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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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血碧玉(ヘリオトロープ) 25






「・・・・・。」



 自室に戻る途中、クロウが目にしたものは、廊下で女性隊員数名に囲まれている、シオンだった。


 甲高い声に囲まれて、というわけではない。

 大方、療養室にいるはずの彼女がいなくなったという話を聞いて、(命令か自主的かはさておき)捜索を行なっていた隊員なのだろう。

 これが男性隊員だった、即駆け寄って奪い返せる。

 だけど、これが、女性隊員となると、正直少し面倒くさい。

 クロウは、引くつく米神を抑え込んだ。








 軍での女性隊員の役割は大きい。

 男性とは違い、細かなところに気遣える女性の感性というものは様々な面で生かされる大事なものだ。

 それに反して、隊員の割合は全体のニ割程度。

 建国からの比率を思えば、明らかに増えたとは言える。

 この割合を半数にまで増やすのが、リィンの直近の目標だとも言っていた。

 最近はその目標に沿うための活動も多い。


 が、その際の、自分の存在は中々難しい立ち位置とクロウは理解していた。


 『マガイモノ』で『マザリモノ』。


 例えば、貴族階級にいたものは、女性でも護身術としての剣技を学ぶものが多い。

 軍としては即戦力を期待できる、喉から手が出るほど欲しい存在だ。

 但し、そういう立場の者はすべからく魔族へ拒否感も植え付けられている。

 ましてや、どちらの種族から忌避されているクロウのような存在がそこにいる、ということは、彼女らが軍を職業として選択する際の敬遠理由になるのではないだろうか、と。


 最も、この意見に対して、リィンは


『そんな人間はね?そもそもルミナスプェラを選ばないわ。ワタクシとしても、そんな差別思想の品種はいらないもの。』


 と、これまた、差別思想丸出しで、鼻で笑い飛ばしたそうだ。


 とはいえ、自分の存在で軍に不利益があってはいけない。

 クロウとしては、隊長、副隊長格など接触が必要な女性隊員以外や、自軍の隊員以外とは関わらないようにしていた。



「・・・・・。」


 その中において・・・。

 今目の前の光景は、非常に、よろしくない。


 

 繰り返しになるが、相手が同性ならば、話は早い。考えられるありとあらゆる手段を用いて、シオンから引き離せばいい。

 ついでにいうなら、二度と近寄らせない手段もある。権力然り、暴力然り。・・・バレないように。


(だけど、なぁ・・・。)


 シオンを、囲む女性隊員は、どれもあまり記憶にない。

 クロウと言えど、最低限、自身の隊員の顔は覚えている、多分、何となく。

 それに、自軍なら多少シオンと関わる機会もある為、多かれ少なかれ、クロウとの関わりを知るものも周囲に多い。人伝に聞くなり目撃するなりで関係性を理解することもあるだろう。


 これが他軍、となると、予備知識ゼロでの接触となる。

 その際にどう関わりなんて、正直考えるのも面倒くさい、と、クロウは小さく肩を落とす。

 だからといって、そのまま素通りするなんてとてもできるわけがない。


 本音を言うならば、ただでさえ、心をざわつかせる光景。


 周囲の三人は明らかに、シオンを異性として――と、いうか、恋愛対象としてロックオンしている。それはわかる。

 同じだから。多分、同種ゆえの察知能力。

 恋敵としては何としても邪魔したい。

 ぐっと引き寄せてなんならキスの一つでもして、『彼女はオレのだから近寄るな』くらいの脅しの一つも掛けたい。例え相手が女性でも、だ。

 

 でも、自身の『立場』が、それを阻害する。

 こんな些細なことで、うっかりもめ事にでもなったら、なんて――なんせ女性という物は一旦噂を広めようとすればあっという間に広がるし、全く根も葉もないうわさも広がるし・・・。


 そんなこんなで、クロウが腕を組みながら、どうするか考え倦ねていると、


「あ・・・。」

「――・・・っ。」


 シオンが、ふと顔を上げた。

 その黒曜石の瞳が、クロウとしっかり、かち合う。


「いた・・・。」

「───・・・っ。」


 瞬間、小さく呟いた言葉と共に、

 ふんわりと柔らかく笑う姿に、



 思いっきりハートを撃ち抜かれた、気がした。



 多分、クロウだけじゃなく、周囲の三人も。



 三人が、ひゅっと息を飲んで頬を染めるのが視界に入るが、もう、どうでもよかった。


 飛んで火にいる虫のように、ふらふらと歩く。

 考え無しで近付くのはダメだとわかってるの、足が止まらない。

 色々考えていた筈なのに。

 どう対応するか考えていた筈なのに。

 何もかも全部吹き飛んで、頭が真っ白になって。


 クロウは、誘われるがままにシオンの元へと近付いていく。




「ごめんな、探してたヤツを見つけたから。」

 そんなクロウを見て、シオンが取り囲む三人の女性隊員に、大丈夫だからと、手を振った。しかし、女性隊員達も退かない。

 名目上、捜索指示も出ているから、と。

「なら、その方も一緒に。まずは療養室に戻ってください。」

「ご案内しますので。」

「んー・・・。」

 女性隊員が口々に言うのを、シオンが微かに困った様に笑う。


「でも、家族も迎えに来たから、さ?」

「ええ、でしたら、ご家族もいっしょに・・・」

 そう言ってはにかむ様に目を細めるシオンに、隊員の一人が、彼女の言う『ご家族』に首を傾げる。それでも、と、尚も食い下がる様な三人を尻目に、


「おい、一体どうなってる?なんだよ、捜索って──・・・。」

「・・・・・。」

 近くまで来たクロウに、シオンが少し怪訝そうな顔を向ける。

 シオンの視線に、三人がそちらに目を向けて、ぎょっと目を見開いた。慌てた様に敬礼でクロウへと向き直るが、クロウは一瞥もせずに、シオンだけを見る。

 

 そんなクロウに、シオンは少し呆れた様なため息交じりで、女性隊員の口からでた思いもよらない言葉を問い質そうとすれば、




 クロウは、シオンを、正面からそのまま抱き締めた。


「わ・・・っ。」

「・・・みーっけ。」

 

 驚いたシオンが小さく声を上げる。小さくも嬉しそうな声が、彼女の耳で囁く。

 人前も憚らない相手の行動に、思わず女性隊員の方へ目を向ければ、


 三人が三人とも、口元を押さえるようにして、食い入る様に見つめてくるから、


「お、まえ・・・!」

「・・・ね?」



  ── 部屋、帰ろ?




 

 思わず離れる様にと告げるべく荒げた声が、耳元で小さく囁く声に押さえられてしまった。

 微かに背筋を這う、嫌悪とはまた違った感覚を拾い上げて、シオンがくっと奥歯を噛み締める、


 その様を誤魔化す様に、一度呼吸を整えた彼女が、

  

「・・・もう、話は終わったのか?」

「うん、大丈夫。てか、お前、なんでココに?」


 部屋にいたはずなのに、と、

 クロウが、引き寄せた身体を離さないままに、その目を覗き込む様にして顔を寄せた。


 いつもよりも、今までよりも。

 更に近く感じる相手に、シオンが少しだけ、気後れしたように身動ぎする。 


 そして、


「ちょっと、物を、取りに・・・。」

 と、言い淀むように応えれば

 クロウの赤い目が優しげに細められては、そう、と頷く。



 二人の甘さを伴った近すぎる距離感に、三つの視線が、二人を何度も行き来する。

 すれば、クロウがあまり考えもなく、シオンを離さないままに、三人へと甘さを含んだ視線を向けてみせた。



「ごめんね?オレの奥さん、構ってくれててありがとう。」

「え!?」

「はい!?」



 噂に聞いた、毛色の違う第四大隊長の、その噂に反した表情に見惚れたのか。

 それとも、彼が自然に口にした伴侶を示す言葉に驚愕したのか。


「え!?ちょ、えぇ!」

「そ、それ、は、失、礼、致しまし・・・っ!」


 顔を真っ赤にしながら、しどろもどろに返事を返す三人に、クロウはそのまま目を細めて小さく笑う。

 その畏怖と恐怖の象徴と称される名前に反して、酷く甘く柔らかく笑う彼に、三人はもはや完全に声も出せずに硬直する。


 もはや捜索対象であったとか、療養室に向かうとか、そんなことは三人の頭から完全に抜けきってしまっていた。


 そんな三人を後目に、クロウはシオンの手を掴むや否や、何の躊躇もなくその手を引く。




 そのまま何も言わずにシオンを連れ去っていくのを、三人の女性隊員は、呆然と立ち尽くしたまま見送った。



 

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