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Lapis-landiA ─黒曜秘石恋闘譚─  作者: 八広まこと
Season2

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血碧玉(ヘリオトロープ) 22







「あら、漫才はもう終わり?」

「・・・大変お待たせ致しました。」


 とても敵同士とは思えない会話に、それでもヴェラドンナはひらひらと手を振り、膝の上に頭を乗せていた二人のフィーの二人の髪を撫でながら。


「いいのよ、面白かったし。」

 赤い唇を吊り上げて笑い、ハルオミもまた、深々と頭をさげてみせる。


 リシリィがクロウの首根っこを掴んで籠から引きずり出そうとすれば、、しくしくと泣きながらクロウが上着を脱いで籠の中の相手にそっとかける。


 はあっと、一つ。深いため息。

 


「・・・で?」


  ―― どう、すんの・・・?



 籠からもそもそと這い出たクロウが、乱れた服装のまま、

 ただ、カチャカチャとズボンのベルトだけは締め直せば、



 ヴェラドンナ達に相手に、それでも、底冷えがするような視線を向ける。



「やるってんなら、相手するけど。」

「・・・・・。」

「流石にもうあの子は人質にさせないし?手駒は限界でしょ?」

「・・・・・。」

「あぁ、そうだ。一つ聞いとく。」




 クロウが不意に、探る様に眼を細めて、





「オレのコト三億でオトしたのって『アイツ等』?」

 ぴっと人差し指を相手に向ければ、


「あら?察しがついてるのね。眠っていたはずなのに。」

 ヴェラドンナが小さく喉で笑う。


「なんとなく?死ぬ程執念深いし、アイツ等。」

「ふふふ、そうよぉ。」




   ── 『シキジマ』


 

 特に勿体ぶるわけでもなく、ヴェラドンナはさらりと肯定して見せた。

 すれば、一瞬だけ。


「・・・・・。」


 表情を亡くしたクロウが、憎悪の視線をここにいない誰かへと向けて。

 だけどすぐに、気だるげな、やる気のなさそうな表情へと切り替えす。

 

「本当は捕縛のタイミングで、即連絡きたのよ。ウチによこせって。だけどオークションするって言いふらしてますからぁって断ったの。」

「・・・・・。」

 なのに、と。ヴェラドンナは酷く不服そうに、


「勝手に招待状もぎ取った挙句?問答無用で三億ぽん、よ?一応、最後まで争ってくれたお嬢さんもいたから、まぁ、オークションの形はとれたけど。競りもクソもあったもんじゃないわ。」

 オブシディアンの方が、よっぽどオークションらしくエキサイティングだったもの、と。

 明らかに不満気な様子でヴェラドンナが、ひらりと手を振った。


「じゃあ、契約取り消し?」

「まさか。」


 ヴェラドンナが手に持った鞭を一度、揮った。 

 乾いた音が地面を殴り、彼女の周囲の人間の眼が仄暗く輝く。


「今の貴方無手なのよねぇ?それにその首輪故に魔力行使もできない。それでもフィーや私たちと殺り合えるものなのかしら?」

 試すようにヴェラドンナが笑えば、その膝に頭を乗せていたフィー兄妹が、虚ろな眼を開きクロウへ向ける。

 ヴェラドンナの背後には、常にそばにいる屈強な男二人が、其々の得物を手に、油断なく身構え始めた。


「へぇ・・・?」

 彼等を眺めながら、それでもクロウは笑みを浮かべる。

 実際、クロウの、体の状態としては不調とも呼べる状態には等しい。


 麻酔明け。

 首には重苦しい魔力封じの首環がぶら下がり。

 数日とはいえ、動かさなかった身体は、強張り、筋力が落ち、本調子の半分もいかないはずだ、と。


 ヴェラドンナが探る様にクロウを見れば

 うーん、と腕を組んで考える様。


 不意に、とん、とん、と裸足のままクロウがリズミカルに飛び始める、から





「じゃ、試して見るか・・・。」




 そのまま舞う様に彼等の元へと飛び込んでいく。




「ちょ!?」

「あの馬鹿!」





 その様に、思わず慌てたハルオミとリシリィが、慌てて得物を片手に後を追うけど、




 まるでそれを笑うように、


 柔軟な筋肉に高く引き上げた右足が、斧の如く振り下ろされる。


 クロウの踵落としが、屈強な男の一人の、肩を割る。



 そのまま男の厚い胸元に足をつけば、その髪を両手で掴む。

 足を付けた胸元を、地面のように蹴り出せば、男の高い鼻っ柱へ、クロウは自身の膝をめり込ませた。


 背後へ一回転して、地面へ下り立つ。


 着地したクロウの首元を狙ってニ剣がクロスして放たれる。それを両足をべたりと開き身体を沈ませて避けて。

 両手をつき、逆立ちで身体を支え、足技で二人を軽い力でいなして距離を得る。

 

 自身の上に影が出来るのを敏感に察して、鎖が叩きつけられるよりも先に、その場からクロウが立ち去れば、

 ざっと、砂を踏み、顔を上げて。


 視界に飛び込むフィー兄妹の追撃。


 残念そうに、クロウが大げさに肩を落として見せては初撃を難なく交わしつつも、





「ハル、リリ。」


  ── ・・・オレの、ある?




 その声に、二人がハッとした様に、各々の携帯バックに手を入れた。

 そして、


「ったく!」

「あいよ!」


 二人が取り出したものを宙に放り投げる。

 それを見止めたクロウが、宙を舞う各々を、それぞれの手で受けとれば




 瞬間、甲高い金属音が辺りに響く。





 フィー兄妹の其々の一撃を、


 クロウが逆手に構えた二本の投擲ナイフで受け止める。




 カチカチとなる競り合いに、僅かに眉根を寄せつつも、クロウが唇を歪に吊り上げてみせるから、


「んー・・・、徒手空拳だけはダメだったね。」

「・・・・・。」

「競り合いも、まぁ、中々厳しい、かな?」

 口に出す言葉は力不足を嘆くものなのに、声の響きは、その逆風をむしろ楽しんでいるようにも聞こえるから


 クロウのその様子に、ヴェラドンナは、早々に、はぁっと重い息を吐いた。





「あー、もう!わかった、わかったわよ!」


 

 ったく、ホント、バケモノ!なんて。

 お手上げと言わんばかりに両手を掲げて見せる。

 背後で肩を割られ、顔面に膝繰りを食らった部下が一向に起きてこないのを、視界に収めては、徐に肩を落とした。


「ワタシ達の負け!これ以上は壊滅になっちゃう。多少の赤字は覚悟するわよ。」

「あ、そ?このまま頑張ればまた捕まえられるかもしれないよ?」

「冗談!数日押さえ込んで筋力も体力も落ちているハズなのに、息一つ切れてないじゃない。いくらなんだって引き際くらいは見極めるわよ。」

「へぇ?いいの?」

「いいわけないでしょ。」


 忌々し気なのは当然、と。ヴェラドンナがぎりっと奥歯を噛みしめる。


「『シキジマ』がアナタを競り落とした段階で、こちらにはそこまでアナタを搬送する義務はあるのに。契約違反と諸々で、赤字も赤字、大赤字!」

「・・・・・。」

「それでも!正直、『シキジマ』と『アナタ』、どちらが嫌か、と問われれば、正直『アナタ』。もう直接はやり合いたくないわ。あの一回で十分、二度と御免。」

「ふぅん・・・。」

 それはそれでちょっとおもしろくないと言わんばかりに頷きながら。

 だけど、クロウが少し考え込むように顎に手を当てる。


「全く、面倒臭い事になったわ、ホント。他のお貴族様ならともかく・・・。」

「・・・そっか。それは、オレが直接アイツ等に会いに行けるって方法でもあるのか。」

「・・・・・。」

「それ、いいな。アイツ等、シラフだと全然姿みせてくれないしねぇ。」



 ぺたぺたと。


 クロウが、素足のままヴェラドンナに近付く。



 未だ熱の燻る様な、赤い赤い深緋の眼が、同じ色合いをした、ヴェラドンナのその眼を見据える。



「お前らにとって、シキジマって、重要?」

「スポンサーを兼ねたお得意様。だけど、ソレを傘に着たちょっと面倒な相手ってとこかしら。」


 ヴェラドンナの答えにクロウは満足そうな笑みを浮かべた。


「だったら・・・。オレが直接言ってきてやろうか?」

「あら?」

「テメェの命は三億じゃ買い直せねぇぞ、って。」

「あらあらあら?」


 クロウからの提案に、今度はヴェラドンナが愉しげに目を細めた。


「ナニそれ愉しそう。」

「『シキジマ』のボスに興味深々なんだよねぇ、なんせウチの婆さん手籠めにしよとしたみたいだし?」

「そうなのぉ?」

「さっき初めて会ったけど?オレ結構似てたんだわ。お眼鏡にかなうかしら?」

「玉の輿にでも乗りたいわけ?」

「んー・・・、ソイツのケツから頭にかけて、太くて硬くて鋭利なモンは貫通させたいかなぁ?」

「あらやだ情熱的。」

「でも多分、ソレしたいのオレだけじゃないと思うよ?」

 何かを匂わせるクロウに、ヴェラドンナはすぐにピンと来たようで、


「そうねぇ、折角なら声かけておこうかしら。」

「オレ以上にソイツのケツ狙ってっから。きっと。」

 けらけらと笑うヴェラドンナに、クロウが済ました顔で応える。その様を呆れたように見据える二人をも見て、エッダは酷く困惑した顔でその様子を眺めた。

 

「・・・い、いいんですか。」

「え?」

「なあに?」


 クロウとヴェラドンナの両者がエッダを振り返る。

 その狂気に近い暗鬱とした眼にさらされて、エッダがくっと息を飲んだ。それでも、と、両の手で拳を握り、ギッと、特にクロウを睨む。


「クロウさん、奴隷にされて売られるところだったのに!シオンさんだって、あんなに必死で。他の魔人も、魔獣も、奴隷扱いして!そんな奴と手を組むなんて!」

「・・・・・。」

「そんなの、許されるはずがないじゃないですか!」

「・・・お前、ナニいってんの?」

 叫ぶエッダに。

 言ってることが理解できない、と言わんばかりの、クロウが不意に笑みを消した。

 

「許すもなにも、お前の許可なんかいらないけど。」

「・・・・・。」

「任務や目的に必要ならば何でも使うよ、オレは。手を組むとか、そんな甘っちょろいモンじゃない。」

「・・・・・っ」

「利用するだけ利用して、そうだな、後は後ろからバッサリ、とか?」

「ヤダ怖ーい。」


 スッと袈裟懸けに手を振るクロウに、クスクスとヴェラドンナが笑う。

 益々気後れした様なエッダに、ハルオミがとんと肩に手を乗せた。


「ハ、ルオミ・・・さん・・・」

「あんまりその辺りは口を出さない方がイイよ?むしろ君にその権限はないしね。」

「で、でも・・・!」

「私情が出る、でしょ?」

「・・・・・。」


 ハルオミはそう言いながら、でも、それでいいよ、と笑う。

 薄暗い、歪な空気の漂う場所で、彼の見せてくれた柔らかい笑みに、エッダは酷く救われた気持ちになる。


「うちのボスはどっちかっていうと、元々アングラ寄り。」

「・・・そ、れは、承知してます、が。」

「まあ、清濁併せ呑むって技量は必要だから。人それぞれ役割っていうのもあるしね。」

「・・・そ、んな。」

「君は知らなくていい。そんな世界にできる限り触れないで?君が目指すのは・・・、できればシオンさんがいいよ。」

「・・・・・。」



「・・・ハル、聞こえてる。」

「うっわ、怖・・・っ」


 ハルオミがおどけた様に肩を竦めれば、ちょっと不満そうなクロウが、それでもヴェラドンナと二つ三つ話を進める。



 とてもさっきまで斬った張った繰り返し相対していたとは思えない姿に、エッダはやはり少し青ざめた顔で眺める。



 よろめく足取りに、思わず手を付けば、それは転移門から現れた、クロウとシオンが入っていた籠だった。

 今はまるで気を失ったように目を閉じたシオンが、そこに横たえられている。

 その身体には、丁寧に包み込む様に、クロウの軍服の上着がかけられていて、先ほどのあられもない姿をすっぽりと隠しきっている。


 僅かに上下する体から、それが寝息だとわかるまでエッダは少し時間がかかった。



 こんな場所には不似合いなほど、穏やかな寝顔に、









 思わず、眉尻を下げたエッダが・・・








「ねぇ・・・?」



 ── ・・・なんであんな奴がいいのよ。






 なんて、呟いて、口元を抑えるのを




 ハルオミが苦笑しつつ・・・・







 幸いにも、クロウは気付いてはいなかった。



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