↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/47

第24話 ガイルの家族は魔族に殺されていない

ルーデンを出る前。


ミレイアが一枚の記録を持ってきた。


「見てください」


ヨルンが死亡した直後の魔力変動。


町の北西にある大型結界塔。


瞬間的に出力が上昇している。


「またか」


俺は言った。


ダリオのときと同じ。


死。


魔力。


結界。


「問題はここです」


ミレイアが別の記録。


過去。


同じ結界塔が、


異常に大きな出力を出した日がある。


八年前。


「十二名分に相当する魔力が一度に供給されています」


「十二人死んだ?」


「同時刻に」


場所。


ルーデンから北へ一日半。


バルド村。


ガイルの表情が変わった。


「……何でその名前が出る」


誰もすぐには答えない。


「ガイル」


俺が言う。


「知ってる場所?」


「俺の故郷だ」


声が低い。


そして。


「八年前」


ガイルの目が記録へ落ちる。


「魔族に襲われた」


誰も動かなかった。


「妻と」


一度止まる。


「息子が死んだ」


初めて聞いた。


          ◇


ガイルの妻。


エナ。


当時二十七歳。


息子。


ルカ。


四歳。


ガイルは村の自警団にいた。


襲撃の日。


隣町へ武器を取りに行っていた。


戻ったとき。


村の一部は焼けていた。


魔族の姿。


死体。


王国兵。


混乱。


家へ戻る。


妻。


息子。


死亡。


「直接見たのか」


俺が聞いた。


「何を」


「二人を殺した魔族」


ガイルの目が鋭くなる。


「死因は?」


「知らねえ!」


声が響く。


「そんなもん聞く余裕あると思うか!」


俺は黙った。


正しい。


家族が死んでいる。


傷を調べる。


死亡時刻。


そんなことを考える人間の方が少ない。


「悪い」


謝る。


ガイルは荒く息を吐いた。


「……いや」


珍しく。


「悪いのは俺だ」


少し間。


「行く」


「村へ?」


「ああ」


ユリウス。


「王都とはさらに逆方向になります」


ガイルが睨む。


「今度は俺だ」


その一言で、


ユリウスは黙った。


レオン。


妹。


そして今度はガイル。


誰かの個人的な事情。


本来の魔王討伐からどんどん離れている。


でも。


その個人的な事情が、


全部同じ謎につながっていた。


誰が人の死を決めているのか。


俺は、


「行こう」


と言った。


ユリウスが、


「あなたは本当に予定管理というものをしたことがあるのですか」


と聞いた。


「課長だった」


「余計に信じられません」


「予定は変更するためにある」


「最悪の管理者ですね」


否定しづらい。


          ◇


バルド村。


八年前の襲撃から再建されていた。


家も。


畑も。


人もいる。


でも。


村の端には、


焼けた石壁が一部だけ残されていた。


慰霊碑。


十二人の名前。


ガイルが止まる。


その中。


エナ・バルド


ルカ・バルド


隣に並んでいる。


ガイルは、


何も言わなかった。


          ◇


古い神官。


八年前もこの村にいた。


最初は記録を見せることを拒んだ。


「王国軍から禁じられております」


ユリウスが身分を示す。


「私が許可する」


「しかし」


「責任は私が負う」


俺はユリウスを見る。


彼は気づいて、


「何です」


「いや」


「何か言いたそうですが」


「成長したなって」


「あなたに言われたくありません」


          ◇


地下記録庫。


八年前。


襲撃日。


死亡十二。


全員。


死亡時刻がほぼ同じだった。


「魔族の攻撃なら」


俺は言う。


「十二人が同時刻に死ぬって変じゃない?」


ミレイア。


「戦闘なら数分から数時間の差が出るはずです」


死因記録。


五名。


刺創。


二名。


焼死。


そして。


五名。


生命力枯渇。


ガイルの拳が震える。


「エナは」


ミレイアが探す。


止まる。


「生命力枯渇」


「ルカ」


沈黙。


「……同じです」


ガイルが動かない。


「嘘だ」


誰も答えない。


「魔族に殺された」


「ガイル」


レオン。


「俺は見た!」


「何を見た」


今度はセラだった。


ガイルが振り向く。


「村に魔族がいた!」


「それは本当だろうね」


「なら!」


「妻と子供を殺したところは?」


ガイルが黙る。


「魔族が村を襲った」


セラ。


「だから、死んだ全員を魔族が殺した」


「普通はそう考える」


俺が続けた。


「でも記録は違う」


ガイルが机を殴った。


木が割れた。


ノアがびくっとする。


「じゃあ何だ!」


声。


怒り。


悲鳴に近い。


「八年間」


ガイル。


「俺は魔族を殺してきた」


誰も止めない。


「妻とルカの仇だと思って!」


肩が震えている。


「何だったんだよ……」


答えられない。


ガイルが椅子を蹴る。


壁へ。


「何だったんだ!」


俺は近づかなかった。


こういうとき、


肩を叩けばいいわけじゃない。


昔。


部下が大きなミスをした。


本人は、


一人にしてほしい、


と言った。


俺は心配で、


ずっと隣にいた。


後日、


《あのとき本当に一人にしてほしかったです》


と言われた。


人を支える。


それと、


自分が支えている気分になりたい。


似ている。


でも違う。


「外にいる」


俺は言った。


ガイルがこちらを見る。


「話したくなったら呼べ」


それだけ。


全員を連れて外へ出た。


          ◇


一時間後。


ガイルが出てきた。


目が赤い。


でも泣いたとは誰も言わない。


「高城」


「うん」


「全部が嘘だったわけじゃねえよな」


「何が」


「魔族が村を襲ったのは」


「記録上は本当」


「殺された村人もいる」


「ああ」


「なら」


ガイルは拳を握る。


「魔族を憎んできた俺が、全部間違ってたわけじゃない」


俺は少し迷った。


たぶん。


彼は今、


「そうだ」


と言ってほしい。


八年間を否定されたくない。


でも。


「全部かどうかで考えるな」


ガイルが俺を見る。


「何だと」


「全部正しいか、全部間違いか。それにすると苦しくなる」


「……」


「本当に魔族が殺した人もいる」


「ああ」


「違う死を魔族のせいにされた人もいる」


「……ああ」


「両方ある」


俺は慰霊碑を見る。


「ガイルが憎んだ理由も本物だろ」


「じゃあ」


「でも、これから誰を憎むかは別だ」


ガイルは黙った。


森。


遠く。


グラム。


彼の姿が頭をよぎったのかもしれない。


「俺は」


ガイルが言う。


「グラムに会ったら何すりゃいい」


「知らん」


「お前、肝心なとこで役に立たねえな」


「課長は人生相談の専門家じゃない」


ガイルが、


ほんの少しだけ笑った。


それで十分だった。


          ◇


ミレイアが記録の最後に、


一行だけ奇妙な記載を見つけた。


《第七結界塔、緊急再稼働完了》


時刻。


十二名の死亡時刻と、


完全に一致。


ガイルも見る。


もう怒鳴らなかった。


ただ。


低く言った。


「俺の家族は」


「結界を動かすために死んだのか」


誰も答えなかった。


でも。


答えは、


かなり近くまで来ていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。