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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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血碧玉(ヘリオトロープ) 24









 田貫と班田の転移門を使って、ファウストが彼等を迎えた時、


『・・・捕まっ、てた、のは、誰だったか?』

『ん?オレ。』

『・・・小僧が一番元気そうなんだが。』

『そう?』

『・・・・・。』


 けろりとした顔のまま、気を飛ばしているシオンを大事そうに抱えては、普段と変わらない足取り、よりも何処か、少し浮足立ってる様にも見えるクロウに、ファウストが首を傾げれば。


『翁・・・。』

『・・・・・。』

 ハルオミがげっそりした顔で、


『アイファ、カートリッジ無し、対象と彼女のみの空間。』

『・・・・・?』

『それ以上は、・・・察してください。』

『・・・あ。』



 瞬間、鼻歌混じりのまま、扉から嬉々と去っていこうとするクロウを、



『小僧!』

『げっ!』



 一喝し、その圧倒的な魔力の行使で動きを封じて・・・。

 リシリィにシオンを任せ、ファウストは、クロウに滾々と状況把握、という名の説教をする羽目になったのが、帰宅早々の話。






 それはさておき・・・





 呼び出したファウストと、その隣に立つエッダが、クロウの様子をまじまじと見つつ。


「少し前まで捕まって監禁されて売られかけてたのに・・・。」

「んー?」

「なんで、こんなにツヤツヤしてんだ、貴様は。」

最期(シメ)が最高だったから。」

「・・・・・。」


 鼻息荒く、キッパリと言ってのける様に、ファウストはガックリと、肩を落とす。


「しかも戻ってきたらきたで、早々にあの娘を拉致監禁か。」

「自分の奥さん自室に連れてきてたダケじゃん。」

「一次的に軍の保護化になることは承知していただろう。・・・アホだな。お前は。」

「・・・うっさい。」

 ハルオミ達にも散々言われた事を、再びファウストにも言われて、クロウは鼻を鳴らしてはそっぽを向く。

 が、チラリとそちらを見て、


「一応聞くけど・・・。」

「ん?」

「検査の結果は?」

「見りゃわかるだろ。アイファなんぞ欠片も打たれてないわ。むしろ体感的にわからんか?」

 なんて、酷く呆れた様なファウストにクロウは、えー?なんて、首を傾げてみせながら

「・・・いや、あの子来た瞬間衝動的に滾りに滾ったから。アイファのせい、かなーって。」

「そんな瞬間的に効く薬物じゃなかろうに。」

非純血魔人(クォーター)だから、かなぁって。」

「どんだけ貴様に都合がいいんだ。」

「むしろそれがよかったからそういうことにしておいた。」

「潔くクソったれだのぅ。」

「それに関して、は・・・」

 とエッダが、いくつかの書類を見ながら、


「・・・麻酔、使ったって言ってましたよね?」

 覗き込む様にエッダがクロウに問えば、クロウは素直に頷く。


「もしかしたら、多量の麻薬使用によるせん妄状態、だった、のかもしれません。」

「・・・会話できてたケド。」

「そういうパターンも少なからず、あります。」

「へぇ?」

「一見普通に見えるけど、明らかな精神異常や認知機能の低下、常識逸脱行為を考慮すると、可能性は否定できないかな、と。アイファを使ったか否かはさておき、何かしらは打たれていますから。その薬がどういったものなのか、それが体内で使用された麻薬とどういう反応を示すのか・・・。判断が難しいところにはなりますが・・・。」


 うーん、と顎に手を当てながら色々考えるエッダの、そのやけに必死な表情を、見ながら


「エッダよ・・・。」

 不意にファウストが慈愛に満ちた眼差しを彼に向ける。


「・・・そんなに一生懸命、庇わなくていい。」

「酷・・・っ!」

「どういう状況にしろ、此奴なら、やらない事はやらない。やる事はやる。」

「・・・え?ナニその評価。褒めてんの?貶してんの?」

「で、あの状況は、此奴自身で選んだ、『ヤる』だ。」

「・・・・・。」

「・・・クロウさん。」


 二人分の魔人の目が、じとっとクロウを見つめて、なんとも言えない居心地の悪さに、クロウが取り敢えず、視線は逸らしておいた。


 そんな様にふぅっと、息を吐いて。



「何はともあれ・・・」

「・・・・・。」

 ファウストが自室のソファへ、クロウとエッダを促す。




 そして、自身も向かいへと腰を下ろした。





「本題に入ろう。」


 『赤馬車』とのことだ、と。ファウストが目を細める。

 クロウはそれに頷きつつも

「悪いけど、早々に麻酔薬打たれたから大したことは出来なかった。」

「了解している。」

 今思えば、もう少しやりようも合ったかなぁ。なんせ、珍しく焦ってたから、なんて。


 少し苦笑しながら、クロウが髪を描き撫でた。


 とん、と。

 クロウとエッダの目の前に、エルカがコーヒーを置く。クロウのはミルク多めに、エッダはブラックのまま。

 それに、クロウが手を振りながら感謝を告げて、


「案の定、捕縛されているのは魔人種や魔獣が主、かな?魔人・・・、要は、ヒトにカタチが近いモノは、買い手からの依頼が合って後の捕縛に動く事は間違いないね。」

「・・・・・。」

「魔人捕縛はやっぱりそれなりの力量がいる。魔獣捕縛程度ならオレでも単体でいけるし。」

 けろりと、とんでもない事を吐きながら、コーヒーに口をつけるクロウを見て、ファウストは小さくため息をついた。

「・・・やはり、買い手に対応しない限りは無理、か。」

「欲しがるから売れる、ってね。」


 そうして、クロウがファウストへ、薄めの冊子を手渡した。

 

「ハルオミとリリ、エルとトラにも協力してもらって。特徴から洗い出したオークション参加者のリストアップは作っておいた。」

「それはリィンと共有しておこう。相すまぬ。」

「いや、その辺り、オレはノータッチだからね。礼を言うならアイツ等に。」

「・・・それでも、身体を張ったのは貴様だ。」

「ま、人気者、なんで。」


 嘲る様に嗤うクロウに、


「ヒトの欲望なんざ、際限がないからねぇ。」

「・・・・・。」

 ファウストは無言で返した。


「・・・・・。」

 そんな二人のやり取りに、エッダは喉を鳴らす。


 アレだけ綱渡りな、それこそ、一歩間違えば、死ぬよりも悲惨な運命すらも。

 最終的にはクロウは割り切って、必要な情報収集手段として、こなして見せた。  

 無論、意図的にその現状を作り出したわけでは断じてない。少なくとも捕縛直前まで、その様な状況に至る事などは想定していなかっただろう。



 だが、シオンを落とした時に。


 全てを諦めた時に。


 ならば、もう『いらない』自身のその身と引き換えに、近しい人たちが生きる軍には、その先に活きる情報を、と。


「・・・・・。」

 ハルオミや、リシリィが始終不機嫌だったのもそれが要因でもあるのだろう。 


 彼らはクロウの、所謂、『自暴自棄』をすぐに悟った。


 或る意味、シオンさえ逃がせば、彼の武力の制限がなくなる。

 実際、相対したのを目にした時、魔力封じの首輪を使用され、小烏丸さえ手放した状態であっても、あれほど『赤馬車』の面々を圧倒していたクロウが、そんなにも容易に捕まるだろうか、と。


 故に、彼の思考をすぐに理解する。

 彼女と共に生きられない『自分自身』なんぞいらない。

 ならば、いっそ『有効活用』して、後はどうにでもなってしまえばいい、と。



「そういや、ハルオミとリリには結構絞られた。」

 クスクスと酷く嬉しそうに、クロウは笑う。


「アレだけ彼女には『自分を大事に』なんて言っていたクセにってさ。」

「・・・で、あろうな。」

「ま、もうしないよ。」

「・・・それで良い。流石に今回は肝が冷えた。」

「誤算だったね、正直斬り捨ててくれると思ったんだけどな、あの聖女サマは。」

「・・・・・。」

 クロウはうーん、と腕を組み唸る。

 彼の読みは正しかった。実際、現状を考慮し、真っ先に切り捨てたのは、リィンだ。

 だが、その周囲は一人として了承しなかった。

 なによりまた、リィン自身の中でも切り捨てきれないところがあったのは否めないのだが。


 それらを察してか、クロウは少しくすぐったそうな顔をしてみせる。


「それは、ね。素直に嬉しいよ。」

「・・・ならば、良い。」

「不思議だね。『マザリモノ』で『マガイモノ』なはずなのになのに、オレには表の世界で、居場所がある。」

「・・・・・。」

「あの、『赤馬車』の女は、『居場所』を奪われて、だけど、裏の世界に自らの居場所を作り出した。」

「お前と同じ、混血という・・・。」

「そりゃそうだよね、いないわけないって思ってた。」


 当然だ。

 僅か半世紀も前ならば、それだけで人と魔族は助け合って生きてきた。

 僅か二十年も前でもまだ、オブシディアンのあの子は、魔人の子とも普通に遊んで生きていた、と言うのに・・・。


 一歩間違えばどちらがどちらになるとも、いえない。

 そう感じて、クロウは小さく笑う。

 自分が今、この表の世界に居続ける理由を思い浮かべて、目を細める。


「ただ、さ?」

「・・・・・。」

「両者の、さ?急激な対立って、なんなんだろうね・・・。」

「・・・正直言うなら」

「・・・・・。」

「・・・我も、そこには納得がいっておらぬ。」 

「そうかぁ・・・。」


 クロウがソファーへと深く沈み、天井を仰いだ。


「・・・じいさんがそういうなら、オレに分かるわけねぇかぁ。」

「・・・・・。」


「そういや、オレたちが行ったり飛んだりした転移門って・・・。」

 ふと、思い出したように、クロウがエッダをちらりと見た。

 その視線に、エッダが小さく頷く。

「僕が作った物より、よくできています。僕のは・・・、自分の魔力が基本だから、その、良くも悪くも作動時に、僕の魔力を注入することが前提。だから、それなりに魔力を使います。」

「なるほどね。」

「だけど、向こうにあったのは、世界に漂う僅かな魔力を検出するものだった。つまり、誰でも容易に扱えるから。」

「でも、オレやあの子が行き着いた先は、どう考えても販売先って感じじゃなかったね。」

「そこはまだ、わからないんです・・・。」

 エッダは少し悔しそうに、眉間に皺をよせる。


「クロウさんの買い手は『シキジマ』本家と聞きました。だとしたら、あの転移門の行き先はそこになるはず。なのに、実際は全く別の場所──しかも、未開の地、です。」

「その先にいたのが、死んだはずの婆さん、なんだよね。」

 シオンからその場所がなんなのか、は聞いていた。

 死んだ筈のフェリシアが、その場所にいれる理由や、ユージーンの力で作られた場所であること、など・・・。

 それでも、

「アッチの、転移門は、一体誰が作ったんだ・・・?」

「転移門だけじゃないんです。」

 エッダは、くっと奥歯を噛み締める。あの時に感じた違和感は、未だ胸にくすぶり続けていた。


「転移門は勿論、考えてみれば、アイファも刀も火の雨も。人が作れるものじゃない。」

「・・・・・。」

「でも、刀は兎も角として、アイファも火の雨も転移門も、人と魔人が袂を分かった後で、人にもたらされている技術です。」

「・・・あ。」

「そこには、同種を嫌う、魔人の存在がいると考えるのが──・・・」

「・・・エッダよ。」


 不意に、静かに聞いていたファウストがエッダを、制した。

 ただ、その目は、よくそこまで考えられた、と。力の大きさや強さに怯えつつも、囚われる事なく考え抜いた彼を賞賛する様な眼差しでもあった。


「そこは、我も考えている。これは単純な力の行使ではない、と。」

「・・・・・。」

「ただ、我としては、簡単に同族を疑いたくはない。もう少し、調べさせてはくれ。」

「・・・それは、僕も同じです。」



 そうしてエッダが、泣きそうな顔で頷いた。


 魔人は人よりも圧倒的に数が少ないせいか、基本、同種への思いが強い。

 それが時に排他的にも映ることはあるが、基本は仲間意識が強いとされている。


 二人の表情を見て、クロウは小さく息を吐いた。




(ほんと・・・。コイツ等の感覚の、三分の一でもサナトリウムの研究者共が持ってれば、アイファももう少し何とかなったかもしれないのに、ね?)



 結局、種族の特性とか、そういう事とは違うこともまた多様にあるということか、と。


 クロウ自分のことも含めて、小さく嗤った。







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