第64話「リアの成長」
夜明け前の空気に、薄い白が混じっていた。
ソウは住居を出て、空き地の端で立ち止まった。柵の上の丸太の縁に、霧とも露ともつかない薄い膜が一筋、白く張りついている。指で触れると冷たく、すぐに溶けた。氷の一歩手前の膜だった。粒の中身までは凍っていないが、表面の薄皮だけが夜の間に固くなりかけたのだろう。指の腹に残った水の冷たさが爪の付け根まで沁みた。
今朝がその朝だった。
空気の中に、夜の間にはなかった音が混じっている。
遠くの林で葉が落ちる音だった。一枚、また一枚と、間を置いて落ちる。夏の間は風の音に紛れて聞こえなかった音が、今朝は柵の内側まで届いている。風が止まっているからだった。
風が止まると、丘の上の音がよく聞こえる。
見張り台の上に、黒い影が一つあった。
リアだった。背中をこちらに向け、南の斜面の方を見ている。風はないが、髪の毛の先だけがゆっくり前後に動いていた。リア自身の呼吸の上下に合わせた動きだった。背の高さの線が見張り台の足場の柵の上に剥き出しのまま立っている。動かない。
ソウは見張り台に登らなかった。下から見上げて、しばらくその影を見ていた。
影は夜明けの薄い白の中で、一つだけ黒く立っていた。背中の角度に、夜通し見張りを続けた者の疲れは出ていなかった。出ていないというより、出てもいないし、隠してもいない。ただ立っていた。
*
朝の粥が空き地で配られたあと、リアは梯子を降りてきた。
降りる動きがいつもより静かだった。足音を立てない降り方を、リアは去年の冬から自分で覚えていた。降り終わると、ソウの方には来ずにガランの座っている焚き火の脇に歩いた。
「シフトを変える」
リアは短く言った。
「移住者も入れる」
ガランは椀を膝の上で持ったまま、しばらく動かなかった。
「ベンの長子。十五だ。畑も出るが、夜の見張りも回せる。あいつの体はまだ伸びる」
リアの声には迷いがなかった。決めてから来ている声だった。
ガランは粥を一口啜り、それから低く言った。
「お前が決めろ」
ガランの声はいつもより少しだけ低かった。承認の声だった。
リアは頷いて、ソウの方に一度視線を向けた。視線が合った時、リアの目は何も言わなかった。だが言わない目で、何かを伝えていた。たぶん「今日、教える」ということだった。
*
ガランが立ち上がった。
立ち上がる時、ガランの右手が自分の右の膝の上に置かれた。手が膝の上で一度、軽く押した。押した動きは半秒もなかった。立ち上がる勢いを助けるための、ほんの小さな手の動きだった。
ガランは何も言わなかった。立ち上がってから、椀を住居の方に運ぶ歩みはいつも通りに見えた。
ソウだけがその手の動きを見ていた。
気のせいでは——なかった。
昨日の斜面の重い足の運びと、今朝の膝の上の手。二つの動作は別の場所で別の時間に起きたが、一つの線の上に並んでいた。
ソウはその線を頭の中で見て、すぐに見るのをやめた。見続ければ形が確かになる。形が確かになれば、誰かに言わなければならなくなる。今日はまだ見るのをやめておく時だった。
*
昼前、空き地の南の縁で、リアが弓を立てた。
ジンがリアの三歩前に立った。背は高くないが、肩幅はベンに似て厚い。ジンの手に、リアの予備の弓が握られていた。木の硬さにまだ手が慣れていない。指の関節が白かった。
「弦は頬の横まで」
リアは自分の弓を構えて、ジンに見せた。引いた弦が頬の横で止まった。止めて、しばらく保った。それから、ゆっくり戻した。
「耳の後ろまでは引かない」
ジンは頷いた。
ジンが自分の弓を構え、矢を番え、弦を引いた。引いた弦が耳の後ろまで行きかけた。
その時、後ろから手が伸びてきた。
イサだった。
いつ来たのかは分からなかった。気配を消して輪の外側から入ってきたのだろう。リアが目だけでイサの方を一度見て、目だけで「いいか」と聞いた。イサが目で頷いた。それで入った。
イサはジンの背中の後ろに立ち、右の掌をジンの右の肩甲骨の上に置いた。それから、左の手をジンの腰に当て、わずかに下げた。腰の位置が一段下がった。
ジンの引いている弦が頬の横で止まった。
「狙いは足元だ」
リアが続けた。
「胸を狙うと外す。足元を狙えば、外しても当たる場所が近い」
ジンは矢を放した。
矢は空き地の端の革の的の、足元から少し上に刺さった。中心ではない。だが的の中にはあった。
リアがわずかに頷いた。
イサがジンの肩甲骨と腰から手を外し、後ろに二歩下がった。下がってから、リアの方を一度見て、目を逸らさず、頷いた。リアも頷き返した。
言葉は一つも交わさなかった。
*
ジンの稽古がしばらく続いた。
ベンが住居の入口からその様子を見ていた。寡黙な男の顔は何も語らなかったが、見ている時間が長かった。コノが父の脇から首を出し、兄の構えを覗き込み、すぐに何か別の小石の方へ走っていった。
空き地の北では、カヤがカナの隣に立っていた。
カナが粥の鍋の脇にしゃがみ、膝の上に薬草の束を広げている。三枚を選び出し、葉の裏を確かめてから、二枚を鍋の上で軽く揉んだ。揉む指の腹の動きはゆっくりだった。指の関節を一度立ててから、葉脈の上を爪の角でなぞる。葉が裂ける角度をカナの指が知っている。
カヤは口を開かなかった。半歩離れた場所に立ち、カナの指の動きを目で追っていた。腕を組まず、両手を自分の腹の前で軽く組んでいる。聞く姿勢ではなく見る姿勢だった。
葉を粥に落とす時に、カナが一度カヤの方を振り向き、笑った。
「これ、毎朝。二枚ね」
カヤは頷いた。
「ええ」
カヤの返事はそれだけだった。
それだけだったが、その「ええ」は頷きの動きと一緒に出ていた。聞いた、というよりも置かれた、という形の声だった。カヤとカナの間にしばらく、言葉の代わりに葉を揉む指の音だけが流れた。
ソウは丘の北縁へ一人で歩いた。
バアの薬草畑の畝の前にしゃがみ、苦い葉の根元に指を入れた。土は冷たくなりかけていた。水の引きが夏のように速くはない。秋が土の中に降りてきていた。
苦い葉の葉先がわずかに茶色く縁取られ始めている。霜が降りる前にある程度の葉は採り尽くす必要があった。バアなら、何枚を残し何枚を採るかの目安を葉の張りで決めただろう。ソウは葉の縁を指で摘んで、張りを確かめた。一枚はまだ硬い。二枚目はわずかに柔らかい。三枚目は葉脈の縁が乾き始めている。
覚えるべき目安は葉の数だけある。
膝を立てて、立ち上がろうとした時、ソウは自分の膝に右手を置きかけた。置きかけて、止めた。
自分の体はまだその動きを必要としない。十七になったばかりだ。腿に力を入れれば、膝に手を当てなくても立ち上がれる。今朝の冷たい土の上にしゃがんでも、踵が痺れることはない。
だが、五十を超えた男の体はその動きを必要とする時がある。
体は季節と同じだった。夏の終わりまでは葉が硬く、秋に入れば縁から乾き始める。乾き方の速さは葉によって違う。早い葉も遅い葉もある。
ソウは立ち上がり、畝の脇の桶に指の土を払い落とした。桶の水の表面に薄い氷の予感が漂っていた。
*
夕方、焚き火の輪でガランがソウの隣に座った。
いつもの位置だった。だが今夜、ガランは椀を膝に置く前に、しばらく火を見ていた。火の中で薪の一本が爆ぜて、火の粉が空に上がった。
「ソウ」
ガランの声は低かった。
「ん」
「お前の役目も、もうじき終わる」
ソウは答えられなかった。
答えるべき言葉が頭の中でいくつかに分かれた。族長としての役目の話か、ガラン自身の話か、それとも——ソウの先導役そのものの話か。どの解釈でも意味が成り立った。どの解釈にもガランの口は閉じていた。
ガランは説明を足さなかった。
ガランは火の方を見たまま、続けた。
「先のことは先で考えればいい。今夜は——粥を食え」
ソウは椀を持ち上げ、粥を一口啜った。苦い葉の味が舌の上に広がる。
ガランも椀を持ち上げ、一口啜った。啜る前に、椀を持つ手がわずかに膝で支えられていた。
その動きをソウは見て、見なかったことにした。
焚き火がもう一度爆ぜた。
火の粉が秋の夜空に上がり、星の手前で消えた。
見張り台の方角を見ると、リアの黒い影がもう一度足場の上に立っていた。今夜の見張りの番だった。風は今朝より少し冷たくなっていた。




