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ここにいる理由 11

 

 夜。式典会場の下見をすませ、軽い夕食を済ませたあとに自室に戻っていた。

 できることをやる、と決めたからには何かをやらなければ気が済まず、魔法の使い方を模索していた。


 アルミナが見せてくれたもの。クロエが僕に向けたもの。それらをイメージする。

 以前アルミナに、さっきソフィアに、教えてもらったことがある。「魔法はイメージ」だと言っていた。決まった形はなく、周囲を漂う魔力を源にして呪文を唱えて物理的な力を発現する。

 呪文とは精神を集中するためのルーチンであり、自分に合うものを自分で考えるそうだ。

「恥ずかしいかも・・・」

 とはいえ呪文が無くともある程度の力を発揮できる。ただ、魔法を扱うには魔力を感じなければならない。それは空気のようなもので、あって当たり前。意識して深呼吸するときくらいしか、空気を吸っているという実感が得られないのと同様だ。僕にはイマイチその感覚がつかめず、魔法の習得は後回しにしていたのだ。だが、今は前よりは感じられるようになっている。「前」とは僕が処刑される以前のことだ。あの時僕は魔力を吸って体を再生した、と聞いている。体と魔力の相性が良い者は魔力を取り込んで傷を回復させることが出来る。漂流者の特徴でもあった。大量に魔力を吸い込んだ今だからこそ、より感じることが可能になったのかも知れない。

 だから、その特訓をしている。


 漂う魔力。空気とは別の何かが周囲に漂うのを感じる。掌を上に向けてそれを集めるイメージ。

 しかし、イマイチ上手く行かない。魔力が動いている気配はするのだが、それが確かに実感できる程の結果は出ない。


「才能ないのかなぁ・・・」

「そんなことはない。」

 一人で呟いたつもりの声に返事があった。すぐ隣をみると、処刑の後に出会った白髪の少女だ。先程までには無かったその姿に、夢であったのかと思っていたその存在に、今ははっきりと目が、心が、釘付けになるのを感じる。

「君は・・・、・・・。」

「昨日ぶりだの。壮健なようで何より。」

 相変わらず見た目に似合わない話し方をしていた。知性を感じさせる、思考が一段階も二段階も上を行くような話し方。全てを見透かすような眼。それらに似つかわしくない、庇護欲を掻き立てる愛らしい風貌。ちぐはぐなその存在には、人を引き付ける、あるいは畏れを抱かせるような、何かがあった。


「どうやって入ったの?」

「野暮な事を訊くでない。それより、話をしよう。」

「・・・。」

 状況的には得体の知れない存在なのだろう。だが、不思議と警戒心は湧かない。そして彼女も僕に危害を加えるつもりはないように、ベッドに腰掛ける。仕方なく僕も机に備えられている椅子を引き、対面に持っていって座る。

「さて、何から話そうか。」

「その前に、君は一体誰なんだ?僕のことを知っているようだけど・・・。せめて名前を教えてくれないか?」昨日はぐらかされたのを踏まえて名前を訊くのみにとどめる。

「アルメリア。」と彼女は言った。

「アルメリア、か・・・。どこかで訊いたような・・・。」

「まあ良いではないか。そんなことより、話をしよう、連太郎。」

 彼女は僕のことを連太郎と呼ぶ。それは懐かしい響きを持って僕の胸にすんなりと受け入れられていた。

「その、れんたろう、というのは、僕の本当の名前?」何故かはわからないが彼女の前では自分を僕、と呼んでしまう。

「そう。おぬしはそう呼ばれておった。今は、レン、だったか。」

「うん・・・。そう、名乗ってる・・・。」

「それでな、連太郎。」構わず彼女は僕をそう呼ぶ。

 そして、彼女はこう言った。


「クロエを倒すのだ、連太郎。」と。


 どうして彼女がその名を口にするのか、というのは聞けない。知りたいことがあるからだ。

「やっぱり、僕とクロエには、何か因縁が、あるんだね。」

 わかっていたことだ。いや、感じていたと言った方が正しい。同じ顔、声、体格。そして奴の気配が感じられること。それらが示すのはただ、クロエと僕には他人ではありえない関係があるということだった。


「そう。おぬしとクロエは闘う運命にある。否、おぬしは、奴を倒さなければならない。」

「あの、強大な敵を・・・僕が・・・、」倒さなければならない。王都を恐怖に陥れた犯罪者集団。その先兵の最たる賞金首である、クロエを。

「何もミシアンの遣いと呼ばれる者たちを倒せとは言わん。あの者たちはおぬしには関係ない。その一員であるクロエを倒せば、それで良いのだ。」


「それは・・・、どうして・・・?」

 僕の問いに彼女は決定的な言葉で返す。




「おぬしとクロエは、同じ存在だからだ。」僕がクロエであり、クロエは僕である、と。彼女はそう言った。




「僕が・・・クロエと・・・同じ・・・?」

 あの犯罪者と。あの殺人鬼と。


「そう。おぬしは奴を倒し、奴を超えるのだ。正確に言おう。クロエを殺すのだ、連太郎。それこそが、おぬしがここにいる理由であり、それが為されるまで、おぬしの魂が解放されることは、無い。」


「僕が・・・殺す・・・殺すの・・・?」


「そう。奴を殺せ。それしか道は無い。おそらくは向こうも、それを望むことであろう。」

「なんで・・・、僕が・・・」

 ふとアルメリアが立ち上がる。


「邪魔が入るようだの。連太郎。愛しい連太郎。・・・また。」


「まっ・・・」いつの間にか俯いていた顔をあげたそこに、彼女の姿は無く。その痕跡すら残さずに消えていた。



 殺す。クロエを。僕が。それが運命だと、彼女は言った。







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