第99話「奪うより、取引が得」
朝の光が、丘の南の縁から斜めに上がってきた。
昨日の三人が降りていった林の縁の方角に、もう影はなかった。風は弱い。冬の入り口の風は夜の間に一度止まり、夜明けにまた低く吹き始めた。空き地の上には、煎じの薬草の薄い青い匂いだけが残っていた。
ソウは作業場の脇の平らな石の前にしゃがんでいた。
石の上には粘土板が五枚並んだままだった。配給板。鍬印板。白板。医療制度板。カナの薬の板。指の腹で五枚目の縁を一度なぞった。縁の白さが朝の光の中で、昨日よりわずかに沈んで見えた。
頭の中の白板の方では、別のものが動いていた。
三人の男の目が留まった場所。住居の数。畝の縁。陶器大壺。煎じの火。そしてこの五枚の板。見られた場所が、一つずつ線になって並ぶ。線はまだ何も意味を持たない。だが、並ぶ場所がどこに空いているかは、頭の中で形を持ち始めていた。
*
「シフトは変えない」
梯子の下から、リアの声が静かに上がってきた。
ヒガとダイの交代の間に、リアが半呼吸だけ口を開いたのだった。ヒガが頷きを返す。ダイが梯子を登り直して、南の斜面の方角に背を向ける。リアは梯子の脇に立ったまま、見張り台の上のダイの黒い影と、南西の林の縁の方を、一度ずつ目で確かめた。
ソウは石の前で顔を上げた。リアの背中はまだこちらを向いていない。だが、リアの肩の線が、昨日の夕方の柵の脇に立っていた時の角度と同じだった。
ガランは焚き火の脇のいつもの位置で、膝を落としていた。
昨日の夜に飲み残した煎じの椀が、まだ脇に置かれている。火の方を見たまま、ガランは咳を二度落とした。短い咳。
「……埃だ」
ガランは低く言った。
誰も振り返らなかった。振り返らない動きが、振り返る動きと同じ形をしていた。
*
日が高くなり、また傾き始める頃まで、丘の上の動きはいつもの動きと一つも変わらなかった。
オンが粥の鍋の脇で杓を動かし、カヤが煎じの火の縁から目を上げない。アサとハナが空き地の縁で椀を並べ、キイがその脇でカナの椀の方角は見ない位置を保ったまま、椀の山の脇に立つ。子の何人かが川から水を運ぶ革袋の脇に集まって、笑い声が一度、低く立った。
日常は止まらなかった。
止めないことが、たぶん今日の形だった。
だが、誰の頭の中にも南の斜面の方角の影があった。話さなかった。話さなくても、それが座っているのは分かっていた。
*
夕の光が丘の南の縁から薄くなった頃、焚き火の脇に主要な顔が自然と集まった。
ガラン。ソウ。リア。テツ。ベン。ハマ。ヨル。焚き火の輪の外側にカヤと、煎じの椀を運び終わったオンが立っている。ダイは見張り台の上に残った。ヒガは柵の南の側で、丸太の上に両手を置いている。
誰が呼んだのでもなかった。誰も呼ばずに、座る場所が一つずつ埋まる。
焚き火が一度、低く爆ぜた。
二つの椀と、その隣の板の縁を、火の光が斜めに撫でていく。
ガランが火を見たまま口を開いた。
「昨日の続きだ」
短い声だった。
ガランの声は、いつもの命令の声よりも半音だけ低かった。
*
「戦うか」
リアが最初に口を開いた。
梯子から離れて、焚き火の脇に立っていた。座らずに、立ったままだった。
「あいつらが来る形なら迎える形がいる」
リアは続けた。
声は張っていない。だが、迷いの色もなかった。
「柵の二段。見張り台の高さ。落とし穴は進入路の三本にまだ残っている。矢じりは十二本ある」
「動くか」
ベンが低く言った。
ベンは焚き火の輪の外側に近い場所に膝を落としている。北の谷から来た男の声は、いつも、輪の内側に入りすぎない。
「動いて逃げる形もある/北の谷で——一度だけ見た」
ベンの声の語尾は途切れた。
ベンが見た北の谷のその一度は、ベンの一族の半分が消えた一度でもあった。誰もその先を問わなかった。
*
ソウは焚き火を見ていた。
火の縁から薄く立ち上がる煙が、夕の風に乗って、南の斜面の方角へ流れていく。煙の流れる先が、昨日三人が降りていった林の縁とほぼ同じ角度だった。
「もう一つある」
ソウは口を開いた。
声は静かだった。輪の中の顔が一つずつソウの方を向く。リアは立ったまま、ガランは火を見たままだった。
「取引する」
ソウは続けた。
「奪うより、取引した方が得だ」
言ってから、ソウは火の縁から目を上げなかった。
昔——どこか別の場所で覚えた言い回しが、丘の上の言葉に翻訳されて、焚き火の前に置かれた。置かれた言葉が、輪の中の誰の頭にも、いったん同じ場所で座る音がした。
「向こうが力で取れる物より、取引で出せる物の方が多い」
ソウは続けた。
指の腹を無意識に、焚き火の脇の粘土板の縁の方角へ向けかけていた。気づいて、指は途中で止めた。
「粒。薬草。矢じり。陶器の皿。それから——」
ソウは一度、言葉を切った。
「数える形」
最後の四つは、誰の頭の中の白板にも、まだ線として並んでいないものだった。
だが、丘の上の五枚の板の上には、線としてすでに並んでいた。
*
「形か」
ガランが低く繰り返した。
ガランは火から目を上げて、ソウの方を見た。膝の上の右手が、一度だけ上下した。半秒。今夜はソウの目だけではなく、リアの目とテツの目も、たぶんそれを拾っていた。
誰も、その動きの話はしなかった。
「形で、相手を動かす」
ガランは続けた。
「戦わずに動かす」
ガランの声は、断つように終わらなかった。
最後の「動かす」の語尾が、焚き火の音の中にわずかに丸く沈んだ。
ソウは頷かなかった。
頷かない代わりに、両手を膝の上で軽く重ねた。
*
「だが」
リアが立ったまま口を開いた。
「相手が形を見ない時がある」
リアの声は責めの色ではなかった。
ただ、防衛責任者の声だった。
「奪う方が早いと思った時、形は止まらない/その時迎える形がいる」
「止めるな」
ソウは答えた。
「止めない。戦う準備は続ける。だが最初に取引を試す」
リアは頷いた。
頷きの動きは浅かった。だが、止めたのではなかった。
ガランがもう一度、火に視線を戻した。
火を見たまま、ガランは低く言った。
「両方やる」
短い声だった。
族長の決断の声だった。
*
誰もすぐには口を開かなかった。
焚き火の薪が一度崩れて、赤い塊が低く転がった。
テツが火の脇で、自分の掌の上の小さな黒い片を、親指の腹で一度撫でた。
ハミから受け取った黒曜石の片の、最後の一枚だった。撫でた指は、それ以上動かなかった。
ハマが焚き火の輪の外側で、両手を膝の上に重ねていた。ハマの口は開かなかった。だが、ハマの肩の線がわずかに前に落ちた。前に落ちる動きが、頷くのと似ていた。
ヨルが口を開きかけて、また閉じた。
閉じた口の代わりに、ヨルの目がリアの方を一度、確かめるように見た。リアは梯子の方角を見ていた。
ヨルは閉じた口を、それ以上は開かなかった。
*
「次は」
ガランが低く聞いた。
声は誰にともなかった。だが、焚き火の脇の顔の半分がソウの方に向いた。
「向こうが次に来る形を取るまで待つ」
ソウは答えた。
「だが待つ間にこちらが置く形がある」
「何だ」
ガランが火を見たまま聞いた。
「ハミに伝える形」
ソウは答えた。
「ハミは春の入り口にまた来る。その時こちらが何を出せるかを数えて渡す。向こうの誰かがハミから聞く」
ガランは答えなかった。
答えない代わりに、煎じの椀を口に運んだ。一口。それから、火を見た。
ソウの指の腹がもう一度、無意識に、焚き火の脇の粘土板の縁の方角を向きかけた。
今度は止めなかった。
*
夜の入り口の風が、丘の南の縁から低く上がってきた。
風の中に、馬の汗の匂いに似た何かは、まだ混じっていなかった。乾いた葉の匂いと、焚き火の煙の匂いと、煎じの薬草の薄い青い匂いが、空き地の上を低く渡っていた。
梯子の上のダイの黒い影が、南の斜面の方角を向いて立っていた。
その斜め下で、リアが焚き火の脇から梯子の方角へ、静かに歩いていく。座らなかった輪の中の一人の背中が、夜の入り口の風の中で、輪の外側へ戻っていく。
戻っていく動きが、止めたのではなく続けるのだと言っていた。
ガランは焚き火の脇のいつもの位置に、膝を落としたままだった。
咳はもう落ちなかった。
*
ソウは作業場の脇の平らな石の前に、もう一度しゃがんだ。
石の上の粘土板は五枚のまま。何も加わっていない。
だが、頭の中の白板の方では、新しい線がすでに引かれかけていた。粒。薬草。矢じり。皿。そして——数える形。五つの線が上から下に並ぶ場所を、頭の中で量っていた。
奪うより、取引が得だ。
その言葉は、焚き火の前に置いた時、丘の上の誰かの頭の中にも座った。だがいつか——丘の外側の誰かの頭の中にも、座らせる形にしなければならなかった。
そのための線はまだ引かれていなかった。だが、引く場所はそこにあった。
焚き火の脇の二つの椀の縁を、夜の最初の闇が薄く撫でていく。
その隣の五枚目の板の縁の白さが、闇の中でもう昨日のようには沈んで見えなかった。
夜が、丘の縁から上がってきていた。
風は止まらなかった。




