第46話「情報戦の構想」
夜、空き地の中央の焚き火の周りに、五人が座っていた。
ガランとテツとリアとゴウザとソウだった。離れた住居からは、誰も出てこなかった。出てこないように、ガランが低い声で言ったのだった。狼狽えるな、と昼に言ったあとで、夜は五人で考える、と決めた。
火が一度ぱちりと鳴った音が消えるのを、ソウは待った。
待ってから、ソウは口を開いた。
「戦えば、負けます」
ソウは続けた。
「だが、戦わずに追い払うことはできる」
誰もすぐには答えなかった。
答えなかったが、ガランの目が、わずかにソウの方に向いた。テツは自分の手の指を組み直した。リアは肩から外した弓を、地面に立て掛けた。ゴウザは火を見ていた。火だけを見ていた。
「地面に書きます」
ソウはそれだけ言って、焚き火の脇の柔らかい土の上を選んだ。手元に細い木の枝を引き寄せた。引き寄せた枝の先で、土に線を引いた。
最初の線は丸だった。丘の輪郭。次の線は、丸の中の空き地と住居だった。それから、丸の南の縁に横の線を引いた。柵だった。柵の北西の角に、小さな四角を置いた。見張り台。
最後にソウは、丸の南の外側に、木の枝の絵を三つ並べた。林の縁。
「あいつらが来る道は、三本です」
ソウは林の縁の絵の根元から、丘に向けて線を三本引いた。
「南東の林の切れ目。南の谷筋。南西の低い尾根。この三つしかない」
リアが頷いた。
「南東は私が何度も歩いた。柔らかい。雨上がりに足跡が残る」
テツも頷いた。テツはリアほど、地形を知らない。だがリアが頷くなら、ソウの絵は合っている。
*
ソウは続けた。
「策は、三つです」
ソウは地面の絵の空き地の南の縁の外側を、枝の先で軽く突いた。
「一つ目」
ソウは空き地の南の縁の外側に、丸を五つ置いた。
「柵の外の五つの場所に、焚き火の跡を作ります。本物の火は灯しません。今は灯さない。来る、その日の朝に灯します。煙が五本、新しく立ち上る。柵の中の煙と合わせて十一本」
ソウは息を整えた。
「丘の上の人数を倍に見せる」
「偽の焚き火か」
テツが低く言った。
「そんなに簡単に騙せるか」
「煙だけでは騙せません。だから、二つ目です」
ソウは林の縁の絵の手前に、小さな点をいくつも打った。
「夜のうちに、林の縁から空き地までの地面に、足跡を踏みます。三十人分。何度も歩いて踏みます」
ソウはリアの方を見た。
「踏めるか」
「やれる」
リアは即答した。
「夜のうちに、外周を歩けばいい。歩き方を変えれば、何人分にも見える」
*
「三つ目です」
ソウは林の縁から空き地までの三本の道に、それぞれ小さな三角を置いた。
「進入路に落とし穴を三つ掘ります。深くは要らない。膝までで十分です。底に枯れ枝を敷きます。縁に石を仕込みます。踏み抜いた瞬間に足が落ちて、枝が折れる。石がぶつかって、音が鳴る」
ソウは地面の三角を、枝の先で軽くなぞった。
「大きな音が出れば、一瞬止まる。止まるということは、迷うということです。迷えば、頭の数が揃わなくなる」
リアが低く息を吐いた。
「足元、だな」
「足元、だ」
ソウは頷いた。
「胸を狙わない。足元を狙う。あいつらの足元」
ガランはしばらく、地面の絵を見ていた。
見てから、ようやく口を開いた。
「策の三つは、分かった」
ガランは続けた。
「だが、煙と足跡と落とし穴で、二十人を止められるのか」
ソウは答えなかった。答えなかったが、ガランの目を見ていた。
「もう一つ要ります」
ソウは低く言った。
「噂、です」
*
「噂」
ガランの口の中で、その言葉がゆっくり転がった。
「ガラの丘はグラムと取引をしている。そういう噂を、ドルクの耳に入れます」
ソウは続けた。
「丘に手を出せば、グラムが出てくる。そういう絵を、ドルクの頭の中に置きます」
ガランはしばらく黙ってから、低く言った。
「噂で人を動かす、か」
「動きます」
ソウは答えた。
「噂は本人に直接言うより、第三者から聞こえたほうが信じやすい。直接の脅しは、嘘でも本当でも、額面通り受け取られる。だが、誰かが別の場所でぽつりと口にしたことは、本物に聞こえます」
テツが自分の指を組んだ手を、わずかに開いた。
「誰が口にする」
「ナギの一族に頼みます」
ソウは火の方を見た。
「ナギの一族は、東の谷の向こうから、ここに来た。ドルクは西の谷の向こう。二つの谷の間で、人は行き来する。ナギの一族の口から東の方角に流れた話は、いずれ西にも届きます」
ガランは頷かなかった。だが否定もしなかった。
しなかったあとで、ガランはリアの方を見た。リアはガランの目を受けてから、答えるように頷いた。
ガランはテツの方を見た。テツは自分の手の指で、自分の膝を軽く叩いてから答えた。
「偽の焚き火台と音の仕掛けは、俺がやる。明日の昼までに五つ組む」
ガランは最後に、ゴウザの方を見た。
ゴウザは火を見ていた。火を見たまま、答えなかった。だがしばらくしてから、首を一度縦に動かした。それだけ動かして、また火に目を戻した。
*
ガランは息を吸ってから、空き地の南の縁の柵の方に視線を流した。流して戻した。
「やる」
ガランはそれだけ、言った。
「明日から準備だ」
「ナギの一族には誰が」
テツが聞いた。
「ゴウザを出す」
ガランは答えた。
「武人を出す。武人が出向くということに、意味がある」
ゴウザは火を見たまま、また首を一度縦に動かした。動かしただけで、何も言わなかった。だがその頷きは、朝ヒガの報告を聞いて空き地の中央で誰よりも口を結んでいた、あのゴウザの頷きとは違っていた。動きはわずかだったが、芯のところで、何か決まっていた。
*
話が終わったあと、五人はすぐには立たなかった。
火がもう一度、ぱちりと鳴った。
ソウは地面の絵を、しばらく見ていた。丘の輪郭。空き地。柵。見張り台。林の縁の三つの絵。三本の進入路。三つの三角。五つの丸。点々と打った足跡の予定地。
絵は、まだ絵だった。
絵を現実にするのは、明日からの二日と半日だ。
リアが最初に立ち上がった。立ち上がる前に、リアはソウの方を見た。見たが、何も言わなかった。言わずに自分の弓を肩に戻して、空き地の住居の方へ歩いていった。
テツが次に立って、火の脇の自分の鉢を片付けた。片付けながら、低い声でソウに言った。
「明日の朝、最初の一台はお前と一緒に組む」
ソウは頷いた。
ゴウザは最後まで座っていた。
座って、火を見ていた。
ガランがゴウザの脇に立って何も言わずに、ゴウザの肩を軽く叩いた。叩いた手を、すぐに外した。
ゴウザはそれでようやく立ってから、ガランに低く言った。
「明日の夜、出る」
ガランは頷いた。
「頼む」
「うん」
ゴウザはそれだけ言って、住居の方へ歩いていった。
空き地に、ソウとガランが残った。
ガランはしばらく火を見ていた。それから、ソウに低く言った。
「お前の絵を現実にするのは、お前一人ではない」
ソウは答えなかった。
「明日から、丘の二十七人で絵を踏む」
ガランはそれだけ言って、住居の方へ歩いていった。
ソウは地面の絵の脇に、しばらく座っていた。
座って、絵の中の五つの丸と三つの三角を、もう一度目で追った。
絵は夜の風に、少しずつ輪郭を薄くしていた。明日の朝には、誰かの足が踏んで消すだろう。消えてもいい。絵の役目は、もう終わった。




