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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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血碧玉(ヘリオトロープ) 26




「クロ・・・、クロウ・・・。」

 三人の女性隊員が見えなくなって、シオンはようやく足早に進むクロウに声をかけた。


 焦燥感すら感じる、彼のその背に、少し緊張して声が引きつってしまった。

 返事はなく。

 代わりに引かれるその手が一度だけ強く握られて、シオンはくっと息を飲んだ。



 自室の前に付いて、クロウはそのまま玄関の扉をあける。鍵はシオンが持っていなかったので、かかっていないままだった。


 中へ入り、扉が閉じられるや否や、


「―――・・・っ!」


 シオンは、壁に体を押し付けられた。

 繋いだままだったその右手が、離されないままで自由を奪われる。更に反対のクロウの手が彼女の左肩を押さえつけるから、


 シオンがわずかに眉根を寄せた。


「な、に、する・・・っ!」

 眉間に皺を寄せた表情で、少し非難めいた色を乗せた声が、クロウの耳に届く、けど、


「んン・・・っ!」


 それに返事もできないままに、クロウはその唇に噛み付いた。


 そのまま息を奪う様に。

 押し付ける様に。


 強引に押し進めては、逃げを打つ舌を、自身のモノと絡ませる。思わずシオンが顔を逸らそうとすれば、肩を抑え付けていた左手でその顎を掴む。


 思わずぐっと目を閉じたシオンを、ぼやける程の至近距離で見つめて、クロウは彼女の足の間に膝を押し込み、腰を掻き抱いた。


 非難めいた言葉がくぐもった声で零れるのを、拾う様に口角に伝う唾液を舐めて。


 もう、どうしようもなく切羽詰まった箇所をぐいぐいと押し付ける。

 それに気付いたシオンが、思わずぐっと息を詰めては、肩を強張らせて、手を突っ張らせて。

  



 でも・・・


 目尻を赤く染めるのを、至近距離で見止めて、




「 ・ ・ ・ ・ ・ っ 」



 堪らなくなる。


 怒るのに、抵抗するのに。

 その目尻の朱が色濃くなることに心が掻き立てられる。 


 困惑するほどに切羽詰まって、クロウがこくりと喉を鳴らす。


「・・・・・。」

「ちょ・・・っ、なんで、急に・・・!」

「ごめん、オレ、余裕ない・・・。」

「は?え?な・・・っ!?」


 至近距離のその顔が羞恥と困惑を浮かべて。そんな表情にまた、煽られる。


 ちらりと覗く舌が見えて、半ば反射のように、クロウが再び唇を重ねた。宣言した通り、我慢できない様に、更に深く深く、その口内を蹂躙する。

 どんどんと昂ぶる身体の熱の、赴くままにキスを深めて、顎を取る。


 たまらない。

 我慢できない。


「・・・どう、しよう。」

「おい!聞いて――・・・」

 やっと離れた唇に、これ以上を抑え込む為にシオンが振りほどいた手でクロウの口元を押さえつける、けど。


 その掌にキスをする。


 深緋の眼が、ギラギラと欲を映す。


 短く荒い呼吸のまま、乞うように見つめてくるクロウの視線に、恥ずかしさともう一つ、複雑な感情が湧き上がって言葉が詰まる。


 シオンがぐっと、眉根を寄せれば、二つ三つと、キスを落としたその手をつかまえて、引き寄せて。

 自身の頬へと当てさせては、擦り寄せるよにして、熱い吐息が、一つ溢れる、から、



「・・・抱きたい。」  

「―――・・・っ!」




「凄ェ抱きたい。抱かせて・・・?」

「お、ちつけ!オイ・・・!」




 額同士をこつんとくっつけて、熱い吐息が頬に、唇にかかる。

 日もまだまだ全然高いと言うのに、押し付けてくる熱に、湿度に、釣られる様にしてシオンもまた掻き乱される様にして困惑する。

 戻ったら伝えたかったことも、渡したくって握り締めたものも。全部が目の前の男に塗り替えられてしまって、焦燥感が募る。


「ま、て・・・。」

「やだ。待てない。」

「いいから、待て・・・!」

「やだ、抱きたい。お前と繋がりたい。」

「───・・・っ!」

「・・・だめ?」


 許可を求める言葉に反して、その眼は問答無用とばかりにギラギラとシオンを射抜く。


 身体に燻る熱が、どうにか彼女にも伝わらないかと、クロウがぎゅうぎゅうとしがみつく様に抱き締めてくる。

 シオンの腰をかき抱いたまま、クロウが床へと座り込む。

 シオンが引かれるままに、膝の上に腰を下ろしそうになって、思わず躊躇すれば、


「やだ。」

「ちょ・・・!?」


 引き寄せられる。

 抑え込まれる。


 半ば無理矢理膝の上に座らされて

 布越しの、足と足の間に押し付けられる。


 明らかに示唆される仕草に、シオンが真っ赤になって、ぶんぶんと首を振った。


 その視界の端で、カーテンがひらめき、僅かに空いた窓の隙間からはいるの風と、日差しに、羞恥心が沸き起こる。

 シオンが一生懸命、腕を突っ張ろとするその姿を、クロウが僅かに顔を歪めては、




「もう・・・」



 離したくない、と告げる、から・・・


 シオンが思わず、目を見開いて、



「───・・・っ」



 


 獣の様に、歯をむいた。









「一度、離した、くせに・・・!」

「───・・・っ。」






 シオンが、泣きそうに顔を歪めてこぼした言葉に、クロウが大きく目を見開いた。


 突っ撥ねていた手で、シオンが彼の頬を抱く。

 正面から、強い瞳に捕らえられて、クロウが一瞬気後れする。


 その眼前に、シオンはぐっと小烏丸を突き付ける。



「あ・・・。」

「・・・お前。」




 それは、あの時に彼が全てを諦めた、証。


 ずっとずっと、言いたかった事を、シオンは吐き出す。




「なんで、諦めた。」

「え?」



 突き付けた問いに、クロウの身体が、一瞬、ビクリと跳ねた。


 誰よりも、彼女から問われるコトを避けていたコト。


 それを見抜いて、尚、許さないと言うように。

 シオンのその黒曜石の瞳が、クロウを射貫く。

 仄かな怒気を含んだその眼を向けられて、クロウが少し臆する様に、視線が泳ぐ。

 突き付けられても、渡されない小烏丸とシオンの間で視線を行ったり来たりさせている。


「・・・・・。」

「なんで、諦めた?」

「え?」

「死んでも離さない、んじゃなかったのか?」

「・・・・・。」

「何度だってオレのモノにするんじゃなかったのか?」

「・・・覚えてる、の?」

「なぁ?」



「お前が考えた、俺の『幸せ』って、なんだっだ?」



 教えてくれと、シオンが哂う。 


 

 その表情に、クロウが顔をこわばらせる。


 小烏丸が、とん、と。

 クロウの掌へと置かれる。


 慣れ親しんだ重みに安堵して、だけど渡されたことに不安を憶えて、クロウがシオンのその手を思わず掴んだ。


 それに握り返すことすらせずに、シオンがどこか冷めた目のまま


「お前は、諦められたのか?」

「・・・・・。」

「追い詰められたら、死に際になったら・・・、自分を諦めて、その先を諦めて。俺の幸せとやらを選ぶのか?」

「・・・怒ってるの?」

「さあ?」

 クロウの問に、シオンは片眉だけを器用に上げて、いつものように、酷く男前じみた表情をして見せる。

 床にしゃがみ込んだまま、どこか初めてあった時の様な、乾いた彼女の、表情。


「確かに、怒ってた。凄く、怒ってた、はずだった。」

「・・・・・。」

「今は、ただ、知りたいって思ってる。」

「な、にを・・・?」




「お前がいなくなった世界で、ただただ、『幸せ』になれるのかって。」

「―――・・・っ!」




 自分勝手な物だと、シオンは嗤ってみせた。

 

 記憶を改竄されて、クロウを忘れて。

 絶望を感じたのは間違いなく彼のはずなのに。

 それでも、クロウはシオンを取り戻すことを、彼女と一緒にいる事を当然の様に叫んでいた。叫び続けていた。

 

 その狂気じみた愛情が、幼い頃の『クロ』から変わりえぬモノだと知った。


 書き換えられた記憶と感情の奥底で、嫌悪や憎悪にのまま、彼を拒み続けながら。


 それでも、その手放そうとしない狂愛に、どうしようもない感情を拾い上げてしまっていたという、のに。


(本当に、自分勝手・・・。)

 

 自分のワガママを理解しながら、それでもシオンは歪に唇を、吊り上げた。


「なぁ?教えて?」

「シ、オ・・・。」

「お前の考えた地獄(しあわせ)の中で、俺は本当に生きられると思う?」

「・・・・・っ。」

「あぁ、そうか、・・・やってみようか?」

 


 不意に冷たい眼をしたシオンが、クロウから離れるようにして、立ち上がる。

 


「ずっと笑っててやるよ、お前がいなくても幸せだって。お前を忘れて、新しい家族を見つけて、作って。」

「・・・・・。」

「そうして押し付けられた幸せの中で、涙一粒零さずに、感情なんか消して、忘れて。周りから見た時に、典型的な『幸せ』に浸る人形になって、ただ『生きて』いればいいんだろ?」

「・・・ま、って。」

「そうしようか。それでいいよ。」



「あぁ、ならもう、俺は・・・」







  ―― いらない。








「―――・・・っ!!」



 クロウを拒むその言葉に、ひゅっと彼が息を飲んだ。

 

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