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「マナの根源たる炎よ敵を燃やし尽くせ、ファイアーボール」
『ファイアーボール
火ぞくせいのこうげきまほう
まりょくのかたまりをこうねつにして、
くうきが合わさり燃える』
森にわけ入り進むこと二十分。こぢんまりした滝壺のあるいっかくに到着し、細い滝に沿った崖に向かって、早速オーサムは初歩的な火の攻撃魔法をナツメに披露した。
前に突き出した右掌から同サイズの火の玉が現れるやいなや、弩くらいの速度で発射され、十メートルほどの距離を一直線に貫き崖を叩いた。クモの巣状にひびの入った跡から察するに、威力は同サイズの岩を同速度でぶつけたくらいかやや弱め。あれ、やっぱり火である必然性どこ?
オーサムは背後を振り返り、ナツメの困惑を初めて見たものへの衝撃と受け取り、崖に向き直ってドヤ顔で解説した。
「見た目だけはカッコいいだろ。俺の魔法は使えるってだけで、実戦では使ったことのない余興だけどな」
「これじゃ弱いの?」
「ああ、気合いを込めて石拾って投げたほうが強ぇ」
でしょうね、とナツメは同意した。
とにかく、かまどに火をつけるとか換気とか、詠唱もなにもない、ちょっとした生活魔法とやらは見てきたけど、やっと本物の攻撃魔法を見た。詠唱といえば。
「じゅもんっていうの? あれ同じことを言わなきゃダメなやつ?」
「いんや。まぁ初対面の誰かとパーティを組む時とか、知らない呪文は混乱の元だからあまり変えないほうがいいとされてるが、基本的にはなんでもいいぞ」
「いみ、あるの?」
「ルーティンってやつだな。口にするだけじゃ意味がない。ナツメがさっきの呪文を真似してもなにも起こらない。身体の中の魔力を練って、火属性に変えて、呪文を唱えることで集中力を高め、今から攻撃魔法を撃つぞと自分に暗示をかける。これをしないと危ない」
「あぶない?」
「そうだなぁ……。赤ちゃんの時以外、ナツメはしなかったけど、リュウは何度かおねしょをした。おしっこはトイレでする、というルーティンが身体に刻まれないとトイレじゃなくてもでちゃう。おねしょは笑い話で済むが、攻撃魔法は酔ったり寝ぼけて撃ったじゃ許されない」
おぉ、分かりやすい、とナツメは感心した。つまり魔法は思うほど便利ではない?
「初級しか使えないとはいえ、攻撃魔法を実戦で使ったことがないってのも、前線の俺が隙だらけになるからだ。魔術師は後衛なのも同じこと。魔闘士はそのへん上手くやる」
「つかえるけどつかわない父ちゃん、カッコいい」
達人、って感じがする。
「おう。じゃ、他の属性も見とけ」
オーサムはそう言って少し前に出て崖を見つめ、息を整えた。確かに実戦でこんなにじっくり構えてられない。
「見えざる風の刃よ万物を切り裂け、ウィンドエッジ」
『ウィンドエッジ
風ぞくせいのこうげきまほう
くうきをやいばのかたちにあっしゅく、
イメージするきどうでとばす』
空気の揺らぎのような違和感も一瞬のこと、オーサムの正面の崖に少しだけ、横一文字の切れ目が入った。透明な攻撃は凄い。その代わり、威力は低そう。
それよりもナツメには気になることが。ファイアーボールは魔力の塊らしいのに、ウィンドエッジは空気の塊なのか。なんだろう。モヤっとする。
「うつろう水よひとところに集い貫け、アクアランス」
『アクアランス
水ぞくせいのこうげきまほう
くうきちゅうの水をあつめてあっしゅく、
ちょくせんにほうしゅつする』
オーサムから崖まで約十メートルの放水。勢いはあって一直線に飛んだけど、崖を貫く威力ではない。まぁうん、至近距離から撃たれたら怖いかも。隙だらけだから後衛だっつってんのに。魔闘士とやらは上手く使うのかな。
そしてやっぱり水の塊なのか。
「土属性はこういう地面がないと使えないぞ」
もう地面言っちゃってる。身体の中の魔力を練って土属性に変えるんちゃうんかい。なんだこのモヤモヤ。他の人はなにも疑問に思わないのか?
「我がテリトリーに立ち入るべからず、アースニードル」
『アースニードル
土ぞくせいのこうげきまほう
しゅういの土をあやつり、
じめんからはりを生やす』
オーサムがしゃがんで両手を地面につけて詠唱すると、二メートルほど先の地面から一メートルほどの土の槍が飛び出した。綺麗に不意打ちが決まれば強そう。
ふむふむとナツメは考える。初級だからこんなものであって、上級は威力が上がり、数が増えるとかって考えたら凄く強いんだろうな。
それにしても。
ナツメは元気の舞で培った集中力を発揮して、右手を崖に向けて突き出した。
「ウィンドエッジ」
「は?」
崖に横一文字の切れ目が入った。そのままの姿勢で続けて言う。
「アクアランス」
「えぇ……?」
右掌から放水。崖に当たった。そしてしゃがんで両手を地面に。
「アースニードル」
「なんでぇ」
やはり、簡単に真似できた。ナツメは属性なんて意識していないのに。
思った通り、鑑定の酷使で魔力操作のスキルはとっくに生えていたし、その延長で操作範囲を外に向けるだけだった。
両親の使う生活魔法を見て疑問はあった。魔法を使うことは危ないらしいから今日まで使おうとはしなかったけど。
属性とは結果であって、変えようと意識することではないのでは?
ナツメは自分の掌をじっと見た。きっと今なら。
『ナツメ
かんてい まりょくそうさ きりょくそうさ しんたいきょうか
風まほう(きたいそうさ) 水まほう(えきたいそうさ)
土まほう(こたいそうさ)』
だよね。やっぱそうだよね。父さんのいう風や水や土ってそういうことだよね。あースッキリした。火魔法は熱操作だと思うけど、ちょっと違う気がする。熱だと下げて凍るほうも含まれるのか。
熱ってなんだろ。分からないことだらけだなぁ。
「ま、ママぁー」
ナツメはパニクったオーサムに抱きかかえられて家路ダッシュしながら考察を楽しむのだった。




