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天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


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第28話 死者を選ぶ部屋

翌日。


何も起きなかった。


ミレイアは戻らない。


ユリウスも来ない。


飯だけ運ばれる。


ガイルの機嫌は、


時間とともに悪くなった。


「いつまで待つ」


「分からん」


「昨日もそれだ」


「仕方ない」


「ミレイアが戻ってこなかったら?」


「そのとき考える」


「高城」


「何」


「お前、会社でもそんな曖昧だったのか」


「課長は『検討します』が得意なんだよ」


「最低だな」


「自覚ある」


フィーネは笑わなかった。


ずっと扉を見ている。


ミレイアを心配している。


裏切ったと思っても。


それでも。


仲間だった。


          ◇


昼過ぎ。


魔法壁が消えた。


全員が立ち上がる。


扉。


開く。


ミレイア。


一人。


「走ります」


最初の言葉がそれだった。


ガイル。


「は?」


「説明は後」


「昨日の――」


「ガイル!」


俺が止める。


ミレイアは小さな黒い石を俺へ投げた。


受け取る。


「何これ」


「記憶晶です」


「何?」


「見たものと音を一時的に保存できます」


「そんな便利なものあるの?」


「高価です」


最近この世界、


便利なものは全部高い。


「どこへ行く」


レオン。


「まずここを出ます」


「どうやって?」


ミレイアがノアを見る。


「彼なら」


ノア。


「俺?」


「この監察局の魔法錠は、王国民の登録魔力を基準に作られています」


全員がノアを見る。


本人だけ分かっていない。


「つまり?」


フィーネ。


「ノアは登録されていない」


俺が言う。


ミレイア。


「はい」


「魔法錠からすると」


「存在しない人間です」


ノアがむっとする。


「またそれかよ」


「今回は役に立つ」


「俺、そういう役ばっかりじゃね?」


          ◇


その前に。


ミレイアは記憶晶を壁へ当てた。


光。


映像。


粗い。


でも見える。


長い廊下。


ミレイアの視点。


セヴェリンが前を歩いている。


声。


『これ以上深入りすれば、お前も戻れなくなる』


ミレイア。


『もう戻るつもりはありません』


ガイルが映像を見ながら、


「言うじゃねえか」


と呟いた。


誰も突っ込まない。


階段。


地下。


さらに地下。


王城の真下。


巨大な扉。


扉が開く。


部屋。


壁一面に、


名前。


数。


光。


何千。


何万。


人間の名前。


その横に数字。


俺は息を止めた。


「これ……」


ミレイアが言う。


「死刻候補者の評価値です」


映像の中。


セヴェリン。


『候補者であって、死亡者ではない』


『何が違うのです』


『生命炉が必要量に応じて最終選定する』


生命炉。


初めて聞く言葉。


「止めて」


俺。


映像が止まる。


「生命炉って?」


ミレイア。


「私も初めて正式名称を知りました」


再生。


父娘。


『王国が死ぬ人間を決めているのではないのですか』


『違う』


セヴェリンの声。


『生命炉が選ぶ』


画面。


名前。


年齢。


職業。


家族構成。


健康状態。


居住地。


納税。


犯罪歴。


魔力。


さらに。


社会維持影響値。


俺の胃が痛くなった。


第16話。


予想したもの。


本当にあった。


人の価値を、


数字にしている。


でも。


さらに問題。


名前の横。


一部だけ。


数字の色が違う。


金。


青。


赤。


ミレイア。


『この補正値は?』


セヴェリンが答えない。


『お父様』


『国家運営上、必要な調整だ』


『誰が調整するのです』


沈黙。


そして。


『我々だ』


映像が止まった。


部屋。


誰も声を出さない。


「王国も決めてるじゃねえか」


ガイル。


ミレイアが首を振る。


「直接ではありません」


「同じだろ!」


「違う」


俺が言った。


ガイルを見る。


「たぶん、もっと悪い」


「何?」


映像を指す。


「死ぬ人間を直接選ぶなら、少なくとも誰が選んだか分かる」


「……」


「でも王国は数字だけ変えてる」


生命炉。


仕組み。


そこへ、


この人は死なせるな。


この人は優先度を下げろ。


それだけ入力する。


最後に誰が死ぬかは、


「機械が決めた」


と言える。


会社でもあった。


評価制度。


人事システム。


数値化。


最終的に、


「基準に照らして決まりました」


と言う。


でも。


その基準を作ったのは人間だ。


入力したのも人間だ。


「責任を薄められる」


俺は呟いた。


ミレイアを見る。


「補正されてたのは?」


彼女は答える。


「王族」


「高位貴族」


「軍上層部」


「高位魔導士」


「重要な技術者」


レオン。


「つまり選ばれにくくしている」


「はい」


「その分は?」


ミレイアの表情が硬くなる。


「どこかへ移る」


誰かを下げれば、


誰かが上がる。


ガイル。


妻。


息子。


辺境。


貧しい人。


身寄りの少ない人。


第16話で見つけた偏り。


全部。


自然な計算だけではなかった。


人間の手が入っている。


フィーネが小さく言う。


「お金のある人は、死ににくいんですか」


ミレイアはすぐ答えなかった。


「結果としては」


それが一番重かった。


          ◇


映像。


最後。


ミレイア。


『これは正しいことだと思っていますか』


セヴェリン。


長い沈黙。


『正しいかどうかで国は動かない』


その言葉に、


俺は妙な痛みを覚えた。


聞いたことがある。


形は違う。


《理想だけでは会社は回らない》


《現場の事情だけでは経営できない》


《全員を救うことはできない》


俺自身。


何度も言った。


『誰かが決めなければならない』


セヴェリン。


『ならせめて、国を支える者を残す』


ミレイア。


『辺境の老人より、王都の医師を?』


『そうだ』


『孤児より、魔導技師を?』


『そうだ』


『お父様より、知らない農民を?』


映像の中。


初めて。


セヴェリンが答えなかった。


ユリウスと同じ。


自分や家族を置いた瞬間、


計算は止まる。


映像終了。


黒。


          ◇


ガイルがミレイアを見る。


「昨日は悪かった」


急だった。


「何がです」


「裏切ったって」


「実際、そう見えるようにしました」


「でも」


「なら成功です」


ガイルが言葉に詰まる。


フィーネが、


ミレイアへ抱きついた。


「ちょっ」


「よかった……」


「フィーネ、苦しいです」


「いいです」


「よくありません」


顔は嫌そう。


でも離そうとはしない。


レオンも安堵している。


俺は、


「ミレイア」


「はい」


「怖かった?」


彼女が止まる。


「何が」


「父親にあそこまで言うの」


しばらく。


「……怖かったです」


初めて。


素直に言った。


「そう」


それだけ。


「何です、その反応」


「怖くないふりされたら面倒だから」


「高城さんは本当に」


少しだけ。


ミレイアが笑った。


          ◇


「で」


俺は言う。


「どう逃げる?」


全員がノアを見る。


「何で俺なんだよ!」


今回。


本当に。


この十歳くらいの少年が、


唯一の鍵だった。

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