12話:絶望の魔人
王都を突如として襲った黒い霧。その中心に降り立ったのは、魔王軍の幹部、魔人ザルバスだった。
「ククク……弱き人間どもよ、絶望の時間だ」
ザルバスが指先を振るうだけで、周囲のBランク冒険者たちが成すすべなく吹き飛ばされていく。彼の放つ濃厚な魔圧は、空気を物理的に重くし、そこにいるだけで呼吸すら困難なほどだった。
「アレン、逃げて! あの魔力……今までの魔物とは次元が違うわ!」
エレナが震える声で叫ぶ。ジャックも腰を抜かし、「ありえねえ……あんな化け物に勝てるわけが……」と絶望に染まっていた。
だが、その絶望のド真ん中で、一人だけ**「スクワット」を始めた男**がいた。
「フンッ……ハッ……! 少年よ、いい重力だ。この魔人のプレッシャー、まさに『加圧トレーニング』に最適ではないか」
剛田が、ザルバスの放つ暗黒魔力を**「心地よい負荷」**として受け止め、大腿四頭筋をパンパンに張らせている。
「貴様……この俺の魔圧の中で、なぜ動ける!? しかもなぜスクワットをしている!?」
ザルバスが驚愕の声を上げる。
「魔導師よ(※魔人だが剛田には関係ない)、感謝する。おかげで大臀筋に未知の刺激が入っている。お礼に、私の**『最大出力』**を見せてやろう」
剛田が息を吸い込み、全身の筋肉を凝縮させる。
「……ぬんッ!!」
ドォォォォォン!!!
剛田がポーズを決めた瞬間、彼を中心とした凄まじい「筋圧」が全方位に放射された。ザルバスが展開していた暗黒の魔霧は、剛田の肉体から放たれる熱気と圧力によって、一瞬で霧散。王都に青空が戻った。
出鱈目な攻防
「霧を……俺の魔力を、ただのポージングで吹き飛ばしただと……!? おかしいだろ! 魔法ですらない、ただの空気抵抗じゃねえか!!」
激昂したザルバスが、魔力を結集させた漆黒の剣で剛田に斬りかかる。
「死ねぇ! 『冥界破滅斬』!!」
剛田はその一撃を避けるどころか、あえて首の横——**「僧帽筋」**で受け止めた。
ガキィィィィィィンッッ!!
「…………は?」
ザルバスの剣が、剛田の首の付け根にガッチリと挟まり、一ミリも動かなくなった。
「惜しいな魔人。刃を立てる角度が甘い。私の僧帽筋が、君の剣を『マッサージ器具』だと誤認してしまったぞ」
「マッサージなわけねえだろ! これ、当たれば魂ごと消滅する魔剣だぞ!? なんで筋肉で挟んで止めてんだよ! そもそも首の横の筋肉だけで刀を受け止める構造、生物としておかしいだろ!!」
「ジャックさん……魔人が、ジャックさんと同じツッコミ担当になってる……」
アレンが遠い目で呟く。
筋肉、絶望を粉砕する
「仕上げだ。『ギャラクシー・ベアハッグ』!!」
剛田は驚愕で固まるザルバスを、慈愛に満ちた、しかし死の宣告に近い抱擁で包み込んだ。
「ぎ、ギギギ……ッ!? 魔力障壁が……俺の最強のバリアが、腕力だけでメリメリと割れて——」
「魔人よ。絶望とは、筋肉が足りない者が抱く幻想だ。……キレてるぞ、私の大胸筋ッ!!」
パギィィィィィン!!
ザルバスの魔力障壁が文字通り物理的に粉砕され、彼はそのまま空高くへと放り投げられた。剛田の「サイドチェスト」の衝撃波を受けて、魔人は星となって消えていった。
静寂が戻った王都の広場で、剛田は破れたタンクトップ(本日三枚目)を脱ぎ捨て、月明かりの下でポーズを決めた。
「少年。強大な魔力も、緻密な術式も、私の『筋繊維』を断ち切ることはできん」
「少年。覚えておきたまえ。魔王が世界を闇に染めようとも、君がダンベルを離さない限り、その闇を筋肉の輝きで照らすことができるのだ」
(……魔王様、お気の毒です。あなたの部下、最後の方は物理法則への愚痴しか言ってませんでしたよ。)
【剛田の今節の名言】
「絶望する暇があるなら、一回でも多く懸垂をしろ。背中の広さは、心の余裕に直結するのだ」




