↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/45

記憶を持たない者 2

 



「アルメリアっ」


 彼女の下へ駆け寄る。抱き起こした体からは絶え間なく血が流れ出す。血色を失った顔は青白く、元々の存在感は今は無い。


「レン・・・。」

 弱々しい言葉が漏れる口からは僕を安心させる為だろうか、笑みが差す。


「アルメリアっ、しっかりっ、今救護を・・・っ」


「必要ない。わしは・・・この程度では死なんよ。」

 そう言って目を瞑る彼女の体から解けるように光が漏れだす。

 尋常でないその光景に、こちらを見ていた面々も驚きの声。


「君は・・・本当に、一体何者なんだ・・・?」


「わしの事などどうでも良い。だが・・・。」


 アルメリアはクロエの居た場所へ目を向ける。何を思っているのだろうか、その顔には前にも見た悲しみが宿る。



「レン・・・。頼みがある。」

 光の流出と共に彼女の存在も薄くなってゆく。

 今気づいた。彼女は僕の事を「レン」と呼んでいる。一度も「連太郎」とは呼ばない。

 それになんの意味があるのか、警鐘を鳴らす心を無視して思いを馳せてしまい、全てが繋がる。自分の存在理由。


「・・・クロエを・・・殺す?」

 そんな事は無い、と、認めたくない心が思ってもない言葉を吐かせる。

 息が乱れる。酸素を求めて喘ぐ。


「いや・・・。クロエを・・・連太郎を・・・」


「っ・・・。」


 彼女は「連太郎を愛している」と言う。そして、クロエを殺せと言う割にはいつも悲しみを、憂いを帯びた眼をしていて、思い詰めている様にも見えていた。



「連太郎を・・・助けてくれっ・・・」


 そう言って彼女は消えた。後に姿は残らない、その眼から流れ落ちた雫の残光と、僕に託した願いとを引き換えに。


「僕が・・・、僕は・・・。」


 思考は定まらない。

 感じた真実は、きっと僕にとって残酷なものだ。見たくない。だが、見ないフリは出来ない。


「っ・・・。」


 次第に眼に映る全てが認識できなくなる。吐き気が込み上げてきて、耐える。


(・・・僕は、・・・僕はっ・・・。)


 何者でもない。

 僕は、誰でも、無かった。



「ひっ・・・」


 認識した真実に恐怖が込み上げる。遂に耐え切れず口から漏れ出した悲鳴の切れ端が、次いで全てを引き出して。僕は叫んだ。


 クロエは「連太郎」。だが、僕は「連太郎」ではない。


「彼」と「僕」が、同じ存在だというのなら、


 僕は、


 偽物。





 意味の持たない声を、喉が焼けるのも気にならずに叫ぶ。


 どうにもならない事実だと分かっていながら、それでも叫び続ける。


 何かをしていないと、そのまま消えてしまいそうで。


 僕は、みっともなく涙を流して、震えながら、叫び続けた。





 消えてしまう。僕という存在が。「レン」は存在していなかった。

 僕は、何も持っていなかった。最初から、何も。

 何もない。僕は空っぽの人形。

 感じた心も、人に話す言葉も、全て偽物。


 偽物。何もない。僕は、何者でもない。偽物、偽物、偽物、偽物

 偽物偽物偽物ニセモノにせものにせも・・・



「レン!」



 肩に衝撃。温もりを感じる。誰かに抱きしめられている。


「レン!」


 もう一度名前を呼ばれる。偽物の名前。


「レン!」


 三度目の呼ぶ声に、彼女の姿が、揺れる視界の中でハッキリと姿を現す。



「あなたは、レンよっ!私が大好きなっ優しい男の子よっ!」


 偽物なんかじゃ、無い!


「・・・ソ、フィアっ・・・」


 僕の肩を掴んで僕の眼を見ながら、彼女が何度も僕の名を呼ぶ。ここに居るのが「レン」であると、言ってくれる。


「ぼ・・・くは、偽物・・・で・・・」


「違う!貴方は貴方よ!少なくとも私にとって、アルミナにとって、みんなにとって!」


「君や、アルミナ・・・みんなに、とって・・・?」


「えぇ!そうよ!それが全てっ。私たちは、貴方が「レン」だという事を知っているっ。貴方は、偽物なんかじゃ、絶対にっ、無いっ!」



「僕が・・・レン・・・?」


 激情を乗せて僕に語りかけてくれたソフィアは、僕の眼を見ながら今度は包み込むような声を出してくれる。


「そう。貴方は、レン、よ。・・・大丈夫、私が、保障するわ。・・・レン。」


 そう言ってもう一度抱きしめてくれる。

 自分と言う形が温もりによって形作られていく。


「僕は・・・レン・・・。」


「えぇ・・・レン、よ。」


 浅く息を吐く、何度も何度も、そして、大きく深呼吸。何度も何度も。


 冷静になんてなれない。けれど、ソフィアは僕が僕であることを、認識させてくれた。


 なら。

 僕が、「レン」であるというのなら。

「レン」が、為すべき事は。


 泣いていた彼女の、アルメリアの、願いを、叶える。


 それが、僕が僕である事の、証明、だから。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。