第34話「窯を建てる」
穴は、丘の中ほどの空き地に掘った。
ガランが指で示した場所。住居から十歩離れていて、風下にもならない。ダイがまず鋤の先で土を掻き、ヒガが両手で土を掻き出す。穴の直径は両腕を広げたほど。深さは、立ち上がったテツの腰の高さまで。
「これくらいで、足りるか」
ダイが手を止めて、穴の縁から中を覗き込んだ。
「火を、深く置く。深くしないと上の覆いとの間が、足りない」
テツの返事は短かった。
テツは穴の中に降りて、底の中央に石を一つ置いた。火床の中心になる石。それから穴の壁に沿って、拳大の石を等間隔に並べていく。
ソウは穴の縁にしゃがんで、テツの動きを見ていた。
「下の穴は、北側」
ソウは棒の先で、北の壁を指した。
「風が北から来る。下の穴を北に開けると、外の風が直接、火床に当たる」
「分かる」
テツは並べた石の北側に、拳が二つ通る大きさの隙間を作った。ここに通気口を作る。外と中をつなぐ穴。
反対側、南の上のほうにもう一つ穴を空ける場所を決めた。煙の出口。下から空気が入って、上から煙が抜ける——鳥の巣の屋根の話を、テツがまた持ち出した。下から上へ流れる。
*
二日目、石を組み終えた。
テツが石の隙間を捏ねた粘土で塞いでいく。粘土は、テツが川下で見つけた細かいやつ。器を作るために残しておいたうちの半分を、こっちに回した。塞いでは押し込み、押し込んではまた塞ぐ。テツの手は、すぐに肘まで茶色くなった。
「上を、どうする」
ヒガが穴の縁から声をかけた。
「土で、覆う」
テツは答えた。
「丸く、こんもりと。上の真ん中に、煙の出口」
「丸く、というのは、どれくらいだ」
「ソウ」
テツが顔を上げた。
ソウは地面に棒の先で、再び絵を描いた。穴の上に乗せる土の覆いで、半球。中央が一番高く、縁に向かってなだらかに下がる。
「半分の球。中の空気を、上で集める。集めたところに、煙の穴。一箇所」
「半分の球ってどうやって作るんだ」
ヒガの声に、ソウは少し考えた。
半球の土の覆いを、土だけで自立させるのは難しい。乾く前に崩れる。前世の書物の最も古い層では、確か——枝で骨を組み、その上に土を乗せて乾かしたはずだ。骨は焼くときに燃え尽きる。燃え尽きた跡が、空気の通り道になる、と書いてあった。
「枝で、骨を組む」
ソウは答えた。
「半分の球の形に、細い枝を曲げて組む。その上から、土を、被せる。乾けば、土だけで形が残る」
「枝は、燃えるんじゃないか」
「燃えていい。火を入れると、骨は燃えて消える。土だけが残る。骨が消えた跡は、煙の通り道になる」
ヒガは少し考えて、納得しなかった顔のまま、それでも頷いた。
ダイが黙って細い枝を集めに行った。
*
三日目、骨組みができた。
半球の枝の骨。テツとダイが両側から枝を曲げ、湿らせた樹皮の細紐で結束する。骨が立ち上がるのに半日かかった。
骨が組み上がると、その上から泥を被せていく。粘土と土を混ぜたもの。粘土だけでは乾きすぎて割れる、と前回の失敗で分かった。混ぜれば均一に乾く。
「混ぜろ」
テツが指示した。
「砂も、少し」
ヒガが砂を混ぜた泥を運んでくる。テツが両手で骨の上に塗りつける。塗っては押し込み、押し込んではまた塗る。半球の表面が、少しずつ滑らかに均されていく。
その時、リアが現れた。
弓を肩にかけたまま、空き地の縁から無言で歩いてくる。手には、布に包んだ何かを抱えていた。
布を地面に置く。中身は獣の毛皮の切れ端だった。
「これ」
リアはそれだけ言って、毛皮を泥の脇に並べた。
「壁に、混ぜたら、ひび割れにくいって、ばあちゃんが、言ってた」
バアが言ったのか、リア自身が思いついて、バアに確かめたのか。それは分からない。だがリアが自分の口で「ばあちゃん」と言うのは、ソウが知る限り、初めてだった。
テツが手を止めて、毛皮の切れ端を指でつまんだ。
短く切られた毛が指先に絡む。粘土に混ぜれば、繊維が割れを止める。藁を混ぜるのと同じ理屈。だが毛皮の繊維は藁より強い。
「使う」
テツが毛皮を泥の中に投げ込んだ。混ぜ込む。指でほぐすと、泥の中に黒い線が散る。
「リア。お前、ここで、何してる」
ヒガが、つい聞いてしまった。
ヒガは聞いてしまってから、自分でも、しまったと思った顔をした。リアは振り向きもせず、毛皮の最後の一切れを泥の脇に置きながら答えた。
「手伝うとは、言ってない」
リアの声は平らだった。
「暇なだけだ」
ソウは穴の縁で、何も言わなかった。
灌漑水路を引いた日のリアの声と、同じだった。あの日も、リアは「暇だから」と言った。穂が揺れていた日にも、リアは「暇だからだよ」と言った。今日も、リアは「暇だから」と言った。
三度目の「暇だから」。一年と少し前のリアと、今のリアは、見た目はそれほど変わっていない。だが言葉の置き方が少しだけ違う。
灌漑の日の「暇だから」は、目を逸らしながら言った。
今日の「暇だから」は、目を逸らさなかった。
リアは毛皮を全部下ろすと、自分の弓を肩にかけ直した。
「終わったら、また来る」
リアは丘の南へ歩き去った。
*
四日目、覆いが乾き始めた。
表面が灰色に変わり、指で押すと固い。縁の一部にひびが入っているのを、テツが砂入り粘土で塞ぐ。何度も塞いで、何度も乾かす。
その日の夕方、テツがふと手を止めた。
「下の通気口」
テツは下の穴を覗き込んでいた。
「ここに、空気を、もっと強く入れたら、どうなる」
ソウは穴の縁にしゃがんだ。
「強く、というのは」
「口で、息を、吹き込むと、火が、強くなる」
テツは自分の口を窄めて、ふっ、と空気を吐いた。
「あれを、もっと大きく、やる」
「扇で、風を、送るのか」
「扇」
テツはその言葉を口の中で繰り返した。
「藁を、束ねて、振れば、いい。もっと大きく、振れば、もっと風が、出る」
ソウは黙った。
送風。前世の書物にあった。窯の温度を上げるのに、風を送るのは確かに有効だった。ふいごという道具がいずれ生まれる。だがその種は、テツが今、自分で蒔こうとしていた。教えるべきか。教えずにおくべきか。
ソウは教えなかった。
「やってみろ」
ソウはそれだけ言った。
テツが地面の藁を一掴み束ねた。簡素な扇。テツは試しに通気口の前で振ってみた。風が穴の中に吸い込まれ、奥の暗がりが、わずかに明るくなった。
テツは振りながら、笑った。
「効く」
テツの目は、暗い穴の奥にあった。
*
五日目の夕方、覆いが完全に乾いた。
テツが石で覆いを軽く叩く。乾いた音がした。粘土の鉢が割れたときの音とは違う。土の塊が固まったときの低く詰まった音。
ソウは窯の周りを一周歩いた。
半球の覆い。下の北側に通気口。上の南寄りに煙の出口。中央には火床の石。乾燥の途中で骨の枝は燃えていない。火を入れたとき、初めて骨が焼け落ちる。骨が消えた跡が、覆いの中の空気を抜けるための小さな通り道になる。
ガランが空き地の縁に立って窯を見ていた。
「形が、できたか」
「できた」
テツが答えた。
「明日、焼いてみよう」
ガランは頷いた。
頷いてから、もう一度窯を見て、何も言わずに丘の方へ戻っていった。判定はまだ出していない。中で火を焚いて、器が出てきて、初めて判定が出る。それまでは形だけだ。
夕方の風が北から吹いた。
風は窯の下の通気口から吸い込まれ、上の煙の出口から、わずかに出ていった。中に火はないのに、風だけが、窯を一度通り抜けた。
明日焼いてみよう。
テツの言葉が、ソウの頭の中でもう一度響いた。




