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天命録に、俺の死は三十日後と刻まれている  作者: asnt2026


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第18話 五十年前の勇者たち

「最初から話してくれ」


俺が言った。


セラは嫌そうな顔をした。


「長くなるよ」


「今日は泊まる」


「部屋代取るよ」


「そこ?」


「商売だからね」


こういう人だ。


          ◇


五十年前。


セラは二十二歳だった。


王都ではなく、辺境の猟師の娘。


弓の腕を買われ、


勇者一行へ加わった。


アベル・クロイス。


当時二十六歳。


剣士。


王国でも有名な騎士だった。


「どんな人だった?」


フィーネ。


セラは少し考えた。


「馬鹿」


「具体的には?」


俺が聞く。


「困ってる人間見ると予定を全部変える」


全員が俺を見た。


「何で俺を見る」


「似てますね」


レオン。


「似てない」


セラが続ける。


「村一つ助けるために三日遅れる。食料を子供に全部やる。魔物を倒しに行ったのに、魔物が怪我してたら治そうとする」


「完全に馬鹿ですね」


ミレイア。


「だろ」


セラが少し笑った。


たぶん。


好きだったんだと思う。


恋愛かどうかは分からない。


ただ。


五十年経っても思い出を話す顔を見れば、


大事な人だったことくらい分かる。


「旅の途中で」


セラが言う。


「おかしなことに気づいた」


村へ到着する直前。


突然死ぬ人。


その直後に強くなる結界。


魔力が増える都市。


そして。


王国軍が回収していた、


死者の周囲に残る魔力結晶。


「アベルが最初に疑った」


「魔王の仕業じゃなく?」


レオン。


「最初はそう思った」


当時の魔王。


今のヴァルゼインではない。


別の存在がいたらしい。


魔族の王。


アベルたちはそれを倒すために旅をしていた。


「でも」


セラ。


「調べれば調べるほど、人間側の施設が出てきた」


地下。


塔。


神殿。


魔力導管。


王都へ向かう巨大な流れ。


俺たちが今見つけているものと同じ。


「王国に報告した?」


「した」


「反応は?」


セラが鼻で笑う。


「調査中」


俺は思わず、


「ああ」


と言った。


「何だい」


「よく知ってる言葉だから」


会社でも、


調査中。


検討中。


確認中。


聞こえはいい。


何も答えていないときにも使える。


「そのあと?」


「調査中のまま、私たちの行動が監視され始めた」


資料を見せてもらえない。


立入禁止区域が増える。


協力していた神官が異動。


兵士が突然別任務。


「組織的だな」


俺が呟く。


「そういうのも分かるのかい」


「急に担当が変わったり、資料へのアクセス権が消えたりするのは嫌な兆候」


「カイシャってのは怖いところだね」


「命までは取られない」


「それならマシだ」


笑えなかった。


          ◇


その夜。


俺たちは再び王都へ向けて出発した。


セラも途中まで同行することになった。


「何で?」


俺が聞く。


「お前らだけじゃ心配だから」


「年寄りを働かせるなって言ってたの誰だ」


「口の利き方に気をつけな」


フィーネが嬉しそう。


ノアも。


ガイルだけ少し不満そうだった。


「魔王が元勇者だろうが、人間を殺してる事実は変わらん」


「そうだよ」


セラは即答した。


ガイルが少し戸惑う。


「魔王は悪くないって言いたいんじゃないのか」


「一度も言ってない」


「じゃあ何で」


「アベルが勇者だったことと、今何をしてるかは別だ」


俺はセラを見る。


この人も、


簡単に昔の仲間を擁護するつもりはない。


それが逆に信用できた。


          ◇


夕暮れ。


森の街道。


前方から悲鳴。


レオンが走る。


「行きます!」


「待て、人数確認!」


俺も追う。


また走る。


本当にこの世界へ来てから膝に悪い。


曲がった先。


商隊。


荷馬車三台。


魔獣に囲まれている。


細長い四足獣。


黒い皮膚。


八頭。


「影狼です!」


ミレイア。


レオンが剣を抜く。


ユリウスも。


ガイルが盾。


俺は商人たちを見る。


十二人。


いや。


「十一」


「何?」


フィーネ。


「馬車の下に子供!」


小さな足。


一人取り残されている。


「フィーネ、子供!」


「はい!」


「ノアはこっち!」


「俺も――」


「今は言うこと聞け!」


いつもより強く言った。


ノアが止まる。


影狼が左右へ分かれる。


真正面から来ない。


挟むつもりだ。


「ガイル中央!」


「分かってる!」


「レオン右! ユリウス左!」


ユリウスが一瞬俺を見る。


「あなたが指示を?」


「嫌なら別案!」


一秒。


「従います!」


ありがたい。


ミレイアには後方。


フィーネは救護。


セラが弓を構える。


「私は?」


「自由に」


「雑だね」


矢。


速い。


影狼の足元へ刺さる。


直接殺していない。


進路を変える。


変えた先にガイル。


「なるほど!」


盾で吹き飛ばす。


レオンが一頭。


ユリウスが二頭。


動きが違う。


レオンは勘。


ユリウスは計算。


二人が同じ場所で戦うと逆に邪魔になる。


「レオン、外!」


俺は叫ぶ。


「ユリウスは内側!」


二人が離れる。


急に動きが良くなった。


昔。


優秀な部下を同じ案件に二人入れて失敗したことがある。


どちらも悪くない。


むしろ優秀。


だから、


互いに自分のやり方で進めてぶつかった。


適材適所という言葉は簡単だ。


難しいのは、


優秀な人間にも向いていない場所がある


と認めることだった。


「ミレイア、左奥!」


「見えています!」


氷。


二頭の足を止める。


フィーネが子供を引き出す。


残り三頭。


その瞬間。


一頭が俺へ向いた。


「え」


武器。


短剣。


持っている。


グラムの言葉。


武器を持てば戦士として扱われる。


「まずい」


影狼が走る。


速い。


俺は短剣を抜く。


何をすればいいか分からない。


刺す?


避ける?


四十八年間、一度も狼と戦ったことはない。


普通はない。


影狼が跳ぶ。


「高城!」


ガイル。


間に合わない。


俺は反射的に短剣を投げた。


当然。


外れた。


影狼の横を通過。


「うそだろ」


でも。


一瞬だけ影狼が視線をそらした。


その隙。


矢。


セラ。


影狼の前脚の地面へ。


着地が崩れる。


俺は横へ転がった。


腰が痛い。


まただ。


ガイルの盾。


影狼が吹き飛ぶ。


戦闘終了。


「高城」


ガイルが俺を見下ろす。


「何」


「短剣投げるやつ初めて見た」


「俺も初めてやった」


セラが笑っている。


「外したね」


「分かってる」


「でも悪くない」


「慰め?」


「違うよ」


影狼は短剣を避けた。


狙いが外れたからこそ、


進路がずれた。


「戦えないなら」


セラ。


「戦わせればいいのさ。周りを」


俺は少しだけ腹が立った。


でも。


たぶん褒められている。


          ◇


商隊を救い、


再び街道。


セラが俺の隣を歩く。


「アベルもね」


突然言った。


「最初はみんなを使うのが上手かった」


「使うって言い方」


「役割を振る。任せる。自分にできないことを認める」


それなら少し似ている。


「でも最後は?」


俺が聞く。


セラの顔から笑みが消えた。


「全部、自分で決めるようになった」


「……」


「世界を救うには仕方ないって」


それ以上は話さなかった。


俺は妙に引っかかった。


自分で全部やる。


自分で決める。


部下へ任せるより、自分でやった方が早い。


会社にいたころの俺。


もし。


命を扱う立場になったら。


同じことをするのだろうか。


考えたくなかった。

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