記憶を持たない者 3 「ギム・ハレット」
「うぅっ・・・。」
気が付くと、周囲の状況は惨憺たるものだった。どうにか気を失う前の出来事を思い出そうとする。
「たしか・・・。」
そうだ。クロエだ。奴の暴走の余波を受けて私は倒れたのだ。しかもその前にはロスアレスの反逆によって命さえ失いかけている。
許さん。絶対に。
まあ、奴が、と言うよりは私こそが反逆者なのだが。
しかし、「ミシアンの遣い」と言うやつらは使い物にならない。
王国を掻き乱す、という点では良くやった。現に国民の間では国王に対して不満が広がっている。盗賊などにいいようにやられる国、ひいては国王なんぞ、信用は得られないことだろう。
だが、肝心の王女暗殺が上手く行っていなかったのだ。それが成されなければ王の交代の気運がいくら上がっても意味が無い。ミルザ姫こそが現在次期女王として目されているからだ。
私の傀儡となっている王子へと王位を継がさなければ国を動かす事が出来ないではないか。
そんな不満も、今夜解消するつもりであった。
知らされたのは今朝であったが、王女の親衛隊が「ミシアンの遣い」を討伐に行った様だ。
あの犯罪者集団との付き合いもこれまでかと思われた時、「フライト」と名乗る「ミシアンの遣い」の小男が私に接触してきたのだ。
非情にまずい、と感じた。今までばれないようにと立ち回って来たのに、まさか犯罪者などに私の悪事を突きとめられるとは。
しかしながらその小男は言った。
「バラすつもりも、必要もありませんからねぇ。それに、私も帰る場所を失いそうですし、今回のお仕事限りでサヨナラというのはどうでしょう。」
こいつは危険だ、だが、なんににせよ危ない橋を渡っていることに変わりはない。
ならばとことんまでやるしかないのだ。
奴に報酬と手切れ金を先に渡し、これからの予定を伝えて直前まで連絡を取り合っていた。
そして、この場へと繋がる。
結局、王女の暗殺は失敗したが、私は何とか生き残った。
ロスアレスに襲われて命を拾ったのだから、ツイているとしか言い様が無い。
私を助けたのは、奇しくも私が処刑しようとしていた漂流者の小僧だ。なんのつもりか知らないが、どうでも良い。
その憎き親衛隊隊長を追放するべく私は立ち上がる。
「聞けっ兵士たち!。ロスアレスは私の命を狙った反逆者だ!今すぐ捕らえよ!」
声を上げて兵士を奴に差し向けようとする。
「どうしたっ?奴は犯罪者だぞ!さっさと動かんか!」
が、ロスアレスを犯罪者として捕らえることが出来ると思う喜びは、長くは続かない。
何かおかしい、と私は思い始めていた。
私の言う事を聞く兵士がいないのだ。まさか・・・と思う。
「あなたの言う事を聞く者は、この場には誰も居ないわ。」
そう言って前に出るのはミルザ王女。その姿は例に漏れず満身創痍と呼べるものだったが、その眼光は力強い。
「こんなに上手く行くとは思わなかったのですけどね。あなた、少し不用意すぎるのでは?」
周りを見渡すと確かに王女を支持するものばかりで固められている。私は孤立無援だという事に今更ながら気付いた。
暗殺の事ばかりを考えており、周りが見えていなかった。
「なっ・・・姫様・・・貴方は・・・反逆を無かったことにするつもりかっ!いや、寧ろあなたの差し金でロスアレスは私を襲ったのか!」
迂闊だった。自分が襲わせる事だけを考えていて自分の身を心配していなかったとは。
「姫様は関係ない!私が勝手にやった事だ!」
ロスアレスの言葉が入るが、本当の所は今の私には関係ない。ただ、今を切り抜ける事だけを考える。
「姫様ともあろうお方が自分の部下を使って暗殺を企てるとはっ、私が力を持っているのがそこまで気に食わなかったのですかな?」
言いながら後ずさる。とにかくこの場から離れることで窮地は脱することが出来るだろう。その後の事はまた考えれば良い。
姫様は私を無視し、ロスアレスに話しかける。
「ごめんなさい、ロスアレス。私が不甲斐無いばかりに、あなたにこんな事をさせてしまって。」
「そんなっ、姫様、違いますっ、これは私が勝手にやったことですっ。」
「もういいのよ。貴方は、私の事が信じきれなかっただけ。けど、それは貴方だけの所為ではない。」
もう少しで、出口まで走る、という所だった。急に視界が塞がれる、鈍色に輝く直剣によって・・・。
「はっ?」
その持ち主を見るとそれは、ミルザ王女だった。
「ロスアレス。大丈夫よ。私はこんな奴には負けない。何があっても、ね。それは、貴方が居るから。貴方達が居るから。だから・・・私を信じなさいっ!」
言いながら大きく振りかぶる。下ろされた剣線は真っ直ぐに私の方へと落ちてくる。
私の意識は再び閉じられた。




