幕間 リリの勘
サボンが大聖堂に召し上げられて、もう何日になるだろう。
しかも、マリーまで一緒に行ってしまった。世話係として、だってさ。
……で、僕は? 僕だけ、王宮に置いてけぼりだ。
ひどくない? いちばんサボンの身だしなみに口を出してたの、この僕なのに。あのグータラを人前に出せる格好にしてやってたのは、誰だと思ってるんだ。
いや、べつに、寂しいとかじゃないからな。ただ、あのふたりは僕がついてないと絶対にやらかす。それだけの話だ。
でも、ここ数日。
なんだろう、この感じ。
胸の奥が、ずっとざわざわしている。
この勘は、よく当たるんだ。とくに、いやな予感のほうが。
そして今の勘は、はっきりこう言っている。
——あの大聖堂、ぜったいに、ろくなことになってない。
じっとしているのは、性に合わない。
幸い、僕は執事見習いだ。主の装いを整えるのも仕事のうちだから、装束屋にもお針子にも自由に出入りできる。誰がどんな衣装を誂えたか、なんて話も、向こうから勝手に転がりこんでくる。
というわけで、さっそく、馴染みのお針子のところへ顔を出した。
「やあ。景気はどう?」
「あら、リリ。聞いてよ、もう。このところ、大聖堂の注文が多くっててんてこ舞い」
「へえ。儲かってるじゃん」
「それがね。子ども服ばっかりなの。白い、おそろいの。次から次へって」
にっこり笑ったまま、内心でぴくりとした。
白い、子ども服。次から次へ。
よくよく聞けば、同じ寸法の服が、何度も何度も注文されている。小さい子の服が、すぐ新しいのへ替わるんだ。
……まるで、着ていた子が、つぎつぎいなくなっているみたいに。
僕の〈見立て〉は、その人がいちばん映える姿が視えるスキルだ。
いい装いからは、着る人の、輝く未来まで見えてくる。
でも、あの白い服たちからは。
その先が、ちっとも視えなかった。
まるで、長く着るつもりが、ないみたいに。
……ぞっとした。
たぶん、マリーも、もう気づいてる。
あいつは、勘定にかけては、しつこいからな。
たぶんマリーは数の合わなさで、僕は装いの異常で、おんなじ嫌な場所にたどり着いてる。そんな気がする。
サボン。それに、マリー。
あのふたりが、今、そんなところにいるんだぞ。
……マリーのやつ。いつも僕と言い合ってばっかりのくせに。こういうときに限って、僕のいないところで危ない橋を渡るんだ。
ほっとけるわけ、ないだろ。
ほんと、世話が焼ける。
僕は、装束方の責任者のところへ、とびきりの笑顔で乗りこんだ。
「お願いします! 今度の“儀式”、見習いとして勉強させてください。王宮のお偉い方々も来られるんでしょう? あの方たちのおもてなしや、当日の段取り。執事見習いの僕に、ぜひ手伝わせてほしいんです」
執事見習いが、熱心に学びたがってる。ただ、それだけのこと。
怪しむやつなんて、いない。
潜りこむ口実なんて、この立場が勝手に用意してくれる。
装いは、僕の領分だからな。
待ってなよ、サボン。マリー。
——この僕が、ぜったいに迎えにいってやるんだから。




