだった。


フィーネ。


「私も」


「駄目」


俺は即答。


「でも!」


「フィーネには識別紋がある」


「治癒はできます」


「捕まったら?」


黙る。


ガイル。


「俺が行く」


「もっと無理」


「何でだ」


「目立つ」


「高城!」


実際。


二メートル近い大男。


地下施設で隠密は無理だ。


レオン。


「なら俺が――」


「登録ある」


「……」


結局。


ノア。


一人。


俺は、


自分が嫌になった。


十歳くらい。


子供。


その子に、


危険な役目を頼む。


会社ならあり得ない。


未成年どころか、


新人一人に責任を負わせるのだって嫌だった。


なのに。


今、


他にできる人間がいない。


「やめる?」


俺が聞いた。


全員がこちらを見る。


ノアも。


「何?」


「嫌ならやめる」


「でも逃げられねえじゃん」


「別の方法探す」


「あるの?」


「分からん」


「じゃあ俺しかいないだろ」


簡単に言う。


腹が立った。


「そういう決め方するな」


「何で」


「俺しかいないから」


昔。


仕事のできる部下に、


何度も仕事を集めた。


この人しかできない。


この人が一番早い。


頼めばやってくれる。


便利だった。


本人も、


できます、


と言った。


その結果。


さらにその人しかできなくなった。


周りは育たない。


本人は疲れる。


ある日。


《課長、“できる人に任せる”と“できる人に押しつける”って違いますよ》


と言われた。


今でも忘れない。


「ノア」


「何だよ」


「お前しかできない。これは本当」


「うん」


「でも、だからやれとは言わない」


「……」


「怖い?」


少し間。


「ちょっと」


やっと。


子供らしい答え。


「じゃあ怖いまま決めて」


「おっさんは?」


「やってほしい」


正直に。


「危ないけど。俺たちが逃げるには必要」


ノアは俺を見る。


「大人ってずるいな」


「そうだな」


「止めてくれねえの?」


「止めたい」


「でもやってほしい?」


「うん」


「最悪じゃん」


「課長だったからな」


「関係ある?」


「ないかも」


ノアがしばらく黙る。


そして。


「やる」


と言った。


俺は、


ありがとう、


とは言わなかった。


代わりに。


「戻ってこい」


「当たり前だろ」


          ◇


計画。


簡単。


ノアが監察局の外周廊下へ。


保管室。


押収された装備を回収。


さらに、


魔法壁の制御晶を外す。


戻る。


簡単。


言葉だけなら。


実際には。


見張り。


兵士。


魔導師。


道も知らない。


「経路は?」


俺。


ミレイアが地図。


記憶で描いた。


「ここを右。階段を一つ。三つ目の扉」


ノア。


「分かんねえ」


「何が」


「こんな線」


地図が読めない。


そこで。


俺は地図を取り上げた。


「やめよう」


「え?」


ミレイア。


「ノアに説明合わせる」


「ですが」


「地図を読めない人に地図を渡しても意味ない」


会社でもマニュアルを作った。


作る側は、


これで分かる、


と思う。


現場から、


分かりません、


と言われる。


そこで、


ちゃんと読め、


と言う人がいる。


違う。


伝わらないなら、


説明側を変える。


「ノア」


「何」


「廊下出たら、赤い燭台ある?」


ミレイア。


「あります」


「そこ右」


「うん」


「壁に鹿の紋章」


「あります」


「そこまで真っ直ぐ」


目印。


色。


数。


ノアが理解できるものへ変える。


五分。


「分かった」


「戻りは逆」


「それくらい分かる」


「偉い」


「子供扱いすんな」


少し笑った。


怖かった。


俺も。


          ◇


魔法壁の隅。


ミレイアが術式を一瞬だけ弱める。


ノアが通る。


本当に。


何も反応しない。


「すげえ」


本人が一番驚いている。


「行って」


ノアが走る。


消える。


そこから。


長かった。


一分。


二分。


五分。


「遅くない?」


フィーネ。


「まだ」


俺。


七分。


足音。


全員が構える。


兵士。


二人。


牢の前。


「点検だ」


まずい。


ノアが戻ってくる前。


兵士が周囲を見る。


一人。


「子供は?」


心臓が止まりそうになる。


フィーネが、


「寝てます」


と言った。


「どこだ」


「ガイルさんの後ろ」


兵士が覗く。


ガイル。


壁際。


巨大な体。


「おい」


小声で俺。


ガイルがゆっくり横へ。


誰もいない。


終わった。


「いないぞ」


兵士が魔法壁へ近づく。


その瞬間。


廊下の奥。


大きな音。


ガシャーン!


兵士二人が振り向く。


「何だ!」


走る。


消える。


俺たちは全員、


息を吐いた。


「ノア?」


レオン。


「たぶん」


          ◇


さらに三分。


足音。


小さい。


ノアが角から飛び出した。


両腕いっぱい。


剣。


杖。


盾ではない。


重すぎる。


俺の革鞄。


「取ってきた!」


「制御晶は?」


ミレイア。


ノアが固まる。


「……何それ」


全員。


「ノア!」


「忘れた!」


「一番大事!」


「いっぱいあったんだよ!」


ガイルが頭を抱える。


俺は笑いそうになった。


いや。


笑ってる場合じゃない。


「もう一回」


「嫌だ!」


「だよな」


すぐ切り替える。


持ってきた中。


ミレイアの杖。


「これがあれば?」


「内側から壁を破れます」


「最初から杖取ればよかった?」


「制御晶の方が静かです」


「今さら静かにする必要ない」


ノアが、


「俺すげえ?」


と言う。


「すごい」


今度は素直に言った。


          ◇


ミレイア。


杖。


魔法陣。


「下がって!」


青白い光。


爆音。


壁が弾ける。


警報。


鳴り響く。


「行くぞ!」


ガイルが盾を持つ。


レオン。


剣。


フィーネ。


杖。


セラ。


弓。


俺。


短剣。


「おっさん」


ノア。


「それ使えんの?」


「聞くな」


廊下へ。


兵士。


五人。


レオンとユリウス――


「ユリウスいない!」


俺。


ミレイア。


「別棟です!」


ガイル。


「置いてくぞ!」


「それは――」


迷う。


ユリウス。


仲間なのか。


王国側なのか。


まだ分からない。


でも。


置いていけば、


今度こそ選択になる。


「迎えに――」


そのとき。


前方。


騎士が三人倒れた。


その向こう。


ユリウス。


剣。


「遅い!」


俺たちを見る。


「待っていたのですか?」


俺。


「あなた方が騒ぎを起こすことくらい予想できます!」


「信用されてる?」


「逆です!」


ガイルが笑う。


「行くぞ、王国の犬!」


「その呼び方は後で訂正させます!」


走る。


          ◇


監察局。


出口。


もう少し。


後ろ。


追手。


魔法。


飛ぶ。


ミレイアが防ぐ。


前。


騎士。


ユリウスが止める。


レオンが抜ける。


ガイル。


盾。


セラの矢。


フィーネは負傷者を治しながら走る。


俺は。


「左!」


叫ぶ。


「そっち塞がる!」


建物の構造。


来るとき見た。


荷物搬入口。


「何で覚えてるんです?」


レオン。


「会社でも避難経路見る癖あった!」


「役に立つ癖ですね!」


「初めて思った!」


扉。


外。


光。


王都の空。


出た。


でも。


そこで全員止まった。


広場。


王国兵。


数百。


囲まれていた。


「……これは」


俺。


「想定外」


ユリウス。


「私もです」


「優秀じゃなかった?」


「黙ってください」


包囲。


逃げ道なし。


そのとき。


王都の北側。


結界が、


突然、


大きく揺れた。


爆音。


兵士たちが振り向く。


黒い煙。


そして。


城壁の外から。


獣の咆哮。


ガイルの顔が変わった。


「まさか」


俺も。


聞き覚えがある。


低い。


巨大な声。


「人間ども!」


城壁の上。


大きな影。


斧。


獣人。


グラムだった。

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