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転生先は夜明け前 ―石器時代から文明を拓く―  作者: 夜摩 高嶺
第一部 結実の章

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第66話「交換の難しさ」

 未明、空き地の焚き火がまだ赤いうちに空気を切る声が一つ走った。

 赤ん坊の泣き声だった。


 声はアズの住居の方から来た。住居の壁の隙間を抜けて空き地に届くまでに、声はすでに二度、三度と続いていた。最初の一声で目を覚ました者は数人だったが、二声目で全員が起き上がっていた。

 ソウは寝床の毛皮を払い、外に出た。空き地の中央の焚き火の脇で、ガランがすでに立っていた。立ち方はいつもより少し慎重で、しかし膝に手は当てていない。


 ノモが、住居の入口の前に立っていた。

 ノモはアズの夫だった。第一部の間ずっと「アズの夫」と呼ばれていた男で、今朝までソウは彼の口から自分の名を聞いたことがなかった。狩りの組では寡黙で通っていた。今、入口の脇に立つ背中も寡黙そのものだった。両手は脇に下ろしたまま、視線は地面の少し先に固定されている。動かない。

 ただ、入口の方を見るために、ノモは何度か首を動かしていた。ほんの数度ずつ繰り返した。



 住居の中には、カナがいた。

 ミラも一緒に入っていた。ミラは編み物の手を止めて夜中に呼ばれたのだろう。母性的な調整役の女が、産声の脇に立っているということだった。

 カナは出産を見るのは初めてだった。バアが生きていた頃なら、こういう場面の中心にバアがいた。今夜はバアの代わりに、薬草の束を持ったカナが入っていた。

 住居の壁の向こうから、低く何かを言う女の声が漏れた。アズの声だった。痛みを噛んでいる声だったが、押し殺せていた。続いてもう一度、赤ん坊の泣き声が鋭く立った。


 ノモが、首を動かした。

 今度は首だけではなかった。肩がわずかに下がり、息を一つ深く吐いた。

 その息は、空気の冷たさの中で白くなった。秋深まりの白い息だった。



 夜明けが、丘の縁から登ってきた。

 空き地の族民は誰も住居の入口の前に押し寄せなかった。各々が適当な距離を取って立った。ガランが焚き火の脇。ゴウザが薪の山の前。ムロとサガが少し離れて並び、リアが見張り台の足場の最下段に片足を載せたまま動かない。ナツがトウカの肩に手を置き、ベン一家の四人が住居の脇から少しだけ顔を出していた。ジンとコノが揃って同じ方向を見ている。

 ヨル、イサ、ハル、トトは焚き火の反対側で輪を作っていた。トトが最年少で、その背の高さは他の三人より少し低い。トトの目だけが、住居の入口とアズの方を往復していた。


 誰も声を出さなかった。

 空気の中に、産声の余韻だけが残っていた。


 住居の入口の革幕が、内側から押された。

 ミラが先に出てきた。両手で何かを抱えている。布の塊に見えた。布の塊がミラの腕の中で小さく動いた。

 続いてカナが出てきて、ノモの方を見た。


「女の子だよ」


 カナの声は夜の終わりにしては明るかった。


 ノモは何も言わなかった。

 ただ、布の塊の方へ足を一歩進めた。一歩。それから二歩目を出すまでに、少し間があった。間のあとで、二歩目を出した。ミラがそっと、布の塊をノモの方へ差し出した。ノモは両手を出した。手は震えていた。震えながら、布を受け取った。


 ノモは布の塊を見た。

 見て、頷いた。

 頷きは一度きりだった。だがその頷きで、ノモの首の角度が夜の間ずっと固まっていた角度から外れた。



 ガランが焚き火の脇から立ち上がり、住居の前まで歩いてきた。

 歩み方はいつもより慎重だったが、足の運びには迷いがなかった。族長として命名の役を担うべき場面だった。ガランは布の塊の前で足を止め、しばらく赤ん坊を見ていた。

 それから低く言った。


「ハナだ」


 短い声だった。ガランの命名はいつも短い。


 ノモが、もう一度頷いた。今度は二度。

 ガランの隣で、ソウは口の中で名前を確かめた。ハナ。秋の終わりに生まれた女の子の名前としては季節と少しずれている。だが花は季節を越えて咲くものだった。冬の手前で生まれた子の名に——ガランは花を当てた。

 族民の何人かが、口の中で「ハナ」と繰り返した。


 ソウは振り返って、焚き火の輪を数えた。

 ガラン、ゴウザ、ムロ、サガ、リア、ヨル、イサ、ハル、トト、ナツ、トウカ、ノタ、アズ、ノモ、ハナ、ベン、カヤ、ジン、コノ、ダイ、ヒガ、ミラ、テツ、カナ。指で順に数えた。途中で数え直し、もう一度数えた。

 三十二人だった。



 昼前、空き地の中央で、テツが黒曜石の片を一つ手に持って立っていた。

 ハミが置いていった十二片のうちの一つだった。テツは片を地面に置き、その隣に粒を一握り並べ、さらに薬草の束を一つ置いた。三つを順に見比べていた。

 ソウが近づくと、テツが顔を上げた。


「これをどう測る」


 テツの声はいつもの平らな声だった。


「次から数えると言った。だが、何を基準に数えるかがまだない」


 ソウは答えなかった。答えようとして、答えの形が頭の中で揃わなかった。

 黒曜石一片に対して、粒は何握りか。あるいは薬草の束いくつか。重さで計るか、嵩で計るか、効きで計るか。基準の取り方によって、答えは変わる。


 サガが、薪の山の脇から声をかけた。


「同じ重さでいいだろ」


 サガの声は短かった。短いまま結論を提示した。


「黒曜石も粒も重さは量れる。重さが同じなら、釣り合う」


 ノタが、空き地の縁の柵の杭に背を預けていた場所から、首を振った。


「重さで足りない物がある」


 ノタが続けた。


「あの赤い塊は軽い。だが染められる布の量を考えると、軽いだけで決めると損だ」


 サガは黙った。ノタの言葉は、ノタ自身が足を悪くしてから空き地の縁で物を見続けてきた目から来ていた。動けない者の目には動ける者の目に映らないものが映る。サガはそれを知っている顔だった。



 その時、焚き火の反対側で輪を作っていたナギの四人のうち、一人が立ち上がった。

 トトだった。最年少の男が、それまで一度も交換の議論に口を挟んだことがなかった。トトはゆっくり輪を出て、テツの並べた三つの物の脇まで歩いてきた。

 ヨルが、トトの背中を一度見た。だが止めなかった。


「東の谷では」


 トトが言った。声は低く短く観察的だった。


「貝の枚数で数えた」


 トトはそれだけ言って口を閉じた。

 しばらくしてようやく続けた。


「重さでも嵩でもなく、貝を一枚二枚と数える。一枚で粒の一握り。二枚で薬草の束一つ」


 トトはそれだけ言って、ヨルの方を振り返った。ヨルが頷いた。否定の頷きではなかった。トトの記憶を確かめる頷きだった。


 ソウは、トトの言葉を頭の中で繰り返した。

 貝の枚数。物そのものではなく、物の代わりに数えるための別の物。重さでも嵩でもない、数えるためだけの単位。それは粒や薬草や黒曜石とは別の場所に置かれた抽象の道具だった。


「貝——か」


 ガランが住居の前から低く言った。視線は赤ん坊の方を見たまま声だけがこちらに届いた。


「商人が、貝を持ってきた」


 誰かが言った。ヒガの声だった。


「あの一束を使えるか」



 議論は続いたが、答えは出なかった。

 貝の枚数で数えるとして、一枚あたりの値をどう決めるか。ハミが置いていった貝殻一束は何枚か。次にハミが来るまでに、こちらで決めておく必要があるか、それとも一緒に決めるか。答えのない問いが、空き地の中央に並んでいった。

 ソウは頭の中で、その問いを数えた。

 数えながら思った。数えるための道具が手元にあれば——どれほど楽だっただろう。粘土の板でも骨の片でも、線を刻める何かがあれば。書く方法が、まだない。


 答えは、今日も出なかった。


 昼を回った頃、住居の中からアズが顔だけを出した。ハナはすでにアズの腕の中に戻っていた。アズは交換の議論の輪を一度見て、そして何も言わずに引っ込んだ。今日のアズに発言を求める者はいなかった。

 ノモは住居の入口の脇でまだ立っていた。立ったまま、たまに首を動かしていた。今朝までよりも首の動きは少し滑らかになっていた。



 夕方、焚き火の輪に族民が集まった。

 粥の鍋からカナが配給を始めた。今夜は苦い葉が二枚、丸い葉が一枚。ハナの母のアズの椀には苦い葉が三枚入れられていた。カナの判断だった。

 ソウは焚き火の脇に座り、椀を膝に置いた。隣にテツが座った。テツの掌の上にはもう黒曜石はなかった。今朝の片は道具小屋の方に戻したのだろう。


 空き地の北西の方角、見張り台の角に、リアの黒い影が立っていた。

 風が南から吹いてきた。秋の風だったが、底に冬の冷たさが混じり始めていた。風が運んでくる空気の中に、産毛の匂いがかすかに混じっていた気がする。気のせいかもしれない。あるいは気のせいではないかもしれない。

 住居の方から、もう一度、ハナが泣いた。短い泣き声だった。今度はすぐに止んだ。


 アズの第2子が泣いた。

 その隣で——誰が何と引き換えるか、まだ答えが出ていなかった。

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