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グランディエ公爵が再び意識を取り戻すと、そこには帝国人三名だけでなく人の顔が増えていた。
「ノ、ノラ……?」
どうして捕まっているノラがここに? と、本気で理解できてない様子のグランディエ公爵に、ノラは冷たい表情で言った。
「グランディエ公爵。残念ですが、貴方の王位簒奪は成功しません」
その後に、エレンが前に出る。
「王位は返してもらう」
「お前は、確か……」
エレンの顔を見て、グランディエ公爵は記憶を辿る。
(そうだ。ノラと共に、帝国人エレノラの元で育った少年……ノラが兄と呼んでいた男か)
エレンは思わず鼻で笑った。
「俺の顔、忘れたのか? 最後に会ったのは、十七年以上前だもんな」
エレンの言葉にグランディエ公爵は眉を顰めた。エレンをじっと見つめ、彼の正体を何とか思い出そうとしている。
金色の髪、赤色の瞳……そう、まるでヘブリス王と同じ髪色で、フローラ妃と同じ瞳の色ではないか。
その事に気付くと、今まで気付かなかったことも急に見えてくる。エレンの顔立ちには、ヘブリス王の面影がしっかり残っていることに。
「お、お前っ……死んだはずでは⁉︎」
「レックスとして会うのは久しぶりだな。エレンとしてお前と何度も顔を合わせたが……お前は俺に気付きもしなかったもんな」
普段から人を駒としてしか見ていなかった弊害か……グランディエ公爵はまさか自分の部下に、死んだはずのレックス王子がいるとは思いもよらなかった。
「……そう考えると、エレン。よく自分の命を狙ってた男の部下になれたわね」
「灯台下暗しって言葉があるだろ。逃げ続けていた方が、いずれは生きていると勘付かれていたかもしれないからな」
ノラが少し呆れながら言うと、エレンは軽く笑いながら答えた。そして、改めてグランディエ公爵に向き直る。
「つまり、王族はまだいる。お前の計画は崩れたってことだ」
グランディエ公爵の驚いていた表情に、絶望の色が滲んでいく。信じられないといった顔でエレンを見つめたあと、隣に立つノラへと視線を向けた。
「…………ノラ!」
そして、何か思い付いた表情でグランディエ公爵はノラに笑顔を向ける。
「君は私のことを分かってくれるよな? 私は全て、王国のために動いていた。利益を得れば、国は潤うし国民も豊かな生活を送れる……ヘブリス王にはそれがどうしても理解できなかった。私のやり方に反発するくせに、自分は大した能力もない平凡な王だった……だから仕方なかった! 私は国のために、仕方なくやったんだ!」
グランディエ公爵の必死の形相を、ノラは黙って見下ろしていた。
「これまで私がいかに苦労してきたか、側で働いてきたノラなら知っているはずだ……それなのに、そんな私にこんな仕打ちは、あんまりじゃないか?」
その瞬間、ノラは短い笑い声をあげる。その口は歪んでいた。
「もしかして……私に助けを求めているんですか?」
ノラの怒りに歪んだ笑みを見て、グランディエ公爵はハッと息を呑む。
「いつまで私があんたの駒だと思ってるの?」
ノラはこれまで死んでいった大切な人達の顔を思い出していた。
「国のためって言うけど……じゃあ、なんでブライアン王太子殿下まで殺したの?」
ブライアンはグランディエ公爵を信頼していた。きっと、王になってもグランディエ公爵の意見をよく聞いていたはずだ。
「お母さんを殺して、私の両親も殺して、港町の皆も殺して……どこがあんたの言う『国のため』になるの?」
ただの私欲でしょ? ノラは最後まで言わなかったが、グランディエ公爵にはそう聞こえた。
あぁ、今すぐにでもこの男を殺してやりたい。でも、一度殺すだけじゃ足りない。これまで死んでいった者達のことを考えれば、何度殺しても足りないくらいだ。
「……ノラ、いつから私にそんな口を……?」
ノラに反論されて、グランディエ公爵は怒りに身体を震わせた。
「君を軍から引き上げて、側に置いてやったのは一体誰だ⁉︎ 私だろう⁉︎ 君が使いものになるまで大切に育て、扱った! 貧しい少女がこうして立派な女性になったのも、私が仕事を与えてやったからではないのか⁉︎」
そう、ノラがグランディエ公爵にずっと恩を抱いていたのは紛れもない事実だ。だから……ノラは恩人だった男の本心を知り、思わず傷付いた表情で顔を歪める。
その瞬間、エレンが自身の短剣を二本取り出して、互いの刃を擦り合わせた。それを何度か繰り返して刃こぼれしてしまった短剣を両手に握ると、ゆっくりとグランディエ公爵へと近付いていった。
「これは、フローラ妃の分だ」
そう言って、切れ味の悪くなった短剣を振り上げて、グランディエ公爵目掛けて振り下ろす。
「これはエレノラの分。そして、これはノラの両親と町民達の分」
切れ味を失った刃が何度もグランディエの身体を裂いた。
「これは、ノラを苦しめた分の罰だ‼︎」
最後に大きく振り下ろすと、グランディエ公爵は悲痛の叫びを上げた。彼の服や床に血がじわじわと滲んでいく。
グランディエ公爵は痛みにより、恐ろしいものを見る目でエレンを見上げた。
「ノラ……い、痛いよ……助けてくれ……」
か細い声でノラに命乞いをするグランディエ公爵。
「ノラ。これは俺達の復讐だ。お前はこのクズ野郎に、どんな罰を与えたい?」
エレンがゆらりと立ち上がり、ノラを見る。
「私は……」
縋り付くようにグランディエ公爵はノラを見るが、なぜかノラと目が合わなかった。
「……ノラ?」
「私は、この男を絶対に許さないし、地獄に堕ちて欲しい」
だから、ノラのグランディエ公爵への罰は……
「だからもう、関わらない」
見捨てること。これまでたくさんの人達を見捨ててきたグランディエ公爵に、見捨てられる苦痛を与えることだ。
ノラはそれまで言い切ると、もう一切の視線をグランディエ公爵に向けなかった。
明確に、自分は今ノラに見捨てられたのだとグランディエ公爵は悟った……




