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転生先は夜明け前 ―石器時代から文明を拓く―  作者: 夜摩 高嶺
第一部 結実の章

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第67話「テツの新作」

 窯の脇に試作品が並んでいた。

 大きさはまちまちだった。深い椀が三つ、浅い鉢が二つ、それから見たことのない形が一つ。縁が立ち上がり、中に窪みがある。窪みは浅く、底はほとんど平らだった。椀ではない。鉢でもない。テツの作業場のいつもの並びの中で、その一つだけが形の系統から外れていた。

 ソウは焚き火の脇から立ち上がって作業場の方へ歩いた。

 数日前にハミが置いていった黒曜石十二片のうち、二片が作業台の隅に転がっていた。テツの手はその二片の方ではなく、土の方を触っていた。粘土を捏ね直しながら、時折、並んだ試作品の方を見ていた。


「これは」


 ソウが縁の立ち上がった一つを指さした。

 テツは捏ねる手を止めた。


「皿だ」


 平らな声だった。


「粥をこの上で食う。汁の少ない粥なら、椀よりこっちが食いやすい」


 テツは粘土から手を離し、その皿を持ち上げた。両手で軽く回して、縁の高さを掌の腹で確かめる。


「肉ならもっと浅くていい。汁の出ない焼いた肉だ。皿の縁はもっと低くていい」


 テツはもう一つ、別の試作品を指で示した。さらに縁の低い、ほとんど平らな板に近い形だった。


「これが焼き肉の皿だ」



 ソウは二つの皿を見比べた。

 縁の高さが違うだけだった。だが用途が違うと言われると、二つは別のものに見え始めた。粥の皿。焼き肉の皿。名前を与えられた瞬間に、二つは互いの場所を持った。


「水のかめも作る」


 テツが続けた。


「今ある水運搬の壺は、首が細い。歩いて運ぶのにはいい。だが家の中に置いて、ひしゃくで汲むには口が狭い」


 テツは作業台の上の粘土の塊を指で叩いた。


「もっと口の広い家の中用のかめがいる。粥の皿と焼き肉の皿と水のかめ。三つだ」


 テツの手が粘土を捏ね始めた。

 ソウはテツの手元を見ていた。粥の皿、焼き肉の皿、水のかめ。三つの名前が、ソウの頭の中に並んだ。並んだ瞬間、頭の中で何かが整理された。今までは椀と、一つの言葉で呼んでいた。中に汁を入れるものも、肉を載せるものも、水を汲むものも、全て椀だった。今、椀から三つの形が分かれて出た。


「これは——分かりやすい」


 ソウは口に出した。

 分かりやすいという言葉が、自分の口から出たことに少し驚いた。だが、他に言いようがなかった。



 その時、空き地の方から足音がした。

 リアだった。柵の上の見張りから降りてきたところらしい。手に弓を下げたまま作業場の脇まで来て、並んだ試作品を一度見渡した。

 目が縁の立ち上がった皿の方で止まった。


「便利だ」


 リアは短く言った。

 ソウは振り返ってリアの顔を見た。便利だとリアがその言葉を口にしたのを、ソウは前にも一度聞いたことがあった。水運搬の細長い壺ができた時だった。テツの手から出てきたまだ誰も使ったことのない形に対して、リアは「便利だ」と言った。

 今日のリアも同じ言い方だった。短く断定で、それだけ。


「粥がこぼれにくくなる」


 リアが続けた。


「子に持たせる時に椀だとひっくり返す。皿なら平らだ」


 リアの目はもう次の試作品の方に動いていた。焼き肉の皿の方を一度見て、それから水のかめの粘土の塊の方を見た。

 テツが捏ねる手を止めずに頷いた。



 昼が近づいた頃、ナギの四人のうち一人が作業場の脇に立った。

 ハルだった。ナギ四人の中で最年長の男で、三十を超えている。ヨルやイサやトトに比べて発話は少なく、ここまで背景の輪に静かに混じっていた男だった。今、その男がテツの並べた三つの形の前で、一度足を止めていた。

 ハルは縁の立ち上がった皿の方を見ていた。それから、その隣の焼き肉用の浅い皿の方も見た。最後に、捏ねかけの水のかめの粘土を見た。三つを順に見て、ハルはゆっくり口を開いた。


「皿と椀、分けてなかった」


 穏やかな声だった。


「東の谷では」


 それだけだった。

 集落の何人かがその声の方を振り向いた。サガが薪の山の前で、ヒガが見張り台の足場の下で、ノタが空き地の縁の柵の杭の脇で、それぞれ手を止めた。短い沈黙が作業場の脇に降りた。一つの椀で粥も肉も水も済ませる暮らし。誰もそれを口にしなかったが、何人かの目が、自分の手元にいつも握っている椀の方を一度確かめるように見た。

 ハルは責めるような口調ではなかった。誇るような口調でもなかった。ただ、東の谷ではそうだったと、自分の知っている形を一つ置いただけだった。


「一つの形で全部済ませた」


 ハルはそれだけ言って口を閉じた。



 ソウはハルの言葉を頭の中で繰り返した。

 一つの形で全部済ませる。東の谷ではそうだった。粥も肉も水も一つの椀の中に入れて、それで一日が終わる。それは不便ではなかったのだろう。ただ、椀から三つの形が分かれて出ることもなかった。

 ハルの声には押しつけがなかった。トトが貝の枚数の話をした時と、温度が似ていた。

 ソウは焚き火の方から自分の頭の中に視線を戻した。ヨルが言葉を運ぶ。イサが体を運ぶ。トトが記憶を運ぶ。今日、ハルが自分たちの暮らしの形そのものを運んできた。四人がそれぞれの形で、ここの輪の中で見えるようになっていた。ソウは内側で一度、その事実を確かめた。声には出さなかった。

 テツが捏ねる手を止めずに、ハルの方を一度だけ見た。視線が合うとハルがわずかに頷いた。テツも頷き返した。それだけだった。



 昼を回って、集落の者たちが順に作業場の脇を通り過ぎていった。

 粥の皿、焼き肉の皿、水のかめ。三つの名前が、その日のうちに何人かの口の端にのぼった。ナツが「焼き肉の皿、ね」と一度繰り返した。ミラが「子の手にはやっぱり皿の方がよさそうね」と呟いた。アズが住居の入口から皿の方を一度見て、何も言わずに引っ込んだが、ハナを抱える手の動きが少しだけ柔らかくなった気がした。

 ガランは作業場の方には来なかった。焚き火の脇から動かず、ただ皿の話が空き地を渡っていくのを耳の端で聞いていた。それで十分という顔だった。



 夕方近く、テツは捏ねる手をようやく止めた。

 水のかめの粗形ができていた。胴は広く、口も広い。乾かして焼くまでには、まだ数日かかる。皿の方はすでに二つを乾燥に回したところだった。テツは作業台の上の二片の黒曜石を、ようやく手に取った。光に透かして、爪で縁を確かめた。

 ソウが脇に立つと、テツは黒曜石を作業台に戻して低く言った。


「これでも、まだ——」


 テツの声は途中で止まった。


「足りない」


 短かった。

 ソウは黙って、テツの横顔を見た。焼く前の粘土の上の指の動きでも、捏ねた腕の疲れでも、ハルの一言に対する頷きでもない場所から、その言葉は出てきていた。

 テツは黒曜石の片を親指の腹でなでた。ハミが持ってきたあの十二片は、もう五本分の試作矢じりの先を超えて、本物の十二本分の素材として作業台の隅に積まれている。だが今、テツの目は、その十二片の方を見ていなかった。


「皿はできた。かめもできる。だが、皿で粥を食うにも、肉を切るには石の刃がいる。石は欠ける。黒曜石でも欠ける」


 テツは黒曜石を作業台に置いた。


「もっと別の何かがいる」


 ソウは答えなかった。

 答えずに、ただテツの横顔を見ていた。テツの目は黒曜石の方ではなく、窯の覆いの方に向いていた。窯の温度の上にある、まだ誰も見たことのない別の温度の方を、テツは見ようとしていた。



 夜、焚き火の輪に族民が集まった。

 粥の鍋からカナが配給を始めた。今夜の粥は、いつもの椀に注がれた。皿は乾燥中で、まだ使えない。だが明日か明後日には、最初の一枚が焼き上がる。粥の皿に最初に粥を盛るのは誰になるだろうと、ソウは焚き火を見ながら考えた。

 テツは焚き火の輪の中で、いつもの場所に座っていた。膝の上に椀を置き、ゆっくり口に運んでいた。視線は火の方を見ていたが、頭の中はまだ作業場の方にあるのが、ソウには分かった。


 風が南から吹いた。

 冬の入り口の風だった。ハミの去った方角から、低く厚い雲が空をゆっくり流れていた。


 テツの手元に、まだ何かが生まれそうな気配があった。

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