↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/52

第22話 救われた妹、選ばれた誰か

セリアへ死刻のことを話すまで、


三時間かかった。


正確には、


三時間、


レオンが話せなかった。


「お兄ちゃん、何か変」


夕食。


セリアが言った。


「さっきから私の顔ばっかり見てる」


「久しぶりだから」


「気持ち悪い」


「妹に言う言葉か?」


「二年ぶりに帰ってきた兄が、ずっとこっち見てたら気持ち悪いでしょ」


普段なら笑える。


誰も笑わない。


セリアが箸を止めた。


「……本当に何?」


レオンが俺を見る。


俺は目だけで返す。


自分で話せ。


そこまで代わるつもりはない。


レオンは深く息を吸った。


「セリア」


「うん」


「お前は、四日後に死ぬかもしれない」


皿の上から音が消えた。


          ◇


全部話した。


死刻。


マーラ。


フィーネ。


ダリオ。


オルラ。


死を回避した場合、


他人へ移る可能性。


途中でセリアは一度も泣かなかった。


最後まで聞いた。


それから俺を見た。


「高城さんにだけ見えるんですか?」


「ああ」


「間違いって可能性は?」


「あると言いたいけど」


俺は首を振った。


「今まで外れたことはない」


「そうですか」


静かだった。


レオンの方がつらそうに見える。


「治療すれば助かる可能性がある」


「代わりに誰かが死ぬんですよね」


「……ああ」


「じゃあ、やらなくていい」


レオンが立ち上がった。


「何言ってる!」


「そのままの意味」


「死ぬんだぞ!」


「だからって誰かに押しつけるの?」


「セリア!」


「お兄ちゃんが言ったんでしょ。誰かが代わりになるって」


「それでも俺は――」


「私は頼んでない!」


声が響いた。


レオンが止まる。


「私の命でしょ」


どこかで聞いた言葉だった。


オルラ。


同じ。


でも。


家族側のレオンには、


まるで違って聞こえているはずだ。


「お前は分かってない」


「分かってるよ!」


「分かってない!」


兄妹。


どちらも泣きそうな顔。


俺は口を挟まなかった。


止めるべき喧嘩と、


最後までさせた方がいい喧嘩がある。


会社でも同じだった。


上司がすぐ仲裁すると、


表面上は収まる。


でも言えなかったものだけ残る。


ただし。


限度はある。


レオンが、


「俺は絶対助ける」


と言ったところで、


俺は口を開いた。


「一回休憩」


二人がこちらを見る。


「何で?」


セリア。


「これ以上やると、同じことしか言わなくなる」


「でも!」


「十分」


俺は立つ。


「水飲んで、別の部屋」


レオン。


「修一さん、これは――」


「分かってる。でも今のお前、妹を説得してるんじゃない」


「じゃあ何です」


「怖くて怒ってるだけだ」


レオンの顔が変わる。


少し言いすぎたかと思った。


でも。


彼は何も言わず部屋を出た。


          ◇


その夜。


俺はセリアと二人で庭にいた。


「高城さんって」


「何?」


「お兄ちゃんのお父さんみたいですね」


「二十四歳差だから否定しづらい」


「私のお父さんには見えませんけど」


「そこは気を使って」


少し笑う。


それから。


「お兄ちゃん、昔からああなんです」


「どういう?」


「守ろうとする」


幼いころ。


セリアが木から落ちた。


レオンが自分を責めた。


学校でいじめられた。


相手の家まで行った。


熱を出した。


一晩中起きていた。


「優しい兄なんだな」


「面倒な兄です」


また笑う。


でもすぐ消えた。


「私、死にたくないです」


初めて聞いた。


「うん」


「怖いです」


「うん」


「でも」


セリアが庭の草を見る。


「誰かのお父さんとか、お母さんが代わりに死ぬのも嫌です」


俺はヨルンを思い出した。


城門。


娘用の果物。


なぜか。


「高城さんならどうします?」


「最近そればっかり聞かれるな」


「答えてください」


「分からない」


「ずるい」


「本当に分からない」


俺の家族なら。


妻なら。


大事な誰かなら。


たぶん綺麗な判断はできない。


「でも」


俺は言った。


「一つだけ」


「何です?」


「今のうちに、レオンにちゃんと怖いって言った方がいい」


セリアがこちらを見る。


「何で?」


「お兄ちゃんは今、お前が覚悟決めてると思ってる」


「……」


「覚悟決めてる相手には、説得で勝とうとする。でも怖がってる妹が見えたら、たぶん変わる」


「何が?」


「分からん」


「また」


「人ってそんなもんだ」


課長時代。


部下から、


「大丈夫です」


と言われる。


本当は大丈夫じゃない。


でも本人が大丈夫と言うから、


仕事を任せ続けた。


結果、


限界を超える。


人は、


言ってくれなければ分からない。


上司でも。


兄でも。


俺はそれを何度も間違えた。


          ◇


死刻まで二日。


セリアは、


治療を受けることを決めた。


兄に押し切られたからではない。


長い話し合い。


何度も考え。


最後。


「死んでいいとは思えない」


と自分で言った。


そして。


「でも、代わりに死んだ人が出たら、その人のことを知らないふりはしない」


レオンは黙って頷いた。


その言葉に、


俺は少しだけ不安を覚えた。


本当にその瞬間が来たとき、


耐えられるのか。


          ◇


二日後。


町の大神殿。


治癒術師六名。


ミレイア。


フィーネ。


王都から魔導通信で送られてきた治療術式。


ユリウスの権限で、


可能な限りの準備をした。


「役割確認」


俺は紙を見る。


最近、


こういうことを自然にやるようになった。


フィーネ。


生命力維持。


大神官二名。


フィーネへの魔力供給。


ミレイア。


魔力経路の監視。


残る治癒師。


循環維持。


レオン。


セリアのそば。


ガイル。


神殿外警戒。


ユリウス。


町全体の異常確認。


「修一さんは?」


レオン。


「時計係」


「それだけ?」


「一番嫌な役」


手帳。


セリア・アルヴァート

死刻――十七分後


数字が減る。


十五。


十分。


五分。


セリアがレオンの手を握る。


「お兄ちゃん」


「何だ」


「痛かったら怒るからね」


「誰に?」


「お兄ちゃんに」


「俺?」


「助けるって言ったんだから」


レオンが笑う。


「分かった」


俺は笑えなかった。


三分。


ミレイア。


「魔力流、正常」


フィーネ。


「いつでも」


一分。


全員が構える。


十秒。


九。


八。


七。


六。


セリアの顔色が変わる。


「来る!」


フィーネが光を放つ。


セリアの体から、


何かが引かれていく。


見えない。


でも分かる。


白い肌がさらに白くなる。


「セリア!」


レオン。


フィーネの光。


治癒術師。


魔法陣。


全部がつながる。


死刻――零


セリアの体が跳ねた。


息が止まる。


「フィーネ!」


「まだ!」


白い光が激しくなる。


ミレイアが叫ぶ。


「魔力供給を増やして!」


一人の術師が倒れる。


別の者が交代。


俺は紙を見る。


零。


変わらない。


マーラのときより長い。


三十秒。


四十。


一分。


「戻って!」


レオンの声。


セリアの胸。


動かない。


フィーネが泣きそうな顔。


「嫌……!」


光。


さらに強く。


そして。


セリアが、


大きく息を吸った。


「――っ!」


咳。


レオンが崩れるように座る。


「セリア!」


「痛い……」


「生きてる!」


フィーネも泣いた。


俺は手帳を見る。


赤い文字。


消えた。


「消えた」


ミレイア。


「死刻が?」


「ああ」


誰かが笑った。


フィーネ。


レオン。


セリア。


次々に。


俺も、


笑いそうになった。


でも。


笑えなかった。


手帳。


俺は無意識に、


別のページを開いていた。


何か。


嫌な感覚。


名前。


浮かぶ。


知らない名前じゃない。


昨日。


城門で見た。


娘用の果物をノアへくれた。


ヨルン・フェルド


死刻――零


「……嘘だろ」


声が出た。


ほぼ同時。


神殿の外。


鐘が鳴った。


一回。


二回。


三回。


人が駆け込んでくる。


「ユリウス様!」


騎士。


顔が青い。


「南門で門兵が倒れました!」


俺はもう、


名前を聞きたくなかった。


でも。


ユリウスが聞く。


「誰だ」


「ヨルン・フェルドです!」


レオンの笑顔が消えた。


セリアが、


何も知らずに兄を見る。


俺は手帳を閉じた。


間に合わない。


分かっていた。


死刻が零。


もう。


終わっている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。