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23.帰宅

夏休みもほとんど終わりかけだ。勇人と由紀の故郷で、花梨も加わって遊び続けていたが、二学期があと少しで始まる。タイムリミットが近い。やり残したことはないだろうか。


花梨の希望で、勇人の墓参りに行った。由紀と俺の三人で行ったが、花梨は言葉に出来ない何とも言えない感覚だと言っていた。確かに眼の前に生きている(友貴)の前世の墓なんだからな。


ペンダント用の写真も撮った。花梨のイルカには(友貴)が入っている。俺のイルカには由紀と花梨が入っている。由紀のイルカには勇人が入っている。由紀と勇人、(友貴)と花梨。俺のイルカは二重のペアで結ばれている。大事にしないとな。二股という話もあるが、悪いのはイルカであって俺じゃない。


お土産も買った。夏休み中、こっちで遊び続けたんだ。友貴の両親や(加奈)には吟味に吟味して気に入って貰えるように頑張った。特に加奈には御詫びを込めていくつも用意した。


花梨も花梨のママを含めて家族や友達に土産物をいっぱい買っていた。由紀は付き合いのために揃えていた。社会人は大変だよな。大量の土産は持って帰るのは大変なので先に送っておいた。


由紀の家の大掃除もした。俺と由紀は夏休み中、花梨も半月近く滞在していたんだ。年末じゃないが、普段掃除をしないようなところも含めてきっちり掃除をした。由紀の母親には感謝された。父親が海外で男手の要るところが掃除出来てなかったからと。


花梨が学校の大掃除みたいだね、と言って笑っていた。そう言えば、器財倉庫の掃除をしたのが、かなり昔のことのように感じられる。美紀が自分の部屋の大掃除もしてほしいと言ったが却下しておいた。自分でしてくれ。




友貴の家に帰る前に瑞希姉さんが付き合っている人と顔会わせをすることになった。両親とは既に顔会わせが終わっている。墓参りのあと直ぐにセッティングされたそうだ。


あわただしい突然の会食で相手の男性は泡をくったそうだ。そりゃそうだ。恋人の実家にどういう形でいつ挨拶をしようかと考えていたのに、明日お願い、と言われたらパニックだろう。心の準備も必要だろうに。気の毒だ。姉さんの恋人なんかやっているからだよ。


だが居住まいを正した瑞希姉さんの恋人は立派だったそうだ。結果的に両親に気に入られた男性は、婚約者となった。それで次は兄弟との顔会わせということになったらしい。ちなみに結婚式はやはり今年の秋に予定が組まれた。瑞希姉さんの願望が通ったらしい。姉さんは結婚しても仕事は続けるそうだ。


兄弟というか姉妹なら颯希だけだろう。俺は違うだろうと言った。それでも瑞希姉さんは、()()の義兄になる人なんだからと迫った。俺は友貴として生きていく以上、自分が勇人だという話をこれ以上に広める気持ちはなくなっていた。なので出席する気はなかった。


そう言うと、こんどは瑞希姉さんが、参加してよ、と頼んできた。初めてじゃないだろうか。姉さんが()()()くるなんて。これまで命令することはあったが、頼んできたことはなかった。結局、俺と由紀、花梨に美紀も加わり、颯希を入れて7人で会食した。


友貴となろうが、瑞希姉さんが俺の姉さんだということは、俺自身の中で変わらないのは事実。これからも姉さんとして付き合っていくつもりでもある。なら出席するのが義務だろう。


瑞希姉さんも、俺のことや由紀のことを引き摺って、結婚というか、自分が幸せになることに消極的になっていた。それが半ば解消された今、あるべき形に向かっただけだ。俺には祝福する責務があるだろう。


兄弟との顔合わせと言われて来たら、5人も居たので婚約者さんは驚いていた。姪っ子として花梨が居たりもしたんだしな。そもそも姪っ子って兄弟じゃないだろ。でも兄弟の子供だから居てもいいのかな。俺は良くわからなかった。とりあえず婚約者さんに、どう皆を理解してもらうんだよ。姉さん後は任したよ。


姉さんは強引な説明をした。亡くなった(勇人)のことは婚約者さんに話していたらしい。勇人が命がけで護った由紀を、姉さん自身が妹として護ってきたことも含めて妹と。その(由紀)の婚約者として(友貴)を弟と。(由紀)(美紀)も妹と。(由紀)(友貴)(花梨)は姪っ子と。本来の(颯希)が一番最後に紹介されていた。すごいゴリ押し理論展開に、婚約者さんは面食らっていながらも頷いていた。


花梨など年齢を考えたら理解不可能だと思う。だが、男は細かいことを気にしたらダメだからね、と婚約者さんは達観していた。さすがは瑞希姉さんと結婚しようするだけの人だ。すばらしい(おとこ)だ。肝が据わっている。見習うべき惚れ惚れする良い人だ。二人で幸せになって欲しい、瑞希姉さん。この婚約者さんなら、俺にも義兄(あに)と呼ばせてもらえるような気がした。


ここに集った全ては、お互いがお互いをどう受け止めているかが問題になるだけだ。家族と言えるようになるかどうかは、これからのことだ。ホテルのレストランで開かれた顔合わせの食事会は、おだやかな雰囲気のなか無事に終わった。花梨が借りてきた猫みたいに大人しかったのは印象に残った。


あとは瑞希姉さんを祝福するだけだ。次に故郷に帰ってくるのは、瑞希姉さんの結婚式だろう。花梨も一緒に連れてこよう。縁あって家族になったんだから。(勇人)が死んでなかったら、花梨と出会うこともなかった。




由紀と俺と花梨の三人は新幹線で帰ることになった。飛行機という選択肢もあったが、花梨が出来るだけ長く一緒に居たいと言ったので、帰りも新幹線に乗ることになった。急ぐことはない、ゆったりと帰れば良いだろう。ただ辿り着く時間のことを考えて、朝早くにこっちを出ることにはなった。


早朝だったが瑞希姉さんがターミナル駅まで送ってくれた。姉さんには世話になりっぱなしだ。いつかは恩を返さないとな。でも考えたら勇人時代より仲良くなった気がする。死んで産まれて、年を重ねたからか、人生の儚さを理解したからか。姉さんも同じ気持ちでいてくれたら嬉しいな。


「姉さん、いろいろとありがとう。また秋には()()()()()ね。」

「待っているわよ。あと結婚式だけど、正装の準備をしておいてね。」

「正装って、モーニングコートでいいのか。」

「できたら和装がいいわね。由紀は振袖でしょ。釣り合いを考えたら和装じゃない。」

由紀が頷いていた。由紀は心なしか気合いが入っているようだ。


「和装か。父さんは五つ紋の黒紋付羽織袴だよな。」

「そうなるわね。新婦の父だし。」

「俺の年齢で紋付羽織袴は、新郎と被る危険性があるな。出来たら事前に旦那さんの衣装を教えておいてくれると助かる。俺のほうが目立つわけにもいかんし。あと俺は望月の紋を入れることになるぞ。」

「それでいいんじゃない。さすがに加藤の紋ではおかしいでしょ。あんたは今は友貴なんだから。それでも身内には変わりないわよ。」

紋付きは望月の爺さんに相談だな。適当な着物を借りるか、仕立てるかしないとな。友貴の両親には瑞希姉さんの結婚式に参列することや加藤家との関わりを何と説明したらいいだろうかな。こっちもそろそろ現実的に片付けないとだめだ。


俺は、美紀、颯希を順番に軽く抱きしめて別離の挨拶をした。

「みんな元気でな。」

「勇人兄ちゃん、元気でね。」

「兄さん元気でね。また秋に会おうね。」

颯希は今後はちょくちょく実家に戻ってくるそうだ。会う機会も増えるだろう。姉さんが家を出たら両親もさびしいだろうし、颯希が居れば喜ぶだろう。


花梨は瑞希姉さんと美紀に抱きしめられていた。

「花梨は置いていかない?」

瑞希姉さんが言い出した。花梨の顔を不安がよぎる。置いていかれると思ったのだろうか。

「出来るわけないだろう。また連れてくるから、それで勘弁してくれ。」

花梨の顔がほっとしている。花梨は美紀に何か囁かれている。花梨が笑顔になっている。花梨は美紀と割と仲良くなったようだ。いろいろ買って貰っていたし、精神的波長があったんだろう。まあ叔母さんと姪っ子なんだが。俺の考えていることが読めたのか美紀が悪い笑顔をしている。要注意だな。


由紀と美紀は静かに短く抱き合うと、すっと離れた。

「じゃあね、お姉ちゃん。また帰ってきてね。」

「わかった。美紀こそ身体に気をつけるんだよ。」

長く遠く離れていても、言葉より通じるものがあるんだろう。双子に見間違うくらいの姿だしな。


最後に颯希が由紀とぎこちなく抱き合う。

「由紀さん、兄さんをお願いします。絶対に手放さないで下さいね。」

「わかったわ、任せておいてね。颯希ちゃんも身体に気をつけてね。なにか由紀で役立つことがあったら教えるから遠慮無く相談して頂戴ね。」


颯希は、由紀との間に、わだかまりが少し残っているようだ。だが時間が解決してくれるだろう。相談事とは教職のことだろう。小学校と中学は違っても、共通することは多い。颯希は故郷で教師になることに変更したらしい。自分の母校の中学校で先生をやるのも良いだろう。由紀の母校でもある私立中学だ。


瑞希姉さん、颯希、美紀に見送られて俺たちは改札を通った。


「パパとママが一緒だから楽しみ。あ、お菓子かって、ジュースとアイスも欲しい。マンガも~。」

列車に乗る前に、うきうきした花梨が由紀にねだっている。由紀も由紀だ。顔を輝かせながら、旅には当然必要よね、と言って、荷物を俺に押しつけて売店に行ってしまった。似たもの親娘だ。残された俺は、荷物を列車に全部運び込む羽目になった。おい由紀、登下校じゃないんだが。



結局のところ花梨の俺の呼び名は『パパ』に落ち着いた。確かに俺をその呼び名で呼ぶやつはおらんだろう。だが人前で同い年の花梨に、パパ、と呼ばれるのは結構来るものがある。それでも由紀が認めた以上は甘んじて受け入れるしかない。


ちなみに由紀は『ママ』と花梨に呼ばれて満足そうだった。瑞希姉さんは、瑞希お姉さま、美紀と颯希は普通に美紀姉さんに颯希姉さんと呼ばれている。瑞希姉さんと美紀と颯希の三人は可愛い妹が出来たと花梨を猫可愛がりしていた。



列車の中では、花梨が取り出したトランプで勝負だった。負けたものは勝ったものの言うことをきくこと、というルールで始めた。3人だし誰が何をもっているかは予測出来るもんだ。だが、とことんツキに見放された俺は、最初から最後まで貧民の地位から脱出することが出来なかった。


負けた回数、合計30回。花梨に18回、由紀に12回、言うことをきかないと駄目になった。花梨と由紀は何をしてもらおうかと楽しげに相談していた。手加減してくれ。泣きたくなった。


楽しい夏休みは終わり、現実に戻ってきた。

駅に降り立つと、花梨はママが迎えに来ていた。

また明日ね~、と手を振って花梨と別れると俺たちはそれぞれの自宅へと向かった。

明日から二学期だ。


誤字脱字、文脈不整合がありましたら御指摘下さい。

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